仮想空間

趣味の変体仮名

妹背山婦女庭訓 第一(大内~小松原~蝦夷子館)

 

読んだ本 https://www.waseda.jp/enpaku/db/
      ニ10-00469  ニ10-02226


2(左頁)
 再版 十三鐘 絹懸柳  妹背山婦女庭訓  座本 竹田新松 (第一)
大内の段)頭直位(かしこくもそろしめ)す 敷津八州(やしま)の三器(さんだから)智たり仁たり英
勇の 利(とき)釼四夷(しい)を刑し 和らぎ治む和歌の道(おしへ)
八つの耳をふり立てて小男鹿(さをしか)の音(こえ)弥(いや)高く 曲(まがれる)を直すに
惜(おく) 操久しき君子国 栄枯交々(こも/\)皇(すべらぎ)の 宝祚(ほうそ)伝へて
卅九代天智天皇の宮居なす 「奈良の都の冬
木立 日の本の聖主たる君万乗の御身だに 闇(くら)き盲(めしい)


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の御悩み天地に日をうしなふごとく 堂上堂下是をいたみ
時々の評議も外ならず 玉座の左は曽我の蝦夷子大臣
政努を預かる威にはびこり 我意驕慢たる其勢ひ 右の
座には安倍中納言行主 庭上の勤臣には大判事清澄 守
護の武功を立えぼし 素襖の袖もたをやかに 同じくこなたは
蝦夷子が家臣宮越玄番 其外百官百司の面々威儀を
正して伺公ある 蝦夷子寛然と上笏し 改めていふに及ばねど 帝

盲とならせ給ひ 神例古実日々の政努 行はせ給ふ事あたはず 老身
の此蝦夷子悉く是をはからふ 伜入鹿の大臣は病床に引こもり 又 進み
出て力となるべき鎌足の大臣には 仮初にも虚病を構へ 行事を捨てて
引込む了簡 とくより帝へ奏問遂げ 今日は鎌足を呼出し 事を糺すに一決
夫故使を立て置きたりと 儕が邪智を押隠しさかしら ごとぞぜひもなき 中納
言進み寄り 蝦夷子公の仰もさる事ながら 忠勤直(たゞし)き鎌足大臣 何を以
て野心あらん 再三思慮をめぐらされ粗忽の計ひなき様にと 仰も待た


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ず宮越玄番 コハ行主公の詞共覚へず 君の叡慮を安んぜんと 老身の
労(つかれ)も厭はず 忠勤一途の蝦夷子公 麁忽の奏問有べきか 哥蹴鞠(しうきく)に
日をくらし政努をしらぬ馬鹿公家と 一つ口には申されずと 傍若無人のお主
贔屓大判事居直つて ヤア陪審(またもの)の玄番過言千万 堂上の論談は君
子の諍ひ 其方達がしる事ならず さがつて居やれときめ付くれば イヤ陪審(またもの)
でも陪審(ばいしん)でも 理非を正すに遠慮はない 今一言ゆつて見よ手は見せぬと
語りかくればこなたも鍔元くつろげて すでにかうよと互の争ひ蝦夷子声

かけ ヤア/\清澄玄番めも指控へよ 無礼至極とせいする折から 取次の青侍(せいし)罷
出 武官の旁へ御願ひの筋候迚 先達て相果し太宰小弐の後室 押て
伺公仕ると 呼はる程なく入来る 太宰の後室さだか迚 媚(みめ)もけはひもさだ
過て世を捨 草の二つ髷 裲さばきしとやかに階(おばしま)近く両手をつき 恐れながら
申上ます 過行し太宰小弐 五十日の忌明(きめい)も相済み 何卒娘雛鳥に 似合じ
き聟をもふけ 太宰の家相続の御願ひが申上度く ついに上らぬ雲の上 慮外
はお赦し下されと 会釈の顔も紅葉せり 大判事打向ひ 某取次を申上御窺ひ


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申べけれ共 小弐存生より 此清澄とは遺恨有る家 取次して叶はぬ時 私の意
趣により依怙の沙汰致したなどゝ疑はれて詮がない ソレ玄番取つがれよ ヲゝ是幸い
何さだか殿 兼て主人蝦夷子公にお願ひ申 貴方の息女雛鳥殿 某が宿の
妻に申受度く いろ/\と申せ共 今に何のさたもなし 只今のお詞で拙者も安
堵致したと 思ひも寄ぬ聟がねに とかうの返事いひ兼て差うつむいていたり
ける 行主耳にもかけ給はず ヤア/\さだか 玄番が願ひは内意の事 何れの内奏問
遂げ家名相続の沙汰あらん アゝ有がたうござります 長居は恐れと押付けの

聟の評議をまぬがれて 御前をしづ/\立帰る 君は御悩の奥深き帳裡を出る
釆女の局 蝦夷子大臣に打向ひ 帝様の勅諚有行主様にも聞し召せ 鎌足
大臣に野心有の奏問 今日御殿へ招き寄せ 事明白に糺すべしとの倫言也 父
上を召まして何事も聞給はれと 打しめりの給へば 蝦夷子大臣居丈高 鎌足
大尽遅参は不審(いぶかし) 又も使を馳候へと呼はる折から参内と案内して 入来る
鎌足大臣 中納言座を譲り給へば 押直つて蝦夷子に向ひ 今日某を改め
て召さるゝ事 何事やらんとの給へば 釆女の局近寄り 父上申します とくより病床


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にましまして 久しく参内なき事を 諸卿野心有との疑ひ忠勤厚き大臣 何か
曲れる心あらん 速やかに云ひらくべしと有難き勅諚と聞もあへず曽我の大臣
鎌足の大臣とは主上の左右を助け合 水魚の交り厚ければ 掟を正すに遠
慮はならぬ 只今貴卿に見する物有 弥藤次参れと呼はれば あつと答へて
荒巻弥藤次一つの筥を携へ出 御前に直し引さがる蝦夷子件の筥打
ひらき 五日以前春日の社檀へ 何者共しれず奉納の此一箱 中には一つの
鎌を入 男子誕生平天下と書付たり 其方の娘釆女は斯のごとく君に

傅き 誰及ばぬ寵愛 男子誕生有れば鎌足殿は自然と外戚 平天下と書
添たるは 四海を乗取る心の祈願 鎌は鎌足の家の宝 外に類のない重宝 其
影の鎌を新に打せ 奉納有しは余人でない 覚ないとはいはれまい サア返答有れ鎌
足殿と 思ひも寄ぬ印の鎌 数多の公卿呆れ果て口を 閉じてぞ居たりける 鎌
足大臣思慮を定め 此身に取て曽(かつ)以て覚なけれど目下(まのあたり)疑はしき影の鎌 反
逆の者有て 我を罪に落さん結構 此悪党を見出す迄は申分けても詮
なき事 我は暫く禁裏をさけ 何れへ成と蟄居せん ホゝウ其身の明立つ迄は


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何れへ成と蟄居有れ ソレ/\玄番弥藤次 門前へ送り出せ早ふ/\に釆女の局 なぜ申分けを
遊ばさぬ コレのふ申父上と歎をいさめる中納言 耳にもかけず鎌足大臣しづ/\歩出給へば
蝦夷子を始め数多の諸卿早退散と立か弓 武勇たゆまぬ清澄も 覆へる雲
に是非もなくも 心の駒の控へ綱荒巻宮越素襖の袖肩臂はつて帰館のけいご
利(とき)を隠せる鎌足は心にはかる七重八重 馴し九重ふり捨てていづくの空やはかりなき後
の栄を松の色 操かはらぬ君が代の例し久しき「(小松原の段)春日の社頭に近き小松原時雨
晴間のかり戻り 大判事が嫡子久我之助清舩美男共美童共さたに聞へし角

前髪それとは見せぬ簑笠にふりかたげたる吹矢筒 まふで休みの捨床几是幸いと腰
打かけ 労を休むる其折から 本社の方より下向の一群はでを揃へる風俗の中に際立武
家育ち 年は二八か夫ぞ共ふりの袖のみみをじるしゆたのたゆたの絹かづき 嬪数多引連て
打過ながらうり返り見合す顔も清舩と互に月よ花の香のこぼるゝ愛につつくりと思ひをかけま
になづむ立姿 気転きかして嬪共 コレ桔梗殿 けふはマア余程の道 お上にも嘸草臥
こちらの床几で一休み ヲゝ小菊殿よう気が付たと 附々共にいざなはれ腰と思ひをかけまく
くも 神の教へのえにしかと心の内の嬉しさに雛鳥は只清舩が 姿に見とれ余念なし


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申御寮人最前から見ますれば アレあなたの持てござる遠目鑑(とおめがね)の様な物 ふしぎに思し召すの
であろ ぶしつけながらわたしがいて 借ましてお目にかけふノウ桔梗殿合点かと 點頭あふて
隣の床几 小腰をかゞめ会釈して イヤ申あなた様に御無心がござります 此方の御寮人の
申されますは お前様の持てござる其遠目鑑の様な物 暫しは間お借しなされて下さりま
せと 云かけられて コレハ/\安い事 是は小鳥狩を致す吹矢筒と申す物 ムゝそしたら是が吹矢
筒でござりますか 申/\御寮人様 是をマア御らうじませ 雛鳥でも大鳥でも アレあなたの
吹矢を持て くつしやりと射なさるのじや マア此筒をちよつと握つてごらうじませ どの様な所へ

でも心よう届きそふな 長ガアイ物でござりますと おどけ交りの恋の橋 岩木にあらぬ
清舟も につこり笑顔相ぼれに 下行く水のこぼれ口 すくひ上て桔梗が気転 コレ申御
寮人様 早ふ埒の明く様に思いのたけをおつしやりませ 何をマアいやるやら ついに逢見ぬあのお
方へ どふマア直にいはれふぞ わしや恥しいと袖覆ふ 折から社の境内より蝦夷子が家来宮
越玄番 鑓挟箱いかめしく代参の戻りがけ 此場の体を見るやいな供にせはして挟箱 腰
打かけて窺ひ居る 斯共しらず嬪小菊 コレ申前髪のお侍様 私が方の御寮人様 申したい
事が有と恥しうござりますげな 幸いな此吹矢筒 咄しに聞た囁き竹 どふぞ聞て上ましてと


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耳と口とへあてがふて かう此中を私が持 取も直さず媒(なこど)役 雛鳥は筒へ手を思ひ有た
け一口に いへばこなたは耳で受け 打點頭いて返り言 かはいらし事通じ合 互に嬉しさ恥紅葉 玄
番主従夢現 嬪共は気を利かし二人を床几へ押やれば 扇を開き寄添て 口と口とを
鴛鴦のひつたり抱付くこなたには くはつたりどつさり挟箱こけ落るやら鑓持ちは 鑓をこかし
て立さはぐ清舟も打驚き 床几をのけば宮越玄番起上つて砂打払ひ ヤア久我之
助殿 よつ程に味やらるゝ イヤこそな相手は過つる頃相果し 太宰の娘コリヤ興がるは コリヤ能
所へ出くはしたと聞て二人は又恟り ムゝ扨は太宰殿の息女成か お前は大判事様の御子息久

我之助様か ホゝ過行れし其方の父 太宰の小弐と我父とは 故有て遺恨有家 其
息女とは夢にもしらず只今の体たらく そんならお前に添ふ事は成ませぬか ハアはつと
斗にはや涙 宮越聞とがめ スリヤ両人は早ちへ/\くつたよな アゝいやこれ必麁相はいはれな 遺
恨有る家共しらず 最前の時雨の内同じ床几に雨舎(やど)り ムゝ成程 今の雨舎り 夫レなら夫レ
にしておこふが 一体此雛鳥には某が大執心 夫故宿の妻に申受んと兼て主人へ願
ひ置く ハテ今迄の事は 譬いか様な事有ふと儘よさ 此後心に随へばそこはぐつと了簡する
是はマアきつい粋様 私は雛鳥の召使小菊と申す者でござんす ほんいマア浮世じやナア


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入鹿様の様な聖人といはるゝ情深いお方の親御に アノ意路悪の蝦夷子様 其御家来
の小意路悪 此方の御寮人を嫁にせふとは ヲゝ笑止と打笑へば 玄番睨付 ヤイ/\/\女め
其過言覚ておれ 是から直ぐに御所へはせ行 二人の様子を觸廻り どいつもこいつも身の
上と かけ出すを嬪共 袖にすがつてアゝコレ申 今の様にいふたのは お前様のお心を引て見る
謀 正直なお方では有はい ムゝスリヤ身がいふ様に取持か 取持いでよい物かいな ヲゝ夫レなれば
了簡する サアお娘が真実にかふといふか ソレ最前ちらと見て置た 吹矢筒の囁き竹
で聞たい/\ 扨も目早いお方では有ぞ お望の通り囁竹で御返事を聞しませふ サア/\耳

へおあてなされ ヲツ心得吹矢筒耳に押当居合腰 サアどふか/\コレ申雛鳥様 よいお
返事を早ふおつしやれ アゝコレ申玄番様 恥しがつてゞござります ちつとの間お目をふさいで ヲゝ/\ヲゝ/\成
程/\夫も合点と真赤な顔に似合ぬ成仏眼 小菊は心得有合ふ吹矢 筒差込口押
当てふつと吹けば宮越が耳へくつさり アイタゝゝ エゝこりやどふするとうろたへる 其間に雛鳥打
連れ立館へこそは逃帰る 玄番は吹矢抜取て 堪忍ならずと追かくるを 久我之助押留め
アゝコレ高が女の戯れ事 彼是いふ程却て恥辱と なだむるこなたの岨(そは)道より 数多の侍走り付き
清舟殿是にござすか方々とお尋申した 先刻釆女の局様禁庭の御殿を抜出 いづく共なく


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行方知れず 貴殿事は釆女様の傅き役 早くおしらせ申すると 聞て暫く久我之助 何釆女
様行衛知れずとや ムゝ何にもせよ程は有まじ 貴殿は是より直ぐに所々の出口を吟味有れ 我は
山手を詮議致さん ホゝ聞捨ならぬ釆女の出奔 蝦夷子公へ注進せんと 玄番諸共数
多の侍 出口の方へ急ぎ行 跡に清舟只一人 ハテ心得ずと一思案 胸もしどろに入相の山手を
さして歩み行 向ふよりくる人音に 身を除けてやり過せば さもややごとなき内裏上臈 心も空に
歩み行 袖を控へて 釆女様でござりますか ヤア久我之助か ハア只今組下の注進有て
釆女様には御殿を抜出御行衛知れずと申 がいか成所存有ての事と 問れてつらき物

語り 其方も聞及ばれん 蘇我蝦夷子威勢にほこり我娘橘姫を后に立んと
兼ての望 わらは君に思はれ参らせ 夜の御殿(おとゞ)昼の亭暫しもお傍を離れぬそねみ父鎌
足様をも讒言して大内を遠ざけ 何方にお渡り有り共 此身さへ露しらず わらはが傅き
参らす程 帝様のお身の仇誠有る入鹿大臣 父蝦夷子を諌め兼 引籠り給ふ由 夫故
父の隠れ家を尋ね求め身を隠し 姿をかへる身の望 只見遁しに頼むぞと跡は涙にくれ
給ふ ハゝ此身は傅の役目なれど 後日の難儀少しも厭はず 御身の為又第一は天子の御為
成程落し参らせんが 諸士共方々手配り致せば 村口を御供申たばかつてお通し申さん 先々是


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をお召有れと件の蓑笠きせ参らせいたはる出口の方 又も大勢足音して 以前の
武士共走り付 宵闇紛れすかし見て 久我之助殿いまだ是にか 出口/\吟味せしがお
局の行方知れず ホゝ拙者は山路吟味の上 コレ是に居る百姓が怪しき人見付し注進 未だ
夫とは極めねど大方に釆女の局 我は是より此土民に案内させて吟味を遂ぐる 各(おの)
々は此趣き急いで禁裏へ奏問有 ホゝ畏り候と 皆々いさみ大内へ こなたは浮身隠れみの
笠に 涙の天(あま)が下 清き心の清舟も供にしぐれて「(蝦夷子館の段)行空は 九重の 栄に隣ふる一構
三条の御所と持はやす蘇我蝦夷は広館 雪見の亭(ちん)を設けの座 女小姓を

肉屏風奢りに透間中庭の蔭を 転ばすつかね雪 つめたさこらへ主命の重き役目と
宮越玄番 跡に荒巻弥藤次が臺に 乗たる雪人形各々機嫌を窺ひける 女
中達口々に 是は/\御両所のいかい骨折 殊に此雪細工兎の耳がきつい手際 ヲゝしほり
殿の云しやる通り 束帯姿の此人形 奇麗な事じやないかいのふと 誉めそやされて両人は おと
なげなくも出かし顔 蝦夷につこと打笑み給ひ ホゝ玄番弥藤次出来た/\ イザ酌取れと余
念なく廻る盃養老の 尽きぬ泉の底はかと 案内もなく広庭伝ひ 入来る二人の僧
弥藤次見咎め ヤア/\両僧 何の用有て罷り通る 御前成ぞときめ付くれば イヤ我々は御領分に


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住職致す 文聖寺八乗寺 仏法帰依の入鹿様 今日行法の満願の日なれば 拝礼に伺公
せり 罷通ると奥庭へ 入んとするを蝦夷は睨付け ヤアいらざる入鹿が仏さんまい うぬらも其組
下か 忝くも日の本の神の守護有我館 奥の亭へ通らんなどゝは 其身をしらぬ売僧(まいす)共
首をならぶる覚悟せよと 気色かはれば アゝお前様が仏嫌ひとは 夢三宝存ぜぬ事 命は
お助け下さりませ アゝ是も又お嫌ひか存じませねど 拝みますると手を合せ 身をふるはして 青さ
め顔 ホゝ首引抜てくれんずなれど 取るに足らぬづくにうめ ソレ玄番弥藤次両僧が衣を
はぎ 月代を奴にそり立て門前よりぼつ払へ 夫を肴に又一献 嬪共用意/\と詞の中ざはめき立て

女中達櫛笥の剃刀持出て 両士へ渡せば こは/\゛ながら文聖寺 そんなら此衣をはぎ 頭を奴にお剃
なさると 還俗(げんぞく)でござります どふぞ夫は御堪忍 ホゝ還俗がいやならば 両人が手にかけふか アゝ申
/\/\コレサコレ文聖寺 命がはりじやとふなとして貰ひましや ヲゝよい合点 今玄番のいわるゝ通り
いやといふと直に成仏 御前様のお慈悲を以て うぬらが好きの仏国 天竺へ所がへ イヤモウ天竺へ行かいでも
ほんの是が天竺浪人 手に覚た能はなし こまつた物じやとつぶやく中 玄番弥藤次転手に衣
はぎ取引すへて剃刀手合せごつし/\ 剃かゝれば両僧は首をすくめて アイタタタちつと待て下さりませ から
剃とはあんまりむごい コレ八乗寺 こなたも嘸いたかろ/\どふもこたへられませぬ アゝコレ文聖寺


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夫は悟道の居(すは)らぬからじや 首がはりの此月代 悟りの道を極めたら いたいと思へばいたけれど ハテいたう
ないと思へばやつぱり アイタゝゝゝあいた/\を興にして 蝦夷は酒宴 こなたは奴頭に剃立れば 撫で廻し/\
残つた鬢に顔見合せ ホンニあんまりの事でいたおかしいわいのふ八乗寺 ヲゝサわれがおれか おれが
われかで どふも済まぬ頭に成た ハテ是からは申合せ何なとして渡世する 貴僧は是より文聖
寺の一字を取 文七と名を改めよ 愚僧は又 八乗寺の八を取八蔵と付てこます ハレかは
つた事になつたナア文七殿 ホゝこりやマアめでたうなつたわい こなたもそんなら今から八蔵殿 ムゝヘゝ
へゝ/\とやくたい坊 玄番弥藤次追立て 門外さして出て行 折から表の広間口取次の青侍罷り

出 大判事の子息清舟 召に応じて参上と 呼はる声に入来る久我之助清舟 器量骨
柄武気備はる 中に優美の長上下礼儀正しく座に付ば 蝦夷大臣進み寄り 珎ら敷久
我之助 使を立しに早速の入来 尋度事別義でなし 帝愛憐をかけ給ふ釆女の局は鎌
足か娘 此頃内裏を抜出 入水せしと聞つるが其方は釆女が付人 実否を聞たく呼寄せたり 噂
の通り違はないか 仰の通り釆女殿には 世をはかなく思ひ取 猿沢の池へ入水有しが 我傅きの役目
なれば野辺の送り営み参らせ いまた三日を過さずと 詳らかに答ふれば さこそ/\ 親鎌足が蟄
居を悲しみ 浅ましい釆女が成行 其方付人の越度と成 親大判事に勘当を受たと聞 さ


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有ば主も親もなき身 夫レに何ぞや いかめしく礼服を着錺て我目通りへ出たるは 心得難き
汝が心底 ハゝ御不審の段御尤 親もなく主君もなく独り立の私 若輩ながら蝦夷公は奉公
の義願ひ上げ度 君と敬ふ此礼服と 心に探りの一思案 誠しやかに相述れば ホゝ扨は此蝦
夷を頼み奉公の望とや 若輩者の神妙/\ 我も望む所なれど 其方が父大判事に汝が
勘当赦させて 親子共臣下となさん コハ仰共存ぜず 親大判事が気質として 一旦申出
せし事翻へらぬ鉄石心 勘当も赦さず 元より二君に仕へぬ所存 ヲゝ其口ほあはき大判事 蝦夷
が幕下(ばつか)に付けて見せふ ホゝお手柄にいか様共 清澄得心致さば 其上もなき仕合 所詮私一

人の奉公が相叶はずば とや角申て益なき事 先お暇と礼義をなし 広庭におち立てしづ
/\歩む向ふの方 兼て云付け置たりけん 玄番弥藤次立出て前後を囲み二王立 ソレと
蝦夷が下知に連れ両人一度に切付るを 身を沈めば双方の刃は合打 さしつたりと開いて
又も横備へ車輪の釼付込切先 清舟心得左右の柄元しつかと握り 蝦夷公の仰成る
か 何故に尾籠の手向ひ ホゝ不審は尤 其方が武芸の試み両人に云付置たが 天晴/\ コハ
いかめしき御尋 若輩の私なれば腕ためしの覚もなし 猶此上に手練を極め重て御覧に入ま
せふと 双方を突放せば 跡へしさつて両人が又も切込刃と刃 庭の飛石エイウンと 請れば御殿


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の天井より 怪しく下る鉄網に 清舟屹度眼を配り コリヤ再三のお試 真剣のお相手がお望なら
ばとも角も イヤモウ驚き入たお手際 見届けましたと双方の刀は鞘に飛石も 元へ直せば御殿の網
棟木遥かに隠れける 久我之助さあらぬ体 蝦夷公試の切先を受留た今の飛石 地を
放るゝと下る鉄網(かなあみ)元のことく石を置ば網も隠れて其体なし ハテ六ヶしい御用害と 誉る一云
きつくりと 術の試み毛を吹て疵をくろめるしたり顔 大切の此用害 其方は身内同前見せ
て置ても幸と 俄になつける詞の艶 ハゝ此清舟も武士の端 只今こときの御手配り決して他言
は仕らぬ 気遣御無用と暇申て久我之助 左右に目配り悠々と表をさして立帰る 跡に

蝦夷は溜息の 一間の襖押明けて 入鹿大臣の妹橘姫 跡に続てめどの方 舅に心奥
の間はけふの酒宴にかけ合ぬ鉦の響きも身にしみ/\゛御機嫌いかゞと両手をつき 酒宴の
半ばながらあなた様へ御願ひ 夫入鹿大臣には 秋の頃より一向(ひたすら)に仏の道に入給ひ 奥の亭へ引籠り一つ
の棺を地中に納め 丁どけふが百日目入相の鐘を限りに定に入給ふと聞 何に譬ん此身の
悲しさ 何と便りが有物ぞ 少しは思ひやり給ひお諌めなされて下されと 涙先立託ち云 同し歎きを橘姫 何
卒再び兄上様 遁世の思し立とゞまり給ふお願ひと 一つ思ひを二人して いふを打消す父大臣 ヤア聞度くも
ない入鹿めが沙汰 今此蝦夷が威勢に次 何不足なき栄華を捨 仏法といふ天竺外道の術


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に帰依し 奥庭へ引籠り昼夜わかたず称名読誦 此世に有て益なき倅 土へ成と定へ成
共 入次第にして置きめせ また最前から鉦が鳴る エゝいまはしい不孝者 嫁も娘も重ねていふまい ハイ
いやまだ不吉な泣声 酒宴を妨ぐるか イヤ/\申 何のマア御遊興を妨げませふ モウ何にも申上
ませぬ涙もこぼしは致しませぬ 御赦されて下されと 袖に解け行くしほり雪思ひは胸に氷るらん
橘姫引取て 申とゝ様モウ兄上入鹿様の事申者はござりませぬ 御機嫌を直されて 別殿で
御酒宴を ホゝ娘能いふた 是よりは居間をかへ再宴を催さん 玄番弥藤次も奥へ来よと怒りの
風もなぎのがち嬪共が取々に 一間へ伴ひ入にける 橘姫心せき 父上のあのお気質 何程お願ひ

遊ばす共お聞入は有まい 是より此橘大内へ急ぎ参り 何卒兄上入鹿様入定を止り給ひ再び昇殿
有様に 幾橋のお局へお願ひ申す心ぞと力付くればめどの方 難面(つれない)は入鹿様 今日を限りの入定と
生別れのわたしが身 同じ館に有ながら暇乞にお顔をと 願ふ事だに中々に 築山の門を閉ざし
物いひかはす事さへも 泣て暮しておりますと むせぶ涙を友千鳥同じ翅に露時雨しのぐ
方なき思ひ也 姫は涙を打はらひ めど様気遣ひ遊ばすな 暮を限りの事なれば一刻も早ふ 自ら
は大内へ 夫は一入御苦労ながら 是はマア改まつたわらは迚も同じ事 ソレ嬪共大内へ上る用意せよ
畏て附々が輿乗物といふ栄の 日頃中よき嫁小姑 早ふ力付合ふて禁裏をさして


18
急ぎける 跡見送つてめどの方 便りすくなき身の上を諦め兼し胸の内 譬願ひが叶ふ共 心変
ぜぬ夫の気質 夫レと知りつゝ頼みしも 妹御の深切を破らぬ誠とやかくと 思ひ続けて庭におり
木草の枯葉詠めても 猶いや増しの無常心 夫の命もけふ限り 涙は胸にふりつもる 雪かき
集めかき寄て 氷る手先も後世の為つかね 丸めて五輪の形 此世の名は入鹿大臣頓生
菩提と手を合せ 心の回向せぐりくる声も憚るしめ泣に哀はかなき風情なり 夫レに引
かへ奥の間は 地下を写しの三味線に なまめく歌の声さへて 花はちつても春は咲 消へて返らぬ
其雪にさへおとる 憂身は消もせであんまりといふか心ないといふか現在子といひ嫁といひ

けふを限りの命ぞと 悲しむ事を聞捨に 捨た浮世にかふして居れば 仇名たつたの流れの錦
エゝ心ない此中で雪見の酒宴所かい アノ鉦の打納めが入鹿様の御臨終 夫を先立何楽しみ 我も
一所に此雪と供に未来の道連と 上着を脱げば墨染の けさよりつもる広庭の雪に座をしめ
合掌し 此儘夢に埋もれて 死人と誓ふ貞心は天に通じて降しきる 膝も袂も白妙に 色
香 盛りの黒髪も八十(やそじ)の姥と疑はる 恩愛血筋に屈託せぬ 蝦夷大臣一間を出 嫁めど
の方 まだそこに泣ているか ハテ扨/\ごくにも立ぬ 馬鹿者の入鹿が事を苦に病み 物好な雪
なぶり もふ打やつて爰へ来て 火に当りやれ アノ胴欲なおつしやり事 夫は定に入給ふに そもや


19
まあ妻の身で 褥の上に居られませふか 雪に凍へて死ぬるのが せめてもの夫婦の誠 ハテ貞
節な心底 其実心を聞てお身に問たい事が有る伜入鹿が入定は 仏法信仰斗で有まい 御
子なうては叶はぬ筈 親子に増さる夫婦の中 夫の心知て居よふ イヤサ何ぞ密に聞た事があ
らふがな サ其子細が聞たい 我づよういふ物の実は不便な子の命 様子によつて入定を止める思案有る
まい共いはれぬ どふじや/\と脇道から 猫撫声も気味悪さ イゝエ親御様さへ御存知ない事
何のわたしがしつて居ませふ 去ながら脇目から存じますは 夫入鹿のお覚悟はお前様のお心が知
ぬ故かと存じます ハゝゝ蝦夷が心は今ふる白雪 一目に見へて有潔白 サア其雪に埋れては 上

から見へぬ塵芥 心の底がどふも解けぬ 入鹿が性根聞たい/\ イヤ申常に夫が申さるゝは内大臣
足と父蝦夷は 国に二つの柱同然 一つかけても我君のお為にならずと物語 其大事の鎌足
様を追退けなされたには 深い様子の有そふな事 ハテしれた事 此蝦夷は忠臣 佞人の鎌足
ぼつ下したは天下の為 我君のお為じやわい イエ/\鎌足様に罪ない事は 世上の人がよう知ておりま
する 威勢を妬みそねんでの さかしら事と世の人の謗りは耳に入鹿様 夫レが積つてあのお覚悟 一
人の栄華を極めん迚謗りも返り見給はぬ 蝦夷様のお心さへ改めて下されなば 入定も止(とゞま)り給はん
夫の生死は爺御様のお心次第 嫁子不便と思し召 お聞入下さりませ 夫婦が命は厭はねど お心


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が直らねば お前も遁れぬ危い命 君の御恩を受ながら十善の位を奪ふ御謀叛の思し立で
ござりませふかな 天道様の御罰にて お身に報ふが悲しさにわらはが御異見悪心を止つてたべ蝦夷
様と 舅を思ひ夫思ひ 合す両手にはら/\と涙深山の瀧なせり 始終とつくと蝦夷大臣 モウ
よい すりや我大望残らず入鹿に聞たよな そふ有ふと思ふた 気遣ひすなそち達が望の通りに
してくれふ がまだ尋る事が有 めどの方 駒下駄直せと刀提(ひつさげ)庭の面 もしや得心有そ海底は
白洲にあやぶむ目遣ひ 嫁近ふよりや ハイ/\と立寄目先へ氷の刃 ハツと飛退き舅御様 そんならとふ
でも 思ひ止るお心はござりませぬな 馬鹿尽すな女め 天下を取らば肉親の入鹿 譲りくれんと思ひ

の外道立する忰にはもふ構はぬ 思ひ立た大望一度万乗の位に昇る此蝦夷 エゝふがいなき性根
としらず 入鹿に渡した連判状 儕が有所知て居よふ イエ/\御謀叛の訳は聞たれど 連判とやら
は イヤぬかすまい 一大事を聞た女 殊に安倍の行主が娘所詮生て置かれぬやついふても殺す いは
ひでも殺す 其一巻爰へ出せば苦痛せずに思ひ あらがふとなぶり殺し サア何と付廻す 遁
がたなに肩先すつはり付込蝦夷か尖き切先 手負は大地にこけながら 蹴上る白妙雪煙
手に渡さじと懐中の一巻火鉢にもへ立炎 嵐に連て烈くはと 折しも聞へる鐘太鼓 ヤアいぶかし
き攻鼓 連判状を焼捨てしは 我大望を賽(くしい)たる 不孝の入鹿夫婦のやあつばら 大事を敵に洩


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せしな につくい女め思い知れと足下に踏付肝先を えぐりくり/\流るゝ血汐 雪を染なす皆紅
眼血ばしる表の方 勅使成と呼はる声 ムゝ貝鐘の音に引かへ勅使の案内は我胸中 窺ひ
さぐる謀 身体けふの一挙に極まる装束せんと不敵の蝦夷帳臺深く入にけり 程も有
せず細殿伝ひ 入来る勅使安倍中納言行主 副使の武官大判事清澄 威儀を正して座
に付けば 出向ふ主も衣服改め上座に招き頭をさげ お勅使として行主殿 雪中の路次別して御
苦労に存ずると挨拶終れば膝を寄今日の勅使尋常(よのつね)のさたにあらず 貴卿は父馬子より代
々の功(いさい?)忠勤あつく君の寵にほこつたるや ほゝ逆心の徒をかたらひ帝位をかすめん企て有と叡

聞に達せし故 諸国の勤番武官の面々 此館を囲む所 此行主は一家の佳(よしみ)今老臣の蝦夷子大臣
麁忽の計なすべからすと 進み出て使を乞受取あへず馳向ふ 包まず言上申されよと聞て蝦夷
は居尺高 ハゝ/\何事かと存じたれば 此老人に逆心有とや 最前より遠く聞ゆる鐘太鼓 スハ禁庭に大事
有と 思ふ折から我家へ勅使 佞人讒者の詞を用ひ叡慮くらき帝の疑ひ勅答致すも馬
鹿/\しいと 詞尖に云放せば 大判事進寄 ヤア血迷ひ給ふか蝦夷子公 其身の白状進給ふ 行主公は一
家の佳叡聞に達する大事 再三吟味有ての事 いか程にあらがはれても 抜さしならぬ証拠有
と 懐中より取出し 投やる一巻おつ取て 見れば覚の連判状 序文の手跡誓書の名印さしも


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蝦夷も証跡に hツト斗驚く面色 ナント見られしか蝦夷殿 我聟の入鹿大臣 此一巻を
帝へ捧げ諌めても承引なき父が逆心 子として是を顕はす事 不孝の罪莫大なれ共 君
恩にかへる道なければ叡聞に達する也 我は祖父馬子が意をつぎ 仏法帰依しぬれば
遁世の外なしと引籠りめさるれ共 我娘めどの方 謀に命を捨最前焼捨し贋
物の連判状は 誠に逆心有かなきか しらせの狼 煙貴殿の口より謀叛の次第 最前既に
白状の上最早陳する詞はあらじナント/\ときめ付られ 一句一答詞なく只黙然たる斗なり 大
判事さし心得 三方に腹切刀 蝦夷子が前に指置けば 行主立寄傍(かたへ)なる 雪人形手に取

上 コレ見られよ 愚か成譬なれど 此束帯の雪人形 其形をなすといへ共 火に当れば忽ち水
其人にあらざる逆心 消へ果るは天の御罰 せめて最期は此雪のごとく潔く生害有と 諌め
の詞を耳にも入ず 無念に堅まる雪人形 傍なる火鉢の炎の上 つかみ砕けば水烟 肌押くつ
ろげ腹切刀 腹に突立怒りの眼中 エゝ無念口惜や 仕込に仕込し我大望 現在の忰入鹿が
手より漏たるは 我運命の尽きる所 去ながら此蝦夷子世を去らば 見よ/\忽ち天地は常闇 かたは者の
帝を始め 月卿雲客(げつけいうんかく)思ひ知れと きり/\と引廻す 太刀取後ろに大判事 はつしと落す首諸共
矢一つ来つて行主の 胸板射抜きあへなき最期 こはそもいかにと恟り仰天 十方にくれて立まど


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へば ヤア清澄 必ず驚く事なかれと 声かけて一間の襖二人の武士に引払はせ 築山の岩間陰
しつ/\出る入鹿大臣 髪はおどろに麻衣 さもすさましき有髪の僧形 大判事ぎよつとして
ヤア入定有し入鹿公 ふしぎの対面いぶかしと立寄れば ホゝ実にも/\さも有らん 不審の一条語つて
聞せん 父蝦夷子年を重ね反逆の企て有れど 其器ちいさくて 中々大望成がたし 爰を以て此
入鹿表には仁をかざり 父の悪事をうとめる容 仏法帰依と引籠り 帝を始め数多の公卿
蝦夷に心を付け油断の間を行法の築山より禁庭の 宝蔵へ隠れ道 土を掘り石を穿ち 妙
計違はず忍び入 とくは評定有しに違はず 神璽御鏡失せ給へど 村雲の宝釼は安々と手に

入たり 父が命妻が命 芥のごとく見捨しは 此時を待つ謀 あら心地よや潔しと 御殿に響く
うなり声 扨はと驚く大判事 玄番弥藤次弓と矢つがひ取かこめば 大臣重ねて馬鹿者
の舅行主 血祭りに手にかけた 其方は我所存有れば 味方に付は其通り 否といはゞ行主同
前 サア勝手次第に返事せよと 大悪不道の入鹿が行跡(ふるまひ)爰ぞ大事と大判事 心を定め
低頭平身 時を得給ふ大臣に いかでか違背申べし 我君と仰ぎ奉ると申上ればにつこと笑ひ
ホゝ潔し/\ 三徳備はる此入鹿 天地の間に挟まる物 誰か敵たふ謂れなし 今日より我こそは万
乗の主たり アゝラいまはしの墨衣 いでや衣服を改めんと 呼はる声に数多の官女 てん手に


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着せる綾錦 立なをつて大音上 清澄は皇居の案内 玄番弥藤次殿(しんがり)せよ 是
より禁裏へはせ向ひ帝を始め月卿雲客 残る宝の有所を責め問ひ掴みひしいで心
の儘 中門のほとりへ丸が車をすゝめ 官人共来れやつと声に随ひ数多の武官
烈を正して先備へ 玄番足駄を奉ればひらりとおり立いさみの姿 こお呂も雲井に
高足駄 門出の音楽璉然と 又も降来る雪の空 こお呂エ供奉のみさふらひ 柄
長の御かさ差かくればつの花びらひら/\雪 威風邊を払ふ雪深き思慮有る大判事 前
後のそなへおごそかに 御車はつと時めきて内裏を さしていでゝゆく   

  

 

 

 

 入鹿の首塚と甘樫の丘

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