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古今名婦伝 常盤御前

 

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古今名婦伝  楳(梅)素亭 玄魚記


 常盤御前(ときはごぜん)
常磐は夫(つま)義朝(よしとも)野間の内海(うづみ)に亡びて後
三人(みたり)の子を供なひて街(ちまた)に漂ふ平宗清(たいらのむねきよ)は
清盛の命(おほせ)をうけてこれを捕(とらへ)
福原の御所に引く入道相国常磐
艶(えん)に迷ひて三子(さんし)を助命せられ
遠国(えんごく)に配流(はいる)すときはゝ幼童(おさなご)を
たすけんが為に貞操を破り
亡夫の遺命をついて源氏
再起の基(もとい)を含む当(まさ)に
平家を亡ぼして武将の主たる
人を産(うみ)たまへる君なれど晩年の
盛衰いとあはれなれば何(いづれ)か本意ならざらん哉(や)

 常磐木の松の操を捨小舟
  たよる嶋さへなみの中なる


常磐は、夫義朝、野間の内海に亡びて後、三人の子を伴いて街に漂う。
平宗清は、清盛の命を受けてこれを捕え、福原の御所に引く。
入道相国(そうこく)常磐が艶に迷いて、三子を助命せられ遠国に配流す。
常磐は幼な子を助けんが為に貞操を破り、亡夫の遺命を継いで、
源氏再起の基を含む。
まさに平家を亡ぼして武将の主たる人を産み給える君なれど、
晩年の盛衰いと哀れなれば、いずれが本意ならざらんや。

 常磐木の 松の操を捨て小舟 頼る島さえ波の中なる

 

 

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