仮想空間

趣味の変体仮名

新吉原の事 咄の絵有多

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1242667

 

f:id:tiiibikuro:20170509143428j:plain

10
新吉原の事
爰に明暦二年申
の十月元吉原ばしよ
がへの事こうめいあり
代地として今の
新吉原をたまはる
元吉原町に五わり
ましのつもりにて
二町に三丁のばしよ
を下されしなり
又今まではひる
ミセばかりなり
しをしこんいご
ちうやミセをめん
きよせらるそのうへ
ひきりやうとして金
壱万五百両くださる
此とき本やうじくわじにて
元吉原もるいしやうしければ
日本づゝみへ引うつる事
えんいんする その間三や
とりこへ今戸へんの百せうやをかりてせみばいす

 

ここに明暦二年申の十月、吉原場所替えの事公命あり。
代地として今の新吉原を賜る。元吉原の五割増しのつもりにて
二町に三丁の場所を下されしなり。又、今までは昼店ばかり
なりしを施行以後昼夜店を免許せらる。その上引料として金
壱万五百両下さる。この時、本妙寺火事にて元吉原も類焼しければ
日本堤へ引き移る事延引する。その間「山谷、鳥越、今戸」辺の
百姓家を借りて専売す。

 

 

f:id:tiiibikuro:20170509143443j:plain

これをさんやかよひといひし也 同三年
酉の八月ふしん出来て新吉原の
ミセをひらく元和三吉原かいほつより
安永九子の年まで百六十四年
におよぶむかしは女郎きやくをまつために
中の町へしやうぎをなをしこしをかけて
ゐしゆへまち合のつぢといひし也とそ今はなし
春きやうげんの二ばんめに
のみそのかたのこれり
又新吉原に井どなかり
しを紀文大じんといつ人
はじめて井戸をほらする
そのときうきとして
金銀をますにはかり
まきちらすこそ今に
いいつたふ さて大門口
にはし/\ばいぢよ御
きんぜいの御高札
あり これは元吉原
大門口にも
ありしとぞ

 

 これを「山谷通い」と言いし也。同三年酉の八月、普請出来て新吉原の
店を開く。元和三吉原開発より、安永九子の年まで、百六十四年に及ぶ。
昔は女郎、客を待つために中の町へ床几を直し腰を掛けて居し故、待合いの辻
と言いし也とぞ今は無し。春狂言の二番目にのみその型残れり。
又、新吉原に井戸無かりしを、紀文大尽という人、初めて井戸を掘らする。
その時祝儀として金銀を升に量り、撒き散らすとぞ今に言い伝う。
さて大門口に端々売女御禁制の御高札あり。これは元吉原大門口にもありしとぞ。

 

 

f:id:tiiibikuro:20170509143458j:plain