仮想空間

趣味の変体仮名

謡 関寺小町

 

 http://www.nipponbunraku.com/performance/performance05.html

 

義太夫が見つからないので代わりに謡を。

見慣れぬ筆跡に悪戦苦闘。が、うんざりしつつも

頑張って4,5ページも読み進むと大分慣れてくる。

始めのうちはあんちょこを見てズルをしてでも

簡単に諦めるべからず。あんちょこ寧ろ効率的。

 

 

 関寺小町

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1288032
参考にした本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1288111
あんちょこ http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/923022


2
待得ていまそ秋にあふ/\ 星の
まつりをいそかむ 是は江州
関寺の住僧にて候 けふは七月
七日にて候ほとに みな/\講堂
の庭に出てたなはたの祭をとり
をこなひ候 又此山陰に老女の
庵をむすひて候か 歌道をきはめ


3
たるよし申候程におさなき人々を
ともなひ申 彼老女の物語をも
承りはやと存候 さつ/\なる
涼風と哀鬢と 一時に来るはつ
あさの七日のゆふへに早なりぬ
けふ織姫の手向とて 糸竹呂律
のいろ/\に ことを尽して

敷島の 道をねかひの糸はへて/\
織やにしきのはた薄華をも
そへて秋草の露の玉ことかき
ならす 松風までも折からの
手向にかなしふゆふへかな/\
あしたに一鉢を得され共来るに
あたはす 草衣夕のはたへをかくさ


4
されともをきぬふにたよりあり
花は雨の過るによつて紅いま
さにおいたり 柳は風にあさむ
かれてみとりやうやくたれり 人
更に若き事なし 終には老の
鶯の もゝ囀りの春はくれとも
むかしに帰る秋はなし 荒こし

かた恋しや/\ いかに老女に
申へき事の候 是は関寺に
すむ者にて候 此寺の児達歌を
御稽古にて候か 老女の御事を
聞及ひ給ひ 歌をよむへき様をも
とひ申 又御物語をもうけたまは
らむ為に 児たちも是迄御いて


5
にて候 思ひもよらぬ事を承
候物かな 埋木の人しれぬ事と
なり 花すゝきほに出すへきに
しもあらす 心をたねとして
言葉の花色香にそまは なとか
其ふうを得さらん やさしくも
おさなき人/\の御心にすき給ふ

物かな まつ/\あまねく人の
翫ひ候は 難波津の歌をもつて
手ならふ人の始にもすへきよし
聞し候よなふ 夫歌は神代より
はしまれとも 文字のかすさたま
らすして ことの心わきかたかり
けらし と人のよと成て めてたかりし


6
よつきをよ見おさめし詠歌な
れはとて 難波津の歌をみて
あそぎ候 また浅香山の歌は
大君の御こゝろ(?)をやhられし故に
是又めてたき詠歌よなふ けに
よく心得給ひたり 此ふた歌を
父母として 手習ふ人の初と

なりて 高きいやしき人をも
わかす 都鄙遠国のひな人や
我らこときのそしむまても
すける心に あふみのうみの
さゝ浪やはまの真砂はつくる共
濱の真砂はつくるとも よむこと
の葉はよも尽し 青柳の糸絶す


7
松の葉のちりうせぬ たねは心と
おほしめせ たとひ時うつりことさ
るとも 此歌の文字あらば鳥の
跡もつきせしや/\ 有難ふ候
ふるき歌人の言葉多しといへとも
女の歌はまれなるに 老女の御事
ためしすくなふしに候へ 我せこが

くへきよひなりさゝかにの 蜘も
ふるまひ兼てしるしも 是は女の
歌候か 是は古衣通姫の御歌也
衣通姫とはいむけう天皇の后
にてまします かたのことく我
らも其流をこそ学ひ候へ
扨は衣通姫の流をまなひ給ふかや


8
近年聞えたる小野小町こそ 衣
通姫の流とは承はれ わひぬれは
身をうき草の根をたえて さそふ
水あらはいなむとす思ふ 是は
小町の歌候な 是は大江の惟明か
心かはりせしほとに 世界物うか
りしに 文屋の康秀か三河守に

成てくたりし時 田舎にて心
をもなくさめよかしと我をさそひ
し程によ見しうた也 忘れて
年を経し物を きけは涙のふる
事の又又思はるゝかなしさよ
ふしきやなわひぬれはの歌は わが
よみたりしと承り 又衣通姫


9
流と聞しつるも小町なり 実年
月をかむかうふるに 老女はもゝに
及ふといへは 例小町のなからふる
とも いまた此世に有へきなれは
今は疑ふ所もなく 御身は小町の
はてそとよ さのみなつゝみ給ひそ
とよ いや小町とははつかしや いろ

見えてとこそよみしものを
うつろふ物は世中の人のこゝろ
花やみゆる はつかしやわひぬれは
身を浮草の根をたらて さそふ
水あらはいまもいなむとそ思ふ
はつかしや 実やつゝめとも袖に
たまらぬしら玉は 人をみぬめの


10
涙の雨 ふることのみを思い草の
花しほれたる身のはてまて何
しら露の名残ならん 思いつゝ
ぬれはや人の見えつらんと よ見
しも今は身のうへに なからへき
ぬる年月を 送りむかへてはる
秋の 露往霜来て草葉変し

むしの音もかれたり 生命
既にかきりとなつてたゝ 瑾花
一日の栄におなし 有はなく
なきは数そふ世中に あはれいつ
れの 日まて嘆かむと詠せし
事も我なから いつまて草の
花散し葉おちても残けるは


11
露の命成けるそ 恋しの昔や
しのはしのいにしへの身やと思い
し時たにも又ふる事になり
行身の せめていまは又はしめの
老にこひしき 哀実いにしへは
壱夜とまりし宿まても たい
まいをかさり かきに金花をかけ

とには水精をつらねつゝ 鸞輿属車
の玉衣の色をかさりて敷妙の
枕つく つまやのうちにしては 花
のにしきのしとねのおきふし
成し身なれとも 今ははにふの
こや玉をしきし床ならむ
関寺の金のこえ 諸行無常


12
聞なれ共 老耳にはやくもなし
逢坂の山風の是生滅法のこと
はりをも得はこそ 飛花落葉の
おり/\は すける道とて草の
戸に硯をならしつゝ筆をそめて
もしほ草 かくやことの葉かれ
かれにあはれなるやうにてつよ

からすつよからぬは媼の歌なれは
いとゝしく老の身のよはりゆく果そ
かなしき いかに申候 織姫の祭遅
はり候 老女をも伴ひ御申候へ いかに
老女 たなはたのまつりを御出有て
御覧候へ いや/\老女か事は
はゝかりにて候程に思いもよらす候


13
何のくるしう候へき 唯/\御出候へ
とよ 七夕の織糸竹の手向草
いくとしへてかかけろふの をのゝ
小町の百年に及ふやあまつ星
あひの雲の上人になれ/\し
袖もいまはあさ衣のあさましや
いたはしや めもあてられぬ有様

とても今宵はたなはたの/\
手向のかすも色/\の あるひは
糸竹にかれてめくらすさかつきの
雪をうけたる 童舞のうてそ
おもしろき ほしまつるなり呉竹の
よゝをへてすむ行末の いく久し
さそ萬歳楽 荒面白のたゝ今の


14
まひの袖やな 昔豊のあかりの
五郎のまひ姫の袖こそ五度返
ししか 是は七夕の手向の袖
ならは七返しにてやあるへき
狂人はしれは不狂人も走ると
かや 今の童舞の袖にたかれて
狂人こそはしり候へ 百年は

百年は 花にやとりし胡蝶の舞
あはれなり/\老木の花の枝
さす袖も年忘れ もすそもあし
よはく たゝよふ波の 立舞
袂とはひるかへすとも 昔に返す
そてはあらはこそ 荒恋しの
いにしへやな さる程にはつ秋の


15
みしか夜はや明かたの 関寺の
かね 鳥もしきりに つれわ
たる東雲の あさまにもならは
はつしのもりの/\木かくれも
よもあらし いとま申て帰るとて
杖にすかりてよろ/\と もとの
わら屋にかへりけり 百年の

姥ときこえしは小町か果の
名なりけり/\