仮想空間

趣味の変体仮名

火水風災雑輯(一) 32~34コマ

 

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2592140?tocOpened=1

 

 

32

火之  用心

元は重(おも)たつ人か見まはりてとふそ火出しにならぬ

元は念を入見よ客あつて大火をたきしあとの

元は夏はねむりて蚊屋かやり冬さむがりのこたつ

元はひるに留主より夜はニ階納屋えん下をとくと

元は大工左官のかんなくづたきちらしたる場所の

元はきせるてうちん大打ばこ付木物かげしそく

元は風呂場とり灰火けし壷火に縁のあるところ

為にはしご水籠水はゝき火たゝき鳶嘴そろふ

為に蔵の戸前やつち戸をは折々たてゝうこく

為にわらし手拭たすき帯くすり小つかひ常ふ

為に着替のきものさだめおけすはやといへる時の

為に手桶水がめ桶の類よるは一はいみづの

為によるはなよする風呂の湯も燃立火をはしめす

為に常に見まはれ鼠あるはそんなきやと蔵の

時は老人子供病人を怪我せぬやうににかす

時は内仏過去帳諸帳めんしよう文類をいたす

時は蔵にいれすと大せつなものはもちぬきやかぬ

時はとちめんぼうふるな長持やたんすの棒を兼て

時は盗人多くある物ぞ顔見て荷物わたす

時は火のある火鉢火入なとあはてゝ蔵へいれぬ

時は金銀なとに目かくれて大事の命すてぬ

 

 

33

 てんへんかぎりなし

五穀大安売

 乍恐取越九郎を以奉申上候

一大雨之砌御座候得共益御きらひ能罷遊ごろ急惑至極

奉存候光は私見世数年来夕立類売買仕罷在候處

夜中班鐘(はんしやう)仕難(がたく)明ケ仕合奉存候光る處此度雨風之上風渡

黒雲夕立類山々ゟ沢山仕入仕手相成丈御おどろき第一仕且又常々

奉御天気預候に付よふきのため下直奉差上候間へそ開kき

当日ゟ御きびし敷御落雷被成下不限昼夜ごろゝ向被仰付

被下置候様奉希候以上

 

一所々おつこちしぼりちりめん 一念仏題目ゆふき木像

一まつさほかほ色木像也 一案心しかぬよく朝御上下地

一観音経染一不乱ちりめん 一又鳴り苦労びろふど御帯地

一蚊屋の中一トちゞみ 一夜一トよねづにもめん

一おつかなびつくり色御望羽織地 一年代記にのるだろふ引さらさ 御かひ巻地

一往来ひつそりかん紗御羽織地 一雷おつこち評判きく紋縮面

一雷おつこち杉の木ぶつさき御羽織地 一富士喃風おりちりめん

一八日もめん御地伴地 一とらのかわ御した帯地

 

一御婚姻御規式靏亀松竹梅御模様大雨大振袖仕立念入

 下直奉差上候以上 但雲切品々下直奉差上候

御目印 (暖簾の図) 天笠えちよと上る町同店 江戸驚天馬町弐丁目

       雷まる店

八月八日 当日麁景御座候得共

     桜の間奉差上候

 

34

「雷裮年暦并場所?」

(上段)

「天智九年」京都法隆寺雷火 当年迄千百六十五年

「延喜三年」三月十六日京都大雷 同九百十六年に成

「久安五年」高野山に落る大塔雷火 同六百八十六年に成

「寛文五年」大雷大坂表雷火 同百七十年に成

「寛政十年」京都大仏殿雷火 同五十三年に成

(下段)

「仁和ニ年」京都東寺塔雷火 同九百四十九年に成

「延長八年」大雷清涼殿に落る所々 同九百六年に成

「永禄六年」京都東寺らい火 同二百七十二年に成

寛延三年」京都大坂大雷所々落る

同八十三年に成

嘉永三年」江戸大雷百斗ヶ所

落る

 

いにしへより大雷右の如く常といへどもいまだ今年のごとき大がみなりをきかす

夫天地不時の勢動は陰陽混したゝかふの理也此故に陽気陰につゝまれて地にある

時は動いて自身をなす陰気のこり陽にさそはれて天に昇りてこへをはつす

これを雷といふ皆これ抔は豊年のきざし也時に嘉永三年戌八月八日の夜

江戸表をはじめ関八州其外国々共にらいでんはたゝがみすさましく稲妻ははためき

わたりまなこをつらぬく如く女小児はおそれさはぐといへどもじつは出来秋のみ入よしとぞおも

はれける抑雷神は陽徳のものなれば陰しつをはらい邪気を

さんず此故にしつ気をうけす悪病おこらず或は五穀を始め

野さいもの又はなりくだ物すべて田畑野山に生する物熟してみのりよしとかやされば此秋

天幸ひを万民に下し玉ふ所なれば幸ひの下りし場所と小細に

しんして遠境の人々に豊年のことぶきをしらせはへるなり

 

 鳴神御下り場所

(上段)

一柴井丁海手

一神明丁海手

一つきち

一西久保かはらけ町

一もりもと

一天徳寺

一芝松本町

赤羽根

一白金臺丁

一伊皿子揃木谷

一麻布百姓丁

一同広尾

一赤坂牛なき坂上

一いづみばし向

(二段目)

下谷 二ヶ所

一ゆしま

一つまごひ坂上

一本郷元丁

一浅草もり下

一本所立川 三ヶ所

一同石原

一同釜屋堀

一浅草誓願寺

一深川北川丁

一八丁ぼり

一元濱丁

一青山 十八ヶ所

一番丁 八ヶ所

○所々の立木 さける うち にも もけて 青山 八五枡 の 松? 二抱 

某 の 大木 なり しが 根本まで 真ッ二ツに さけて たゝらの ごとくに なる

(短冊)

「一番」「い組」「深川」「二番組」「ろ組」

(三段目)

 在方之分

一濱田 雷火にて 少々やける

一船ぼり

一千住

 海の分

一品川沖也 三ヶ所

船橋沖也 弐ヶ所

  ○

此内

一生凡五ヶ所在之候

 

紀州様 御上屋敷 表長屋

一杉の木 雷火にて焼る 千駄ヶ谷 紀州様御屋鋪

尾州様 御家老 成瀬隼人正様

一同 同 竹腰兵部少輔様

一同番所鬼瓦 并奥柱さける 東の方通用の限 水戸様表御門

一表門敷石 そんじ 松平陸奥守様 御上屋鋪

一榧の木 さける 本村丁 松平陸奥守様 御中屋鋪

一杉の木 さける 三田寺丁 松平肥後守様 御下屋敷

一芝新銀座 同 御中屋鋪

一同所 森越中守様

一向柳原 井伊兵部少輔様

一池の中へ落る 池水湯になる 座市古川 松平八十郎様

一中間部屋へ落る 表二番丁 戸田平左エ門様

一垣根際へ落る 青山権田原続六道御すきや同心 荒川豊吉様

一地内芋畑に落る 四谷安楽寺門前路新屋敷小責供 松浦源太郎様

一小石川 伊賀坂 武士屋鋪

一立木へ落る 千駄ヶ谷 鎮守 八幡宮

一中渋谷 百姓 安五郎

一御林の内へ落る 松の木さける 上野御別当 寒松院

(四段目)

一土蔵え落る 芝新網町代地 家持 藤兵衛

一二階へ落る 松弐本さける 飯倉五丁目 家持 貫治

一玉蔵へ落る 瓦打くだく 同的ばやしき 家主 長右エ門

一土蔵鬼瓦打砕 蔵前へ落る 神田多丁壱丁目 質屋新兵衛

一居宅へ落る 松二本さける 深川八名川丁藤兵衛店 新兵衛

一浄土宗 麻布日ヶ窪 徳乗院墓所

一二階庇へ落る 柱弐本さける 飯田丁中坂??店 源蔵

一松の木二本さける 三番明地 護持院ヶ原

庇合に落る 角松一本さけうr をはり丁二丁目七兵衛店 周介

一庇へ落る 音にてか御死 宇田川丁東うら通り 醫者 佐藤氏

一かし米蔵へ落る 当火にてやける 表か四八丁又左衛門殿 森左??支酔 直七

一土蔵へ落る 鬼瓦けらは共砕 品川丁うらがし 家持 平作

庇合へ落す 道寿やしきすきや丁 越後屋錦店

一土蔵へ落る 芝口三丁目新道 大坂屋治助

一立木こける 愛宕下 青松寺萬年山

一浄土宗 牛込早稲田丁 健勝寺

禅宗 浅草八軒寺丁 海雲寺

日蓮宗 同所 大仙寺

一二?伴余りの? さけてさゝらの如くになる 青山 宮ます

 

  ? 百二ヶ所余

かくの如く所々へ落けるも前文の通り雷の発動するは全くゆたか

なるしるしにして皆太平の御時也延喜の堅代には度々鳴神はげしく鳴

はためきしとかや是納れる御代のしるし也仰?尊み伏?よろこぶべし千秋万歳