仮想空間

趣味の変体仮名

豆腐百珍附録

 

読んだ本  http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536546

 


47 左頁

豆腐百珍附録

壱   風流芋章魚(たこ)豆腐斟羹(しる) 三物(しな)とうふ中賽に
    きり先ず芋と蛸と二物を小豆とひとつ
    によく煮て小豆をあらひ去り沸(にたゝち)たる味噌汁
    へ入る後に豆腐を入るべし○花がつほ 白葱
    青唐辛子のざく/\゛をおく○器は葎(むぐら)椀などを
    用ゆべし

二   賽淡?(なつとうもどき) 青菽(まめ)をよくすり味噌にすり合せ


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    さて青菜の微塵たゝきに豆腐の一分賽○
    柚子の皮のみぢん刻みに芥子(からし)
    △だし味噌汁にとうふの一分賽と青菜の
    みぢんと等分に入れおとし芥子にするを
    蘇迷盧山斟羹(しゆみせんじる)といふ

三   鯉魚濃醤(こいのこくしやう) とうふ大賽にきり初めよりつゝぎ
    りの鯉魚と同じく煮る是豆腐の煮加減に
    かまはず鯉魚の煮加減を主とす紅山椒をく○
    鰡を右の調味にする亦佳し

四   能登擦豆腐 能登田鶴浜といふ地の名産也
    畢竟三都にては石臼にてひくものを彼の地にて
    すり鉢にてすり豆腐を少しつゝ製するゆへに
    細味(さいみ)にて尤も佳なり

五   麻乳(ごまどうふ) しろ胡麻をよくすり木綿袋に入れ水濾し
    にし上品の葛粉を解きて和せ水を去りて方な
    る器に入れ漸凝るを蒸す水に浸けをくなり
    尤葛粉一升に胡麻五合あまりの分量なり


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    ○油をよく煮たたせしぼり生姜を入れ麻腐中賽
    にきれてさつと揚くる也酒しほ用るはあしゝ(?)
    そのうへ調味好み随なり

六   西洋腐衣(なんばんゆば) ?胡桃こまかに刻み饂飩粉に塗せ
    筒腐衣(まきゆば)の中へよくつめ醤油にて煮染めこぐち
    切にす

七   広東斟羹(かんとうしる) 卵をすりまぜたる味噌しる
    を沸し雪花菜(とうふのから)の油揚を入る也

八   あはせ?(もち) 三寸強(あまり)の円?を串にさし炙りて串
    ながら二つ合せ其間へ味噌の焼き豆腐をはさみた
    るなり祇園二軒茶屋の名産なり五十年前
    まで常に出だせしなり今は毎年六月朔日に
    節物として製し出だす

九   呉州斟羹(ごすじる) 丹後の金太郎鰯を焼きて尾とか
    しらをさりつぶぎりにし白葱のつぶ切とを
    入れ腐滓(とうふのから)の味噌しるにす


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十   ノリマキラズシ 海苔巻腐滓鮓(のりまききらずすし)といふこと也
    浅草海苔に酢を少しうち常ののりま
    き鮓の如くして飯の代りに卯の花を用い
    る也 卵つなぎに入れ 胡麻油 酒しほ 醤油
    にて味つけ むしり鯛 木耳 栗の
    はり 山椒の粉

十一  湯葉の白あへ ゆば細くきり芥子(けしの実)味噌に
    藤津をすり和せ白あへにす 

十二  水仙あへ 白葱をよく茹でてけしの実胡麻みそと
    豆腐にて白あへにし山椒の粉ふる

十三  白あへ 魚肉なにゝても大賽にきり塩湯
    にて煮て汁をさり しろ胡麻すり味噌   
    六分にとうふ四分よくすり和はすをあへる也

十四  菜饅頭 銀杏 麩 皮牛蒡 慈姑
    揚豆腐 椎茸 皆一分賽にきり青菜を


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    微塵に刻み七品(いろ)合せて一升ばかりに油七八勺
    の分量にて油よく沸せ先ず銀杏 かわ牛蒡
    青菜を炒つけ次に椎茸 麩 くわい
    あげ豆腐を入れ炒りつけ 醤油にて味つけ
    放冷をき○小麦の塵(こ)をよく捏ねて酒しほ少
    し加へずいぶん薄くうつ酒しほ加へるにてう
    すくのびる也さて二寸三四分のまるにきり
    あみ笠の形(餃子のように半分に折る図)にをり加料(かやく)を包み指に水を
    つけて合せくちをなでをき蒸す也○前編
    「七十七」に見へたるケンチエン酢にて用ゆ

十五  片食(へんしい) 加料も製も右のさいまんじうの如くし
    茶巾饅頭の如く(中華まんのような図)包み縫口(あわせくち)を右の如く指に
    水をつけてなでおさへとめ醤油にて煮る也
      いかにせんこしきに蒸せるまんぢうの
      おもひふくれて人のこひしき
      菜(さい)まんぢうによせて恋のこゝろをよめり

十六  腐衣鱠(ゆばなます) 腐衣を醤油にて煮染めて後油にて
    揚げ細ぎりにし○大根をおろし汁をしぼり


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    其汁にいかにも嚴醋(きぶいす・強い酢)を等分に和せ○大根の
    しぼりみの方に刻み湯葉を混ぜ活けもりにし
    て右のあはせ酢を底へためる也 生姜のはりき
    ざみ見あはせいをく

十七  落葉から 卯の花 鰹節の細末等分に山
    椒の粉 胡麻油少し加へ醤油の加減常の如く
    麩別に味つけ入きり飯の木型に容れお
    し出す好下物(かうかぶつ・よきさかな)なり

十八  巾着とうふ 茄子の裏を刳りぬきすり豆
    腐に前編「十九」ひりやうづの加料の中をみはから
    ひ二三品に味つけて入れくちをとぢ油にて
    揚げ薄醤油酒しほ少しにて煮る

十九  泥鰌(どじやう)汁 わり白葱にても白髪牛蒡にて
    もあしらひに揚げ豆腐の細きりを入る味美(あぢはひび)也

二十  無名一種の羹(にもの) 鯛の切り身 焼き豆腐 松露

 


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    だし汁 薄醤油の煮加減よくし柚子の皮のはりき
    りをふつさりとおく

廿一  無名一種の汁 たれ味噌醤油にてすまし
    汁にし?(?くき)の葉の微塵刻みに揚豆腐のせん

廿二  鮓煮 大平鍋に卯の花をあつさ六七分にし
    き生鰯一ぺんならべしき復(また)同じく卯の花をし
    きいわしをならべかくの如く四五層もして真中
    へ穴を穿け其穴へ醤油のひた/\に入れ酒をさ

    し煮る

廿三  デンボウ煮 素豆腐 卵 いわたけ 鴨
    混(ごちやまぜ)にうちこみ醤油のかげんし デンボウやき
    にす すり山椒

廿四  無名一品下物 新凍豆腐を薄醤油酒しほにて
    あつさりと煮てひた/\汁温かなるに花鰹
    たつぷりとかけ山葵の針置く
    ○新凍とは去年の寒中に製したるを三四月


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    ごろまで用るをいふ 凍りとうふは前編「十二」に
    見へたり

廿五  小紅魚(小鯛)うろこふきよくあらひ腹へ卯の花
    にあちつけたるをよくつめ蒸す おろし生姜をく

廿六  浅茅鯛 一夜塩の鯛をよきほどに切りて
    よく蒸したるを油炒りの卯の花に塗し山椒の
    粉振る

廿七  粉とうふ 大豆をはたきよくふるひ捏ねて棒の
    形にし小口ぎりにす○寒郷僻地(かたいなか)とうふなき
    ところにて元日の節物とうふの代りに雑煮
    餅に加へ用ゆ 名によりてこゝに出だして
    博物好事の一つに備ふ

廿八  賽菽乳(とうふもどき) 青菽(豆)の粉にうどん粉七分三分に和ぜ合
    せ煮え湯にて捏ねうどんの如くうちて切り ふ
    たあは(泡?)茹でて笊へあげうどんとうふ製(したて)なり


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廿九  鮫とうふ 豆腐よく水をしぼり葛粉を入れよ
    くすり油醤油にてさつといりつける前編「十」雷
    とうふの如くす○さて別に又茄子を油いり
    出し常の如くして右のいり豆腐を上へぱらり
    とかくる 尤も両方とも熱きを用ゆ○白葱の
    ざく/\゛唐辛子のコナおろし大根をく

三十  大玳琩環(おおちくわとうふ) 小中のちくわとうふは世に多くなす
    ところなれども一丁全(まる)の大ちくわは常の製
    にてはやかれぬなり○一丁を羅紗をさり角

    とりて○(円筒形の図)棒の形になし真中へまるき木
    のしんをさし烙鍋にて転(こかし)焼にす 調味好み
    に随うふ「八十四」とうふ此製を用ひて中に
    孔を通さぬなり

卅一  一品のふろふき 天王寺蕪を和らかにいかに
    もよく/\蒸して其かけあんに繊(ほそ)ぎり豆腐の
    葛煮にしたるをざぶりとかけ すり山椒をく也
    尤も豆腐は醤油の葛煮なり器をあたゝめをく
    也 楽陶(らくやき)のふた茶碗などよろし


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卅二  太刀魚の焼肉 大太刀魚を三片におろし肉の方
    を薄塩あて 生の雪花菜(きらず)に少し塩をまぜ合
    せ右の肉を鮓につけ重石をよくかけ一夜ほど
    をきてとり出し雪花菜(から)を払はずそれな
    がら焼くなり 質素の清味(せいみ)なり

卅三  狸汁 蒟蒻をつぶ/\にむしり胡麻油に
    て揚げこれを実にしてよくすりたる卯の花
    の味噌汁なり

卅四  待兼雪花菜(まちかねから) 豆腐を其まゝにsて味噌桶の
    底へつめ唐辛子を全ながら数みあはせに入れを
    き上層の味噌を平常に漸々(ぜん/\)つかひおはるまで
    をくなり 味噌つきて底にいたり雪花を取いだ
    して初めの唐辛子の外に山椒 榧子 麻子 油麻 陳皮
    の末(こ)などみはからひに加料(かやく)を用ゆ 好下酒(よきさかな)也

卅五  初霜 鴈にても鴨にても鳥の吸物に芹にても
    水菜にても青料(あをみ)をあしらひよどふたる上へ


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    卯の花を焙(ほいろ)にかけ薬研にていかにもよく細末
    したるをぱらりとまく也 尤もきへぬうちに
    手ばやく出だすべし

卅六  甘露とうふ 凍とうふの最も製のよろしき
    をよく水に浸け氷はたきの砂糖にてよく煮
    るなり塩味を用ひず小寧良茶碗にて吸物
    にす○別に下物(さかの)とり会せに至つて辛きも
    のと至つて巌酢(きぶいす)の物を何にても見あはせにあ
    しらふ也 酒家の頤を解く佳趣なり

卅七  うづみ蒲焼 鰻のかばやき其他の焼肉(やきもの)にて
    も卯の花を尋常の如く油炒りにしその
    暖なるに焼たてを肉かくれるほどによくうづ
    み手ばやく取あつかひ器の蓋をよくしめて
    をくなり 是は久しく置ても冷めぬといふ趣
    向也 或は遠く持ちあるき又は人に贈るなど
    最も佳 調味は附録「廿六」浅茅紅魚などの趣向に
    同じく最美し ○卵の煮ぬきたてを全
    ながら右の如く卯の花にうづむ亦おもしろし


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卅八  太平でんがく 一間方の大火鉢をこしらへ炭火を
    一はいに焔々とおこし田楽串の尾(しり)を尖し
    味噌をでんがくにぬり新しき畳を四でう
    用意し其うちに密(ひ)とでんがくをつき刺 大
    火鉢のぐるりへたてるなり 尤も田楽は火より
    二尺四五寸上にあるやうに刺すなり 萬民腹を
    鼓して楽しみにかくいろ/\の趣向をな
    して飲食も治る御代のためしなるべし
    萬歳々々萬々歳

      田楽の箭さけひ高し御代の春 (串避け火高し?)


59 (58と重複)