仮想空間

趣味の変体仮名

国性爺合戦 第四

 

読んだ本 https://archive.waseda.jp/archive/index.html
      浄瑠璃本データベース イ14-00002-299

 

76(左頁)
   第四
もろこしの便今やとまつらがた 小むつが宿のあけくれは
からの姫みや相住みを あたりとなりもうき名立唐と日本の
しほざかひ ちくら者かとうたはげり 夫も今は国せんやと名を
改 数万騎の大将軍と聞からに 我も心のいさみ有 わか
しゆ出立にさまをかへ撫付びんの大たぶさ ひすいの大づと
ふつさりと禰宜のむすこかかうやく売か 女とよもや水浅黄


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のもゝ引しめてはおりきて しゆざか木刀しんくのさげお
花の口べに雪のおしろい すげ笠ふかくはぎ高く あしもと
かろき濱ちどり はまべつたひを 日参の 印まつらの住吉や
しんぜんにこそつきにけれ じうまんごぐはんときせいをかけ手
を合すると見えけるが ひらりとぬいたるいあひのはやわざ
神木の松を相手取 木刀かざしおどりあがつて声をかけ えい やつ
たう/\えいたう えいやつたうと上段下段の太刀さばき かげらう

いな妻しゝふんじん足取手の内四寸八寸のひらきふみこん
で打入身の木刀 こぼくの松の片枝を ずつばと切ておとせしは
今牛わか共いひつべし いつの間にかはせんだん女もりの影より走り出
ナフ/\小むつ殿 毎日/\時をたがへずかはつた風俗 けふといふけふ跡
をしたふて見付しが 誰にならふて此兵法(ひやうほう)きようなことやと
の給へば いや師匠はなけれど夫の打太刀 ならはふよりなれ
ての事 もろこしの便心もとなく おむかひ身は参らず共 お供して


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渡らんと此明神へ吉凶を祈り候へば 是見給へ 木刀にて此
松の木の真剣のことくきれたるは 神なうじゆの印と申 商舟(ばいせん)
の便船(びんせん)しせつも能候と 申上ればそれは嬉し頼もしし へんし
もはやく戻してたべと御悦びは浅からず 御心やすくおぼしめで
惣じて此住吉と申は 舟路を守りの御神にてじんぐうくはうぐう
と申帝 しんらたいぢの御時 汐ひる玉汐みつ玉を以 御ふねを
しゆごし舟玉神共申也 むかしもろこしの白楽天といひし人 日本

のちえをはからんと此秋津州に渡り給ひ もくぜんのけしきを
取あへず せたい衣を帯て岩ほのかたにかゝり 白雲帯に似て山
のこしをめぐると 詠じ給へば大明神 いやしきつりのおきなと現じ
一首の歌の御こたへ こけころも着たる岩ほはさもなくて きぬ/\゛
山の 帯をするかなと 詠じ給ひし御歌に ざつとまつて楽てんは
爰より本土に帰るとかや 国を守りの御神の 其御歌はこけ衣
我身に受て旅衣 いざ迚ふたり打つれて舟路 はるけく「なりふりや


79
   栴檀女道行
からこわげには さつまぐししまだわげには とうぐしと
やまともろこし打まぜて さしものならはぬたび立や 舟と
くがとを行道は笠すてられずふところに 枕をたゝむ
夢たゝむ 千里をむねにたゝみこむ 女心のつよゆみも 男
ゆへにぞひかれゆく 我はきやうを出るたび 君は古郷へ
もどるたび二葉に見せてせんだん女小むつがいさめ力にて

大明国へと思ひ立 心の内こそ はるかなれ おやと
妻とを 持し身は 何かなげきは有明の月さへおなじ月
なれど なふふたり見なれし ねやの中 名残数々大村の 浦
のはま風一村雨はさら/\とはれてもはれぬ我涙 袖
につゝみてたもとにのごふ かゞみのみやげにかげとめて 泣ぬと
人や見るめのうら ふりさけ見れば久かたの 日も行末の空
とをく 帰るさいつぞ天津かりさそへやさそへ わがつまも 廿


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五すぢの琴の糸むすびちぎりし年のかず いざすがか
きてはこ崎の 松としきかば 我もいそがん いそべづたひに
よちもかく あまの子共の打むれて はじき石なご又長
か半 三つ四つ五つかぞへては おさなあそびもむつまじく
七瀬のよどに行く水も むかしのかげやかくれんぼ 鬼のこぬ
まとうたひしもぬれてかはかぬたび衣 もろこしふねを ま
つらがは みなともちかの浦風に そなたのかたを見給へば いそに

手ぐりのくりやがは波にゆらるゝつり舟に びんつらゆふ
たるどうじ一人 あみはおろさでつりざほの いとゆう/\とねふり
くる なふ/\おちご 我々はもろこしへ渡る者 よからんかた迄
のせてたべとぞ仰ける あら何共なや ひとりはもろこし人
ひとりはつくし人 女性(しやう)の身にてもろこしへ渡るとは恋しき人
の有やらん 二千里の外古人の心 三五夜中にあらね共影
をもらさぬ月の舟 とく/\めされ候へとはや指しよするみなれ


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ざほ ふしぎのえんと打のりて こがれゆくえも白波にな
ぎてのどけき海の面 つゞきて見ゆる八十嶋をいこくの
人の家づとに おしへてたばせ給へとよ どうじへいたに立あがり
うなばらはるかにゆびさして いかに旅人聞給へ 先あれにつゞくはき
かい十二の嶋 五嶋七嶋中にもあのしろき鳥の おほむれいる
はしら石が嶋 こなたにけふりの立のぼるはいわうが嶋 扨又南
に高く かすみけるはちどの嶋なり あれはいにしへ天てる神の 住

吉の明神にふえふかせ ぶきよくをそうしふた神の遊び給ひし
所とて 二神嶋とは申なりなふ もろこし人とぞかたらるゝ かたる
間に しき嶋のはや秋津すの地をはなれ それより先のしま
/\の嶋かと見れば雲のみね 山かと見れば空の海 風はなけ
れどあまに舟 天の鳥舟いはぶねの 空はしり行 ごとくにて
山なき西に山みゆる月に さき立日につれて日の本出し秋かぜ
の 立もかはらず其まゝのまだ秋風にすゞきつる ずんかうの みなと


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につきにけり 人々舟よりあがり給ひ 誠におちごの御情座し
たる様成舟の中 かゝるはとうを時のまに渡し給へる御方は いか成人
にて有やらん 人かましやな名もなき者 我日の本に昔より
住なれたれば住吉の 大かいどうじと申者 いとま申て此わつはは
すみよしにたちかへりきてうを まち申さんと ゆふなみの
みぎはなるあまの あぶねをこぎもとし おいかぜにまかせつゝ
おきのかたにいでにけりやおきの かたへぞ


  きうせんさん
つたへ聞とうしゆこうはこうせんをともなひ くはいけいざんに
こもりいて しゆ/\のちりやくをめくらし ついにごわう
をほろほして こうせんの本意を 達すとかや むかしをとへは
遠き世の ためしもごさんけいが 今身の上にしらくもの
山より山に 身をかくし 太子をそだて奉る うつればかはる
こけむしと きうぜんのやうりうじぜんの花 みねのこぼくに


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立かはりゆふべのきりの間には我身を以てしとねとし
らんよしよくしやのてぐるまもつたの ふしきにおりかへて
朝の露のほとりには 谷のましらのかたに賀し はやふた
とせはきのふけふ くるゝも山あくるも山 我名も君か顔はせ
も 人めをつゝむ雲(くも)水に ふじのかけ橋とだへして みやまがらすや
ぬえこ鳥 こずえにきなくあふむさへ むかしをまねば声はなし
水遠くして山ながく 根ざゝ草原まきひはら 峨々と

そひへしさいくはいの山路につかれ行末は名にのみ聞しこう
くはふの きうせんざんによぢのぼり しばしたゝずむ 松
かぜも なれてや ともと住なれしはういはくはつのらう
おう二人石上にごばんをすへ 黒白二つの石の数三百六十一
目に 離々たる馬目連々たる雁行 わきめもふらぬ碁の
しやうぶ 心はさゝがにの そらにかゝれる糸に似て 身は空蝉
のかれ枝と成 うき世をはなれししゆだんのわざ 中間禅の


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かうたいかと太子を石だんに移し参らせ 枯木の株におとがい
もたせ 見とるゝ我も諸共に よねんのちりをやはらふらん
ごさんけい興に乗じ なふ/\老人に物申さん 市中をはなれし
座陰のあそび面白し去ながら 琴(きん)詩酒の三つの友をはなれ
碁を打て勝負を諍(あらそ)ひ給ふこと別にたのしむ所ばし候か
おきなさしてこたへなく ごばんと見れば碁盤にて碁石
見るめは碁石也 大地せかいを以て一面のごばんとなすといへる

本文有心上の須弥山是に有 大明一国の山河草木 今
爰より見るになとかくもらん 一角に九十目四方に四季の
九十日 合せて三百六十目 一目に一日を送るとしらぬおろか
さよ おもしろし/\ 天地一体の互にふたりむかふは何ごとぞ 陰
陽二つあらざれば万物(ばんもつ)とゝのふことなし 勝負はさていかに
人間の吉凶の運にあらずや 扨白くろは 夜る昼
しゆだんはいかに 軍の法 切ておさへてはねかけて 軍は


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花の乱れ碁や 飛かふ烏 むれいる鷺とたとへしも しろき
くろきに夜る昼もわかで昔のおのゝえも おのづからとや
くちぬべし おきな重ての給はく 今日本より国性爺と
いふ勇将わたつて 大明の味方と成只今軍まつさいちう
是より其間遥かなれ共 一心の碁情(ごぜい)がん力にあり/\と 合
戦の有様目前に見すべしと の給ふ声も山風も碁石
音にそひゝきける ごさんけいはつと心付 げに/\爰はきう

せんざん此九仙山と申は四百余州を目の下にみねもかす
かに おぼろ/\と雲かと見れば一霞 ふもとにおつる春
かぜの 風のまに/\ ふきはらす 空は弥生のなかばなる
柳桜をこきまぜて にしきにつゝむ じやうくはくの あり/\と
こそ 見えにけれ 何国の誰がこもりしぞ 門高く 堀ふかく とり
出/\にかいだてつき 要害けんそを 帯たりし こう/\たる
高やぐら あがるひばりや かへりかり花と 見つゝも色々の はた


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につばさややすむらん のどかにてらす朝日かげ 月影打て
付たるは日の本びめいをあらはし 延平王国せんやがのつ
取たるしやくとうじやう いはねどそれとしらまゆみてつほう
高麗(こま) ほこ 鑓長刀大はたに籏なびき合 ふきぬきのぼり
馬印 へんほんとひる返り天も五色にそめなせば 藤もつゝじ
も山吹も共に「うつろふ いろ見えて春の日数は盤上の 石
の数とそつもりける わか葉が末の ふかみどり はれ行雲

のたへまより是なんきんの雲門關と 名乗て出る ほ
とゝぎすまんまく高き 卯の花がきことしも夏のながばなり
方三十里にさるも木引 関の大将左龍虎右龍虎
三千余騎 かぶとの星をかゝやかし たいこを打てらん
でうし 鳥の空ねは は か る共 ゆるす方なきいき
おひに 劔は夏野の薄をみだし 火縄は沢のほたる火と
ようがいきびしき関の戸は鳥も 通はぬ斗なり 日本そだ


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ちの国せんや たとへば此関てつせきにてかためたり共 押やぶつ
て通らんと わらんべがしやうじひとへやぶるよりもやすけれ共
軍中のめさましに 我本国文治のむかし むさし坊弁慶が
あたかのせきもりあざむきし ためしを引やあづさゆみ軍兵
にめくばせし そも/\是は りきんのふもとやうきひの御べう所
大真殿(しんでん)さいこうくはんじんの大行者(ぎやうしや) くはんじん帳をちやうもんし
すゝめにいれや関守と ぐんぜいの着到一巻取出し みかたの

きたう敵てうぶくとくはん念し たからかにこそ よみ上けれ
それ つら/\おもんみれば たつたんぎやくとの秋の月は むざん
の雲にかくれ しやうじふぢやうのながき夢 おとろかすへき勢
もなし 爰にそのかみ 帝おはします御名おば けんそうくはう
ていと名付 奉りてうあひの ぎよくひにわかれ れんぼ
やみがたく ていきう眼にあらく涙玉をつら ぬく思ひを せん
ろにひるがへして大しんでんをこんりうす か程のれいぢやう


88
の たへなんことをかなしみて りんきやうのはうじか末葉 諸国
をくはんじんす一戦合戦の輩(ともがら)は 敵方にては首をほこ
につらむかれ味方にては 合戦勝利の勝時あげん
きめうけいしゆうやまつて申と天もひゞけとよみ上
たり 関の大将右(う)龍虎左龍虎すは国せんや とんで
火に入夏の虫 こずえにせみのおめいてかゝれば につ
こと笑ひ はんくはいりうはめつらしからず 門をやふるは日本の

朝比奈流を見よや迚貫の木さかも木押やぶり むかふ
者をたゝきふせにぐるをつかんで人礫 左龍虎(されうこ)右龍虎打
取てなんなく過る月日のせきや 碁盤の上も せき吹
こゆる 秋の風霧はれわたる山城は たつたんの軍将海利(かいり)王が
たてこもり 前はがんへき後ろは海 要害頼みの油断を見て
秋の夜討の国せんや乗たるこまのくろは虫 月まつむしの
声すみ渡り しん/\りん/\しづ/\/\と 堀ぎはちかくせめ


89
よせて 百千の高ちやうちん一度にはつと立たるは 千世界の
千日月一度に見るがごとくにて 城の兵ねみゝに水の あは
てさはいで甲を脚(すね)当鎧はさかさま 馬をせなかにヲゝ /\/\/\/\
大手の門を押ひらき 切て出ればよせ手のせい かいかねならし
時の声 大将だんせん追取てひらり /\ひら/\ひらり ひら
めかし 日本流の軍の下知 せめ付ひしぐはよしつね流
ゆるめて打は楠流 くりから落し坂おとし八嶋の浦の

浦波も爰によせ手のいきほひつよくもみ立/\
「切立られ城中指てぞ引たりける 時分はよしと夕
やみに日本ひみつのほうろく火矢 打てはなつ其ひゞき
しゅみもくづるゝ斗なり たてもやぐらもあまのたく しほの
けふりかすみがまかほのほは秋の村もみぢ 楚人(そひと)の一炬(こ)に
焦土となんぬ かんやうきう共いひつべし 国せんや勝時の
こまの手づなをかいくつて 輪のりをかけてくる/\/\くるり


90
/\とのり廻しめぐる月日にいつはりのなき世 なりけり
神無月しぐれて過る おかのべにむね門高きしやう
くはくこそ 是も国せんやが切取しほくしうのちやうらく城
のきのいらかはらん/\と玉を色どるはつあられ みぞれ
まじりの夕嵐吹くる上にふりつもり へいもやぐらも
うづもれて雪のながめは おもしろや 其外みんしうけん
しう諸国の府 三十八ヶ所切取て 太子の御幸を待

顔に所々に付城きつき ひやうらうぐん兵こめ置て
いせいは天の気にあらはれ手にとる 様にぞ見えに
ける こさんけい悦喜のあまり身をも人をも打
忘れ 太子をいだき奉り城有山へとはしりゆく
二人のらうおう引とゞめおろかなり/\ もくげき一じゆんに
見ゆるといへ共 各百里をへだてたり 汝此山に入て一時
と思ふ共五年の春秋をおくり 四年に四季の合戦を


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見たるとはよもしらじ かくいふ中にも立月日太子の
せいちやう汝が身の おもかげをよく水かゞみ 水きよけ
ればかげきよし汝忠有誠有 心の鏡にうつり来る
我は先祖かうくはうてい 我はせいでんりうはくうん
すみかは月の中に立かつらのうら葉吹かへし 智見の目
には上十五 下十五夜と見つれ共 しゆじやうは心
みだれ碁の 石とやさぞな見るらん 又水中の遊魚は

つりばりとうたがへり 雲上のひてうは 弓のかけ共
おどろけり 一りんもくだらず 万水とてものぼら
ねば みちてはかくる影あれば かけてもみつる月を見よ
しばしが程の雲がくれついにははれて天てらす 日の本和
国の神力にて太子の位ははや出る日と の給ふ御こえは
松ふく嵐 おもかげ斗は松立山のみねのあらしに吹
かくれてぞうせ給ふ ばうぜんとしてごさんけい 夢かと


92
おもへばまどろまず げにも五年の月日をへたる
しるしにや 我顔にはひげのびたり 太子のそん
よう時のまに御せたけも立のびて はや七歳の
御物ごし ごさんけい/\とめさるゝ御声おとなしく 雪
のみやまにうぐひすのはつねを聞しおもひにて
あひ/\/\とかうへをさけ 天をはいし地をはいし
うれしさあしも定まらず二度夢の心地せり

御前に手をつかねいにしへのていしりうが一子こくせんや
日本より渡つて味方の義兵をおこすことは 音にこそ
承れ 春秋五年のくんかうあきらかに 大明半国はとり
返し候へば 国せんやに案内して 君是にまします旨
を告しらせ度候と 申もあへぬにはるかの谷のむかふ
より なふ/\それ成は しば将軍ごさんけいにてはなきか ご
さんけい/\とよばゝる方を能(よく)々見て 御身は昔のていし


93
りうか 是は/\ごさんけい 命あればめづらしや 一子国せん
やがこきやうの妻 でんだんくはう女を御供せしと 招きあへば
姫みやも なつかしのごさんけい おことが妻のりうかくん命
かけての忠せつにて うき世を渡るうかき舟日本へふきなが
され 一くはん親子夫婦のなさけふしぎに二たびあふ事よ
りうかくんは何国ぞみどり子は何と成けるぞ はやふ
あひたいあはせてたべとこがれ 給ふぞ道理成 されば其時

のふか手にて 我妻はむなしく成后も敵のてつほうに
命を落し給ひしゆへ たいなひをたちやぶり 我子をがいし
敵をあさむき 太子は山中にて やす/\そたて参ら
せし はや七歳のおひさきは是に渡らせ給ふぞと かたる
に付て姫みやも わつと斗にどうどふし人めも わかぬ
御なげき思ひ やられていたはしく 一くはんふもとを見返つて
あれ/\ばいろく王めが姫みやを見付 数千騎にて追


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かくる年寄ぼねにりきみを出しふみとゞまつて命かぎり
ふせぎさゝへんとはやれ共 みやの御上あぶなし/\ それへどう
ぞのけたいが此山不案内 谷をこす道は有まいか いや/\
此山まはれば六十里 たにふかふてそこしれず 是へもよば
れずそこへもこされず エゝいかゞせん何とかせんとこくうをはいし
たゞ今きずいをげんじ給ふ 御先祖かうそくはうてい せいでん
のりうはくうん 神仙みめうの力を合せ ひぢやうのなんを

すくひ給へと 太子諸共一心ふらんにきせい有 姫みや小
むつも手を合せなむ日本住吉大明神 ふくじゆかいむ
りやうとたんせい無二の心ざし 天もかんおう地もなうじゆ
とうこうより一筋の雲無心にしてたな引ば 天のかけはし
かさゝぎの 渡せるはしや かづらきのくめの岩はし夜るな
らでゆめぢをたどる ごとくにて渡る共なく行共なくむかふの
みねにのぼり付 足もわぢ/\ふるひけり 程なくそく兵


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うんかのごとくどつとかけよせ あれ/\太子ごさんけいも見へ
たるは 思ひもよらぬひろひ物 いわし網で鯨を取とは
此こと まとに成たるやつはら やれゆみよてつほうよ打とれ
いとれとひしめきける ばいろく王下知をなしやれまて/\
後ろはひろしのきばは有 ゆみてつほうは叶ふまじ こりや見
よついに見ぬかけはし ひつぢやう国せんやめが日本りうの
そろばん橋 たゝみばしなんといふ物ならん 敵に喰物あてかふは

おろかのぐんほう つゞけや者共わたれや渡れと五百
余騎 おし合つめあひ我さきにと えい/\声をかけ橋
のなかば渡ると見えけるが 山風たに風さつ/\/\と
雲のかけはしふき切て 大将はじめ五百余騎 どた/\/\
と落かさなりめつかう打わるあたまをくだく ないつわめいつ
いやがうへたにをもうづむ斗なり ごさんけいていしりう
えたりかしこし心地よしと 大石大木あたるを幸 なげかけ


96
/\打つくれば 一騎も残らずせつなが中人のすしとぞ成
たりける 中にも大将ばいろく王 岩根をつたひかづらを
たぐりはいのぼれば こさんけいゆうせんのごばん引さげ
こりや 此ごばんはところでねつて石よりかたく にがふて
口にあはず共一口くふか おのれが一目めをもつて御無用
の碁の相手 ごせいを見よとあたまを出せばてう
ど打 つらを出せばはたと打 ぶち付/\のうも鉢

も打くたがれみぢんに成てぞうせにける ヲゝ/\/\本望/\ 本
朝にかゝるためしは せんれい吉野のごばんたゝのぶ それはかや
の木是はところのきうせん山 先手が味方へ廻りくる四つめ
ごろしになかてを入て しちやうにかけて打切て せめてから
めてたち切て 手づめのせきを勝軍(かちいくさ)かたきのはまをひろ
ひ上 国も御代も打かへて手をつくしたるこうも有 忠義の
道はまつかうかう 道はかうよと打つれて福州(ほくしう)の 城にぞ入にける