仮想空間

趣味の変体仮名

あづま物語

 

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2533802


4
 あつま物かたりもくろくの事
  一あつまおとこ上らうともんどうの事
  一しんそう そろへの事
  一たゆふ  そろへの事
  一かうし  そろへの事
  一はし   そろへの事
  一上らうや そろへの事
  一あけや  そろへの事
  一とられんはうの事
  一たいこもちの事

あつまのかたはらにおのこ一人ありけるが。あるときこゝろにお
もふやう人げん五十にん。とはいひなかららうせうふじやうと
きくときは。あしたにかうがんあつてせいゝつに。ほこることみな
これかいのならひせきくはのひかり。みつのあはかはきしに
ねをはなれたるくさ。それのみならずあさかほの花のうへ
なる。露よりもなをはかなきはかけろぐのあるかなきかの
みをもちてくさふかきおんこくにて。むもれきのはなさくこ
ともなく一しやうをいたつらに。おくらんことをかなしみこくうあ
んきやとこゝろさしくはんえい十九ねんのなつのころこきやう
になこりつきせねと。おもひたつ田のたびころもあしにまかせ
てゆくほどに。むさしのくに花のおえどに。つきしかは。あるかた
はらにりよしゆくして。あけゝれは。一けんのため。ともする人


5
ひとりふたり。うへのにさんけいつかまつり。御みやたちをふしな
かみ。けにやらん。御やまは。御しろのきもんをまほりあくまをは
らふなれはとてひえいざんをかたとり。とうえいさんとなん
申ける。くもにあまれる。御しろを。あさ日にかゝやき。見わた
せば。きんぎんてつとうにて。やかたをたて。しつほうをちりばめ。と
ころ/\の。御やぐら。七ちうの御てんしゆ。とうりてんにもおよふべ
し。かのおほたのだうくはんの。ふしのたかねを見おろすと。えい
じたまひし。ことのはを。おもひあはするもみちやまちとせの松
に。こちふかはりよじんのゆめも。さめぬべし。あめかしたる
る。しよ大みやういらかをならぶる。いへつくり。たとへをとるに
なめしなしみなみはかいじやうまん/\として。げつかのなみも
しろたへの。みつぎをはこぶ。とかいのふねうきよをわたる。いと

わさ。のみなと/\に。かぎりなし。のきをならふる。まちの人
たみのかまともゆたかなりからくにまても。のこりなくお
さまるみよの ことなれはあめつちくれを。うごかず。たみのとさし
もさゝ御りき。てんなかくちひさしかるへき。ためしとかや。にしは
たれをか。しのはすか。いけのはちすも。さかりにて。きたに見
ゆるは。やなかのてら。ふつほうはんぢよの。れいちとかや。ひかしに
あたり見えつるは。あさくさのくはんぜをんさんけいしゃやと。おもひ
御やまをくたり。たれかはこゝに。くるまさか。したやをすくれば。た
つらはるかに。うちつゝきさなへとりしもいつのまにくろだとや
なりぬへきとうちなかめゆくほとに。御たうに。つきしかば。はちす
のかうべをぢにつけ。そも/\御かみはりうぐうよりこまかたどうに
あからせたまひしをあさくさかりがもりたてまつり御どうをくや


6
うしてあさくさくはんぜをんとあがめたてまつるとかやさればまつせの
しゆじやうをさいどなさせたまはんとの御ちかひとうけたまはるき
みやうちやうらいくはんぜをんわれらこときのぐにん二世あんらく
とまほらせたまへときせいして御とうをたちいでこまかたどう
にやすらひかしをはるかに見わたせはすきてひさしきむめ。わかの
そのなゆかしきあさぢかはらおもひいたすもうらしまやいさ
ごにねぶるみつとりのひとをもさらにはゞからずかんこあけふ
かうしてとりおとろかぬありさまゆたかなるよのためしとかやみや
ことりにこととはんもすみたかはのことなりかれはこたへもあらすと
なんそれよりもえんまどうにまはりごしやうぜんしよときせいして
ゆくもかへるもとりこえのしるもしらぬもわかれてはかはうのけふり
一むすびとけてやかぜをうらむらんそれよりゆけばほともなく

見つけのはしにつきしかばひにんあまたなみいつゝこえ/\にも
のをこういにしへをのゝこまち見したまだれのうちぞゆかしき
とえいしけんことのはをおもひやられてあはれなりそれより
てんま町をとおりねき町にいたりぬこうたしやみせんふえのこえ
ひわことたいこつゝみのおとこゝろもそゝろにきゝなしこれはなにそ
とたつねれはむらやまさこんが大かぶきさつまたくみがあやつり
くはんじんずまふとさかのそのほかいろ/\かきりもなくぞ見え
にけるそれよりもたちいでたとろ/\とたまほこのあしにまかせて
ゆくほとにふくろまちにいたりなをゆき/\て見つれともゆくさ
きさらにしらくものたちわつらへるふせいしてかなたこなたと見る
ところに御としのほと十五六七八廿はかりの上らうのやりてかぶ
ろをめしつれられ御ものずきなるかたひらにいろ/\の御おび


7
のひろさ五六寸あるべきをまへにてかたてむすびになされよし
のはつせのはなもみぢかとりのきぬのそらたきはいきやう
くんじみち/\てきたかきさまにてとをうせたまふあづ
まおとこ見たてまるりかほどゆゝしき上ろうのこしくるま
にてひゞしくとをらせたまはずしてよその見るめもはゞからず
みつからはこびたまふこそあやしさよとそ申けるある人のいはくこの
ひと/\と申せしは御かたちようかんびれいにしてよにもため
しすくなきかはたけのなかれにしつむうきみとなりいまこ
のところにすみたまふあれをとをらせたまふはたゆふこれ
なるはかうしのきみさてまたはしの上らうなりいつれにお
えおかもあらざるきみたちにてましますがかみをうやまひた
てまつりみつからはこはせたまふといふ

(挿絵)
かふろ たゆふ かうし はし
さまよりつ かひのもの
こゝろの人
あつまおとこ


8
あつまおとこ。さてはしらびやうしにてありけるぞや。それしらひやう
しといふこと。しろしめされて。あるやらん。ある人のいはくところに
はすみかへどもしさいは。さらにしらずといふあつまおとこのたま
わく。しろしめされずは。かたりてきかせ申へし。むかしごとばのいんの
きように、しまのせんざい、わかのまへ。かれら二人がまひいだしけるとかや
はしめはすきかんに。たてえぼし。しろさやまきをさいてまいけれは
おとこまいとぞ。申けるなかころより。すいかんはかりものちいたりそれ
よりしらひやうしとは申なり。そのゝちいつれの御ときにや。たは
れめ。うかれめゆうぢよ。ゆうくん。けいせいなとゝ。申けるとはうけたま
はりてよりいかなれば。たゆふ。かうしはしとはやらん。あるひとこたへてい
はく。かたちかたのごとくにて。いまやうをうたいらうえいしあふぎおつ
とり一ふししほらしく。まふたるを。たゆふとなづくすこししな。を
とれるを。かうしとなづけ。はしといふ。さてまたくつわ。まづしくて
するわざもかなはねば。はしとなしをくもあり。しかれども。あだし

よの。きのふまて。ときめきしたゆふはしになるれは。はしまた
けふは。たゆふとなりさためしことの。さためなく。きのふはけふのむかし
あすのうへはたのまれす。これにつけてもよのなかのひとのこゝろのさ
たなくていつまでくさの。いつまて。おもふこゝろの。はかなさよとぞ
申ける。あつまおとこ。あはれその人々の。あり。ところ。おしへさせ
たまへといふ。ある人こたへて。いはく。これこそ。えとまちの。おやち
とてよしはらのあるしにて。ましますといふ。あつまおとこ
さてこのつほねはいかにといふ。ある人こたへていはく。これみなは
し上らうのうきすまいなりとぞ申ける

 「えと町」
一おやち内 はし あはちまんこまんよおはなおまんては
         おせんこはたよしの
      たゆふいおりとし廿三


9
ある人のいはく。かうしのうちにしてさもいつくしき御かたち見え
させ。たまふこそ。あめがしたにかくれなき。なたかき。きみにておは
しますまづはりあいだい一にして。御すかたいふに。たへなれば
したはざると。いふひとなしあわれこのきみの。御なによそへ。
一しゆつゝり。たまへとありければ。あつまおとこ。とりあへす
  きみあらはしばのいをりにねもしなん
  ひしきものにはそてをしつくも
一助三郎内はし うねめ くない なかと まつかせ よした
        せんよ おみね こむれやう
一太郎兵衛内はし しうきく みよし おふし せきや まんしゆ まさき
      たゆふ みふねとし廿五 大すみ廿ニ
ある人両きみ一しゆいにょめといひけれはおとことりあへす
  大すみはこゝろつくしのうらつたへ
  みふねはそことはてしあらすや

一四郎兵衛内はし はつはな かせ川 せきの まんさく
      たゆふ つねよとし廿ニ
ある人の。いはくこのきみ。はりあい。だい一にして。御なさけふか
く。御かたちは。三十二そうと。しるす。しかるあいたねたむべきひとも
なしとそ申ける。あつまおとこ。見たてまつり。さながらてん人
の。やうがうもかくやらんと一しゆ
  かたりまてつねよの人にすくれしは
  なさけもさそなふかからしものを
    たゆふまたつねとし廿
あつまおとこ。見たてまつり。たくひなき。御かたちたとへをとる
に。ためしなし。をよそげんしに見へけるは。きりつほ。はゝきゝ。わか
むらさき。もみちのが。はなのえん。あふひ。さかき。はなちるさと
すま。あかし。みをつくし。六十てうの。うちとてもこのきみに
ひとしからんや月もねたむへき。はなのかほばせ。まさつねの

 

10
きみとは。なつけたてまつりけんとおもひつゝけ一しゆかくなん
  かにめてゝ月もねたみしはなのいろを
  たれまさつねのきみといひけん
    たゆふ いりえ廿六
あつまおとこ一しゆとりあへす
  わかこひはおもひいりえのとまりふね
  こかれけるみをうらみてぞゆく
一郎兵衛内はし おみね こよし いくしま ては しが
一太郎左衛門内はし おきさ いよ かつま まつえもん
   たゆふくわけつとし廿
あつまおとこ。見たてまつり。御かほばせははなのかににほひ。もゝの
 こびある。御まなさしゆみはり月の。いるふぜい。ひすいほかん
ざしは。くらふして。ながければ。やなぎのいとをはるかせの。けずる
ふせいに。ことならずこのきみ。月はなに。ひとしきとてくわげつ

となつけおはすらんとて一しゆよめる
  いろ/\のながめはよもにおほくとそ
  くわけつのほかにともはあらしな
一伊右エ門内はし おみね おきん まつね
一又左衛門内はし おふり つしま しらたま せきちく 兵吉さえもん
一十左衛門内はし おくに
一加兵衛内はし はつね 柳 おふり くれまつ うくひす しなの
一庄助内はし みよし しらたま なかと あかし せんよ いくた
       くない きぬた たむら こさくら 大ふ おなつ
       かつま みさき  いつも いくよ こきん まつしま 高嶋
   かうし たまの廿一 もんと廿一
   たゆふ かたおか廿ニ かつやま廿
この両きみ。かうしのうちにして。すこ六を。あそばしおはしますをあつ
まおとこ。見たてまつり。もろこしにてやうきひとぐしきみ。くらい


11
あらそひのすこ六にぢやう三ぢやう四とこはれしこともかくやらんとおもひ
つゞけ一しゆよめり
  あらそへるしやうぶなにとすこ六の
  きみのかたおかかつやまといふ
一せんえもん内はし いちやう たかを ふし見 さ月
一きう七内はし せんじゆ おきん しゆり さけんだ おはな
        たつた とらの助 りやう きんさく
一さくたつ内はし たいふ らんしゆ いはき たしま たまか
         たつさ つまかき くらふず
     かうし きよつね十九
一六兵衛内はし いわた たまかつら
    かうし たかの廿三
一げん七内はし たかまつ
一九郎兵衛内はし せきてう かつらき のあき みせき

         こさん まつかせ おりべ
     かうし せきしゆ廿三 つかは廿三
一仁兵衛内はし おまん おえな さこん
一甚左衛門内はし むへもん たかを ふしや いくた やなき
         たんこ たのむ しけ さもん
     かうし たくみ廿 かつま十六 くまのすゝけ廿一
         かずへ十八 かつらき十六
     たゆふ よしの廿三 せきしう廿四 みかさ十六

ある人のいはく。このよしの。せきしうのきみと申はそのなかくれも
なきゆうぢよにてましますといふ。あつまおとこ。見たてま
つり。月はなにひとしくおもひ三人のきみたちを一しゆによむ
 見るにたゝよのはさくらせきしうの
 きみはみかさにいてし月かも
   たゆふみせき廿


12
あつまおとこ。見たてまつり。いにしへ。せいせうなごん。よに
あふさかの。せきは。ゆるさしと。えいじけん。ことのはをおもひあわ
せ一しゆつくりけり
  よをこめてとりのそらねははかるとも
  三せきまではゆるささらめや
   たゆふ大かく十七 ときは十七 よしおか廿ニ
この三人のきみたちを。うた一しゆによめと人いひけれは男とりあへす
  大かくのふかきなさけはときは木の
  まつにいとそふよしおかのきみ
   たゆふとさ十七 なかしま廿ニ
あつまおとこ見たてまつりりやうきみ一しゆによむ
  きみゆかばとさのはたにもなかしまの
  みやこもひとをおもひねはうし

 「京町」
一三郎右衛門はし みたらし もかは わかさ たかせ
         たつき なるみ おまん たかまつ
     たゆふ ちとせ十鉢 のむら十六
両きみ一しゆによめと人いひければおとことりあへす
  かはらぬはちとせのまつのむらたちの
  みどりもふかききみかなさけよ
一わか上らう内はし まつかせ たんしゆ わかさ たかを 大さか
   たゆふ かしはき十五 せきしゆ せきや かめのすけ かいす しまの介
   かうし とらのすけ しやみせん小うたの天下一
あつまおとこ見たてまつりけんじ物がたりのこゝちなんありてよめる
  かしはきのそのたまつさをしのひかねて
  よるのしとねにあらはれにけり
一かんばやし内はし さもん せきすけ くない せんこ さけんだ


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          かつやま しなの 小てんす しうかは もみち
      かうし こはた十七 さない十九 
一まごびやうへ内はし ふじ太夫 はつね うきやう こさくら 一うあ
           しけまつ いくた おひさ たむら たかしま
       たゆふ しゆんまつ十八 よした廿 つかわ十六
此三人のきみたちをうた一しゆによめと人いひけれはおとこよめる
  しゆんまつやよしだをかふるたもとには
  もろこしふねもよせつがはなみ 
一甚次郎内はし つま木 えくち まんさく とのも たんせき
一九郎右衛門内はし おとは 小太夫 まつはら おとめ はつせ
          さきやう まつかせ むさし とかは たかを
      たゆふ ては廿一 くらのすけ廿ニ
あつまおとこ見たてまつりあはれくらのすけのきみの御なさけ
かはらす。そひはつる身とならまし物おと思ひつゞけ一しゆつゞる

  おもひではちきりにあかぬくらのすけ
  かはらぬいろをたのみきにけり
   たゆふ いこく廿四 かしは十五 いつみ廿三 大さう十八
ある人のいはくいつれおろかもなきとはいひなからいつみの
きみと申は御かたちいふにたへなれはそのかくれもなきなた
かききみにておはします此四人のきみたちをうた一しゆに
よめと人いひければおとことりあへす
  いこくにもよきてかしはとかくれなき
  いつみのきみに大さかのせき
一与一右衛門内はし よさは なるや みはる こふじ まさよ
一与右衛門内はし ちくご
     たゆふ せんしゆ十九 まんしゆ十八
あつまおとこ見たてまつりりやうきみ一しゆによむ
  なのみしもせんしゆまんしゆのきみなれば


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  一しゆのうたもよまれざりけり
一そうし内はし せんじゆ もしよ かつやま りんしゆ
一四郎右衛門内はし たかね せきや しゆせん よしの
      かうし たんこ廿 くれまつ十九
此両きみ一しゆによめと人いひけれはおとことりあへす
  しのぶれとたむらのきみのなさけには
  みたるゝいろはたまかつらのきみ
   たゆふ せきしう十五 ちくこ廿三 えちこ廿六
       きんさく十六 さくら木十七
ある人のいはくこの五人たちをきやうか一しゆによめと
いひけれはあつまおとこ見たてまつり御かたちいつれもはな
かとおもひとりあへす
  せきしやうやちくこえちこにきんさくの

  かたちのはなはいつもさくら木
吉右衛門内はし さこん かつらき こせき やましろ はつしま
         うねめ りしやう みのり いなは わかさ つやま
     かうし めいげつ廿一 さもん十七
     たゆふ このま十五 こにし廿一 小太ゆう十六
ある人のいはくいつれおろかもなききみたちとはいひなから
こふじのきみと申せしはなをえたるきみにてましますあはれ
三人のきみたち一しゆによめといひけれはおとこよめる
  このまもる月にこふしのはなのいろ
  さやかに見えしこたゆふのふり
   たゆふ きんたゆふ廿四 しうたま十六
あつまおとこみたてまつり両きみ一しゆによむ
  きんたゆるこふるなみたはしらたまか
  なにそと人のとひもこよかし


15
   たゆふ ていか廿七
あつまおとこ見たてまつりいにしへのていかのきやうははなのもと
にてましませはなにめでゝこゝろをくれうたもえよまざり
しにある人のいはくていかのきやうははなのもと御みはあつま
おとこなにかはくるしかるへき一しゆつくりたまへといひけれ
はおとことりあへす
  なにしをふて(い)かははなのもとぞかし
  われはあつまのえひすなりけり
一とくへもん内はし おこま やしま おゆり おしま つた みは
          のなか こしほ しつか のあき おきん やなき
一きさへもん内はし おほやま あかし さかみ しう たま
一よさへもん内はし まつら かしはき すま まつさか とやま
          いくた こやなき やまと いなは いはき
          かつま せきちく やしま いせき

      かうし 小けんだ廿三 こうたの天下一
      たゆふ おほくら十六 よしまつ十六
あつまおとこ見たてまつり両きみ一しゆによむ
  いつのまにこいぢにまよふおほくうの
  やとりにあかぬよしまつのかげ
    たゆふうくひす廿三つしま十八一かく廿五
あつまおとこ三人のきみたちを一しゆによむ
  うくひすのかけをからみにうつしまの
  きみのすかたは一かくに見ゆ
    たゆふげき廿六たいぶ廿一
ある人のいはくこのたいぶのきみと申せしはそのなかくれも
なくなたかき。きみにてましますがすきにしはるのころ
おもひよらざることありていまはなのみもかはいはんべる
なり両きみ一しゅによめといひけれはおとこ


16
   このきものゆくえいかにとなげきしに
   なのみかはりてたいぶなりけり
一よひやうへ内はし よしの かんしゆ たしま なかの
          しゆめ せんよ とやま たかさき
          いくしま さたゆう まんよ まつさき
      たいふ けんは廿三
このきみかうしにたゝすみてましますを見ておとこよめる
   えならぬはけんばのきみのたちすかた
   によさんのみやかそれかあらぬか
一孫ひやうへ内はし おみね まつしま おきん はつせ
  「新町」
一六さへもん内はし はまつ せきの こかは おかい せんこ まんよ
一甚ひやうへ内はし のむら こにし たのも わかさ たかせ せんよ
一三郎左衛門内はし こでんじ ひやうすけ こさんじ さもん

一そうえん内はし あかし やなき よしの 大山 なかつ ききやう
         たむら たみや おせき こしま たまの
一すけ太郎内はし おほくら たかね きん五 おのへ みねの まつ
         あかし やしま こくせん うすくも
     たゆふ こわた十六 のあけ廿三
あつまおとこ見たてまつり両きみ一しゆによむ
   こはたやまのあきのかせのはげしくて
   月をふしみにゆめもむすばす
一はうしゆん内はし きんさく せきの うたき さかの
      かうし まつしま十六 たかまつ廿二
      たゆふ たんば十八
ある人のいはくこのきみなたかきゆふちよにてましますしかる
あいたしたはざる人なしあつまおとこ見たてまつりいかなる人か


17
ふかきちぎりをむすびけんとねたむこゝちなんありてよめる
   ふかくしもいかなる人かちきりつゝ
   たんはのきみをなてしこのはな
     たゆふ 八十郎廿二 わかまつ廿三
あつまおとこ見たてまつりなにしをは御としもふけさせ
たまはんとおもひしにいまをさかりのきみにてまし
ますものをとおもひりやうきに一しゆによむ
   なにしをわば八十のみとおもひしに
   まだわかまつのみとりなりけり
一またえもん内はし かもん かめい しゆせん やまさき おとは こくせん
一四郎えもん内はし さかみ こぎん おきつ かめのすけ むろずみ
一五えもん内はし おかめ おはる おたま りんか おいわ さかた
一五郎ひやうへ内はし のむら みせき こいつみ やばせ あつま
一こんさへもん内はし 八すけ きゝやう みなと せんよ

一せんひやうへ内はし しつか おほすみ たいぶ とせい とのも ちとせ
           あさか おしほ まんこ りんまつ おまん
           やましろ よしの みやざき
       たゆふ せきしう十七 たかしま廿 おほさか十八
ある人この三人のきみたちをうた一しゅによめといひけれはおとことりあへず
   せいしうとなはたかしまのきみなれは
   いつおほさかのみとやならまし
一しやうさへもん内はし おかべ いなば せんしゆ はつしま
        たゆふ こさへもん廿一 なかと十五
あつまおとこ見たてまつり両きみ一しゆによむ
   小さへもんなかとのきみのおもかけを
   いつのよにかはわすれやはせめ
     たゆふ たしま十五
あつまおとここからしの内を見たてまつるにおりふしたしま


18
のきみの御まへにうすいろのかきつばたのいとうつくしく
さきけるをたておかれてけりこのきにみおそれたと
へば月のあるよほしのうすきがことしおとこ一しゆつゞける
   たてをけるはなはたしまにかけもなく
   たゝうすいろのかきつはたなり
一五さへもん内はし さんしゆ しつの みうら しけの みよさき
          あつま きよす のあき かつま しのふ
      たゆふ みはな廿
ある人のいはくこのきみはりあいたい一にして御かたちいふに
たへなれはそのなかくれもなききみにてましますといふあつま
おとこ見たてまつるにあたりもかゝやき見えければいにしへ三こく
にけげんせしたまものまへと申せしもかくやらんとおもひつゝ
け一しゆよめる
   いくとせのながめにあかぬあきのよの

   月よほたるよきみをみはなよ
一次郎ひやうへ内はし からまつ とかや かるや かるも しうふし かつ山
一いひやうへ内はし こげんだ こさは ちかま おむめ
一加ひやうへ内はし きんさく しのぶ きち十郎 さんたゆふ
一ひこさへもん内はし なには もなか のむら うねめ こかた
           はつね やまと かつらき
       たゆふ からさき廿一
ある人のいはくこのきみはりあい。たい一にして御かたちならび
もなくそのなたかかるきみにてましますといふあつまおとこ見
たてまつりまことににんげんにをいておや かゝるいつくしき人もあ
るべきとおもひにしづむこゝちなんありてこしおれ一しゆよめる
   わかこひはしかからさきのひとつまつ
   われにひとしきひとしなけれは
一ぢん太郎内はし みなと のや おくに こたゆふ かんさき


19
         よした みつね なかしま おきう おきり
一いちえもん内はし ていか 一かく かわさき せんよ なかしま
          なかと さげんだ たしま せきすけ おみね
      かうし なやと十九 おほやま十五 ときは十六
      たゆふ たのも十六 かしわき十六
あつまおとこ見たてまつり両きみ一しゆによむ
   なさけふかくいひしことばもかわらねば
   なをたのもしきかしわきのきみ
一里さへもん内はし まつもと まつえもん 三せき たもん たんしゆ みよし せんや
一またさへもん内はし はやかは たのも つやま おしゆん かわの
           おつる おとく うえの
  「よこ町」
一こさへもん内はし なると よしかは よし山 なるみ よしたま
一また六内はし あさの まつかせ ないき こにし

    かうし いくよ廿四 たかよ廿 やまおか十七 よしさは廿二
一かん六内はし おのへ ときは こかは おはな もみち あさかほ
        こさは たかまつ しけまつ つた
    かうし まんしゆ廿一 はつね廿一
一平ひやへ内はし 三しゆ としま からまつ せんよ しほかま こきん
     かうし まんさく十七
一久えもん内はし よしの あいず くれまつ
一よさへもん内はし ふしみ たまみつ たんこ よしまつ
          かしわ わかやま こさわ たみや
  「にしかし」
一ひこへもん内はし たつさ 云ゆ いをり 金助 しゆせん せいざ
   のちのよのむくいのつみもしらひやうし
   たはかりとらんことをゆうく(ら?)ん よみ人しらす
   たれとても見らいの事はしらひやうし


20
   たゝさしむかふことのはそうき 女かへし よみ人しらす
   たいこにはいかなるはちのあたりけん
   さしきをはやしてづさみとなる よみ人しらす
   やかれつゝかねのあるほととられんほ
   のちはかならすおけふせとしれ よみ人しらす
とうちなかめゆくほとにいづくともなくらうさいの一ふし
にしやみせんのおとひゞしくきこゆるあしをはやめ
て見るところにさもいつくしき上らうにわかさむらいの
うちましりてまづさへきるきよくすいにさかつきをう
かべしゆえんなかはと見えにけりあつまおとここれは
いかなる人やらんととひけれはある人こたへていはくわか
さむらいのゆふちよをあつめ御なくさみにてまします
とぞ申ける

(挿絵)
はし 太夫 二人はとられん はう たいこもち かぶろ
あつま おとこ ところの人


21
あつまおとこすれを見ておもしろく思ひ一しゆよめる
   たひころもきて見るたにもなくさみの
   さとをたれかはよしはらといふ
  「すみ町」
一七さへもん内はし 小けんだ のかせ たかせ つた こくるま こくま
          なてしこ
一けんひやうへ内はし こたか。みよし。たみや。せみや。きうたろう。さんじ
一さくえもん内はし しのぶ。いをり。ちやう五郎。たまの。あつま。しつの。おさご
一次郎さへもん内はし さげんだ はなみつ こけんだ
一はんさへもん内はし きん五 ないき せんよ いくの まんよ
           かゝつ かつま おやま
一次郎兵衛内はし たみや しゆめ おしほ たかす
一じん介内はし せきや しほの おまつ まんよ きぬた
一長ひやうへ内はし おほさか きんさつ わかさ せきたか みはる

          ときおか たさく まさよ くはせき
一次郎えもん内はし おきかせ こふじ おほすみ いくの 長五郎 かはち
      かうし よしおか十九
      たゆふ きんたゆふ十七
あつまおとこ見たてまつり御かたちいとうつくしくまします
ものかなとおもひにしつむこゝちなんありて一しゆよめる
   きんたゆふのきみおもひねにきぬたうつ
   わかなみたとは月そしらす
      たゆふ きんしう廿
ある人のいはくこのきみはりあいだい一にして御すかたははる
のはなもねたみ御かたちはあきの月のくまなきかことしすい
たいかうがんきんしうのよそおいにてにもあまりなんとてきん
しうのきみと申けるとかやされはにんげんは申にをよばす
ちをはしるけだものそらをかけるつはさまてこゝろをかけ


22
ものなしとそ申けるあつまおとこかうしのしたすた
れのひまよりかいま見たてまつるに御としのほと廿には
すきさせたまはぬしやうらくのみきの御そてにきみが
そてしのひつまといふじをいろ/\のいとをもつてあり/\
とぬふたるをみてあつまおとここゝろもそらになんあ
りて御そてのぬいものを見てよめる
   きみかそてしのひのつまやたれならん
といひかけければ御返事とおほしくて
   ふかきなさけをたのむへきなり
といひすてゝうちにいらせたまふあつまおとこひれふし
いしにもなりなんとはなれかたくはおもへともかくある
へきにあらされはなみたなからたちいつる
一五郎左衛門内はし まさよ おなつ こやま こかは みちのく
一久五郎内はし いくしま きむら たかしま

    たゆふ たかせ廿
ある人のいはくこのきみの御かたちいふにことばもあら
ざればそのなたかかるゆふちよにてましますといふあつ
まおとこ見たてまつり一しゆよめる
   なもたかせなみまの月のかけのまも
   わすれやはせめきみのすかたを
一ちやう右衛門内はし さほの あつま ひやうた はつね
一三右衛門内はし やましろ まつもと て八 まつしま
         こやの みなまつ ふくしま
一十ひやうへ内はし まんげつ くはけつ たかね あさの いはと
          ゆきへ くれたけ せきちく こくるま
一五ひやうへ内はし かつら みなと おのへ かつらき しけまつ
          きめた いつゝ
一しやう介内はし 小十郎 さつき おしな とやま よしや


23
一四郎えもん内はし すま あかし こきん おつち このま
一五郎ひやうへ内はし では うきやう かんまつ
一きひやうへ内はし まんしゆ まんよ いくた ふしみ たまも おつね
      かうし こはた十六
一いちさへもん内はし のはら たみや しほかま たむら ていか つやま
       かうし よあらし廿三 ときは十八 みうら廿三
一いちひやうへ内はし たんや たんしゆ いちはし よしの
一とう右衛門内はし はつやま かつま はつさき
一もひやうへ内はし よしかは さゝき きない
一かく太郎衛門内はし おみね みはな いつみ しうふし
一まこ右衛門内はし たまる なんせき おはな
一又ひやうへ内はし こいつみ こかは みよし こしま
一しやう兵衛内はし さと みやき はうき せんこ まんこ
          おき みせき

一きぞう内はし さかほ よしさき きん太ゆふ まつの
        やまおか さんしゆ つるが かん九
    たゆふ きちやう廿三 のさき十六
あつまおとこりやうきみ一しゆによむ
   もろこしにとかいのふねのきてうして
   のさきのきみにいつかあふべき
一まつえもん内はし はつよ やまの はつせ かもん えんしゆ うこん やなき
          こよし
一せう三郎内はし なには さかを しづか しけ さころも
  「二町目」
一たさへもん内はし しうきく あつま おゆき あさかほ よした
一二郎太夫内はし むらまつ くれまつ しらたま せきや おしゆん
一十ひゃうへ内はし もりかは せきちく こいづみ いなば
一三郎丞(しやう)内はし おまん まつよ のあき かつま


24
一次右衛門内はし たかま おみね たかまつ おるり よしかは
         はつね たかす さこん こやま
一七蔵(さう)内はし たかせ おかな しらきく まつしま
一正さへもん内はし 花鳥 金五 山さき お山 お金 松しま ふく松
一甚之丞内はし かつ山 おしゆん かもん かんさき おはな
        こしゆん おかな
一八ひゃうへ内はし たかくら たかやす まんよ しくれ よしかは みやこ
一七さへもん内はし しのふ たまの たんか たむら
一二郎兵衛内はし めいげつ なるみ まつの たあつた 大ふ
一兵右衛門内はし たみや みのり まさき
一正九郎内はし たまかつら みふね いくた さゝき
一二郎さへもん内はし もなか おのへ なにわ 山かつ たみや
           たさく よした たなか
一源蔵内はし よしまつ ひよ一 はしつへもん おゆき まつさは

小平次内はし ないき はやくも あつま
    たゆふ ふなはし十五
あつまおとこ見たてまつり一しゆよめる
   おもひきやこひのふなはしかけまくも
   なみたのふちにしつむへきとは
一よひやうへ内はし うこん からまつ しのぶ なるみ みよし
          きんや おしほ しらたま たむら
一伊太郎内はし こさくら ないせん
一とうくん内はし もんざ おなつ うこん うねめ たもん うきやう
一まこ兵衛内はし 三おき もとめ くめも 太夫 おしな もろこし
一藤右衛門内はし もんや まんよ こすき とらしま おるり
一八右衛門内はし りしやう
一次兵衛内はし 花かき いつも お花 小三次 うこん
        こきん あをやき きんさく


25
    たゆふ さくら木十六
あつまおとこ見たてまつりこしおれ一しゆ
   見るにたゝこひにくちなん人あらし
   はなさくらきのきみのよそおい
一甚五郎内はし かやう せきや しうなみ いさこ おつぢ おはま
一ひこえもん内はし 金や やはせ まつた まつくら まつしま はずへ
久兵衛内はし た太夫 かつま このま かゝつ たつさ
        こかは おせん おくに おはな
一二郎さへもん内はし おたま せきの くまのすけ
一二郎兵衛内はし つやま しらふし うねめ と山 ふくしま
         つた よしまつ おなつ
一作兵衛内はし いつみ しきふ かつやま とがは
ある人のいはく上らうしう御のこいなしこれよしあけや
を見たまへとてにしかしへこそともないけれ

一半兵衛内はし むらくも をせき とねかは おゆき かつま くない ひよし おくり おやす たまかつら おまん
  「にしかし」あげやのぶん
一久左衛門 原右衛門 金右衛門 久右衛門 仁右衛門
 「二町目」のかしあげやのぶん
一長兵衛 小右衛門 源太 久次 与五右衛門 きさい
一久左衛門
  「新町」のかしあけやのぶん
一甚三郎 左次右衛門 長兵衛 忠左衛門 惣左衛門 長右衛門
一仁左右衛門 伊右衛門 久佐衛門
  「中の町」あけやのぶん
一四郎左衛門 惣十郎 九左衛門 平左衛門 与八郎 四郎右衛門


26
一源右衛門 小平次 吉兵衛 藤右衛門 新右衛門 藤兵衛
一多右衛門 忠兵衛
あづまおとこ。あげやを。けんぶつし。大もんのほとりに。たち
いつれば。御としのほど十五六。十七八。廿ばかりの上らう
の、せうきに。こしをかけさせ。たまひ。やりてかぶろ。つき
たてたまへり。はしいして。おはせしが。あつまおとこを。御ら
んして御すがたを。見まいうするに。ものうきたびにお
もやせて。やつれはてたる御ありさま。いづくの人にて
。ましますぞや。いたはしさよとぞのたまいける

(挿絵)
かふろ 太夫
やりて けんぶつ人 ところの人 あつまおとこ


27
おとここたへていはくあつまのかたにすまいせしこくうあんぎ
やのものなるが一けんのためこれまてきたりてさふらふ御みいかな
る人やらんくはしくかたりたまへといふ上らうのたまはゝくわれいあか
いなかのものなるがらうしてましますはゝを一人もちて候へともは
ごくまんたよりのあらざれは。ふもけうやうのためかゝるところに身
をうりおちこちのたつれもしらぬ人々におもてをさらすのみな
らずさいがうふるき身となりためしすくなきかはたけのなかれの
をんなとなるさきのよのむくひまでおもひやられて候とてさめ
/\とそなきにけるあつまおとここれを見てやさしの人のこゝろ
やななぐさめはやとおもひなふいかに上らうかたらはよきにきこしめせ
ありしむかしのことぞとよいつみしきぶといひし人ふもきやうようのため
なかれをたてともにしやうぶつせしとかやかゝるためしもあるものをさのみ
なげきたまひにとよしかりとはいひながらこゝろのほとけなる
へしといふ上らうこゝろのほとけとはいかに

ととひたまへはおとここたへていはくもとよちもゆう
くんはよろしきをしたしみまづしきをうとむはならひな
りけれど一しやうはかぜのまへのともしみ人のさかりはなを
いなづまよりあへなしそれらつくはえたをちしふたゝびさ
くならひなし人のさかりとゆくみつとすぐる月日とふ
るあめはかへらぬならひよの中のしやうじむしやうの
ことはりたれかはのがれさるへきゆめのよにまほろ
の身とうまれなさけをばしらずしてとんよくしんに
おもむき人をたばかるわさをのみしつのめに見えぬ
おにとやのちになりぬへしつらきはつらくなさけには
なさけあるへしおにもほとけもよそになしこゝをも
つてあるせつにしんげむへつほうとをけりされば
こそこゝろのほとけなるべしといふ上らうのたまはくい
つれもゆうくんはのちのよをはしらずして人をたく(ら?)さん


28
わざをのみあけくれこゝろにおもふ事こそはかなけれ
せけんのありさまつら/\とくはんじ見るにきたりてしはら
くもとゞまらざるはういてんへんのならひさりて二たひかへ
らさるはめいときやうしやうのわかれでんくわうてうろいしの
ひのひかりのうちをたのまれずなむあみたふつと申けり
あつまおとこさて又くつわゆうくんえのしかけはいかにととふ
ある人こたへていわくそれくつはの心はけしくて一年一日の
ひまをゆるすこともなくあめの日もかせの日もこゝちすこし
れいならずといへともそのあはれみもなくかう人あれば
えみをにくみうれへさる日にはかんしよくつねならずと
いひけれはあつまおとこのたまわくおんこくはとうえん
りよりはる/\とくたりはなのさかりをうもれぎのかゝる
くつはのうきすまいこきやうをいてゝこのかたおやきやうたい
もしらざれはなさけの人を一すじにおやきやうたいと思ひ

つゝたのむこゝろそあはれなりたとへばくつはこゝろふとう
にあるとてもそのこゝろさしをかんじおり/\なさけのある
ならはてんたうのかごあつてまたそのかひあるべしいかにある
じの人こんにちのみちしるべかたしけなくこそ候へとよまた
これなる上らうたちへよしなきものかたり申せしもたしやうの
えんにてさふらふなこりをしさはかきりなしいにしへまつら
さよひめはひれふしいしになるとかやとてものかれぬあさ
がほのひかげにきへもはてはせてとはおもへともきみかため
おしからさりしいのちさへなかくもかなとおもひけるけふの日
もはやくれはどりあやしやたそとゆふまくれねくらあら
そふとりのねのこえ/\なりしそのうちにいりあいのかねも
しよぎやうむしやうせうめつほうせうめつ/\じやくねついら
くとおとつるゝなむあみたふつにやくかしやうふつ十はう
せかいねんぶつしゆじやうせつしゆふしやとえかうしてなこりは


29
つきせずおもへどもかくあらへきにあらされはすこ/\とたち
かへりこれはたとへにあらねどもそのみちのりのいにしへ
あはのなるとにおきなれしこざいしやうのつほねになこりを
おしみうしろかみひかれしもかくやとおもひしられたり
とかへさをおしみたちいつれはあるしの人も上らうも
大もんのほとりにいてなこりおしけにみをくりなみたと
ともにたちかへるこのものかたりさま/\

  一たゆうかうしはしいつれも上中下ありといへとも
   うらみを。おもひかきしるささるものなり
一たゆふ 七十五人
一かうし 三十一人
一はし 八百八十一人か  惣合九百八十七人か

  「えと町」一この十六人はたゆふたゝししんそうなり
一太郎兵衛内たゆふ きんさく とし 十六
   なかめにはなおあまりあるきんさくの
   はなのさかりはいつにかわらし
一四郎兵衛内 小太夫 十五
   あおやぎのかせになびけしすかたより
   まさりてみゆる小太夫のふり
一庄助内 よしかは 十六
   よしかわのなかれにうかふくれたけの
   ひとよなりともねてもみたさよ
一甚左衛門内 さころも十五
   とにかくにならぬうきよおすまんよし
   きてもみよかしさころものそて


30
  「京町」
一三郎右衛門内 みなと 十六
   たかせにもなみのあるをもしらていて
   ああらしはけしきみなとこいしや
一孫兵衛内よした 十五
   すかたよりみめもかたちもよしたさま
   なさけはなおもふかきとそきけ
一四郎右衛門内 やまと 十六
   やまとへもゆかはつれんとおもふみもおいする
   花のちるそかなしき
    たかお 十五
   たかをやまみねのあらしのはけしくて
   ゆめもいくよの人めよくらん

一与左衛門内 からさき 十六
   たのまれぬ人のこゝろおかしさきの
   まつひとりねのとこのさひしさ
  「新町」
一ほうしゆん内 よしの 十六
   いつもたゝよしのははなのさかりにて
   なかめきたのゝ日おばくらしつ
    るい 十五
   るいもなくいろよくみゆる花さかりたおらぬ
   人はあらしとておもふ
  これはいま たんは 十六
   たんはなるあふえのやまのあきのつ
   ゆ。たかおもかけをまつむしのこへ


31
一四郎右衛門内 のさわ 十六
   のさわよりおちくるこきのしらいとを
   そむるきのはのにしきとそ見る
一助太郎内 いつみ 十六
   いつもたゝつきせぬいつみなかれかな
   くみてみもせぬきみかこゝろ
一二郎兵衛内 からまつ 十五
   みな人のてにみてりたる花よりも
   まさりてみゆるからまつのふり
    みよし 十六
   みよしのゝ山のあなたにすむ人もおも
   かけなりをゆきてみたさよ

寛永二十年 九月吉日

一えと町のいえかず 十九間(けん)一にしかしあけや 五人
一きやう町のいえかす 十七間 一中の町あけや 十四人
一よこ町のいえかす 七間 一新町のあけや九人
一新町のいえかす 廿二間 一二町めのあけや 八人
一すみ町のいけかす 三十間
一二町めのいえかす 廿九間 あけやいけかす合三十六間か
一にしかしのいえかす 壱間

 五町よこ町まてくつはのいえかす合百二十五間か

寛永十九年
   六月吉日 はんや 清兵衛開板


32
以上蜀山花書なりしを今豊芥子の文庫にをさむ 自
すみうつしになしたれば印本にたがふところなし
寛永十九年の作なる事壱丁オモテに見え同年刊行な?
こと巻尾にあり
廿年の年号廿七葉ウラにあるは十九年に刊行なりてより
後に出たる遊女を翌年に増補なしたるなり 朱のわくを
ひきおきたるはそれを目安くせんがためなり
廿年に彫たしたるは廿六葉廿七葉の二丁
又廿二丁オモテのはじめに二行彫いれたるあり是は前年に
もらしゝなるべし かへ見/\朱ひきするものは二十年の増補
と見るべし さて寛永二十年九月とあるあ刊行なりし
時にて此増補は夏の頃のことにてもあるべし 同年九月
又両人の事いでうたがひたる名もあるがゆえこの二十六七の
二葉をけづり半葉の画をくはへし本あり左に杪出す
 以下新吉原玉屋蔵書の末二葉

あるまおとこいかゝおもひけんとせいをいとなみかのちやうにもはる/\とゆきたへ
けりしかるにくはんえい廿ねんきく月になんありけりいにしへともとせし
人ひとりふたりきたりありしむかしのことなどかたりいたしけれはあつま
おとこなつかしくやおもひけんいかにめつらしきことやあるとたつねしに
ある人のいわくむかしにかはりいまははや人のゆきゝもあらされは
いちをなせしかうしもいつのまにかはひきかへつたむくらはへまとひ
みちはくさのとあれはてむしのねなりてをりふしにおとつるゝもの
はなかりけりされともくちせぬみちなれはしんそうのたゆふ十八人
いてきさせたまふまつ
  「えと町」
甚さへもん内 さころも しやう助内 よしかわ
四郎兵衛内 こたいふ 太郎兵衛内 きんさく
  「京町」
三郎えもん内 みなと まこ兵衛内 よした さもん たかね


33
四郎えもん内 やまと のさわ よさえもん内 からさき
  「新町」
はうしゆん内 よしの るい はんは
助太郎内 いつみ わかやま みを 二郎兵衛内 みよし
いつれもおろかもなききみたちにてましますといひければあつまおとこ
さもあらんはるかにわれもゆきたへぬいさやかのちにゆきしんそうの
たいしゆたちをいちざにまとひさかもりしてひとなくさみせんは
いかにといふもつともしかるへしとてかのちやうにいやりしんそう十八人
いちざにまとひさんかいのちんぶつこくどのくわしをとゝのへあはれ
もゝとせがけふにつもれかしとまふつうたひつなくさみしにうらめしや
あきの日のならひとてはやせいさんにかたふきほとなくかへさも
ちかつきぬあつまおとここさしきのうちを見わたしいつれもおと
なしやかなる人々かなとなこりをしさのあまりにたいしゆ
たちのおなによそへいやうか一しゆつゝよみはんへる也
さころも  いかにせんふかきちきりもなにしおはゞ
        うすくやならんさころものきみ

(挿絵)
あつまおとこ かふろ やりて


34
やまと いつみ やまとちやはやほともなくいつみ ?
         いつよしかはときみを見よしの
よしの るい
たんは     くらへこしふりわけかたききみそか
         よしのゝはなかるいかたんはか

のさわ きんさく おしなへてのさわに花のきんさくは
          はるやところをわけてきぬらん

みなと からさき しかのうらみなとにちかきからさきの
小たいふ      まつのみとりや小たいふのきみ

さもん よした  花さもん月はよしたに谷はたかね
たかね       見るにしたはぬ人はあらしな

わかやま     としふともそのおもかけはわかやまの
みを        かはらぬいろをみをのうらなみ


    (おしまい)