仮想空間

趣味の変体仮名

人倫訓蒙図彙 六巻(職之部)

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2592444?tocOpened=1

 

3

   職之部(しよくのふ) 次第不同

「大工」天竺より始れり 日

本にては人皇(にんわう)のはしめ 筑

紫 日向の橘の京に 矢

造(つくり)し給ふ時はしまれり

其後 聖徳太子伽藍御

建立の時 飛騨の内匠(たくみ)是

大工中興(ちうこう)の祖なり

「木挽(こびき)」聖徳太子 難波(なには)の

浦に四天王寺を御建

立の時 大木を割(わる)へき思

 

(挿絵内)「大工」「木挽」

 

 

4

慮をめくらし給ふに 雁(かり)一羽

木葉(あをきば)をくはへて来(きた)りぬ

太子御覧あつて 彼(かの)葉の

姿(なり)に鉄をもつてつくらせた

まふに よくきれしより は

じまれり 是鋸(のこぎり)のはじめ

とかや 鋸師は所々に住す

中屋といふは伏見に住す 大

坂に上手あり   「左官(さくはん)」

壁ぬりなり 燕のすをつ

くるを見てぬりはしめし

 

となり かんはんにす 火

つを出(いだ)す 左官といふは出所

考(かんがえ)ず   「屋根葺(やねふき)」こえ高くわ

めく者也 檜皮(ひわだ) 木(こ)けら 執葺(とりふき)有

民家には草葺(くさふき) 数寄(すき)屋 萱葺(かやふき)

師 伏見に住す   「布曝(ぬのさらし)」さら

しのはしめは宇治槇嶋(まきのしま)

なり 京にては五条川原に

あり 今は奈良をもつて第

一とす 曝(さらし)の地(ぢ)壱疋(いっぴき)に四尺

の餘慶(よけい)あり これをとり

 

(挿絵内)「左官」「屋根葺」「布曝」「柄巻師」

 

 

5

てもさらし 又 代壱疋に壱匁八分

さらしちんとかや   「柄巻師(つかまきし)」

小脇指(こわきざし)の柄に菱巻(ひしまき)は もと

よりの事 片手胡麻柄(から)抔 其

外巻やう品々あり

「天秤」堺よりいつるを上とす

代十一匁 又は 十二匁なり 針口 京

両替町(りよかいまち)堺与三兵衛 御池通

与十郎 松原室町 与三左衛門 大

坂今橋筋にあり 代九匁 又は

十匁 分銅(ふんとう)法馬(ほうは:ほうま)と号す 小川(こかは)

 

通舟橋(ふなばし) 後藤四郎兵衛 江戸

白銀町三町眼にあり 大坂

本町一丁め 新左衛門 一組代廿

五匁也 五百目分銅壱つにて

代十五匁なり

「鋳物師(いものし)」鉄を以て一切の

物を鋳る 又は鐘(つりがね)磬(けい)抔是

を鋳る也 三条釜座(かまのざ)に多く

住す   「鏡師(かゝみし)」伝聞(つたへきく) 天照(てんせう)

大神(たいじん)の御影(みかげ)を末代にのこさし

 

(挿絵内)「天秤」「鋳物師」「鏡師」「畳師」

 

 

6

め給ふとて 天香久山(あまのかくやま)の金(かね)を

もつてつくらしめ給ふ 八咫(やたの)

鏡(かゝみ)と申これ也とかや よつて

仏神の御正体(にしやうたい)鏡を以て是を

崇む 鏡師一条松下(まつのした)町 青(あを)

盛重(りしけ) 畠山辻子上綱 新町御

池上ル丁 中嶋 和泉 室町二条

上ル丁 人見 佐渡 五条橋之西

松村 因幡 その他所々にあり

鏡磨(とく)には すくかねのしやり

といふに 水銀(みつかね)を合(あはせ)て 砥(と)

 

の粉(こ)をまじへ 梅酢(むめす)にてと

くなり   「畳師」畳といふは

今の薄縁(うゆすべり)といふもの也 畳置(おき)

て是を敷(しく)ゆへ也 今時禁裏

御畳屋 烏丸通八幡町の下 大

針 加賀同通四条上ル丁 伊阿弥(いあみ)

筑後 油小路六角下ル丁 同長門 大

道修町 道頓堀 京堀川中立

売の下 其外所々にあり

「薄師(はくし)」壱歩(いちぶ)の金を四寸薄(はく箔)

五百枚に打つ也   「板木彫(はんのきほり)」弘法(こうぼう)

 

(挿絵内)「薄師」「板木屋」「籠屋」「表紙屋」

 

 

7

太子 石摺()いしすりをほり 恵心(えしん)見た

れ はんほり給ふ 今の桜木(さくらのき)の

板(はん)は善福(せんふく)といふものほりはじ

めしとかや 当地板木屋(はんきや)出水(てみづ)

通九条姉小路あふみや六左衛門

柳馬場(やなきのばゝ)たこやくし勘兵衛 抔

なり   「籠師(かごし)」唐土の㚑照(れいしやう)

女(ぢよ)の組たる籠を市にうり

けるよしいひつたへたり 日本にては

竹取の翁是を造るとかや 当

時 有馬 駿河の細工名物也

 

「表紙屋(ひやうしや)」書本(かきほん)板本(はんもと)白紙品(しな)

/\を本屋よりうけとりかけるなり むかしは一枚紙にて有

中頃うらうちいたし表紙と

いふなり   「秤師(はかりし)」聖徳太

子さため給へり 末世にいたつて

偽(いつはり)の秤 是を作るゆへに秤

師を定(さため)給へり 京秤師 善

四郎 二条通玉や町に住す 江戸

朱随彦太郎 代三匁五分 唐(とう)

人(じん)秤を厘々等具(りゝとうぐ)といふ

 

(挿絵内)「秤師」「編笠」「檜物師」「指物師

 

 

8

日本にて れいてんぐ といふは

是を誤(あやまる)にや   「編笠」藺(い)

を以て是をつくるなり 当世

忍笠(しのびがさ) 熊谷笠(くまがへかさ)あり

「檜物師(ひものし)」一切の木具()きぐ曲物(まげもの)造(つくる)

物 嶋臺(しまだい)抔 杉(すぎ)檜(ひのき)槇(まき)抔を以て

造(つくる)類(るい)所々に住す   「指物師(さしものし)」

桐(きり)檜(ひのき)杉(すぎ)抔をもつて万(よろつ)の箱

をつくる也 長持(ながもち) 櫃(ひつ)抔には杉槇

を以て造る 此指物師 新町通

五条松原より北に住す

 

「乗物師」男女(なんによ)の乗物并に

公家もちゆる處の板輿(いたこし) 網(あ)

代輿(じろこし)抔是を作る 新町通

立売上ル丁 東洞院六角の下

大坂は堺筋に是を造る 又

駕籠掻(かごかき)用る駕籠は大仏

伏見海道に是を造る

「数珠師(しゆずし)」仏在世に出来(しゆつらい)す

是仏号(ふつかう)の数執(かすとり)なり 数珠

功徳(こうとく)経あり 数の百八なるは

煩悩の数を表するとかや

 

(挿絵内)「乗物師」「数珠師」「鞴師」「水囊師」

 

 

9

「鞴師(ふいごし)」ふいごは京童(きやうわらへ)の説に

稲荷の御神天上より持来(ちらい)

の鉄物師(てつものし)是を用ゆ 大坂天(てん)

満(ま)ふいご町より諸国え出(いだ)

す也   「水嚢師(すいのうし)」水嚢は仏在(ふつさい)

世(せ)よりあり 比丘(びく)の六物の中に

水嚢あり 生水(しやうすい)にはむし

有ゆへ こさすしては飲(のむ)へから

すと 仏の御誡(いましめ)なり 但(たゝし)是は

布袋(ぬのぶくろ)也 今 馬の尾を以て作る

 

事は 秀吉公 高麗国より水

嚢作(つくり)を具して来給へり 其

子孫 今に大坂に住す   「墨師(すみし)」

奈良興福寺の僧 二体坊(にたいばう)と

いふ者 仏前の燈明の油煙(ゆえん)を

もつてつくりしより それを

ならひて奈良油煙と号す

其外 京都所々に多し 受領し

て国名(くにな)をつくなり   「印籠師(いんらうし)」

印籠并薬入抔是を造る

堅地(かたぢ)弱地(よはぢ)の目利(めきゝ)入事なり

 

 

「墨師」「印籠師」「葛籠師」「笠張」

 

 

10

所々に住す   「葛籠師(つゝらし)」下地は

近江 若狭 薩摩より造出(つtくりいだ)す

室町通一条の上にて是を造る

「笠張(かさはり)」唐土よりつたはれり

と或説に日本にては田村丸の

うちに高重(たかしけ)と云者是をつく

るとあれ共たしかならす 今 傘紙(からかさかみ)

は 森下 国栖(くす) 海田(かはた)抔にてはる也

又 日隠(ひかくし)のために絵をかきたる

笠 小児のもてあそひとなす

所々に是をつくる   「塗笠(ぬりかさ)」

 

檜の薄板をもつて造る張塗(はりぬり)

也 網代笠(あじろかさ)竹を以て組造る

菅笠(すげかさ)菅を以て縫(ぬい)造る 近(あふ)

江(み) 伊勢を名物とす 葛籠笠

つゝら藤をもつて造る 水口(みなくち)名物也

「枡師(ますし)」天竺にあり 日本にては

推古天皇の御代にはしむとか

や 京 枡師油小路竹や町下ル

丁 作左衛門  金物清水(しみつ)是をつ

くる 誠の口廣さ四寸九部 深さ

弐寸七分 代四匁二分也 江戸 樽(たる)や

 

「枡師」「紙すき」「硯師」「羽織師」

 

 

11

籐左衛門   「紙子師(かみこし)」紙衣(かみきぬ)并

渋紙(しふかみ)これを造る 五条松原通

に住す   「硯紙」硯は文殊

眼(まなこ)を表(ひやう)す 海は智恵を表す

とかや 諸国より名石(めいせき)あつて 京

に上(のぼ)る 近江 土佐 長門 美作(みまさか)抔

にあり 京硯師所々に住す

嵯峨石 高雄石あり 石は漢

武帝の時 石にてこしらへし

とかや それより前は鉄にて

いものにてありと也   「羽織師(はおりし)」

 

はをりの仕立(したて) 袴 足袋 是

仕立るを羽織やと号す 伝(つたへ)

聞(きく)袴は天竺太羅国(たらこく)に波(は)

斯匿王(しのくわう)と申御門(みかと)あり 何所(いづく)

ともなく美女来たれり 王是

をとゝめて后となす 程なく

一人の王子を出生す 后の云(いはく)我

は是 黒鹿山(こくろくさん)の鹿王(しゝわう)なりと

て失(うせ)ぬ 王子の足斑(またら)にて鹿(しゝ)

毛のことし 是をかくさんために

今の袴を作ると也 日本の

 

(挿絵内)「翠簾師」「塗物師」「金粉師」「水引師」

 

 

12

肩衣(かたきぬ)は むかしは上下(じやうげ)の男子 大(だい)

紋の装束をきたりしを

中世にいたりて 其袖を略

して肩衣と名付し也

「翠簾師(みすし)」唐土の揚竹氏(やうちくし)

といふ者 車の物見(ものみ)にかけん

ために作れりと にほんにては

崇神天皇の御代にあり

禁裏みす師 富小路竹屋

町下ル 和泉 烏丸竹屋町

徳助 同 三右衛門 民間に用る

 

(挿絵内)「合羽師」「白粉師」

 

(左頁)

雑品(ざうひん)の簾(すだれ)は伏見にこれを造る 又 伊予簾(いよすだれ)京に上(のほ)す也 江戸

本吉原(もとよしはら)徳方(とくはう) 京橋一丁目 市左衛門   「塗物師(ぬりものし)」一切塗色(ぬりいろ)品々

これをつくす 但(たゝし)仏塗師(ほとけぬりし)鞘(さや)塗師 別にあり   「金粉師(きんふんし)」金

銀をもつて粉(ふん)をなす 蒔絵師これを用ゆ   「鍮泥師(ちうでいし)」しんちう

をもつてこれをなす 童(わらへ)の持遊物(もちあそひもの)其外 あふぎ地 一切麁相(そさう)

の物にこれをつかふ   「水引師(みづひきし)」諸方え捻(ひねり)に出(いた)してこれを

染造(そめつく)る 并 平水引(ひらみづひき)あり   「合羽師」合羽 并 雨覆(あまおほひ)油紙(あぶらかみ)

これ桐油(とうゆ)と号す 柳馬場通六角より下に住す 所々に

あり   「白粉師(はくふんし)」京 伊勢 堺抔にあり 主領して国名(くにな)を

付(つくう)なり おしろいは鉛をむして水飛(すいひ)するなり やうきひ

病にていろ青黒になりしに 仙人来りてをしへしとかや

 

 

13

「蝋燭掛(らうそくかけ)」らうそくをつくるを かつる といふ 蝋は会津

第一とす 其外所々より出る かけてをやとひてこれを

造る 下に牛(うし)らうをかけ うへに本らうをかけてする

なり   「薬鑵師(やくはんし)」薄鍋(うすなべ) 火鉢 火掻(ひかき)抔胴(あかね)をもつて造る

類(たくひ)一切これを造る 東洞院松原上ル丁大仏 大坂は天満に

住す   「鞠装束師(まりしゃうそくし)」葛布(くづぬの)諸国よりこれをいだす 袴に

正平革(てうへいかわ)をもちゆる所あり 此革染師外にあり 沓師(くつし)

外にあり 水干(すいかん)は衣冠(いくはん)の装束師これを仕立るなり

「宮殿師(くうでんし)」寺塔(じたう)仏担(ふつだん)に置(おく)厨子に棟をつけ 柱をたてゝ造る

を宮殿といふ也 此外小社(こしゃ)持仏堂(じぶつだう)これをつくる 所々に

住す   「小刀磨(こがたなとぎ)」うすの目切 鋸(のこきり)の目たて 此三品は金輪(かなわの)ごとし

 

「鍛冶」鍛冶(たんや)也 和俗誤て か

ぢ とよむ也 天国(あまくに) 神息(しんそく)始

りのよし   「刀鍛冶」

刀鍛冶諸国に名家多

し 京にては日本鍛冶

惣近 伊賀守 藤原金道

和泉守 金道 近江守 源

久道 丹波守 吉道 越中

正後 信濃守 信吉 何れも

菊の御紋を銘に切ル也

「鑓鍛冶」文殊四郎包重

包丁鍛冶 伊賀守 吉貞

 

 

14

摂津守 吉廣   「挟 毛貫」

小刀鍛冶 伯耆守 金義 土橋

住 金義   「小刀 挟 剃刀」

東山住 埋忠寿平 埋忠大

和 吉信 山城国 寿平 此外

所々にあり 刀 脇指 小刀 望

にまかす   「琴師」琴のお

こりは爰にしるすにおよば

す 琵琶 琴 三味線 同感也

室町一条上ル 長門 釜座二条

上ル 近江 此外 寺町 所々に有

琵琶は東洞院仏光寺上ル町

 

長門内記   「弓師」弓我

朝にては神切后宮㚑国退

治の御時 八百万の御神を

勧請仕給りて 桑の弓 よ

もきの矢にて敵をほろほ

し給ふと也 寺町松原より

下にあり ゆかけ同所也

「仏具師(ふつくし)」からかねを以て仏前

の三具足(みつくそく) 金仏(かなふつ) 薄端(うすはた) 花瓶(かひん)

薬鍋(くすりなへ)抔品々これを造る 五

 

(挿絵内)「鍛冶」「仏具師」

 

 

15

条南仏具や町に住す たゝら

を立(たつる)は釜の座の外はな

らず   「錫師(すゞし)錫 鉛を以

て徳利 鉢 茶壺抔を造る

新町通二条の北 五条通品々

住す 茶壺には悪し(あし) 茶に

とたんの香ひうつりて悪し

「唐紙師(からかみし)」諸々の紋をつけて

色絵をなす 襖 障子 張(はり)

付(つけ)をなす   「針鉄師(はりかねし)」鉄

しんちう 胴(あかゝね)をもつて是を

 

作る 針やこれをもとめ 或は

物を巻(まき) 胴(あかゝね)抔は籠を編(くん)で

窓に用(もちゆ) 又は虫籠(むしかご)に用ゆ

「箒師(はゝきし)棕櫚(しゆろの)皮葉(かはのは)并に

藁蘂(わらしべ)抔の箒(はゝき)あり 手箒

桑箒抔あり 羽(は)はゝきは 諸々の

鳥羽屋(とりのはや)にこれを造る 箒は

草より名付しなり 箒木(はゝきゝ)

といふ草あり 寒山拾得(かんざんじっとく) 以

箒(ほうきをもって) 落葉をあつめて有

無(うむ)をさとり給ふ 禅家(ぜんけ)の

 

(挿絵内)「錫師」「唐紙師」「針鉄師」「箒師」

 

 

16

ほつすもはゝきのことくに

まよいを払(はらい)さとりをあつむ

の心とかや   「戸障子師(としやうじし)」堀

川二条より三条の間に多

く住す 屏風下地 真那板(まないた) 戸

棚抔これをつくる   「釜蓋師(かまのふたし)」

諸々の鍋釜のふた并瓶(つるべ) 井戸

車(くるま) 真那板 井筒 水走(みつはしり)抔是

をつくる 万寿寺通東洞院より

西にあり   「龍骨車師(りうこしやし)」民

間にこれを求(もとめ)て 田の流れを

 

仕懸(しかく)る也 大坂天神橋の西

又四郎これをつくる   「篗師(わくし)」

絹糸 木綿 布抔品によつ

てちかひあり   「鋤鍬柄師(すきくわのえし)」

模(かたぎ)をもつてこれを作る 并棒(ぼう)

朸(おうこ)これをつくる   「梭掻(おさかき)

竹をもつて品々に組(くむ)なり

すへて機(はた)の具 長縁(おさふち) 打樋(うちひ)

楾(たゝり)抔品々の職人かはれり

「車作(くるまつくり)」むかし斉桓公(せいのくはんこう)車

作申せし古語につたへて書

 

(挿絵内)「戸障子師」「龍骨車」「篗師」「鋤鍬柄師」

 

 

17

にあり 作(つくる)に秘事あるとかや

車作(つくる)は輪木(わき)八枚 輻(や)は廿

四枚 雑車(ざうくるま)は輪木七枚 輻

廿一枚なり 作手(つくりて)は京清蔵(さいざう)

口 久右衛門   「竈師(へついし)」并炭

櫃(びつ) 火鉢抔これをつくる 京所

々にあり 世に釜戸(かあmと)を荒(くはう)

神(じん)と号す 家内安全 福貴(ふつき)

の守護神 本地(ほんぢ)普賢菩(ふげんぼ)

薩(さつ)なり しん/\ありて廿八日

をまつれは七難即滅(そくめつ)

 

明(あきらか)なり   「紺屋(こんや)」紋付品々

色模様を染る 当世茶屋

染有 太夫染 吉長(よしなか)染抔は別

家(け)にあり これを染物やと

いふ 又 菅原染 うとんそめ是

をなす   「紗室師(しやむろし)」紗羅紗(さらさ)

紗室 霜降(しもふり)抔これ別家也

「紅師(もみし)」紅粉屋(べにや)にこれを

そむる   「茶染師(ちやそめし)」一切

色々の茶 吉岡 檳榔子(びんらうし)

染抔これをなす 室町

 

(挿絵内)「梭掻」「車作」「竈師」

 

 

18

一条の北に茶染師の名家

あり 其外西洞院四条坊門

より南にあり   「紫師(むらさきし)」此

紫染一種これをなす 中に

も上京(かみきやう)石川屋 其名高し

茜(あかね)は山科(やましな)名物也 又 江戸紫

の家 油小路四条の下にあり

「練物張物師(ねりものはりものし)」絹をねる家

張物をなす 一切の染物又は

洗沢(せんだく)物これをはるなり

「𦥑師(うすし)」天竺の鉄輪王(てつりんわう)の代(よ)に

 

遊夫(ゆうふ)これを作る 此家に

から𦥑の男 柱 棹 打盤(うちばん) 横

槌 柊槌(さいつち)抔これを造る 一条

通の西にあり   「糸車師(いとくるまし)」

賎(しづ)か糸引車 綿繰(わたくり) 同(おなしく)

これを作る   「豆腐師(たうふし)」職

人の内 朝起(あさをき)の随一也 油

挙(あげ)たる家もあり

「麩師(ふし)」昆若(こんにやく)ともにつくる

家もあり むかしは麩屋町

に多(おほく)住すとかや   「昆若師(こんにやくし)」

 

(挿絵内)「𦥑師」

 

 

19

昆若(こんにやく)の根 所々より五条

の青物問屋(あをものといや)に来(きた)るなり

「素麺師(そうめんし)」伊予 大和の三輪

其名高し 京にするを

地(ぢ)そうめんといふ

「菓子師(くわしし)」諸々の乾菓子(ひくわし)

羊羹 饅頭の類 饂飩

蕎麦切これをなす 主領

して国名をつくあり 二口

能登虎や 近江 其外多

し   「餅師(もちし)」大仏の

 

前に住して大仏餅と号し

て其名高し 壱分(ふん)の餅目(もちめ)

三十九匁 又は四十匁あり 佐々(さゝ)

餅 鶉餅(うつらもち) 野郎餅(やらうもち)抔品々

道中の五文のもち廿五匁

あり 大坂 難波橋筋 大仏

江戸 芝 靏屋   「粽師(ちまきし)」

篠粽(さゝちまき) 藁(わら)ちまき 飴(あめ)粽

抔これをつくる 烏丸通

長者町下ル町 道喜(とうき) 烏丸通

四条津田 近江 此外所々に

 

(挿絵内)「豆腐師」「麩師」「素麺師」「菓子師」

 

 

20

あり 粽(ちまき)五月五日に用(もちゆる)は なつは

毒虫(とくちう)多くて人家にまぢ

わるゆへに茅(ちがや)にて虵形(ちやきやう)を

まき 家に菖蒲(しやうぶ)よもぎ

をさすも此ゆへなり 此せ

つあまたあれとも略す

「煎餅師(せんへいし)」六條にあつて名

物なり   「道明寺師(とうめうしし)」餅(もち)

飯(いひ)の干(ほし)たるを河内の国 道(どう)

明寺(めうじ)よりいだす 此ゆへに

此名あり 今京菓子の家

 

にもこれをつくる 所々にあり

又 氷餅(こほりもち)津の国勝尾寺(かつをじ)より

いづるを名物となす くはし

やにあり   「興米師(おこしこめし)」所々に

あり   「麩焼師(ふのやきし)」女の

童(わらは)これを朝㒵(あさかほ)と称す

江戸麹町 助惣(すけさう)   「飴師(あめし)」

菅飴(すがあめ) 桂里(かつらさと)名物也 其外

七条東洞院の西にこれを

つくる 江戸 桜あめ 芝田町

ぶせん小倉(こくら)   「地黄煎(ちわうせん)」

 

(挿絵内)「餅師」「ちまきや」「煎餅師」「道明寺師」

 

 

21

東福寺前 菊一文字や 其

名高し   「焼餅師(やきもちし)」大(やま)

和(と)大路五条の角にあつ

て これをあひす 其外所々

にあり   「飯鮨師(いひすしし)」

 「割肴師(さきみさかなし)諸々の精進

物并割昆布   「香煎師(かうせんし)」

祇園香煎 其名高し

江戸 浅草すは町 柳屋

糸桜(いとさくら)と名付(なつく)

 

「鎧(よろい)」甲(同) 冑(かぶと) 鎧冑(よろひかふと)惣名(さうみやう)

甲冑(かつちう)今甲(かぶと)といふ 字は甲(よろひ)なり 冑(よろひ)と用る字は かふと

也 久しくあやまり来り

通(つう)してもちゆる也 具足(ぐそく)

といふ惣名也 冑(かぶと)脇立(はいだて)なと

の品々揃(そろへ)たるを具足と

いふなり 下地 鉄にて作

る 下地師外にあり 具足

師さま/\にぬり糸をも

つて威(おどす)なり 糸は組(くみ)や是

 

(挿絵内)「飴師」「焼餅師」「飯鮨」「割肴」

 

 

22

を作る 別に組手(くみて)あり 是を

足打(あしうち)といふ 柄糸(つかいと)の打やうに

同し女の所作なり   「着込(きこみ)」

鎖帷(くさりかたびら)共鉄の針金をもつ

て造る 其外色々あり

さめのきれにてもつくる

大将分の人に用

「弦(つる)」弦師をつるさしといふ む

かしは洛中にて弓はやり

けるゆへ 弦師 弦をうつと

 

て弦(つる)めせといひけるより 弦

めさうともいふ也 此属(そく)清(きよ)

水坂(みつさか)の西に住するゆへに

坂の者ともいふ也

「植虎革師(うへとらかわし)」虎の革を似(にせ)

造るなり 烏丸通二条の

北にあり   「雪駄師(せつたし)」西(にしの)

洞院(とういん)二条の下に住す 其外

所々にあり   「尻切師(しりきれし)」

裏付(うらつけ)といふ藁蘂(わらのしべ)をもつ

てつくり 革(かわ)の縁(へり)をつけ 又は

 

(挿絵内)「香煎師」「植虎革師」

 

 

23

絹のおもてをもつくる也

女の具(ぐ)なり   「革師(かわし)鹿(しゝ)

革を滑(なめし) 足袋 羽織抔に

つくるもの 白革(しらかは)やと名

乗るなり 菖蒲革(しやうぶかわ)并

黒染の革 八幡(やはた)に造る者

あり 白革や   「滑革師(なめしかわし)」

革は所々の穢多(えた)これを

造る 革師これを求(もとめ)て 馬(ば)

具(ぐ) 銀袋(かねふくろ) 蒲団(ふとん) 枕(まくら)是

をつくる 毛革(けかわ)をもつて作

 

る毛革師といふ 各(おの/\)春日

東洞院の西にあり

「桶結(おけゆい)」輪(わ)かへにふれめぐる

言葉所々にてかあわりあり

京にてかづらといふは むか

しは藤かつらにて結し

ゆへなり 江戸の たが といふは

輪を多くくわゆるの心也

国々にてかわりある也

「足袋師(たひし)」木綿足袋の

地(ぢ) 別にこれを織(おり)て河内(かはち)

 

(挿絵内)「雪駄師」「尻切師」「滑革師」

 

 

24

津國(つのくに)抔より出す これをかい

とりてそれ/\にさしに出(いた)す

女の業(わさ)としてこれをさす也

并とろめんたび これを

綾小路通御幸町より西の

方にあり 又 室町通四条の

南にもあり 革足袋は鹿(しゝ)

の滑革(なめしかは)をかいとりてkろえを

造る 此家 羽織 袴 抔革

にてこれをつくる 薫革(くわべかは)此

所に造る 紫革 黒革 菖(しやう)

 

蒲革(ふかは)は外(ほか)に染てあり 三

条通御幸町より西の方(かた)

に多く住す   「碓(からうす)」もろ

こしよりわたし 豊後国

にてひろめしとかや 京へ

ふみにのほる多くは近江 越

前の者なり 腹中(ふくちう)のひろ

きにや きやう山(さん)に大食(たいしよく)

の名とりはかくれなき也

風呂屋(ふろや)」風呂に七種の徳

あり 垢をさり みめをよくし

 

(挿絵内)「桶結」「足袋師」「碓」

 

 

25

はをつよくなし 目を明(あきらか)に

なし 口中にうるおいあり

気をはらし 風をのそく也

そのほか古人の詩にも徳

有(ある)事書々(しよ/\)多し 又 光明

皇后温室構(おんしつかまへ)て諸人のあ

かを清めさせ給ふ事あり

くはしくは あいのふ抄に

見えたり   「銀堀(かなほり)」金銀

銅(あかゝね)抔 石中(せきちう)より出る 此穴

を真吹(まふ)と号す 堀手(ほりて)を下(け)

 

在(さい)といふ あなのうちにては

さゞい のからにて火をとぼ

す 金山(かなやま)所々多し 金はは

しめて奥州より出る

なり 黒金(くろかね)は備中より出

すとかや   「継物師(つきものし)」万(よろつ)の

器物(うつはもの)の破損を うるしを以て

ぬりつぎて全(まつた)ふするなり

ふろしき包をかたにかけ

継物(つぎもの)/\とふれあるくも

くるしきわざなり

 

(挿絵内)「風呂や」銀堀「継物師」「鋳掛師」

 

 

26

「鋳掛師(いかけし)」仏前の三具足を

はしめ 金(かね)の器物(うつはもの)破損を

つくろい いかけ 鍋釜の

も同し類なり   「湯熨(ゆのし)や」

一切の染物地にちゞみの

あるをのべちゝめするなり

又 つや付(つけ)木目つけあり

同し類なり   「洗濁(せんだく)」万(よろつ)

洗物(あらいもの)一切のよごれ しみも

のおとすに滑石(くわつせき)石灰(いしばい)さ

ま/\の薬力(やくりき)をもつて あら

いをとす   「綿摘(わたつみ)」帽子綿

小袖 中入(なかいれ)これをつむ 女の

業なからも老女又は小むす

めの所作にて 住所(すみところ)閑(しづか)に

して なさけありけに しほ

らしく見ゆるは 此わさ也

「機織(はたをり)」巻物凡(をよそ)唐土よりわ

たす處の紗綾(さや)緞子(どんす)其外

毛織のたぐひにいたるまて

おるなり 此職人 西陣

住す 男女の所作なり 又

 

 

(挿絵内)「湯熨師」「洗濁」「綿摘」

 

 

27

奥嶋(おくしま)とろめんのたぐひ 木綿

国々よりいづる   「鹿子結(かのこゆひ)」

女の所作なり えんきの帝(みかと)

小鹿(おしか)のまたらなるを御覧

ありて結(ゆは)せ給ふ ゆへに鹿子(かのこ)

といふとかや   「木綿打(きわたうち)」男女

ともにこれ打(うつ) 近世(ちかきよ)唐弓(とうゆみ)

と号して くしらの筋をつ

るにかけ これを打なり 唐(とう)

弓打(ゆみうけ)は わたよはきなり

「足打(あしうち)」大小の柄(つか)糸 具足の

 

おとし糸 是を組(くむ)也 手にて糸

をさばき くむ目を足にて

ちいさき木刀(きかたな)にて打ゆへに 足

打といふ 女のわざなり 又 下(さげ)

緒打(をうち)あり 是は打ばんもち

がい おふ方男が打なり

「えおし師」室町一条上ル

寿作 室町三条下ル町 此

外所々にあり 菅板にしる

し置   「はこいたや」

童男(とうなん)童女のもてあそ

ひ玉ふり/\きつちやう

 

(挿絵内)「機織」「鹿子結」「木綿打」

 

 

28

たいこ はごいた つくりはなしや

うふ かたなかいらき 此所に

てこしらゆる かぶと とうろひ

つ ほつかい此所々新町こひ

の棚に五せつくのいわい物

をあきなふ   「えむま師」

寺社へ絵馬をおくるは諸願に

成就のため也 いにしへは絵

に馬をかきしゆへに えむま

といふとかや 今世(いまのよ)は物数奇(ものすき)

に色々こしらへ商(あきなふ)なり 寺町

二条より三条の間にあり

 

(挿絵内)「足打」

 

 

(以下落丁部分)

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/945297/127

 

 

134(左頁)

「かづら師」銅にて下地を

こしらへ 上に髪毛(かみのけ)をうへる也

若衆方 女形 角前髪 た

て髪 なてつけ 四方髪 親(おや)

仁(ち)方それ/\にこしらへあ

る也 四条縄手にあり

「位牌(いはい)師」いにしへよりあり

しにや 西明寺殿難波の浦

にて老尼の所におとまりあ

りしに そのとき いはいのう

らに一首の歌を御かきお

きありしと 太平記綱目

 

(挿絵内)「はこ板師」「絵馬師」

 

 

135

にみえたる 寺町にあり

「龕(がん)師」死人の死骸をいるゝ

器(うつわ)物也 誓願寺富小路西へ

入ル町にあり 人間の一生は夢ま

ほろし考少たのみかたきは

浮世そかし 死て身にそふも

のは経かたひら六道銭 其身

をおさむるいれものは龕桶

されは此職をいとなむとも

がらは 慈悲のまなこをつけつ

くりたき物也 人間の落着

の入れ物そかし

 

(挿絵内)「かづら師」「龕師」