仮想空間

趣味の変体仮名

甘藷百珍 尋常品 妙品 絶品

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536724


25(左頁七行目)

  尋常品
「六十四」蒸しいも そのままよく洗い塩湯(しほゆ)にてむすや ○湖(うん?)を
   くみて蒸し湯に用ゆも甚だよし 塩のかげんも
   是になぞらへ知るべし


26
「六十五」醢漬(もろみづけ)いも 生にて切醤油のもろみにつける 切
   やうはこのみしだい

「六十六」藷精(いものじん) 生にて擦(おろ)し水に入れ 銅篩(すいのう)にてこし 其
   水を淘底(いせそこ)にしづみたる精(じん)をとり 水四五度も
   かへ 日に乾し たくはへ置き 時に臨みて用ゆ 尤も寒中
   の制を佳(よし)とす △葛の代りにつかひて吉野葛
   上品に勝れり たくはへ置きて平常(へいぜい)用ゆべし

「六十七」飛龍頭(ひりやうず)いも 生にてをろし豆腐少し入よく擦り
   ○銀杏子 木耳 麻子(おのみ)緑豆芬(ぶんどうのもやし)陳皮粉等
   加料(かやく)に入れおろしいもに包み油にてあげる 尤も
   かやくには薄醤油あぢつけてよし

「六十八」ソボロいも 生にて擦しうどんのこ少し入つまみ
   とりて蒸し?(とりざかな)または煮調(にもの)などの取合にすべし

「六十九」煎餅いも 生にて厚さ一分あまりに切 日に乾し
   あげ遠火にてむらなく焼なり または油にて


27
   あげたるもよし

「七十」栗様(くりなり)いも  「七十一T」花形いも

「七十二」白髪いも  「七十三」いもめし

「七十四」いも茶粥

「七十五」焼いも 完(まる)にてわらの熱灰(あつはい)にうづみてよし
   △近年焼藷(やきいも)の新方(しんほう)世に行(おこな)る味うづみ焼に及ばず

「七十六」落葉いも 生にて(図)かくのごとく切 打違い
   にするなり(図)此ごとくなるやざつと湯煮し
   調味好み次第

「七十七」糟蔵(かすづけ)いも 生にてよきぼとに切 糠味噌に一夜
   つけ取いだし酒粕へ直し漬ける

「七十八」塩浸(しほづけ)いも 生にてよき形に切り塩水に浸け 柑子(くはんおう)
   烏蕷(くろぐわい)などとり合せとりざかなによし


28
「七十九」凍りいも 寒中に藷を生にて切 湯煮し外へ出し
   凍てたるを湯をかけ乾してつかふ

「八十」いも雑炊 生にておろし 米煮えし時入れるなり
   味噌仕立 塩仕立いづれも青菜をきざみ
   いれてよし
      
「八十一」初霜いも 焼いもを銅麁篩(あらさすいのふ)にてこし其まゝ何
   にても煮物のうはおきにしてよし

「八十四」片(へぎ)いも 丸剥きにて小口よりひら/\とへぎて
   煮物 湯(すいもの) 取?(とりざかな)などによろし

「八十五」いも冷し物 生にて花の貌(かたち)など好み次第に切 みづ
   にひやしてよし

「八十六」藷三盃浸(いもさんばいづけ) 生にてよきほどにきり酢一合
   酒一合 醤油一合煮かへし 完辣茄(まるとうがらし)ひとつに
   いれ浸ける


29
   妙品
「八十五(まま)」水前寺巻いも 生にておろし饂飩粉少し入れ棒に
   とり水前寺苔水に浸しよく水気をとり右のいも
   をまき竹の皮に包み糸にて括り蒸すなり ○
   また蒸いもすいのうこしを用ゆるもよし

「八十六」巻氈(?けんちえん)いも 生にてをろし 栗子の針 木耳
   皮牛蒡 緑豆芽(ぶんどうもやし)薄醤油あぢつけ いり
   銀杏二つ割 黒胡麻 右七色まぜあわせ ○

   湯葉を水に浸け板に広げ右のくを四部ほどの
   厚さにむらなくSきならべ堅くまき干瓢に
   てくゝり巻どめに葛の粉水にて溲(たね)ぬりつけ
   胡麻油にて揚げ小口より七八部ほどにきる

「八十七」加須底羅(かすてら)いも 生にてをろし「六十一」藷の精を少し
   合せ 鶏卵 砂糖等分に入れ焼鍋にて上下
   に火を入れ焼芥子ふりてよし

「八十八」片食(ぺいしん)いも 葛を水にてとき酒少し合せ是にて


30
   「六十六」藷精を溲(たね)饂飩粉打つごとく棒にてうすく伸ばし
   二寸余りの丸にきり ○椎茸 牛蒡 人参
   蒟蒻 薄醤油にて味つけ 小さく切 打伸ばしたる
   丸形につゝみ編笠型に折りて指に水をつけ 合わせ
   めをなでつけ蒸すなり ○又角に切て隅に折て
   もよし △油揚げにしたるも佳なり

「八十九」音羽いも 生にて擦し水気を去り生麩少し入れ
   よくすりまぜ「六」御手洗いもほどにとりて中へ
   麻子(おのみ)四つ五つ入れ油にて揚げ日に干して貯え置き

   遣う時水に浸けて用ゆ 調味好みにしたがふべし

「九十」ズゝヘイいも 生にて大きめの賽の目に切り油にて揚げ ○かつ
   ほの出汁 酒しほ 醤油よき加減し煮えたら
   ○別に饂飩粉を器にいれ水した/\にいれて粗
   解きにかき立てあげたるいもの賽と一ときに出汁
   汁の中へ打ち込みもりていたす 油の子末(こま/\)おろし
   生姜 白葱のさく/\上におくべし


「九十一」竹の子いも 筍丸ながら湯烹にして内の?(よう)を


31
   くりぬき縁へ饂飩粉か葛の粉をとくとぬり ○
   生にておろしたるいもに饂飩粉少し入れ筍の中へ
   込みくちの所を竹の皮にてとくと包み蒸して
   煮物のあしらいによし
   △又?(とりざかな)ならば筍に味付け蒸し芋の馬尾篩
   こしを色付けにして入れ小口切にしてそのまま用ゆ

「九十二」鵆(ちどり)味噌いも 蒸しいも百目 白味噌すりて五十目
   砂糖十匁 乾山椒の粉五匁 四色ひとつにすり
   ませすいのふにてこし鍋にてにる

「九十三」醢(ひしほ)いも 生にて大賽の目に切り焙烙にてざっと炒りて
   いもの賽の目一升に 白麹一升 塩三合 漬け茄子(つけなすび)
   の小口切 生姜の針 五色瓶(つぼ)にいれよくふたを
   して三ヶ月ほど置き 出しさまに砂糖蜜少し入れる

「九十四」揚げ出しいも 短冊にきり油にてあげから/\と
   なるを度とす

「九十五」新制揚出しいも 生にて一寸五分方 厚さ七分


32
   ほどに油にてあげ蓋茶碗に入れ 生醤油かけ
   おろし大根上おきにていだす 又山葵みその
   敷きみにもよろし

「九十六」砂糖いも 「六十六」藷精を絹篩にてふるひ 石蜜末(こほりおろし)
   等分にあわせ杉箱に布をしき蒸すなり かたちは
   崎陽(ながさき)の玉露?(こう)のごとくにすべし

「九十七」新制田楽いも 「百十三」田がくいもの條下(ところ)にみへたり

「九十八」洗いいも 生にて竹制の大根おろしにてをろし みづ
   にて幾遍もさらし 膾にても汁にても遣ふ
   あぢ変じておもしろき調味なり

「九十九」打ち込みいも 生にてをろし石砂糖(こほりさとう)とまぜ合せ竹
   のつゝの中へ小口を緊(しか)とくゝりむして竹をわり
   中のみをいだし菓子(くはし)につかふ

「百」薯蕷(とろろ・やまのいも)汁いも 生にておろし薯蕷(やまのいも)と等分にすり
   まぜ味噌汁をよくたきて冷まし置き これにて伸ばし


33
   遣ふなり 青海苔をあとより入れる

「百一」黎明(あけぼの)いも 「六十六」藷精を「八十八」片食(へいしん)いものごとくこし
   らへ一寸二三部にまるき切 餡を入れ両方よりあ
   わせ焼鍋にて白焼きにする

「百二」いも柚餅子 蒸しいも百目 粳米粉五十匁 味噌
   廿目 砂糖三十目 榧実(かや)皮をとり丸なから竪に
   なるよふに入れよくこね合せ長(たけ)三寸五部ほど厚
   さ四分にかため蒸し上げ陰干しにして小口より切

「百三」雪花菜(きらず)いも 「六十六」藷精を製(こしらゆる)時の滓(かす)なり 油少し
   鍋に煎りつけ醤油少し さし麻子 陳皮末 黒胡
   麻 生姜賽とひとつにいれよくまぜ合す
   △右のことくこしらえ海苔か遍腐または青昆布に巻き
   て小口切にしたるを巻き 雪花菜いもといふ
   △「八十八」片食いものごとく藷の精を伸ばし右の
   雪花菜いもを包み油あげにしたるをいもの
   丸裏揚(まるつゝみあげ)といふ


34
「百四」巻雪花菜(まききらず)いも 右の雪花菜いもの所にみへたり

「百五」藷丸裏揚(いもまるつゝみあげ) 右に同じ

「百六」藷まき松露(せうろ) 生にてをろし松露を中へ入れ丸
   めむしてすいものにつかふ

「百七」水取りいも 「六十六」藷精壱合 水二合あてにて馬
   尾篩にてこし糊のごろくに焚きくるみほどに
   とり砂糖に罌粟(けし)をまぜかける

   △右糊のごとくなりたるを重箱入れよく冷やし置き
   豆腐のごとくに遣うを藷どうふといふ

「百八」藷豆腐 右にいでたり

「百九」羊羹いも 「六十六」藷精一合 赤小豆絞り粉一合半
   砂糖蜜三合まぜ合せ馬尾篩にて濾し 銅(あかゞね)鍋
   にて練り かたまりたる時重箱に入れ冷やして切る
   △白赤小豆(しろあづき)絞り粉をもちひて右のごとく制(こしら)ゆる
   を白よふかんいもといふ


35
「百十」白羊羹いも 右よふかんいもの所に出たり

「百十一」パスいも 栗子 木耳 慈姑 鳥肉 鮮肉(きりみ)
   麩 金柑 皮牛蒡 味つけだし汁よきか
   げんにし茶碗にいれ ○「六十六」藷精水にてこね
   打伸ばしちやわんの丸さにきり是にてふたを
   してぢきに火にかけ焼く

「百十二」月日いも 大きなるいもを生にて皮を剥き小口

   よりうすくへぎ 丼鉢に煮え湯をいれ其中へ浸し
   しばらくしてとり出し砂糖味噌をいれ編笠
   形(なり)も折るなり又梅味噌を入れるもよし

  
     絶品
「百十三」田楽いも 生にておろし薄板の箱に入れ箱共に
   蒸し上げ切て串にさし そのまゝ味噌をつけすこし
   火にかけ焼きてよし ○味噌は木の芽味噌 山椒
   味噌 山葵味噌など好みによるべし


36
「百十四」ハンペンいも 「六十六」精を水にてうすくとき葛湯
   の如くたき冷まし置き ○生の藷をおろし豆腐
   と生麩を少しつゝ入 右の精の焚きたる汁にて
   糊のごとくこね合せ 蓋茶碗にいれ茶碗共
   に蒸し 葛餡をかけ又は山葵味噌をかけたるもよし
   △又は薄板の箱にいれ蒸しあげて角に切り 葛餡
   かけにするを南禅寺仕立ていもといふ

「百十五」南禅寺仕立いも 右にいでたり

「百十六」蒲焼いも 生にて擦し三分ほどにのばし蒸しあげ
   て直(ぢき)に葉苔(あさくさのり)の上へならべしばらく置きよくひつ
   つきたるときよきほどにきりて胡麻油少し引き
   山椒醤油付けやきにする

「百十七」ふは/\いも なまにてをろし擂鉢にてよく擂り
   馬御篩(すいのう)にてこし鶏卵打わりすりまぜ醤油
   のだし汁に酒味(さかしほ)もたせよく煮沸(にへたて)しその中え
   すくひ入しばらく蓋をしてよくふき上りたる時
   もり出(いだ)すべし 胡椒のこうへにおく(胡椒をてっぺんに置く)


37
   △精進には鶏卵をやまのいもにかへてよし

「百十八」たぬき汁 生にてをえおしつまみとり油にて
   あげ牛蒡ささがき入れて味噌汁にする也 擂り山椒おく

「百十九」いもとし 豆腐 生麩 つくね藷 三色すり
   鉢にてよく擂り ○藷生にて擂し汁を絞りとり
   滓(かす)をもちひす其汁にて右の三色を解き玉子の
   代わりに用ひて茶碗むしなべ焼きをこしらえ加料(かやく)好み次第
   精進の茶碗蒸是を方(ほう)とす

「百廿」いも胡麻豆腐 白胡麻一合白炒りにして水に浸け 擂
   鉢に入れ手にて揉めば皮とれる也 是を水にて淘(ゆり)、麁(あら)
   皮を去り 擂鉢にて能(よ)く擂り 「六十六」じん五勺水二合入れて
   とき 馬御篩(すいのう)にてこし糊のごとく焚き 重箱に
   入れ冷まし切て遣う 生姜みそ のしき味噌などよし
   濃醤油には椀にもりてあとより汁を盛入べし
   △胡桃を剥き熱湯に浸け皮を取りよく擂て右の白
   胡麻のかわりに入れるを藷仕立(いもしたて)の胡桃豆腐と
   いふ


38
「百廿一」藷仕立胡桃豆腐 右に出たり

「百廿二」塩焼いも 生にて皮を剥き寸斗りの厚さに切うら表
   共に塩をはら/\とふりかけ遠火にかけ焼き 切様好み次第

「百廿三」塩蒸しやきいも 藷を土のまゝちょっと氷に浸し塩を
   ひったりと塗り付け炭火に埋(うづみ)蒸し焼きにする也
   ○塩竈よりかき出したる熱き塩にそのまゝうづみ
   焼きたるは風味至てよし 是甘藷(いも)百余品の中
   第一品たるべし 世に塩釜蒸しとて棘鬣抔蒸法(たいなどむすほう)也

   叙
明の周定王が救荒本草、は民の飢餓を
救はんために撰ず、我 本邦、飲膳の正要は、
本朝食鑑、包厨本艸の二書たり、すべて、
本単の書は、民生日用の良材にして、これを
しらざるべからず、今や、この甘藷百珍の小一冊
は、真性味を詳にして、其修をしらしむ、彼
本艸の書に比すれば、九斗が一毛なりといへども、


39
これまた食鑑の一端、民家のために小補益
なからんことあらじ、穴かしこ見る人、其卑陋
なるを誹(路?)とす、済生救民の微音を称
美し給へかしと、爾云

己酉の年 初秋日
   江北 雲太郎考人 識

寛政元 己酉 年九月

書林 京堀川通綾小路下ル町 銭屋荘兵衛
   江戸日本橋通三丁目  前川六左衛門
   大坂心斎橋北久太郎町 塩屋忠兵衛
   同天神橋筋又次郎町  平野屋半右衛門


40
甘藷百珍  全壱冊 既行
同続編   全壱冊 近刻

本編の百珍にもれたるいもの料理調味愈々珍奇(めづらしき)を
別に百余品輯(あつ)む本篇と合せて二百余品あり