仮想空間

趣味の変体仮名

火水風災雑輯(一)39~40コマ

 

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2592140?tocOpened=1

 

 

39

安政四巳年正月中旬より

風邪流行

風の神送り 忠九抜文句(ちうくぬきもんく)

 

(上段)

風雅てもなくしやれでもなく 風の神送る相談する丁内

是はおもひもよらぬ 風の神捨場所の銭もうけ

様子によつては聞捨ならぬ 親類に重い風邪

やつぬる襖の内よりも せきのでる風気

やうすをうかゞふ お医者さんの見まひ

此程のこゝろつかひ 髪結床風呂や

主人の大事とぞんずるから 奉公人風気でしんぼう

障子さらりと引あくれば アゝさむい/\しめておけ

しつては思案にあたわず 風の神こしらへる工夫

しわりし竹を引まはし 風の神おくる白丁ちんのほそ竹

 

(下段)

おまへなりわたしなり 夫婦くらしの内二人ながら風引た人

提燈に釣がね 道成寺と弁けいの風の神

仕やうもやふも無(ない)わいのふ 大ぜいの家内みな風気

ざは/\と見苦しい 大せいの子供つれて風の神送る女中

嘸本望でこざろふのウ 閙(いそがし)おいしや風くすり沢山売るくすりや

徒党の人数は揃(そろい)つらん サア是から風の神おくろ

斯(かふ)いふ事がいやさに 灸(やいと)をすへいと云たのに

画図(えづ)にくはしく書付たり 板行(はんこう)いろ/\出るであろ

仕やうを爰に見せ申さん 風の神のおもひ付の出来たの

跡の片付諸事万事 丁内の世話やき

 

 

40

御触書の写  世話掛り 諸色掛り え

一 去る丑年菱がき廻舩つみ仲間問屋共ゟめうが金上納致来候廻問屋共ふ正の

趣に相聞候に付上納に不及向後諸問屋仲間組合てふじ被仰付候所其已来

売法相くづれ諸しな下直にも相ならす却てふゆうづの趣相聞候に付此度問屋

組合の儀すべて文化以前の通さいこう申渡弥仏冥が金のさたはこれなく候間

其むねを存諸物あたへきはだち値段引下げ〆売〆買し申におよばず品劣り

かけ目げんじ抔の誠無之一切正路に売買て致候かつしんきなかまか入のせつ

たぶん礼金ふるまい抔為致候儀は御法度之趣前/\御触これあり亨保度

諸職人諸商人組合とりきはめ候節も新規売買取付候者有之節同

渡世のものよりさまたげ申間敷段申後もこれ有候おもむきにて

薬種問屋両替屋岡鳥問や水鳥問屋こよみ問屋抔の類人数をさだめ

られ候儀は有之候得共その余しんきに売買相はじめ候儀を被禁候

儀はこれなく候間此度問屋組合再興申付候とて文化度のごとく株

札抔相渡す儀にはこれなく人数の増減は勝手次第の事に付ふ筋の

申合手せまき窮屈の自法相立候儀は決に不致併其渡世柄に寄

無拠人数さだまらず候には差支候儀有之品はぎんみの上明白にその謂

これなく候ては容易に聞済がたき儀に付其段相心得文化巳来売ほうに

不流賢素けにゃくを第一に致諸事奢侈僭上の儀無之様相慎深

太平の 御仁徳を奉仰分/\の渡世永続致

御城下に安住致候めうかの極相弁へ四民のくらし方便利の儀をあつく

心がけ実直に産業を営候様て致可致此上心得違一この利とくに迷申渡を

相用ざる者有可之候はゝ召捕吟味をとげ厳重に御仕置申付仕儀に寄

家業取放候間不取しまりの儀聊無之様精々厚可申合候右之通申

渡候儀に付ては問屋組合共都て前/\にかゝはらず現在のすがたを以

とり調其方共ゟ当月かぎり町年寄月番へ可申立尤仕入抔不致受売

致候小前の者共相除候儀は勿論の儀に付右等の処紛敷儀無之様取調申

可立篤と穿鑿をとげ夫/\沙汰に可及間夫までは諸番人諸職人共全当

時の振合相心得罷在右申渡已前家業筋に付何事も訴訟申出候儀

難相成候若心得違出訴に及候者有儀は町役人共迄曲事可為条其旨能/\相心得可申事

右之趣於町 御奉行所被仰渡候間此旨町中不儀様早々可触知者也

 嘉永亥年三月九日

 

 

(読み下し)

  御触れ書きの写し  世話掛り 諸色掛り へ

去んる丑年、菱がき回船つみ仲間問屋どもより 冥加金 上納致し来たり候所 問屋ども不正(ふしょう)の

趣きに相聞き候に付き上納に及ばず 向後諸問屋仲間組合停止仰せ付けられ候所 その以来

売法(ばいほう)相くずれ諸品下直(げじき)にも相ならず 却って ふゆうづ(不融通?) の趣相聞き候に付き この度問屋

組合の儀すべて文化已然の通り 再興申し渡し いよいよ仏冥が金の沙汰はこれなく候間

その旨を存諸物与え際立ち 値段引き下げ しめ売りしめ買いは申すに及ばず 品劣り

掛け目減じ等の儀これ無く 一切正路に売買致すべく候 且つ新規仲間加入の節

多分礼金振る舞い等致させ候儀は御法度の趣 前々御触れこれあり 亨保度(ど)

諸職人諸商人(あきんど)組合取り極め候節も 新規売買取付き候者これ有り節は同じ

渡世の者より妨げ申すまじき段 申し渡しもこれ有り候趣きにて

薬種問屋 両替屋 岡鳥問屋 水鳥問屋 暦問屋などの類(るい)人数を定め

られ候儀はこれ有りそうらえども その余新規に売買相始め候儀を禁ぜられ候

儀はこれなく候間 此の度問屋組合再興申し付け候とて 文化度(ど)のごとく株

札等相渡す儀にはこれなく 人数の増減は勝手次第の事に付き 不筋(すじ)の

申し合 手狭き窮屈の自法相立て候儀は決に致さず しかしその渡世柄により

拠んどころ無く人数定まらず候 而は差し支え候儀これ有り品は吟味の上明白にその謂れ

これなく候ては容易に聞き済み難き儀に付き その段相心得 文化以来売法に

流れず 賢素倹約を第一に致し 諸事奢侈(しゃし)僭上(せんじょう)の儀相これ無き様 慎み深く

太平の 御仁徳を仰ぎ奉り 分々(ぶん/\)の渡世永続致し

御城下に安住致し候 冥加の極み 相弁え 四民の暮らし方 便利の儀を厚く

心がけ 実直に産業を営む様致すべく候 この上心得違え 一この利得に迷い申し渡すを

相用いざる者これ有そうらはば 召捕り吟味を遂げ厳重に御仕置き申し付け仕儀(しぎ)により

家業取り放し候間 不取しまりの儀 聊かこれ無き様 精々(せいぜい)厚く申し合わすべく候 右の通り申し

渡し候儀に付いては 問屋組合どもすべて前々に変わらず 現在の姿を以て

取り調べ その方どもより当月限り 町年寄 月番へ申し立べく 尤も仕入れ等致さず 受け売り

致し候小前(こまえ)の者ども相除き候儀は 勿論の儀に付き右等(みぎら)の処 紛らわしく儀これ無き様取り調べ申し

立てるべく 篤(とく)と穿鑿をとげ それぞれ沙汰に及ぶべく間 それまでは諸番人 諸職人ども 全く当

時の振り合い 相心得(ワカヲカツ:我がを穿つ?)罷り在り 右申し渡し以前家業に付き 何事も訴訟申し出候儀

相成り難く候 若し心得違え出訴に及び候者これ有るは 町役人(ちょうやくにん)ども迄 曲事可為(たるべくの)条 その旨よくよく相心得申すべく事

右の趣き於町(おいてまち) 御(おん)奉行所に仰せ渡され候間 この旨町中残されざる様 早々触れ知らすものなり

  嘉永亥年三月九日