仮想空間

趣味の変体仮名

十二段さうし 下

 

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2567248?tocOpened=1

 

2

  • 第十一 ふきあけの事

かくて御ざうしは。ふきあけにつき給ひて。其後一日は

たびのつかれ。二日は神やみ。三日はびやうきとうちふし給ひ

ける。吉次此見奉りて申けるは。いかにくわじやどのきこし

めせ。御身のていはたゞのふうきてさらになし。これは大事

のきひやうなり。うつりて人のたすかる事かたし。いかにせ

んとぞかなしみけり。一日二日とせし程に。はや四五日にも

なりければ。吉次はやどのていしゆを近づけて。いかに候ある

じどの。我をばたれとかおぼしめす。あふしうにかくれn

き。ひでひらどのの御代官に。かねうり吉次のぶたかとて。年

に一どづゝ。都へのぼつものにてあり、一条

もどりはしに。こめやがしゆくにてさふらひ候か。かのこめやよ

り。あづまへくだりくわしやを。一人ことつかりて候。此の程たび

のつかれにや。風の心ちとさふらふ也。世はなさけにてかへ

 

 

3

ば。かんびやうしてたひ給へ。よきにいたはり給ふならは。明年

ののぼりには。御をんをほうじ候はんとて。つめよき馬に。こ

かね十両くりそへて。あるじのおとこに奉る。いとま申てくわじ

や殿とて。吉次も袖をしぼりつゝ。かどのほとりに出に

けり。いたはしや御ざうしは。そこ共しらぬふきあげに。たゞ一人

うちすて奉り。あづまをさしてぞkだりける。さる程に御

ざうしは。ふきあげにたゞひとり。うちすてられておはし

ます。そのゝちこのところのくせとして。しやけんかぎりもな

かりけり。かゝるきびやうをやむ人をは。一つ家にはかなふ

まじとて。なさけなくも。十両のこがねと馬をばうけ取て。は

るかのうしろのはまに。まつ六本ある中に。ほうき竹をはし

らとして。まつのはをとりおほひつゝ。あめかぜたまるへしとも

おぼえねども。あまのまこもをひきはへて。おけとひしやく

をとりそろへ。御ざうしを出しけるそ。あわれなる。さる程にふ

 

きあげのうら人共都よりあつまへ下るくわしやか。びやうをい

たはり。うしろのはあmに出されてさふらふか。しようとこま笛ひ

ちりき。やうでう四十一のふき物。こがねつくりの太刀と刀とも

ちたるくわじやかぶんとして。身のまはりに。六万貫はもちたる

らん。後はなにともあらばあれ。いざ/\ゆきて。かのたちかたな

を取て。しはしして。しはしこれにてたのしまんとて。うしろのはまへ

ゆきみれば。たちは廿ひろの大じやとげんじ。刀は小じやとなつ

て。ちかつくものをのまんとおつかゝる。是を見るものどもきもをけ

し。おめきさけんでにけけるが。其後こととふ人もなかりけり。

また/\とぶらふものとて。なぎさのちどりおきのかもめやふき

あげの。はまのまさごのをとづれわたる。風よりほかはおとも

せず。いたはしや御ざうし。いまをかぎりと見えしかば。かたじけなく

も。正八まんのよにもあわれとおほしめし。こきすみぞめの御

衣をめし。らうそうとけんじ給ひ。御ざうしのまくらかみに立

 

 

4

よらせ給ひて。さもかうしやうにおほせけるは。いかにくわじや殿。

なにをかいたはり給ふぞよ。いづくよりいづくへとをらせ給ふ人

に。かやうに申ものは。あづまより都一けんのために。まかりのぼるき

やくそう也。もしも都にしる人ましまさは。ことつてし給へ。ねん

ころにことづけてまいらせんとぞおほせける。いたはしや御ざう

うし。さもかすかなるいきのしたよりも。是は都よりあづまへ下

るくわじやなるか。かいびやうをいたはり。するがのかんはらたこ

のうら。吹あげといふ所に。あらぬさまにてさふらふか。今を

かぎりと見えたりと。三河の国。やはぎのしゆくの上るりごせ

むの御かたへ。くわしくとゞけてたび給へと。おほせける。げんしの

うち神正八まんは。此よしをきこしめし。たしかにとゞけ候はん。よ

きにやうじやうし給へ。いとま申てさらばとて。すみそめの御袖

しほりつゝ。ふきあげを立出給ひ。へんしが間に三河

国。やはきのしゆくにつき給ふ。長者のやかたに立より給

 

(挿絵)

くまのゝこんげん

にかうへんけ 給ふ

「れいぜい」

「上るり御せん」

 

 

5

ひて。ひろえんにこしをかけ。是はあづまのかたより。都一

見のために。まかりのぼりしそうに。御ちやしよまうとおほせ

ありて。かべにむかひて。ひとりごとをぞおほせける。あぢきなち

とよなむ三ぼう。むかしが今にいたるまて恋程つらき物は

なしゆへをいかにとたつぬるに。わかれのこひやらん。あはてうら

むるこひやらん。都より。あづまへくだるくわしやありけるか。いか

なる人を見そめてか。こひのやまふにふししづみ。するがのかんばら

たこのうら。吹あげといふところに。松のこかけをかこひつゝ。一日二日

とせしほとに。三七日になると。いきのしたより申せしが。はやむ

なしくぞなりつらん。なむ三ほうとぞおほせける。れんぜい此

よしうちきひて。いかにや御そうきこしめせ。其殿のとしはいく

つばかり。ふぜいはなにと見えて候やらん。御そうきこしめし。

せいちいさく。びんのかみすこしちゞみて。あくまで色しろくさふらひ

つる。さていしやうはなにとさふらふぞ。こがねづくりのたちと。

 

かたなをもたせ給ひて候か。とひ給へはたつね給ふありさますこ

しもたがはず。およそ百万ぎの大しやうといふとも。くるし

からずといひもあへず。かきけるやうにうせ給ふ。れんぜい此よ

し見たてまつり。いそぎ上るりのすみかにかへり。上るりごぜん

にかくと申せば。むねうちさはぎ。いつぞや吉次か下人にあひ

なれたりしとて。はゝのふけうをかうむりて。三百四十人の女房

をもそへられず。めのと一人ばかりをそへられ。長者のすみか

より。はるかのおくにしばのいほりをむすびつゝ。あらぬ

さまにておはしますか。此よしをきこしめし。いとゞおもひそ

まさりける。れんぜい此よしを見奉りて申されけるは。いかに

や君きこしめせ。是にてなげき給はんよりも。おくにきこ

ゆるするかの国。かんばらたこのうらとかやに。たづねてくだらせ

給へかし。もだへ給ふを見まいらするも。おなしくるしみ。わらはも御

とも申べしと申されけれは。上るりごせんは。なのめならずによろ

 

 

6

こび給ひて。いまだならはせ給はぬ。たびのすがたに御身をや

つし。くだり給ふぞあわれなり。いまをはじめのたびなれば。

御あしよりあゆるちに。みちの草ばもちしほにぞみ。なみ

にせきもりすへざれば。やはふぃのしゆくと吹あげの間。

をのこのたびには。五日ぢと申みちを。九日にこそつき給ふ。さ

る程にたごのうらに御つきありて。うらのものをちかつけて。

おほせけるはけかにさふらふうら人。都よりあづまへくだるく

わしやが。やまひをわづらひさづらふて。此うらにあるとさふらふ

は。いづらのほどにて候やん。をしへてたべとおほせける。あいさ

うなげにいさしらぬとわかり申ける。其後上るりごぜんは。十

二ひとへをあされたる。御小袖一かさね。みちゆき人にとらせた

まひて。かのゆくすえをとひ給へば。ひめ君の御すかたをつく/\

と見まいらせ。あらおそろしやこのはまへ。けしやうの物がき

 

たれるそと。あしをはやめてゆきけれは。吹あげのうらか人申

けるは。此うらのならひにて。ふじのたけより。年に一どづゝ。人をと

る。おとこか女をとらんとては。みめよきおとこかくたるなり。女人

かおつとをとらんとては。みめよき女人かくだりけるが。ことしも

なんしをとらふとて。たゞ今女かきたれるぞとて。うらのもの共

みな/\。とうざいへにけかくれて。一人もなかりけり。さて

しもあらぬ事ならねはたかきみねふかきた

にのさりぬへき所はなくうしろのはまよもしんこうに

ふれけれは。なんじのうち神。正八まんはよにもあわれとおほし

めし。十四五ばかりのとうしとげんじ給ひつゝ。うしろのはまへ

御出あり。上るりごぜんのありさまを御らんして。なみだを

おさへての給ひけるは。此はまへのうしろなる。松か六ほんおひ

たるもとにいだされて。いたりしか。はやむなしくや成つらん。む

らがらすのさわぎしか。きのふけふはいさしらず。いさらせ給へ

 

 

7

ひめ君と。上るり御せんの。御たもとをひかへてをしへ給ひしが

かきけすやうにうせ給ふ。上るり御せんは。夢さめて。いか

成神の御つげぞと。うれしさかきりなし。夜もほの/\とあけ

ければ。二人の人は立出て。うしろのはまの松ばらを。こゝや

かしことたづね給へば。いたはしや御ざうし。あらきはまへのしほ

風に。つかのごろくにふきあげたる。まさごのしたにうつもれ

て。すがたかたちも見え給はず。爰にまさごの中よりも、

こがねつくりの御はかせの、いしづきすこし見えたりけりる。上る

り是をたのみおぼしめしれんぜいとのとたゞ二人。かいで

のやう成御手にて。なく/\まさこをほり給へば。わらやこ

もの中よりも。おけとひしやくをほり出す。いよ/\是にちから

を行て。なを/\ほりて見給へは。さもあさましきすかた

成。御さうしを引出し給ひける。いつくしかりかる御すかた。しほめ

る花のごとくにて。見るになみだもとゝまらす。うつもれ

 

たるすなつちを。きぬのつまにて打はらひ。御ひざにかきのせ

奉り。天にあふぎちにふし。さうたうこんけん。みしまのさん

とう大明神。御あわれみをたれ給ひて。此とのをと一ど。よみが

へらせ給ふならば。やはきにもちたる七つのたからを。一つつゝた

び/\にまいらすべし。扨又こんぢのにしきの御とちやうお。六

十六おらせて。八しやくのがれおひ。三百三十三すぢ。五尺の

かつら三百卅かけ。八花がたのからのかゞみ三百卅三おもて。十二の

手箱をそへて参らすべし。まばのそや。百矢そろへて。いか

きをゆわせて参らすべし。こがねふくりのかたなにて。らんかん

わたして参らすべし。白かねの太刀つくり。百ふりそろへて。

鳥井を立てまいらすべし。うの花おどしのよろひ。卅三両?

方しろのかぶと。卅三はね。あけのいとにておどしたて。かみまき

てのむ方けをそろへて。卅三びき引かけてまいらすべしと。ふか

くきせいを申されければ。よじんもあわれとおほしめし

 

 

8(挿絵)

「天句一人来る所」

 

「ふきあけ六八十様」

「御さうし」

「れいせい」

上るり御せん」

 

 

9

いつくよりはしらねとも。十六人の山ふしのとをひ合給ひて。い

さ/\我行力の。くとくをあらはさんとて。さま/\にかし

給ふそふしぎなり。誠に御有様。見るにあわれはまさりけり

いかにや申さん都のとの。一夜のちぎりになれそめし。しや

うるりこれまで参りたり。いかなるちやうこうにてまし

ますとも。みつから是まてまいりたる。心ざしの程を

うけたまひて。今一とよみかへらせ給へと。むねにあてか

ほにあて。りうていこがれ給へども。そのかひさらになか

りけり。ひめ君あまりのかなしさに。しほみつにててう

つうかひをして。天にあふきねかはくは。日本ごく。六十六

かこくの。大小の御神。そのほかしよじんしよぶつ。あひみ

むなうかじうをたれ給ひて。このくにじやちやうこう

にてましますとも。いま一たび。へんしのほとなりとも

この世へかへしてたひ給へと。うんたんをくたきいのり給へ

 

ふしぎや。しよじんしぶつの御はからひにや。しやうるり

ごぜんの。こぼさせたまふ御なみだが。御さうしのくちのうち

にがなれ入て。ふらうふしのくすりとなり。すこし

いきいてさせたまひける。じやうるりあまりのうれしさに

これにたのみをかけ給ひて。なを/\しよ/\にしゆ

くくわんをたて。申されけり。さていづの国には。はこ

ねのごんげん。そのほか神々に。きせいをあまたかけ

給へは。まことにありがたや。ぶつしんの御めくみにてもとの

心ちに出きける。じやうるりあまりのうれしさに。れんせ

いどの。二人の中にとりこめて。なひつわらふつ此程の。心

づくしのありさまを。かたり給へは。御ざうしはゆめのさめ

たる心ちして。さもやつれたる御袖を。しぼらせ給ふそ

あわれなり。それよりも御くたりありけれは。その日も

ほとなくくれにける。こゝやかしこと立より給へとも。御やと

 

 

10

まいらする人そなし。その夜ははなへにきよきまさこをか

たしきて。千鳥かもめともろともに。ねをのみあらそひ

給ひけり。此うらのならひとて吹くるあらしはけしくて。なみ

とまさこを吹たてゝ。たかき所がたかくなり。さてこそ吹あ

けのうらとは申なり。いたはしやひめ君は。れんせいとのたゝ二人。十

二ひとへのつまをよせよせくるなみにぬらしつゝ。なみだと共

になきあかさせ給ひける。こゝろのうちこそあわれなれ

 第十二 御ざうしあつまくだり

是程に姫君は。御ざうしを引ぐして。はるかの奥にしばのい

ほりのそれとなく。けふりの立をしるへとて。立よらせた

まひて。一夜のやどをかり給ふ。内より八十ばかりのにこう一人

立出て。こはいかにひめごぜん。いつくよりいつくへとをらせ給ふそ

かく申みつからは廿(はたち)にあまる子を一人。此ほとせけんにはやる風

のやまふをわつらひ。むなしくむじやうの風にさそはれて。けふ

 

三七日に成候。たびは何かはくるしかるべき。いやしきしつかふせ

やにて候へども。こなたへ入せ給へとて。一夜のやどを奉る。上るり

御前はてを合て。是はまさしくはゝごぜんの。身つからを申うけさ

せ給ひたる。やくし如来のけじんかと。さき立物は涙也と。ひめ

君あまりのうれしさに。はだの御まもりより。こがねを一両取出

し。やどのにこうにたびけれは。にこうなのめによろこびて。いよ

/\かしつき奉れは。御さうしをば此やどに。廿日はかりかんびやうし

奉りて。よくにいたはり給ひければ。程なくもとの御すかたにな

らせ給ふそふしきなり。其程に御さうし。おほせけるは。さてもこ

のたひの御なさけ。たとへんかたも更になし。山ならはしゆみ

のいたゞきか。うみならばさうかいよりふかし。君になれま

いらせは。へんしか間もかなふましとは思へとも。君は是よりやはぎ

へ御かへりあれくわじやはあづまのをくへ下るべし。其程に御さうしは

上るり御前の御心ざし。あまりにせつなくおぼしめし。こゝにてな

 

 

11

のらばやと思へども。とやあらんかくやあらんと。ちたびもゝたび

心に心をうかゞひ給ふが。ちうにてやを引かへて。是は一(ひとへにみれん

しごくの我身かなと。もし世にもれ聞え。あとは何共なればな

れ。なのらばやとおぼしめし。さても我をはいかなるものとかお

ぼしめす。御心さしの有がたさに。思てなのり申なり。よしとも

には八なん。ときははらには三なん。うし若丸と申れしものにて

候か。七さいの年より。くらまの寺へのほり。たう光うにてくもん

し。此程かんふく仕り。けみやうは源の九郎。じつ名は義経とて。し

やうもん十五にまかり成。かねうり吉次を頼(たのみ。をくへ下り候也。もし

もながらへさふらはゞ。明年のけふのころ。からずまかりのほり

御めにかゝり候べしとて。御涙せきあへず。せめて物のかたみ

に。是を御しんせよとて。こんでいのくわんをんぎやうに。一首

の歌をあそばしそへ。上るり御ぜんにたてまつる

  ▲うつりがをめくりあふせのかたみにて

 

(挿絵)

「御さうし道行」

 

 

12

   君もわするなわれもわすれじ

上るり此よしきこしめし。涙のひまよりかゝはか

  ▲あふ事もわかるゝ事もゆめの世に

   かさねてつらき袖のうつり香

とかやうにあそばして。こがねのかうかひ取出し。御さうしにかす

/\是を奉る。あまりのかなしさに。あとへの道もさらに覚え

ず。みづからもいかなる野のすえ山のをくまでも。御供とこそ

したはれける。御さうしきこしめし。我らもさこそはそんじ候

へども。それ日本は。六十六か国。せめて六かなり共。けんじの

国にてもあらはこそ。六十六か国は。草木(さうもくまでも。平家にこ

そなびきて候へば。我抔かすみかは。ふるき都。岩のほら

かげとをき森の下こそ。露のやどりにて候へ。上るり此よ

しきこしめし。君のすみかとましまさは。れうとらのふす

野へ。くしらのよるしまなりとも。花の都にまさるへしと。あくか

 

給ふそあわれなり。御さうしはきこしめし。かくてはかなふ

ましとおほしめし。われは是よりをくへくだり。よしつねから

うとう。ひでひらをたのみて。十万ぎのせいをもよほし。かれこれ

をたなひき。みやこへせめてのほり。おごるへいけを。事ゆへ

なく。おもひのまゝについたうし。またこそたいめん申へし。や

どのにこうも。此ほとのなさけのほどこそうれしけれ。いかにひ

め君聞給へ。日本ごくを我まゝにきりしたがへて。そのゝちやはぎ

のしゆくにましますとも。又は都へうつすとも。やはきのしゆくに。

六まんくわんのしよりやうをば。君にまいらせ申べし。御なごり

はいつまでもおなしことにて候へは。いとま申てさらはとて。なごりの

たもとを心ならずもひきはなち。あたごひらのゝ大てんぐ。せに

天ぐかまねくと見えしが。ほどもなくひざままぢかくちかつけて。

ことこまやかにおほせけるは。いかにめん/\きゝ給へ。この一人の女

ばうを。やはきのしゆくへ。なんもなくをくりとゝけてたひ

 

 

13

給へ。みづからは是より。あふしうさしてくだるなり。ひとへにたのむ

とありければ。大てんぐせう天ぐうけたまはりしおもむき。

やすきほどの御事にてさふらふとて。やす/\とりやうじ

やうじ。やがてじやうるりごぜんをは。大てんぐのはがいにのけ。れ

んぜいのつぼねをは。せう天ぐのはがいにのせ。九日のそのみ

ちを。くるしみ給ひみちすから。へんしか間に。やはきのし

ゆく。ちやうじやのほとりにつき給ふ。ふしきなりける次第也。か

くて御ざうしは。ふきあげを御立有て。あしから山にさしかゝり。

いづはさうたうごんげん。みしま三とう大明神。心しづかにふしお

がみ。大いそこいそまり小河。わかまつおひまつさがり松。かたせ川

をうちわたり。すみだ川をばえん所とて。おふぎのまつばらにさ

しかゝり。はなはさかねとさくらがわ。身にはきね共衣川。おほ

のめい所を打過て。あふ州に聞たる。いわひの郡(こほり。ひだひらがたちに付

給ふ。御ざうしの心の内かんぜんものこそなかりけれ