仮想空間

趣味の変体仮名

伊達娘恋緋鹿子(一の巻)

 

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                   イ14-00002-513

 


2(左頁)


 起請方便品
 書置寿貴品 伊達娘恋緋鹿子 (一の巻)
神は人の敬ふに威を白詞(ます)鏡 洛陽吉田の御社(やしろ)
神前 清むる宮奴(みやつこ)が箒取々はき掃除 休みがてらに寄り
集り 今日は近江の国守高嶋殿+の惣領 左門之介と
いふわろが 家の重宝天国(あまくに)の釼とやらを禁裏様への献
上 請取の役人は検非違使達がわせるげな 御勅使も
同然随分麁相のない様に 掃除も念を入れいとの云付


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一休み休んだら神楽から鳥居の間 目先が肝心合点か
と ちや/\くちや喋る宮雀 打連れ皆々急ぎ行 公の命に
依て 近江の国守高嶋の御嫡子同苗左門之助 釼の御箱
携へて傅(めのと)安森源次兵衛 続ひて星塚軍右衛門 社参の
しらせに神職求馬 礼儀正敷出向くへば門之助も違義改
め 神職にも存のごとく 家の重宝天国の名剣 禁庭より
御所望有は家名の誉れ 親左京の太夫持参の処(ところ)所労に

よつて某名代の上京 武家に所持せし此御釼(みつるぎ)不浄を払ふ清め
の祓ひ 幸今日吉日良辰(りやうしん)苦労ながら頼み入るとさも鷹揚
なる大名風 求馬は袂かき合せ 君命とは申ながら遠途(とふど)の所御苦労
千万 検非違使の入来も追付け 早く釼を神前へと 差図に頓て
源次兵衛 釼の箱を社檀に直し御苦労ながら木綿襷(ゆふだすき)かけて清め
の太祝詞(ふどのりと)無性神神道加持 三元三行三妙の祓ひに時ぞ移り
ける 折もこそ有れ遠見の侍 御注進と土に手をつき 御剱(おけん)請取り


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の御役人 荒神(くはうじん)口迄御出なりと 知らせを聞より軍右衛門 大切成禁裏
の御使い 下(した)々任せには致されまひ 御迎ひの為安森殿 神職諸共御大
義ながら いかにも/\承はる イザ同道と源次兵衛 神職求馬打連れて 荒
神口へと急ぎ行 跡見送つて軍右衛門 まんまと??(???けむし)は払ひ退た 若殿も
此間は窮屈なお顔持 胸中を取て居る 鼻が忠義をお目にかけふと 相図
の手拍子二つ三つ賽(かへりもう)しの拍手(かしわで)か 松の位と嶋原に名も全盛の花園
が 引舩禿打連れて 小かげを出る取形(とりなり)も 小巾帽子で里の風(ふう)やつして

見ても何所やらに 燭手(はで)な所体は見へにけり 思ひがけなき左門之助 ヤア
太夫じやないか 大切な此場所へ山行きか 何ぞの様にあいら迄を引連れて びら
りしやらりと嗜みや/\ ヲゝよい手な事おかしやんせ お国にござる時でさへ
月の内に三度(ど)と四度(たび)通はしやんすさへ待ち遠なに 跡の月から来て居ながら
顔見せさんしたはたつた一度 文の便りもなつかしさ けふは吉田へござんす程に 直々
に来て 恨みをいへと軍様からしらせの此文 雁金ならで秋風か 女?(たら)しの
胴欲な むごい心と素人より遥か勝りし恨み泣 こりや花主(す)のがみな尤


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そこらをぐつと突込で 随分恨みを云ふなら今じや/\ 又若殿も若殿じや
て 此間から廓へござれ ヤレござれと勧めても アゝ色事に不精な/\ハテそち迄が同し
やうに 太夫も恨は尤なれどおれに何の如在が有ふ 行たいは山々なれど堅造(かたぞふ)の
源次兵衛 古文真宝云だして 十蔵役にこまり入た 此度の上京も 禁庭
の御用より第一はそなたに逢たさ モウ能かげんに堪忍しや けふの役目仕廻ふ
たら 晩に必違ひなふナア軍右衛門 成程/\ コレサ太夫殿 若旦那がきつい誤り
やう モウ堪忍してやらつしやれ けふの首尾内証でしらせにやる軍右衛門 呑込だ

お供する そんなら晩に違ひなふ 連れまして来て下さんせへ ハテ是は御念もじ シタガ
是では何所やらが すげないかでござります 晩の手附をツイちよつと そゝり上たる軍
右衛門 岩木ならねば左門之助 あつたら首尾をと引寄て抱合ふたる袖屏風 好いた
中とは見へにけり 折からかけくる当社の宮仕 禁庭の御役人追付是へ モウそこ
へと 云捨行けば左門之助 軍右衛門も狼狽(うろたへ)眼 廓の者共早ふ逝ね 太夫も早ふとせき
立 左門 気も気ならねば花園も 心残れど是非もなく別れて帰る其跡は
御出迎ひと主従二人鳥居の方へ打連れ行 風がもてくる神楽の笛のひしぎ


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も さへ渡る 鼓の調べ太鼓の音いとしん/\たる折こそ有れ 人影なきを幸いと うそ
/\来る以前の宮仕 傍り見廻し/\て社檀に捧げし釼の箱 手早に取出す
棒鞘の暴悪不敵の昼頓絨(とんび)腰に用意の贋物とすりかへ箱のあつた
ふた 元の所に直し置き仕すましたりと一人笑み 行方知らず成にける 早入来る検
非違使の役がら重き渡邉隼人(はいと)相役鳴嶋(なるしま)勘解由(かげゆ)諸共しづ/\ 入来る社
の方 末座(ばつざ)に下つて左門之助 挨拶終れば渡邉隼人 誠に此度禁庭より
據(よんどころ)なき釼の御所望 早速領掌せられし段 上にも叡慮麗しく 恩賞の義は

追ての御沙汰 先々御釼受取らんと 詞にハツト左門之助 神前に捧げたる釼
の御箱恭しく 両使の前に慎で 先祖より伝はりし天国の名剣 御所望
は家の大慶 此上ながら禁庭宜敷 奏問願ひ奉ると 主従頭をさげに
ける 鳴嶋勘解由しや/\り出 大切の釼なれば念の為に今一応改めて受け
取り申すと 手洗(てうず)鉢にさしかゝりさら/\/\と清めの手水 蓋押明けて取出す棒鞘
半ば見るより仰天顔 ナニ左門之助殿 天国の釼終に拝見は致さねど こりやコレ
子供が見ても知れた奈良打ち しかも錆腐つた生くら物を突付けて 禁


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庭を軽(かろ)しめるのか 但し又我々を仕くぢらす貴殿の思案か 高嶋の家の
重宝 ハテ結構な炭かきとあく迄嘲弄 不審(いぶかし)ながら立寄て件の釼 一目
見るよりこりや贋物 はつと斗に呆れる左門 コハ何故と源次兵衛 供に立寄り
見て恟り 主従吐息つく斗 軍右衛門もけでん顔 サア/\/\一大事が發(おこ)つて来た 国
元出立の砌 宝蔵から出すや否や若殿と源次兵衛両人の外傍邊りへ余人は
寄らぬ此釼 どうみやくとかはつたは 不思議といはふか奇妙と云ふか 是といふも若殿
の放埓から發つた事さ 此京へござつてから 傾城といふ狐が付て 屋敷に水

もつく様に毎日の嶋原通ひ 留守中の預り人は源次兵衛殿 否応ならぬ
其身の科 扨々笑止千万と口に針持つ蝮(はめ・ハミ)侍 始終聞居る渡邉隼人 気の
毒余り挨拶も 差し抑ゆれば頭に乗る勘解由 今に成て当惑顔 左門之介殿
置かれい/\ 此度の御用は付けたり 花園といふ契情(けいせい)に鼻毛を延し 国元からさへ
こつそ/\通はるゝ事聞て居る 殊に以て先月から京着の事なれば 夜昼なし
の居つゞけ 悪遣ひの鐺が詰り 献上の天国を質に置たか売払ふたか 勘解
由が推量違ひはせまひ ハテ結構な馬鹿侍 フゝハゝゝゝ と苦笑ひ 首だけ


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惚た花園が 恋路の意趣を持かける 底工みとぞ知られける 左門之助ぐつ
とせき上げ公の御使と胸を擦つて了簡すれば 余りの過言と忍びの
柄 ヤレ短慮と源次兵衛 イヤ/\放せも若気の一図 軍右衛門が思ふつぼ
勘解由は猶もえせ笑ひ ハテぴこ/\とあぢやるよ 今いあふたが無念なら 誠の
釼受取ふか サア夫レは 但し釼の盗賊行衛ばし知れて有るが サア/\/\ /\/\/\ どふじやと詰かけ
られ 身の誤りに返答も涙より外なかりしが 最(もふ)是迄と御差添 自害と
見ゆれば縋り付き エゝお情ない若殿様 釼預る源次兵衛 紛失せしは拙者が

誤り 家来を庇ふ御生害 お情返つてお怖(うら)めしい 不調法の申訳御両所の御
前にて 此皺腹と刀の鯉口 抜く手をとゞむる左門之助 死を争ふたる
主従の心を感じて渡邉隼人先待たれよと留むるを打消し なぜ留さつしやる
隼人殿 ヶ程の科有る彼等主従 生け置いては使いに立た 其元拙者も不調
法と 支へるを耳にもかけず ヤア両人共血迷はれしか 狼狽てこりや犬死か
アツア仰ではござれ共 大切の御釼失ひし申訳 イゝヤそりや麁忽/\ 御邊
達が切腹すれば御釼が爰へ出るか 両人共腹切て どの命で詮議お仕やる


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但し命にかけがへ有か 何と/\と情の詞 ハツト斗に主従は誤り入より外ぞなき
ヤア科極りし両人を 助けたがらるゝ隼人殿何とやら呑込まぬ 上様より御所望有る
大切の釼を盗まれ そんならよいはで済まされふか 切腹せずば獄屋へ打込み
拷問して釼の行き端 白状さした其上で磔か獄門か 夫レからは恵方果報 
ヤア/\勘解由が家来共 両人に縄ぶてと 云せも果ず ハテ麁忽也勘解
由殿 高嶋の家の重宝 譜代外様の家来にも拝見叶はぬ彼の釼 他見
にかけぬ焼刃金色 寸尺鎬(しのぎ)の作り迄能存じたる左門之助 禁牢させ

た其上で 死罪に逢はば何者が 釼の詮議仕るな サア其義は ハゝゝゝ 釼見
知た者がなければ 鼻の先に盗賊が徘徊してもいつかな知れまい 其元にも最
前より 左門之助が放埓沙汰そりや此方に構はぬ詮議 主人の難儀を
引請る 頼母しい家来も有れば 主の身持の讒言ざゝら 觸(ふれ)廻る事ふれ武士
も有りイヤハヤ世界は様々 左門之助が廓通じょ 契情の名迄つど/\に 能御存は
貴殿にも 御法席(はつせき)の曲輪遊びなされた様に存じらるゝ 他家の詮議より
相役の 詮議から仕らふかな アゝ是さ/\ 今のは拙者が出損ひ 此方に構はぬ


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事を 拍子にかゝつて云れぬ世話 此上は何事も隼人殿のお差図次第 手
前は何にも構はぬ/\ コレサ真ぴら御用捨と 頬(つら)真青に鳴嶋勘解由 傍
杖喰ふて軍右衛門しよげりかへるぞ 気味よけれ 隼人は面和らげて 思ひ寄らざる
珎事ちうやう 上様懇望の釼紛失の科有り迚 左門之助相果ては 御
釼の詮議覚束なし 百日の日延べ申付くる間急度詮議致されよ 禁裏
表は伝奏(てんそう)を以て某宜しく計らはん 生(しやう)はかたし 死は安し 必短気は無用ぞや 去ながら
科有る貴殿佩刀(帯刀)は叶ひ申さぬ 是より直ぐに釼の行衛 尋ね捜して吉左右

有れ 若しや天運至らず 日限切なば遁れぬ科切腹は心任せ 源次兵衛が預る
にもせよ 家来の科は主人の罪 他家の家来の誤りは此方より糺すに
及ばぬ 帰国の上にて左京殿の 御心に有べき事 軍右衛門は此趣き主人に
とつくと云聞かせよ 左門之助にもお立やれと 情もこもる取捌き 忝涙に源
次兵衛 重ね/\厚き御計らひ 若殿様にも是よりは何卒御釼御詮議有り
目出度く御帰国待ち奉ると いふも曇りし涙声 身の放埓より此難義と
先非を悔いて左門之助 只親人へ能き様に 百日の其内に再び釼手に入らば


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立帰つて御尊顔拝する事も有べきが さもなき時は長いお別れ 不孝
の罪を御免有る様 伝へてくれよと斗にて見かはす目さへ泣はれて 足も心
も 乱れ焼しほ/\として立出る 片頬に笑みの鳴嶋勘解由 心(なかご)に隠す工み
の鑢(やすり)軍右衛門が生くら刃金 隼人は仁義の直ぐ焼き刃 主人の名残を安森
が 立寄る中を関打の 雑式下部に隔てられ是非もなく/\「わかれ行
二条河原の夜の景頃も長月半ばの空 月は冴ゆれど胸くらき軍右衛門は
うそ/\と 河原伝ひに来る向ふに一物鳴嶋勘解由道からはづして只

一人 目早く見付て近く差寄り ヤレ軍右衛門か能所で 何も角も手筈よふ首尾
よふ行たも貴殿が働き 左門之助さへ追まくれば心をかけた花園も 自然と勘
解由が手に入る道理 身が為には結ぶの神 イヤ其お礼はこつちから 源次兵衛
めに腹切らせきやつが家さへ潰して仕廻へば ?吉三も帰参叶はずそこでは拙
者が首さげの お雛もこつちへづる/\べつたり 是と申すも貴殿のおかげと 己等
ばつかり呑込で 向ふは見へぬこつちぼれ 小頬(づら)悪(にく)ふてあほらしき 上(かみ)の方から足早に頬
を隠した頬(ほう)かぶり 片手に提た棒鞘のつか/\来かゝり見合す顔 武兵衛じやないか


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コレハ/\軍右衛門様 お預の天国まんまと首尾よふ致したと 差出せば手に取て 出かした
/\勘解由殿も是に御渡り 先達て御噂致した此軍右衛門とは乳兄弟 則京
血お構ひ故只今は江戸住宅万屋武兵衛と申す者 渠供(かれが)母が年忌の為上
京致したを幸いと 姿を窶(やつ)させ盗取らした此釼 万事にぬけめない男と 引合すれば
武兵衛も手をつき 扨はあなたが勘解由様 只今お聞なさるゝ通り母が年忌の弔ひ
にと 左門之助や源次兵衛に胴腹斬(かっぷくばら)さす大仕業(しごと)きつい善根致しました 太郎仕業
一件(いちまき)はお望次第御褒美次第と 掴み頬はる熊手性 サテ/\小気味能男 此上ながら

何角の相談 近付なりの盃かはり 取て置きやれと小判の包 当座の褒美
と差出す 押戴いてにつこりほいやり是は有難山吹色 きつと致したお心付けと内懐に捻
込めば 勘解由は猶も小声に成 そちが性根を見込だ故改めて無心といふは 追まく
つても左門之助生け置ては何角の邪魔 いつその事にばらして仕廻ふ分別は有まいか
夫レは何より安い事じやが お前方は知れた顔若し取逃しやなどした時は 跡の詮議が大
きなやば 諸事は武兵衛が呑込だ なんぼ?(にやく・よわい、まがる、あしなえ)でもあつちは侍 かた付けるこんたんは コレ斯
/\と耳に口 囁き點頭く悪者仲間 左門がうせるは慥に此道 ぬかるな武兵衛 合点/\


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何でも仕てこいまつかせと 見拵へしてこなたのかげ しめし合せて軍右衛門勘解由
打連れ立帰る 斯共しらず左門之助 きのふに替るけふの身の 淵は瀬と成る川原
道 心細くも立留り かうした時宜に成たれば所詮国へは逝なれもせず 何所を生途(しやうど)
に釼の詮議 行き先迚も雲を当て水を便りの虫よりも はかなひ今のおれが身
の上 此様子を咄しがてら 太夫にも暇乞ちよつと往てとは思へ共 身すぼらしい
此形を人の見る目も恥しい 跡で此事聞たなら案じもせうし泣くでも有ふ 是
も気がゝり詮議も大切 ハアどうせふぞかふ薦かぶり したみ機嫌の猩々

足 乱れ中でも骨張(こつちやう)共 爰かしこからつつく/\ 仲間の者に一文口々取らしてやつて下はりませ
折悪ふ持合さぬ程に付な/\と行んとする立てふさがつて 何じや持合せがないか そん
ならコレ此着はつて居やんすお蚕なりと 仲間の者へ貰をかい ヲゝ貰ひじや/\もらへ
/\と取廻し目論(もくろみ)かける頬がまへ ヤア推参な非人めら 堪忍ならぬやつなれど 用事の有
て急ぐ故赦し置く そこ退て通さぬか ハゝゝゝアレ皆聞け堪忍してやろといやい エゝそふぬかしや
最畳まにやならぬはい/\ ヲゝそふせいと後ろから しめにかゝるを身をかはし ほぐれを取て膝車 投げ
付られて非人共 ほでが動(いご)くぞ皆の者 いつしよにかゝれと右往左往 コハ狼藉と左門


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之助 心はあせれど多勢に一人 危く見へし折こそ有れ 道引かへして渡邉隼人夫レと見るより
かけ寄て 群集(むらがる)非人を刎退投退け左門をかこふてつゝ立ば手並にこりず非人共 邪魔する
さぶめをマア先へ けして仕廻へと前後から一度にかゝるを合点と小臂(ひぢ)返しにもんどり打たせ 力に
任せ踏付られ 漸命の余り物跡を囲ふてむしやぶり付く 左右いつしよに狗?投 こりや
叶はぬと逃ちつたり 左門之助も安堵の思ひ 礼の詞に渡邉隼人 今日吉田の帰り道途中より
はづしたる 勘解由か胸中不審(いぶかしく)若しやヶ程の時宜もやと 推量違はぬ非人が狼藉頼み人有る
には極つた 能き折に参り合せ怪我なくて重畳/\ 天国の御釼盗賊の所為(しはざ)ならば 隠れ

なき名剣京近辺にて売払ふ事叶はず 諸国武士の入込みなれば江戸表こそ
心にくし 何卒是より武州に立越へ随分詮議致されよ 武士の身は相互 用事
も有らば某迄少しも遠慮致されな 腰も明いて見苦しい麁抹ながらと指添
抜出し 長途の餞別路銀の代(しろ)と 残る方なき情の詞 重々厚き御芳
志と嬉し涙に加茂川の 水かさ増さる斗り也 隙を伺ふ以前の非人手々に?(さすが・刺刀)出刃包
丁 隼人を目かけ突かへる シヤちよこ才と抜くより早く眉間髃(かたさき)当るを撫切命が大事と逃て行 此間に早ふと気を
せく隼人 小かげに始終伺ふ武兵衛 どつこいやらぬと切付くる 利き腕取て加茂川へ ざんぶと打込む水煙 跡白浪と