仮想空間

趣味の変体仮名

箱入娘面屋人魚

 

人形遣いの語源は人魚使いから起ったんだって。 へえぇ。

人魚ウ使い。 なんちゃってー 言わせねえよ! 

と、
京伝が一人ノリツッコミしてます(於コマ13)。

 

 

 

 読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9892706

 

2
 寛政三
箱入娘面屋人魚 京伝作 重政画 合三冊


3

 仙太郎

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 まじめなる 口上

まつもつてわたくしみせの誠おの/\損御ひいきあつく

日ましはんしやう仕ありがたき仕合ぞんし奉り候

扨作者京伝申候はたゞ今まてかりそめに

つたなき戯さく仕り御らんに入候へとも

かやうのむえきの事に月日および

第銭をついやし候事さりとは

たはけのいたり 殊に去夏なぞは世の中に

あしきひやうぎをうけ候事ふかく

これらをはぢ候て当年よりけつして

戯作相やめ可申とわたくし方へもかたく

ことはり申候へ共さやうにては御ひいきあつき

わたくし見世きうにすいひに相成候事ゆへぜひ/\

当年ばかりは作いたしくれとやう相たのみ候へは

京伝も久しきちいんのわたくしゆへにもたしかたく

そんしまげて作いたしくれん すなはちしやれ本およびえさうし

しんばん出来候間御好人さまはげだいもくろく御らん
の上御求可下ひとへに奉ふして
 
 寛政三つ亥の春日  板元 蔦唐丸 


4

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かもの長明が方丈
の記に ゆく川のながれは
たえずしてしかももと
の水にあらず よどみに
うかふうたかたはうつ
まへかつむすびて久しく
とゞまる事なし とは昔
建暦ねん中のせりふなれと
くわんせいの今にいたりても
五分ほどもちがひなくよく
あてなさつたうそはなかず
しんちもふたゝびもとのながれ
となる事ふちはせとなりせはふちと
なりのぞきからくりのかはるよりも
はやくこれとさだめがたきはけにうき
よぼありさまなり ヲゝそれよかう
りくつくさゝいふのではなかつたさて
右のごとくきのふまてにんけんかいのれう
ぶんにてありし中ずもけふはたちまちりう
ぐうのしはいしよとなりけれはまづなみを
ふみかためのためりう王よりの
御ゆるしにて見世ものしばい
水いや屋やらきうばなとを
しつらひしんちなりしときの
にぎはひにおさ/\おとらぬ
はんじやうなり

海馬のきよくのりとびうをのつなわたり
はまぐりがしんきろうをふくみせもの
たこの八人げい事ぞさま/\いろ/\の
しゆかうを出しぜにをせしめんとひし
めくよくひは水のそこまで
おなし事なり「ふぐはかりあつめて
 きりみせができるげな
 おらもちつと
 てつぽうを
 はなしに ゆく べい

しんきろうといふは
らうそく
の見せ
もの しや ねえ か


5

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かくて
ながすより
ふたゝび
りう
ぐうの
せかいと
なる
はんじやうするに
つけてはいつと
なくうつくしひ
ちや屋
女ができ
これを
至極
/\

なづけ 金魚
ぎん魚を
せしめける

「こゝに又
かたしけなくも
とうりうくうからの
おや玉しやがつら
りう王の二代
めばかつら
りうわうの
御そく女
おと
ひめの 男めかけに
うらしま 太郎とてみなさま

御そんし
のいろ
男あり
えよう
いもち
のがはかの
うつくしひ
おとひめも
すこはなに
つきこの
ころは
ひそか
にこの
中すへしのひ
きたりかの
しごく
のうちにて
うつくしき
とね川やの
お鯉(り)といふ
ほつとり
ものと
あいほれにて
たかいにしねしなふ
りやうられやう
にられやふと
いふ中と
なる

(右頁下)
「そう
じつ
らしく
いつても
てまへは
もとより
さかなた
からかなら
ずおれを
こけに する なよ

「ぬしは
そのやうに
うたかひ
なはるから
わつちが此
むねを
あらひ
こいに
して
みせ
たふ
ごさり
やす
琴高(きんかう)
仙人さんに
くわんかけてらへがん

を一つしやうたつた
ぞへたとへ此身は
いとつくりにされ
いりさけて
くわれても
かはらぬ
ひはこく
しやうで
のぼり
つめたるりう門の うちで
せかるゝさきの水 ならふ
事ならぬしの所へ とんで
行たひなんのかの とひりやう
ともならん思ひに てりうぐう の
こひちだけちひ ろの
そこのそこしれ ぬ
ふかき中とて
なりに ける

「さらしな 海原」


6

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扨もうらしまとこいとの中
しな川のせつちんよりこうじ
町の井戸よりもふかくなり
こんにこんをそめこみて
るりこんのこひぢと
なり二尺五寸の
手ぬくひ
地かぶらにや
ならぬわけと
なりついに
こいはみごもり
けれはうら嶋も
いろ/\心を
いためひそかに
うませけるに
あさましや
人けんと
うをとの
中にてきたる
子なれは
かしらは
人にて
から
だは
うを
なり これ
いわゆる
人魚なるへし
しかるに此事

りうわうへ
きこゆる
ときは
両人がみの
大事と
ふびんながら
人しれず
とある
所へすて
けるぞ
うたて
けれ

(右頁中)
「はやく
ちやう
ちんを
もつて
ご ざれ

あか 子の
こえが
します

「よまはりの
 うをども
きをつける

「アゝおれも
りうぐうもので
なくはあはれわれを
そだてあげて
ふきや丁がしか
両ごくへ出せばきつと
おちをとるが
ぜひなくおしひものを
すてるぞせいじんの
のちもかならず
みせものしに
みつからぬやうに
しろ


7

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こゝに又かんだの八丁ぼりの
へんにつりふねの平次と
いふものあり つねにおきつりを
ヵぎやうにしてくらしけるが
あるときしな川おきにて
うみをみだせし女の
ばけもの船中へとびこみ
何かむしや/\くらふゆへ
き も を
つぶしけるが
これはこれかの
うらしまと
こいとのなかに
できたる人魚
此沖にて人と
なりはやとしも
十七八にて
ほんまの人間
ならいろざかり
いぢわるくかほは
ろこう小万きく
とじやくにぐにや
とみ(以上美人を象徴するものを並べているらしい)をべにおし
ろいでぬたにしたる
ごとくにうつくしけれは

なんぼからだがうをでも
つりふねの平次すこし
うかれのいろみへてまん
ざらてもなひと思ふ
「わたしはな人魚といふて
大事なひものさどうぞ
ぬしのかみさんにして
くんなだいてねんてくんな
きはなしかへ
「人魚はぶんごふしの事かい
なといふみにていちや つく
「ずいぶんだいても
ねやうがさかな
だかつて入る
ときはまた
だかつて出ると
いふからえんぎか
わるい
「此としになつて
女ほうせんさくは
きさまのからだ
じやァねえか
おひれのがくもんしゃ
ぬしの口さきのつり
はりにかゝつちやァ
あべこべだ


8

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よの中のぞくぶつどもはりほどの
事もぼうほどにいゝ
ぼうほどの事も
はしらほどにいふか
にんじやう つりふねの
平次が人魚を
ともないかへり
し事 たれいふ
となくつり舟
の平次は品川
おきてやくびやう
かみにさかなを
ふるまひそのおんを
むくゆる
ためにいへるは
此のちつりふね平次やどと
かきたるふだをはりおくべし
しかる内へはわれちかつてはいる
まじといひおしへわかれけるよし
世こぞつていひいだし
札をかいてもらはんと
大せい平二がうちへ
つめかければ平次
大に手こずる
「平次さまくだせ
おふだをくだせ


(右頁下)
「平次かしらをうちふつて
いや/\それはひか事といへとも
みな/\ねつからはつから
せうちせず

(左頁上)
一つ犬きよをほへて万丈じつをつたふと
仏教にもいへるごとくわれも/\とおしかけ
やくびやうよけのふだをこひければ平次も
あぐみはて人魚を女ほうにしたとばか/\
しくうちあけてもいわれずせんかたなく
やくびやう神のぶんにしてしまひけるも
 おかしかりき
「さて平次は人魚を女ほうにしてねもの
かたりに二おやにすれてれしわけ
をきく だん/\ふびんまさり
きゝおよびてみせものしなど
そうだんにくれども平次よくに
はなれてしやうちせず人魚を
いた
はりける
「平次人魚はなにをくふものか
しらざりしがやう/\
とひだしあかぼうふりを
とつてきてくわせる
これ人魚と
金魚の
まちかへなり

(左頁下)
わつちや
そんな
ものはいや
らくがんか
おこしが
いゝよ 
とは
さすが
鯉の
子の
しよく
このみ
なり


9(裏面)


10

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平次もとよりひんこうにて
あるとき日なしとたなちんの
たゝまりとかけ合に
せがまれなんぎしけるが
女ぼう人魚きの
どくに思ひおん
がへしにこの金の
さいかくせんと
思へども人げん
なみでさへ
御ぞんじのよの中
五文のくめんも出来は
こそさすがりうぐう
うまれゆへみせものといふ
ちかみちへきがつかず
とつゝおつつしあんして
ヲゝそれよわれはいやしき
人魚なれどもおつとを思ふ
ねん力はなどか梅がえに
おとるべき
それは?おもひ三百両
こつちはわづか七八りやう
たゞもくりやうといひてが
ありそうなものおりふし
てうづはちもなければ
うをにえんある
めだかばちにて
よに
あわ

せんと思ひこんだる人魚の
一ねんわれをわすれすでに
ひしやくをおつとらんとせしが
かんじんの手がなければ大きに
まがぬけしばしためらふその
所に思ひがけなきうしろ
よりたれかはしらずその
手はこゝにとひしやく
もちそへふり上しは
すさまじ
かりけるといふ
ほどにこそなけれ
むだらしかりける
しだ

なり

めだか
はちの
せき
しやう
ふき 水の
みへに なる

(右頁下)
歌「二八
十六は
日なし
のかけ日
二九の十八で
しちやの
里あげ
四五の二十めで
やちんが壱つ
わしや
おびもうけぬ


11

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さてひしやくをふり上るとひとしく
ばら/\と小はん小つぶふりかゝり
けれど人魚はあらありがたやと
口ではいへど手かなければ金を
ひろうことならずごふせへにきを
もみ
ける
此又
う し ろ か ら 手 を た し た 男 は
大いその女郎や
まひづるやの
ていしゆ伝三といふ
ものなりさいぜんより
ものかげにてこの
やうすをみて
いたりしがめづらしき
しろものゆへ人魚を
かゝえんと思ひ
たて?そこの
ところへ
たち出しなり

されどもからだはうをの事なれはつふしのねうち
くびばかりいけのふみにてねんいつはいをおさだまりの
くび代十両二分でかゝへる
「人魚はていしゆの
るすにさうだんを
きわめ金に
そへてかきおき
をのこさんと
思へ
ども
これ又
手か

けれ

せんかたなく
まへど冨十らか
したる
道成寺
きゝおよひ
口ひつにて
さら/\とは
かゝず
ぼつ
たり
/\と
かく

(人魚の筆先)
書をきの事
わたくし

(右中下)「イヤかく
もんだはへ
こいつ
おそれ
ありまの
人魚ウ ふでた


12

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まい
つるやの
伝三は
七両
二分
出して
とんだ
やつ
かい
ものを

づりこみ
かねてひねつた
あ く あ んじ を し た がる 男 ゆへ
うぬ は く つ? と あん

じ た きて 人魚 の な を
魚人(うをんと)と
あらため
ちか/\に
つき
たしの
おいらんに
する
つもり
なり

「だんなさんは
けしからぬあんじを
なさる ぢきに
はたきさうな
こつたと
女かみゆひ
口の内で
いふ

(右頁下)
「ほうこう人にはきか
されねへかなんと
マア人魚をいつひき
七両二分とはやすひ
じやァねへか かつほ
でもおほへの
あるこつた
「こいつをまへに
あてさせるのだ
かみはしのぶより
よこひゃうごか
せいがたかく
みへていゝ
「い しや うの ぬい は
田 
まちの
きう
林(りn)に
たのんだ から
じよ
さいは ある めへ


13

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まい
つるやが
あんじ
いよ/\
でき
あがり
ついぞ
ない
人魚の
おいらん
夕ぐれの
すこし
うす
くらく
なりし
ころを
みす
まし
中の
丁へ
出し
ければ
その日は
とうか
かうか
ばけ

あら
はさず
ちや
うして

まい
ける

「くろごにて
うしろから
手をつかふ
「人魚ゥ
つかいと
いふ事は
此ときよりぞ
はじまりけると
いふのか
コレさくしや
そうは
いわせぬ
ふるひ/\

(右頁下)
「アレが
つきだ し だ
そふな
なるほど
かほは
うつく
しひが
道中が
へんだせ
のふ
谷我子(こくがし)

「江戸やに
たしか
甚五郎
さんが
いさしつた よ


14

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あるきやく魚人が
しよにちにきたり
とこかおさまかと
びやうぶの
うちをまつ
くらかしかの
くろごをきた
るものうしろから
手を出し
たばこをすいつけて
出しいろ/\しうちはすつかり
人間のとをりにてぐらかしけれども
とかくわるなまぐさきゆへこたへかね
きやくはにけだすをにんきよつかひは
かへすまじとそてをひかへつゞひて
かけ出しけるかかんじんおほんぞんの
人魚はかゝふの
どう中の
つかれにて
たわいなく
ねいりいた
れば手はらう
かにあつて
あたまはと
この内に有
てんから
ばけを
あらはす

まひつるやのていしゆが思ひつき
きんねんのはたきにて
しよにちからみそをつけ
まひつるやへははけものがでる
とかなんとかひやうぎしけれは
人魚を一日もうちに
おかれずざつとめにみへて
七両二分をそんにして
人ぬし平次をよび
引わたす

「イヤ はや
つき出しの入用はいふも九太夫おのがひがらと
いひながらいしゃうからくしかうがい
やかうにびやうぶよぎふとんはんぞう
ひばちたばこぼん
きやうだいちやうちん
ながへげたたんす
ながもちさらさはち
すりごぎすりばち
はち/\/\がら/\/\
いくらのそんかしれませぬと
きつねつきにういらう
のませたやふに人魚のをに
おをつけてしやべる

(右頁下)
「なんでもこの女郎はばけものだ
あの床のうちから
こゝまで手がとゞく
とはさて/\
ながい手だ

(左頁下)
「かき入かおゝく
なつてほんやが
うちますから
わたくしは
たゞ
ハイ/\と
はかり
申 

おり
ます


15

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こゝにつり
ふねの
平次が
きんじよに
一人の
はくぶつ
ありけるが
平次か
人魚を
女ほうにして
もちにつゝときく
かれにしめしていわく
夫(それ)本草に人魚と称
する者二種あり 曰く
䱱(魚へんに帝・てい)魚(ぎよ)曰く鱬(魚へんに需・じゆ)魚又異物志に
人の形に似て長さ尺余
頂きのうへ小穿(すこしきあな)ありとは
しるせいかどかゝるほつ
とりものなる事をしらず
またむかしよりいひ
つたふるに人魚を
なめたるものは千歳の
しゆみやうをたもつといへは
何にもせよ金になるしろもの
しやといわれて平次大いによろこび

さつそく門口へじゆみやうのくすり人魚御なめ所と
いふやすかんばんを出しければ何がむしやうに
よくばり天めいのものさしにはづれて
ながいきをしたがるぞくぶつとも千年
いきるときゝわれも/\となめに
来たりけるこそおろかなれ
「たゞしなめちんは一人まへ
金一両一分つゝよび出しちうさんと
同じねだんなり
「ぬしはいつそ
口がくさひよ
「平次そばて
はやす
「ひやうしにかゝつて
なめさつせへ
「ひやうしにかゝつて
なめまんしよ
「なめるものにとりてはしよくわいの
たしきのさかづきかていしゆの
るすの女ぼうか?どう二の
ふんだたいこ二か水あめ
ひしほきんざん
ごまいそゆずみそ
さそうみそハアひやうしに
かゝつてなめさんせへ
ドコツク/\スコドコドン/\
「せんのかたはおかわり

(右頁中)
みな/\
ばん?の
ふだにて
じゆんになめる

おの/\なめる
かほはなはだ
りかうらしく
みへる

(左頁下)
「ひやうしに
かゝつて
なめまんしやう

「いつそ
もつと
下のほうが
なめたい

「なんほ人魚でも
すこしははつかしく
かほをづきんにて
かくす


16

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ふか川の
みぶが
はやると
両ごく
へも
でき
となりで
ちう
しん
くらを
すると
こつ
ちも
忠臣
くら
十二文のちやつけみせは
とこほんけやら
しれなくなり
じやうしうで
八丈をにせ
れば
八王子でも
おり出す
なか/\
ゆだんは
ならず
われおとら
じと
おつかふせる
よの中
つりふねの
平次が

人魚をなめ
させて大金
をもうけ
ればその
となりの
ていしゆ
よくしん
ものにて
やがてあん
じ付
女ほうの
山のかみか
ふくら
すゞ
めの
やうなつらへおしろいをこて/\とぬらせむねから
下へうちのこぞうか五月のこいのふき
ながしをとえい出してはかまにかはせ
にた山にん魚にしたててこと/\しく
かんばんを出し一なめ二百文つゝのやす
うりを出しかけけれどもこいつはさぎを
うらずにたかをちうさんなんぼ
こけな俗物でもその手は
くわずたれひとりなめに
こぬゆへていしゆやけをおこして
ふうふげんくわをおつはしめる

(右頁下)
「うぬがきが
きかねへから
はやらねへは
このほんばりめ
はりさけらァ

「マアこいの
きものを
ぬいでから
ぶたれやう
はなしねへ
/\

(左頁下中)
「おいらは しらぬ
かゝさんは ように
おとゝに なつた
おいらは しらぬ

(下)
なにはら
さけるへ
きいたふうな
はりさける とは
このごろ
よしはらの
はやり ことばかへ
そんな事は
しらねへ
こつちやァ
このふき
ながしが
はり
さけらァ


17

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かくて
つり
ふねの
平次は
すこし
のうち
に女
ぼうの
物かげにて
大かねを
もうけ今は
なにふぞくなきみの
うへと
なりけれは
きんじよのわかいてやい
これをうら山しく思ひ
平次かぶ男をみこみも
人を人ッくさいとも
思はず人魚をうをッくさい
とも思はぬやから平次が
つすといふとしけこみ
いろ/\いやらしきせりふを
のべてはりけれとも人魚は貞魚
たゞしく中々せうちせずさかなたけ
おひれにてはねつける

平次はまんとしたかね
もちとなり此うへの
よくにはどの二郎に
あらけどもとし二十
だにわかくんはおもしろ
たぬきとてすへもの
なればまかなすきがな
女ぼうをなめけるが
なめればなめるほど
わかくなるが
おもしろさ
にわれを
わすれて
あんまりなめ
すぎついに七つ
ばかりのこぞうとなり
女ぼうはにんぎよていしゆは
子どもさりとはつまらぬ
事となる あまりゆき
すぎるものをなめ
すぎたやつだと
いふも
こんな
事から
いひ
出せし
なるべし

(右頁中セリフ)
「人魚はかまひつけず
つんとしている

「しやうじん
日には
つきやはれ
ねえよ のふ

(下)
」あす
あたりは
むさし
やへ
でも
いつて
しや
れる
きは
なし かへ
しかし
この
ごしん
ぞも
むかふ
しま
では
ゆだんの
ならねへ
なりた

(左頁下)
「それみなせへし
あんまりなめ
すぎなはるから
そうた

「かゝアヤこれ
まあどうした
もんだ
アゝちゝが
のみたく
なつた


18

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さてもつりふねふうふなんぎの
ところへうらしま太郎こいを
どう/\してあらわれ出 かの
こちもとなりし平次に
たま手ばこのふたを
あけさせけれはあいかはらず
としの
よる
玉手はこの
いとくにて
てうどいゝ
かげんの
男ざかり
かん平どのに
なるかならずと
いふとし
かつこうに
なりければ
平次大きに
よろこびける
これたまごで
ふやして
くわいで
へらした
やうな
ものなり

(中段セリフ)
「きよねん
ふか川の八まんで
かいちやう
ありし
玉手はこは
すな わち
これ なり

(左頁上)
さて女ほう人魚も
わかひてやいが
手を付たり
あしをつけたがりし
一ねんにて
はかまを
ぬぎたるごとく
一かはむけ
あし手が
できてほんとうの
人間となり
けるこそ
もつとも
あまり
こじつけにて
うますぎたる
ほどふしぎなり

「平次は人魚と
中むつましく
うとくの
ことなり
さかい丁へんへ
ぢうたくを
こしらへ
引こしける此所を人魚丁
といひしが今は人形丁と
あやまりける

(下)
「ゆくすへ
ともに
ももるへし
かならす
うたかふ
事なかれ
しかし
あてにも
する事
なかれ
ドロン/\
ドロ/\/\/\


19

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此ものかたりは
七千
九百年
ほど
むかしの事にて
どうか一通りにきひて
はうそらしけれとも
もうとういつはりにござ
なく候 人魚はもとより
ふろうふし平次はとしが
よりそうになるとは女ほうを
なめ/\して今にこのふうふ
ぞんじやうにていまはわたくしとなりに
ぢうきよ仕り候このうへいくらいきやふやら
そのほどはしれ申さず
とうぼうさくにたつた
百年ちがつてやくはらひの
もんくにはもれたれども
金もまんと今に
あれはまことに
外々のくさそうし
のしまひでき合の
めてたかりけるとちがひ
これはかくべつに御あつらへ
とびきりのめでた
かりけるしだいなり