仮想空間

趣味の変体仮名

曽我物語 第1冊(巻第一前半)

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11892758?tocOpened=1

参考にした本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1286892

 

6

曽我物語巻第一目録

 神代(かみよ)のはじまりの事

 これたかこれひとの位あらそひの事

 伊藤をてうふくする事

 おなじくいとうの死ぬる事

 いとうの次郎とすけつねか相論の事

 よりとも伊藤のたちにまします事

 大見の小藤太(ことうだ)八幡の三郎かいとうを

 ねらひし事

 しよきうていえいか事

 

 

7

曽我物語巻第一

  神代のはしまりの事

それしちいきあきつしまはこれ国とこたち

の尊(みこと)より事おこりうひちにすひちに男

しん女しんとあらはれいさなきいさなみのみ

ことまて以上天神七代にてわたらせ給ひき

又あまてるおほん神よりひこなきさた

けうかやふきあはせすのみことまて以上

地神(じじん)五代にておほくのせいさうをくり

給ふしかるにしんむ天わうと申奉るはふき

 

 

8

あはせすの命(みこと)にて一天のあるし百皇(わう)にも

はしめとして天下をおわめ給ひしよりこのか

た国土をかたふけはんみんのおそるゝ

はかり事文武二道にしくはなしかうふん

のやからをてうあひせられすは誰かはん

きのまつりことをたすけん又はようかんの

ともからをちうしやうせられすはいかてか

四かしのみたれをしづめんかるかゆへにたう

の大そうふんくはうていはきすをすひて

せんしをしやうしかんの高祖は三じやくの

 

剣をたいしてしよこうをせいし給ひきしかる

あひた本朝にて中ころより源平両し

を定(さだ)めをかれしよりこのかた武りやくを

ふるひ朝家(ちやうか)を守護したかひに名将の

名をあらはししよ国の狼藉をしつめす

てに四百よくはいの年月ををくりおはんぬ

是清和のこういん又桓武のるいたい也

しかりといへとも皇子(くわうし)を出て人臣につら

なり矢しりをかみほこさきをあらそふ心

さしとり/\なりとかや

 

 

9

  これたかこれひとの位あらそひの事

抑(そも/\)源氏といつは桓武天わうより四代め

の皇子をたむらのみかとと申けり是に皇

子二人おはします第一をこれたかの親王

と申御門ことに御心さしにおほしめしてと

うくうにもたて御位をゆつりたてまつら

はやとおほしめされけり第二のみこをは

これひとの親王と申きいまたいとけなくお

はします御はゝはそめとのゝくはんはくち

うしんこうの御むすめなりけれは一もん

 

の公卿けいしやううんかくたちてうあひし

たてまつれけれはこれもまたもたしかた

くそおほしめさるかれはけいていあひ

ふんのきりやうなり是ははんきふいの

しんさうなり是をそむきてほうそをさ

つくるものならはようしやわたくしあり

てしんかくちひるをひるかへすによりて

御位をゆつりたてまつるへしとててん

あん二年三月二日に二人のみこたちを

ひきくしたてまつりうこんのはゝへきや

 

 

10

うかうなる月卿雲客(げっけいうんかく)花のたもとをかさね

玉のもすそをつらねうこんのはゝへくふ

せらる此事きたいのせうしてんかのふし

きとみえしみこ達もとうくうのふちん是

にありとみえしされはさま/\の御いのり

とも有けりこれたかの御いのりの師には

かきのもとのきそうしやうしんせいとてと

うしのちやうしや弘法大師の御弟子

なりこれひとのしんわうの御いtのりのしに

はわか山のちうりよにえりやうくはし

 

やとてしかく大師の御弟子にてめてたき

上人にてそ渡らせ給ひけるさいたうのひや

うたうはうにて大いとくの法をそおこ

なひけるすくにけいはは十はんをきは

めさためられ六はんかち給ふ御かたに位を

御くり有へきとの事也なれはこれたかの

御かたにつゝけて四はんかち給ひけりこれ

ひとの御かたへ心をよせったてまつる人々はあせ

をにきり心をくたきてきねんせられけり

是ひとの御かたには右近の馬場よりてん

 

 

11

たいさんひやうとうはうのたんしよへ御

つかひはせかさなる事たゝくしのはを

ひくかことしすてにみかたこそ四はんつゝ

けてまけぬれはと申けれはえりやう

心うく思はれ絵さしの大いとくをさかさま

にかけたてまつり三しやくの土牛を

とつて北むきにたておこなはれける

にときうおとりてにしむきになれは南

向にとつてをしたをしかんたんをくたき

てもまれしかなをいかねてとつこをもつて

 

みつからつきをつきくたきてなうをとりけし

にませとたんにうちくへ黒煙をたてひと

もみもまれ給ひしかは土牛たけりてこ

えをあけてけれはえさうの大いtくは利剣(りけん)

を御取てふりたまひけれはしよぐはん

成就してけりと御こゝろをのへ給ふと

ころにみかたこそ六はんつゝけてかちた

まひかなと御つかひはしりつけけれは

喜悦のまゆをひらき急ぎだんをそをり

られける有難き瑞相なり

 

 

12(挿絵)

 

 

13

されはこれひとの親王御位にさたまり春宮(しゆんぐう)

にたゝせ給ひけりしかるにえんしやくし

の大しゆのせんきいにもえりやうなつきを

くたきしかば次帝(してい)くらいにつきそんえり

けんをふりたまへはかんしやうれいをたれ

たまふとそ申けるこれによつてこれたの

御ちそうしんせい僧正は思ひ死にそう

せたまひける御子もみやこへ御かへりなくし

てひえいさんのふもとをのと云所にたち

こもらせ給ひけりころは神無月すえつか

 

た雪けの空のあらしにさはしく雨くも

のたえまなくみやこに行かふ人もまれなり

けりいはんやをのゝおすまい思ひやられ

てあはれなりこゝにさい五中将在はらのな

りひらはむかしの御なさけあさからさりし

人なりけれはふん/\たる雪をふみわけ

なく/\御あとをたつねまいりてみまいら

すれはまうたううつりけりてこうようあ

らしにたえりういんけんかとうしやく

/\たりおりにまかせ人めも草もかれぬ

 

 

14

れはうあまさといとゝさいしきにみなしろたえ

の庭のおもあとふみつくる人もなし御子は

はしちかく出させ給ひていんてんのみかうし

三けん斗あけてよもの山を御覧しめつ

らしけにや春はあをく夏はしけり秋

はそめ冬はおつると云せいめい太子のお

ほしめしつらねかうろ峯の雪をはすたれ

をかゝけてみるらんと御くちすさみ給ひ

けり中将この御ありさまを見てまつる

にたゝ夢のこゝちせられけるかかくま

 

いりてむかし今の事とも申うけたるはるに

つけてもきよいの御たもとをしほり

あへさせ給はすとりかひのいんの御ゆう

せうかたのゝゆきの御鷹がりまておなし

召出られて中将かくそ申されける

 わすれては夢かとそおもふ思ひきや

  雪ふみわけて君をみんとは

御子もとりあへさせ給えて返し

 夢かともなにかおもはん世の中を

  そむかさりけん事そくやしき

 

 

15

かくてちやうくはん四年に御出家わたらせ

給ひしかはをのゝみやとも申せりもんと

くてんわう御とし三十にてほうきに成し

かは第二のわうし御年三十にて御ゆづ

りをうけ給ふ清和天皇の御事是なり

後には丹波の国みづのおの里にとちこも

らせ給ひけれは水のおのていとそ申

けるわうしあまたおはします第一をやう

せいいん第二をていこしんわう第三を

ていけいしんわう第四をていほうしん王

 

此わうしは御ひはの上手にておはします

かつらの親王との申せり心をかけらる女は

月のひかりをまちかねほたるをたもとにつ

つむこの御子の事也いまのしけおぬの

せんそなり第五ていへいしんわう第六

をしゆんしんわうとそ申ける六孫(そん)わう是也

されはかのしんわうのちやくし多田のしん

ほつまんちう其子つのかみらいくわう次男

やまとの守らいしん三なん多田のほうけん

とて山ほうしにてさんたう第一のあく

 

 

16

僧なり四らう河内のかみよりのふ其子いよの

入道らいき其ちやくし八まん太郎よしいえ

其子たしまのかみよしちかしなんかわちの

はんくはんよしたゝ三なんしきのふたゆう

よし国四男六条判官ためよし其子左馬(さま)

のかみ義朝其ちやくし鎌倉のあく源太

よし平しなん中宮太夫しんともなか三

男うこんえの大しやうよりとものうへこう

源氏そなかりける此六そんわうよりこの

かたわうしを出てはしめて源(みなもと)のしやう

 

給はり聖代をさりて人臣につらなり給ひ

て後多田まん中よりしもつけのかみよしとも

にいたるまて七代はみなしよこくのちくふに

なをかけ芸をしやうくんのきうはにほと

こしいえにあらすして四かいとまほりしに

はくはなをこえたりされはをの/\けん

をあらそふゆへにたかひにてうてきにな

りてけんし世をみたせはへいしちよくせん

をもつてこれをせいして朝恩(ちやうをん)にほこり

へいしやうくにをかたふくれはけんししよう

 

 

17

めいにまかせて是をはつしてくんこうをき

はむしかれはちかきころへいしたいさんし

てけんしをのつから世にほこり四かいの反乱

をおさめ一てんのはうきにさためしより

このかたりらくりんえたかひてふく風を

たやかなりしかれははえいりよをそむ

せいらうはいろをおうけんのあきのしも

におかされてこそをみたすはくはをと

をしやうけんの月にすます是ひとへ

にうりんのいふうせんたいにもこえて

 

うんてうのゆへなりしかるにせいしをひそ

めてせいとのみたれをせいししきよくの

あらそひをやかてきふく

 せらるゝは

  なかりけり

 

 

18

  いとうをてうふくする事

こゝい伊豆の国の住人いとうの次郎すけ

ちかゝまこ曽我の十郎すけなりおなし

く五郎時むねと云者ありてしやうくん

のちんないもはゝからす親のかたきをうち

とりけいをせんちやうにほとこし名を後代

にとゝめけるゆらいをくはしく尋ぬるに

すなはち一かのともからくとうさえもん

すけつねなりたとへばいつの国に伊藤

かはつうさみ此三か所をふさねてくすみ

 

 

19

のしやうとかうするかのかんしゆはいすみの

入道しやくしんにてありけるさいこくの

時はくとうたゆうすけたかといひけり

男子あまたもちたりしかみなさうせいし

てゆいせきすてにたえんとすしかる間

まゝむすめの子をとりてちやくしにたてゝ

いとうをゆつりむしゃところにまいらせくとう

むしやすけつくとかうす又ちやくそんあ

りしなんにたてゝかはつをゆつりかはつの

次郎となのらせけるしかるあひたしやく

 

しんせいきよの後すけちかおもひけるは我

こそちやく/\なれはちやくしのゆつりあ

るへきにいしやう他人のまゝむすめの子此いえ

に入てさうそくするこそやすからねとおもふ心

つきにけりこれまことにしんりよにもそむ

きしそんもたえぬへきあくしなるをやた

とへたにんなりといふともおややうしてゆ

つるうへはいらんのき有へからすまして是

はしやくしんない/\まゝむすめのもとに

かよひてまふけたる子也まことにはあに

 

 

20

なりゆつりたるうへあらそふ事むやくのよし

よそ/\にも申あひけりされともすけちか

とゝまらてたいけつたひ/\にをよふといへ

ともゆつりしやうをさゝくるあひたいとう

かしよりやうになりてかはづはまけてそへ

たりける其後うへにはしたしみなからな

い/\やすからぬ事こそおもひけるされ

ともわかちからにはかなはて年月を送るあ

る時すけちかはこね別当をひそかに

よひくたしたてまつりしゆ/\にもてなし

 

しゆえんすきしかはちかくよりかしこまりて

申けるはかねてよりしろしめされて候ことく

いとうをはちやく/\にてすけちかゝあひ

つき候へきを思はすのまゝむすめの子斗り

てちゝのはか所せんそちうたいのしよりや

うをわうりやうつかまつる事こそにてみ

え候かあまりに口おしく候あひた御こゝろ

をもはゝからす申出し候しかるへくはいとう

むしやかふたつなき命をたち所にうし

なひしやうにてうふくありてみせたまへと

 

 

21

申けれはへつたう聞給ひてしからくも

のものたまはすやゝありて此事よく/\

聞給へ一ふく一しやうにてましまさね兄

弟なる事はかんせんなりくはうまても

聞召(きこしめし)ひらかれすてに御けちをなさるゝうへ

はへたての御うらみはさる事にて候へ共

たちまちにかいしんをおこしおやのおき

てをそむき給はん事しかるへからすしんめい

はしやうしきのかうへにやとり給ふ事

なれはさためててんのかこも有べからす

 

みやうのせうらんもおそろし其うへくそうは

ようせうよりふものちんよくをはあんれし

しやうのかんしんに入てしよせつのけうほうを

かくしえんとんしくはんのもんをのそみ一ねん

三まいにかしよくのかんなんを思ひきる時は

うせきのしんくをしのふ三えをすみいそ

めひんはつをまろめほとけのゆいくはんにま

かせ五かいをたもちしよりしのかたものゝ命

をころす事なしほとけことにいましめ給ふ

されはしゆしやうの身の中には三しんふつ

 

 

22

しやうとく三たいのほとけのましますしかる

に人のいのちをうはん事三世のしよふつ

をうしなひたてまつるにおなしもろ/\

もつておもひよるさる事なりとてはこ

ねにのほり給ひけりかはつはなまし

いなる事申出してへつたうせんいん

なかりけれはそのゝちせうそくをもつてか

さね/\申けれともなをもちい給はす

いかゝせんとてひそかにはこねにのほりへ

つたうにけんさんしてちかくいよりてさ

 

さやきけるはものその身にては候はねとも

むかしよりしたんのけいやくあさからてた

のみたのまれたてまつりぬすけちかゝ身に

おひて一しやうの大事しゝそんそんにても

これにしくへからす候さいわうに申入候てう

まことにそのおそれすくなからす候へともかの

かたえかへりきこえなはかさねたるなんき

いてき候へしされはにやふちんにをよひ候

とくれ/\申けれははしめはへつたう大

きにしたいありけるかまことにたんなのな

 

 

23

さけもさりかたくして大かたりやうしやう

あいrけれはかはづはさとへそくたりけるべつ

たう心うき事なからだんなのたのむと申

けれはだんをたてしやうごんしていとう

をてうふくせられけるこそおそろしけれ初(しよ)

三日のほんぞんにはらいかうのあみだの三尊

六道のうけのちそうほさつだんなかはづの

次郎がしよくはんじやうしゆのためいと

むしやか二つなきいのちをとりらいせに

てはくはんをんせいしれんだいをかたぶ

 

けあんやうのじやうせつにいんぜうし給へ

へんしもぢごくにおとし給ふなとたねん

なくいのられけり後七日のほんそんにはう

すさまこんがらだうじ五大みやうわうのり

けんしゆせうなるを四方ににかけてむら

さきのけさをたいししやくにたんをかさ

りかんたんをくたきあせをものこはすお

もてをもふらすよねんなくこそいのられけ

れむかしよりいまにいたるまてふつほうこ

ちの御ちかくいまにはしめさる事なれは

 

 

24

七日にまんずるとらのなかばにいとうむしや

かさかんなるくびを明王のけんのさきにつら

ぬきだんじやうにおつると見てければさ

てはいんぜんあらはれたりとて

べつたうだんをぞおり

給ひけるおそろし

かりし事ども なり

 

 

25

  おなじくいとうがしぬる事

さてもいとうむしやはこれをばゆめにもしら

で時ならぬおくのゝかりしてあそばんと

ていてをそろへせこをもよほしわかたうあ

またあひぐしていふの奥野へぞ入に

けるころしもなつのすえつかたみねにか

さなる木(こ)のまよりむら/\になびくはさぞ

とみえしより思はざるかぜにをかされて心

ちれいならずわづらひ心ざすかりばをも

見ずしてちかきのべよりかへりけり日かずか

 

さなるほどにいよ/\おもくそなりにける

そのとき九つになりけるかないしをよひ

てみつから手をとり申けるはいかにをのれ十

さいにたにもならさるを見すてゝしなん

事こそかなしけれしやうじかぎりありの

のがるべからずなんぢをたれかあはれみたれは

ごくらみてそたてんとさめ/\となきけりか

ないしはおさなけれはたゞなくよりほかのこ

とはなし女はうちかくいよりなみだをおさ

へていひけるはかなはぬうき世のならひな

 

 

26れどもせめてかないし十五にならんをまち

給へかしさればとてあまたある子にもあらず

又かけごある中の身にてもなしいかゝはせん

となげきけるこそことはりなれこゝにおとゝ

のかはづの次郎すけちかたふらひきた

りけるがこのありさまを見てちかくより

て申けるはいまをかぎりとこそみえさせ

給ひて候へこんじやうのしうしんを御と

とめ候ひて一すぢにこしやうぼだひ

をねがひ給へかないしどのにをひてはすけ

 

ちかかくて候へはこうけんしたてまつるべしゆ

め/\そりやくあるべからず心やすくおもひ

給へさればにやしきのことはにもこんてい

の子はなをしをのれが子のごとしと見えたり

いかていあをろかなるべきと申ければすけつ

ぐこれをきゝてうちにがいしんあるをばしら

て大きによろこびかきおこされ人のかたに

かゝり手をあはせすけちかをおかみやゝ

ありてくるしげなるいきをつぎいかに候たゞ

いまのおほせこそしやうぜんにうれしく

 

 

27

おはし候へこのごろはなにとなくきせつにつ

について心よあからさる事にてましまさんと

そんするところかやうにの給ふこそ返す/\

もほんいなれさらばかな石をはひとへにわとの

にあづけたてまつるおひなりともしつしと

思ひむすめあまたもち給ふ中にも万ごう

こせんにあはせて十人にならばおとこになし

たうしやうのほんけんこまつどのゝざんに入

わとのゝむすめとないしにこのところをさ

またげなくちきやうせさせよとていとう

 

のぢけんもんじよとり出しかないしに見

せなんぢにぢきにとらすべけれどもいまだ

ようちなりいつれもおやなればをろかに

あるへからすはゝにあつくるそ十五になら

ばとらすへしよく/\見をけいまよりの

ちはかはづどのをおちなりともまことのおやと

たのむへし心をきてにくまれたてまつる

なすけつぐもくさのかけにてたちそひまほ

るべしとてもんじよはゝがかたへわたし今は

こゝろやすしとてうちふしぬかくて日か

 

 

28

ずつもり行ばいよ/\よはりはてゝ七

月十三日とらのこく

  四十三にて

    うせにけり

 

 

29

あはれなりしためしなりおとゝのかはつ二郎はう

へにはなげくよしなりしかともしたにはきえ

つのまゆをひらきはこねのべつたうのかたを

ぞおかみける一たんのまうあくはせうりあ

りといへどもついにはしそんにむくうならひ

にてすえいかゞとそおぼえけるやがてかはづ

は我家を出いとうのたちに入かはりない/\ぞ

んずるむねありければあにのためちうあるよ

しにてごけにも子にもおとらずけうやう

をいたす七日/\のほか百か日一しやうき

 

第三年にいたるまでしよぜんのらうせつを

つくす人是をきゝ神をまつる時は神(しん)のい

のますことくせよ死につかるときは生(しやう)に

かふるごとくなれとはあんごのこと葉なるをや

とかんじけるぞをろかなるさてかないしには

心やすきめのとをつめてぞやうしけるゆい

ごんをたがへず十五にてけんぶくさせくすみ

のくたうすけつねとがうすやがてむすめ

まんごうごぜんにあはせその秋あいぐし

てしやうらくしすなはち小松どのゝげん

 

 

30ざんに入すけつねをば京とにとゞめをき

わか身はくにへぞくだりけるそのゝちいかひ

ぐしきさぶらひの一人もつれずおとなし

きもなししよたいにをきてはすけちか一

人してわうりやうしすけつねにはやし

きの一しよをもはいぶんせざりけりま

ことやもんぜんのこと葉にとくをつみかう

をかさぬることそのぜんをなさゞれどもと

きにもちひることありぜんをすてりを

そむく事そのあくをなさゞれども時にほろ

 

ふる事あり身のあやうきはいきほひ

のすくる所あんりわざわひのつもるはてう

の御かんなるをこえてなりされともすけ

つねはたれおしゆるとはなきにくもん

しよをはなれすぶぎやうしよにをきて

身をうたせさたになれけるほとにせんあ

くをふしんしふんべつしてりひをまよは

すじよしに心をわたししゆせきふつうに

すくれわかのみちを心にかけてうのむし

ろにすいさんしてそのしうにつらなりし

 

 

31

かばいとうのやさおとことそめされける十五

さいよりむしやところにさふらひてれい

きたゝしくしておとこがらじんじやうなり

ければいなかさふらひともなく心にくしと

て二十一さいにしてむしや所の一郎

をへてくとう一郎とそ

  めされける

 

 

32

いとうの二郎とすけつねかさうろんの事

かくてすけつね二十五にて聞じおこたら

ざりきこゝにおもはさるにいなかのはゝ一期

つきてかたみにちゝがあづけをきしゆづり

じやうをとりそへてすけつねがもとへぞのぼ

せたりけるすけつねこれをひけんしてこ

はいかにいづのいとうといふところをばおほぢ

入道しやくしんよりちゝいとうむしやすけ

つぐまで三代さうでんのしよりやうなる

を何によつておぢかはづの二郎さうぞくし

 

てこの八ヶ年かあひだちぎやうしけるいざ

やくはじやばら四きの衣かへさせんとていとま

を申けれども御きしよくさいちうなりけ

れはさうなく御いとま給はりざりけりさらばとてだいくはんをくだしてさいそくをい

たすいとうこれをきゝすけちかよりほかに

まつたくたのぢとうなしとてくわじやばら

をはういつについはうす京よりくたるものは

いなかのしさいをばしらでにげのほりぬ一郎

にこのよしをうつたふそのきならばすけつね

 

 

33

くたらんとて出たちけるがあんじやだい一の

ものにて心をかへておもひけるは人のひがこ

とするといふをきゝなから又くだりておと

らしまけしとせんなとにまさるらうぜき

ひき出しりやうはう(とく)たいの身となりぬべ

くそのうへだうりをもちながらおやかた

にむかひいしゆをこめんことせんなしすけ

つねほどの者がりうんのさたにまくべきに

あらずいなかよりかの仁をめしのほせてし

やうさいをこそあふがめと思ひあたる所の

 

だうりをさしつめ/\いんせんを申くだし

こまつどのゝ御じやうをそへけんひいしをもつ

ていとうを京とにめしのぼせまことのちぎ

やうなるときこそいなかにてよこがみを

もやぶりちやうしやくともいひけれいん

ぜんをなしかさねてかたくめされけれ一

もんはせあつまりあんじやくちきゝより

あひともなひだんかうするといへどもたうり

はひとつもなかりけりすけつぐぞんじやう

のときよりしうしんふかくしていかにも此

 

 

34

ところをすけちかはいりやうにせんとたね

ん爰とにかけすでに十よねんちぎやうのと

ころなり一ごの大事と金銀をとゝのへ

ひそかに奉行所へぞのぼりけるまことや

もんぜんのことばにせいようもすいしや

うをけがさずしやろんもくのひじりを

まとはずとは申せどもぶぎやうのめづるも

ことはりなり又かんじよをみるに見ずいたつて

きよければそこにうほすます人いたつて

ぜんなればうちにともなしとみえたり

 

さればにやぶぎやうまことにたからおもくし

てすけつねが申じやうたゝさることこそむ

ねんなれ月あきらかなる人とすれどもふうん

これをおほひ水きよからんとすれとも泥砂(でいしや)

これをけがす君けんなりといへともしんこ

れをけがすことはりによつてほんけんはは

このそこにくちてむなしく年月をゝくる

あひたすけつねうつふんにちうしてかさ

ねて申しやうをふきやうしよにさゝくそ

のしやうにいはく

 

 

35

伊豆の国のぢう人いとうのくとう一郎た

いらの助つねかさねてごんじやう

はやく御さいきよをかうふらんとほつするしさい

のことみきくたんのてうおほちくすみの入道

しやくしんしきよの後しんぶいとうむしや

すけつぐそのしや弟(てい)すけちかきやうだ

いの中ふわなるによつてたいけつどゞに

をよぶといへどもすけつぐたうぶくてうあ

いたるによつてあんどお御くだし文を給はつ

てすてにすかねんをへおはんぬこゝにす

 

けつぐ一ごかぎりのやまひのゆめにのそむき

ざみかはつの次郎日ごろのいしゆをわsyれ

たちまちにとふらひきたるそのときすけつ

ねはしやうねん九さいなりきおぢかはづの二郎

にぢけんもんじよはゝ共にあづけをき

て八ヶ年の春秋(はるあき)をゝくる親かたにあらず

はしこうのしんと申べきやしよせんよの

れいにまかせいとうの次郎に給はるべきか

またすけつねに給はるべきかさうでんの

だうりについてけんばうのしやうさい

 

 

36

をあふがんとほつすよつてせいけいせいくはう

言上如件 仁安二年三月平の助経と

かきてさゝぐ公事しよに此じやうwpひ

けんありてさしあたるたうりにわつらひけ

るよと人々よりあひないだんひやうぢやう

するはすけつねがお薄じやう一としてひ

が事なしこれはさいきにせずはけんばう

にそむきなん又いとうたからをのぼせて

ばんじぶぎやうをたのむといふしかれと

もすけつねはさうなくりうんたるあひだ

 

奉行しよのわたくしなりがたければあん

どの状二つかきて大宮のりやうしをそへく

ださるいとうははんぶんなりともさるとこと

にぶぎやうの御をんとよろこびて

  ほんごくへそ

    くたりける

 

 

37

しよはこと葉をつくさずこと葉は心をつくさ

ずといへども一郎はこと葉をうしなひ十

五よりほんじやにまいり日夜てうぼきう

じをいたしことし八ヶねんかとおぼゆるに

かさねて御をんこそかうふらざらめせんぞ

のしよりやうをはんぶんめさるゝ事そも

何年そみなかみにごれるときはきようもん

事を思ひかたちおゆかめるときはかげのす

なをならん事を思ふとかたに見えたりち

ちすけつぐが世にはかやうにはよもわけ

 

 

38

じいまなんぞはんぶんのうんしたるへきやこれ

ひとへにおやかたながらいとうかいたすところ也

わが身こそ京とにすむともぜんごはみなゆみ

やのいこんなりいかでかこの事うらみざるべき

とてひそかにみやこを出てするがのくにたか

はしと云ところにくだっりきつかは舟こしおぎ

かんばらいりえの人々はけしやくにつきてし

たしかりけれは二百よ二とよりあひてすけ

ちかうちてりやうしよを一人してしんだ

いせんと思ふ心つきにけり此ぎしんりよも

 

はかりがたしたとへばさしあたるだうりはげん

ぜんたりといへどもむかしのをんをわすれたち

まちにあくきやうをたくむ事いとうがむかしを

もおもひてんじゆがいにしへもたづぬへきにやだ

い一おちなりだい二やうぶなりだい三にしう

となりだい四にえほしおやなりだい五に一そ

くの中のちうしやなりかた/\もつてをろ

かならずかやうに思ひたつ事ぞおそろしき

いかにもしりよあるべきものをやあまつさへ

りやうちをうはゝん事ふしぎなりかゝりける

 

 

39

事をすけちかかへりきゝてちやくしかはづの

三郎すけしげ二なんいとう九郎すけきよ

そのほか一もんちうせうよひあつめようじん

きびしくしかればちからにをよばずこれや

ふつきにしてぜんをなしやすくひんぜん

にしてこうをなしがたしとはいまころ思ひし

られたれそのゝちいとうの二郎此事あり

のまゝ京とへうつたへ申てなかくすけつね

を本じよへ入たてすして年ぐしよたう

にをきてはけしほどものこらずわうりやう

 

するあひだすけつね身のをきどころなくし

てまた京とにかへりのほりひそかにすまい

ぬいとうにすけつねはなやまされほんい

をわsyれすけつねがさいぢよとりかへし

さがみのくにのぢう人といの二郎さねひら

がちやくしのやたろうともひらにあはせ

けりくにゝは又ならぶものなくぞみえた

りけりされどもこうしやうなきふぎのと

みはわざはひのなかだちとさでんにみえ

たりさればゆくすえいかゞとぞおぼえし

 

 

40

くどう一郎はなましいの事をいひ出し

ておぢに中をたがはれふさいのわかれ

しよたいはうばゝれ身をゝきかねてきもを

やきけるあいだきうじもそりやうに

なりにけりさればにや御きしよくもあ

しくはうばいもそばめにかけけれはせき

うつたえがたくおもひこかれてひそかに

又ほんごくにくだり大みのしやうにぢう

してとしごろのらうだうにおほみの小(こ)と

う太(だ)やはたの三郎をまねきよせてなく/\

 

さゝやきけるはをの/\つぶさにきけさう

でんのしよりやうをわうりやうせらるゝだ

にもやすからざるにけつく女はらまでとり

かえhされてといのや太郎にあはせらるゝ事

くちおしきともあまりありいまはいのちを

すてゝやひとついはやと思ふ事なりあらはれ

てはせん事かなふまじわれ又びんぎをうかゞ

はじ人に見しられてほんいをとげがたしさ

ればとてとゞまるべきにもあらずいかゞせん

をの/\さりげなくしてかりすなどりの

 

 

41

ところにてもびんぎをうかゞひやひとついん

にやもししやくいをとげんにえおきてはぢ

うをんしやう/\せゝにもほうじてあまり

ありぬべしいかゞせんとぞくどきける二人の

らうどうきゝ一どうに申けるはこれまで

もおほせらるべからずゆみやをとり世をわ

たると申せどもばんい一しやうはいちごに

一どゝこそうけ給はれさればふるきことば

にもやぶれやすきときはあひがたくし

てしかもうしなひやすし此おほせこそめん

 

ぼくにて候へぜひいのちにをきては君に

まいらするとてをの/\ざしきをたちけれ

ばたのもしくぞおもひけるいとうはい

さゝかこのぎをしらざりけるこそかなしけれ

 

  よりともいとうのたちにまします事

かくて大見やかたはいとうをねらふべきひま

をうかゞふほどにそのころひやうえのすけ

どのはいとうのたちにまし/\けるところに

さがみの国のぢう人大ばのへいだかげの

ぶといふものあり一もんよりあひさかもりし

 

 

42

けるが申けるはわれらはむかしはげんじの

らうどうなりしかれどもいまはへいけの御

をんをもつてさいしをはこくむといへども

いにしへの事わするべきにあらずいざやす

け殿のいつしかる人としてとぜんにまし

ますらん一夜とのい申てなぐさめたて

まつりて後日のほうこうに申さんもつと

もしかるべしとて一もん五十よ人出たち

にんべつさゞ一つあてにぞもたせける

これをきゝてみうらかまくらといの次郎

 

をかざきほんましふやかすやまつだつちや

そかの人々思ひ/\に出たちけるほどにきん

こくのさぶらひきゝつたへわれもいかでかの

かるべきいさやまいらんとてさがみのくに

には大ばかしやてい三郎またのゝ五郎

さこしの十郎山うちたきぐちの太郎おな

じく三郎えびなのげん八おぎの五郎する

がの国には竹のしたのまご八あひざはのや

五郎きつ河ふなこし入えの人々いづのくに

にはほうでうの四郎おなじく三郎あまのゝ

 

 

43

とうないかのゝとう五をはじめとしてむね

との人々5百人いづのいとうへぞまいりける

いとう大きによろこびてないげのさぶ

らひ一めんにとりはらひなをせばかりけ

れば庭にかり屋をうち出し大まくひき

上下二千四五百人のきやくじんを一日

一夜ぞもてなしけるといの次郎これを

見てさつしやうは百人二百人まではやす

かるべきにすでに二三千人のきやくじん

を一人にあづくる事ぶこつなりといふ

 

いとうこれをきゝてかはづと申せうがうを

ちぎやうせしときにもいづれのたれにか

おとりさふらふべきましてやくずみのし

やうをふさねて給はるものならばな

どやめん/\にひきでもの申さてあるべ

きこれほどの事何かはくるしかるべきと

てさんかいのちんぶつにて三日三夜ぞ

もてなしける又えびなのげん八か申け

るはかたるよりあひにまいりぬとかねて

ぞんじて候はゝ国よりせこのよういして

 

 

44

をとに聞ゆるおくのに入ものがしらにむまあ

ひつれかぶらのとをなりさせざるがむねん

なりといひければいとうこれをきゝすけちか

を人とおもひてこそくにの人々はうちより

両三日はあそび給らめさうなくざしき

にてせうのねがひやうこそ心せばけれそれ

/\かはづの三郎せこをもよほしてしゝい

させ申せといひけるぞい藤のうんのきはめ

なるかはづはもとよりをんびんのものにて心

のうちにはせつしやうをきんずる人なりけ

 

ればいかにもしてこのたびのかりを申とゞめ

なばよかるべしとおもへどもおほきさふらひの

中にておやの申事なればちからをよばであ

つとこたへてざしきをたちわれとせこをぞ

もよほしけるおさなきものはむまにのりて

出よおとなはゆみやをもてとふれければくず

みのしやうひろくしてらうにやく三千

四五百人ぞ出たりけるかれらをさきとして

三が国の人々われも/\とうち出たりいとう

かわづがさい女かずの女ばうひきつれて

 

 

45

みなみの中門(ちうもん)にたち出てうち出ける人々

を見をくりけるなかにもかわづの三郎はよの

人にもまがはずきりやうこつがらすぐれた

りこのうちの大しやうといひたりともあし

からじ子ながらもゆうに見ゆるものかな

たのもしとのたまひければかわづが女ばう

これをきゝゆみやとりのもの出のすがた

女見をくる事せんなしうちにいらせ給へ

といひければげにもとてをの/\うち

にぞ入にける神無(かみなし)月十日あまりにいづの

 

おくのへいりにけり

 

  おほみやはたがいとうをねらひし事

こゝにすけつねが二人のらうだう大見や

はたはこれをきゝかやうのところこそよき

びんぎなれいざやわれらたよりをねらはん

とをの/\かきのひたゝれてしらやさげた

るたけえびらとりてつけしらきのゆみの

いよげなるをうちかたげせこにかきまき

れねらふところはどこ/\゛ぞ一日はかしは

がたうげくまくらがたに二日はおぎがくぼ

 

 

46

しいがさは三日はながくらわたりくちきがさ

はあかざはがみねをはじめとして七日があひ

だつきめぐりてぞねらひけるしかれども

いたうはくに一ばんの大みやうにていえの子

らうどうおほかりければたやすくうつべ

きやうそなかりけるこのものどもが心をつ

くしけるありさまたとへていふべき

  かたぞなき

 

 

47

  しよきうていえいが事

さてもこの二人のものとも仁義をおもんじ

ちうこうをはげまし心をつくしねらふ事

をおもふにむかし大国にかういのいわうといふ

こうくわうありならびのわうとくにをあら

そひいくさをし給ふ事たび/\なりし

かるにかうめいわうたゝかひまけてじが

いにをよばんとするときにしよきうて

いえいとて二人のしんかありかれらを

ちかづけてなんぢらさだめてわれとゝも

 

にじがいせんとぞおもふらんこれまことにし

ゆんろのがるゝところなしさりながらわれ

に一人の太子どかんかといひて十一さいに

なるをふるさとにとゞめをきたりわれじ

がいの後ざうひやうの手にかゝりていのち

をむなしくせん事くちおしければなんぢら

いかにもしてのがれ出てかの子をはぐゝみそ

たてかたきをほそぼりむねんをさんぜよ

との給ひければ二人のしんかいぎにをよは

ずしてかこみのうちを忍び出けりかうめ

 

 

48

いわう心やすくしてじがいし給ひけりさ

て二人のしんか故宮にかへり太子をいざな

ひ出してやういくしけるそむざんなるかく

てかたきの大わうこれをきゝつたへすえ

の世にはわがかたきなりかの太子をなじく

二人のしんかどものくひをとりてきたらん

ものにはくんこうはしよまうによるべしと

くに/\゛にせんじをくだされけり此せんじ

にしたはつてかの人々に心をかけいかにも

してあやしみもとめんと思はぬものはな

 

かりけりしかれども一しよのすまいかなはで

あるひはとをきさとにまじはりふかき山

にこもりて身をかくすといへどもところなくし

て二人よりあひいかゝせんとぞなげきけるて

いえい申けるはわれらが君をやうしたてま

つるいかたきこはくして国中(こくちう)にかくれがたし

さればわれら二人がうち一人かたきのわう

に出つかへんといはんときさるものとて心

をゆるす事あらじときに我子きくはくと

いひて十一さんになる子を一人もちたりさい

 

 

49

はひわがきみとどうねんなりこれを太子と

とかうして二人が中一人は山にこもり一人は

うつてにきたりしう/\゛ふたりをうちくびを

とりかたきのわうにさゝげなばいかでか心ゆ

るさゞるへきぞのときかたきをやす/\と

うちとるべしといひければしよきう申ける

はいのちながらへてのちに事をなすべ

きこらへのせいはとをくしてかたしいま太

子とおなじくしせん事はちかくして

やすししかれはしよきうはこらへのせいす

 

 

49

すくなきものなりやすきにつき我まづしぬべ

していはてきはうにいでん事をいそぎ

たまへとぞ申けるそのゝちていえいわが子

のきくはくをちかづけていかになんぢくはしく

きけわれらはしゆくんの太子かくした

てまつらんとせしゆへにわれ/\なんぢらまで

もかたきにとらはれていぬじにをせん事う

たがひなししかればなんぢを太子といつはり

たてまつりてくびをとるべしうらむる事

なくして御いのちにかはりたてまつりて君を

 

 

50

もあんぜんならしめよおやなればそひはつべ

きにもあらずらいせにてむまれあふべしと

申ければきくはくきゝもあへずなみだをな

がしてしばし返事もせざりけりちゝ

此わろを見てみれんなりなんぢはや十さ

いにあまるそかしゆみやとるものゝ子はは

らのうちよりもものゝこゝろはしるぞかし

といさめければきくはくこのことばをきゝいひ

けるはわがいのちおしきによりなくには

あらずまことにそれがしがいのちひとつ

 

にてきみとちゝとのかう/\にさゝげ申

さん事露ちりほどもおしからさるもの

をやなげきの中のよろこびなりとい

ひもあへずなみだに

  むせびけり

 

 

51

ちゝこれをきゝ子ながらもゆうにつかひた

ること葉かないまだおさなきものそかし

まことにわが子なりせいじんのゝちさぞと

思ひければおしくといふもあまりありわれ

心よはきとみえなばもしみれんにもや

なりなんと思ひければながるゝなみだを

をしとゞめゆいやのいえにむまれて君の

ためにいのちをすつる事なんぢ一人にも

かぎらずさいごみれんにては君の御ため父

がため中/\見ぐるしとて一めいをそん

 

 

52

にすべきなりといひければきくはくなみだ

ををさへてかほどにふかくおもひさだめて

候へばいかでかをろかなるべき心やすく

おぼしめせさりなからさしあたりちゝはゝの

御わうあkれいかでかおしからて候べきさいごに

おきてはおもひさためて候と申ければ父

も心やすくぞ思ひけるさて又二人yろいあ

ひなひだんするやういまきみの御ため

にうたるべきいのちはやすくのうりとゝ

まりてかたきをうちて太子を世にたて

 

申さん事おもきがうへの大事なりいかゞせ

んながらへこうをなす事かんにんせいなくして

はなりかたしわれまつしなんとてしよきうは

十一さいのきくはくをつれて山にこもりて

つてをまちける爰とのうちむざんといふもあま

りありそのゝちていえいはかたきのわう

のあたりにゆきめしつかはれんと申てきわ

うきゝうのもの身をすておもてをよご

しわれにつかふべきしんかにあらずさり

あがら世かはりときうつればさもやとおもひ

 

 

53

かたはらにゆるしをくといへともなをがいしんに

おそれてゆるす心なかりけりいひあはせ

たる事なれは我いまくんわうにつかへて

二心なしうたがひことはりなれどもせかいを

ばめぐれちじよくにかへてたすかるなりな

をしもちひ給はずはしゅくんの太子しんか

のしよきうもろともいんかくれいたるところを

くはしくしれりうつてを給はつてむかひ

かれらをうちくびをとりてみせまいらせん

といふそのとき国わうくわぼくの心をなし

 

数千人のつはものをさしそへかれらがかくれい

たる山へをしよせ四はうをかこみ時のこえ

をそあけたりけるしよきうははおもひに

うけたる中なれはしづまりかへりて

をともせすていえいすゝみ出て申けるはか

うめいわうの太子とかんがやましますてい

えいうつてにまいりたりさうちやうのて

にかゝり給はんよりいそぎじがいしたまへ

のがれたまふへきにあらずと申ければしよ

きうたち出わか身のまします事かくし

 

 

54

申べきにあらずまち給へ御じがいあるべしさ

りながらけふの大しやうくんのていえいはき

のふまではまさしきさうでんのしんかぞかし

一たんのえこにちうすともついにはてん

ばつふりきたりとをからざるうせなんは

てを見ばやとぞ申けるていえいこれを

きゝて時世(ときよ)にしたがふならひむかしはさも

こそありつらめいま又かはるおりふしなり

さればにや君も御うんもつきはてめ

いもつゞまり給ふぞかしいたづら事にかゝはり

 

 

54

ていのちうしなひ給はんよりかぶとをぬぎゆ

みのつるをはづしかうさんし給へいにしへの

なさけをもつてたすくべしとぞいひける

十一さいのきくはくうつてはちゝよとしりな

がらかねてさだめし事あんればちゝちう代(だい)

のけんをよこたへたかきところにはしり

あがりいかに人々きゝ給へかうめいわうの太子

としてしんかの手にかゝるべき事にもあらず

又しんか心がはりもうらむべきもあらずたゞぜん

ごうこうつたなけれさりながらそのいえひさ

 

 

55

しきらうだうぞかしていえい出たまへ

日ころのよしみにいま一どげんざんせんといふ

ていえいわが子のふるまひを見お手こゝろ

やすく思へどもしのびのなみだぞすゝ

みけるつはものあやしくや見るらんとお

つるなみだををしとゞめ人/\゛これをきゝ

たまへこくわうの太子とてゆうにつかひ

たることばかなかうこそありたけれと

いひけるがさすがをないのわかれつ

つみかねたるなみだの袖しぼりもあへ

 

ずよそのあはれをもよほしつゝあひしたがふ

つはものはさしあたりたる

  だうりなれば

 ともにかん ぜぬは

   なかり  けり

 

 

57

そのゝち太子かうしやうにいはくわれはかう

めいのわうの太子しやうねん十一さいちゝ一

しよにむかへ給へといひもはてずけん

をぬきつらぬかれてぞふしぬしよきう

おなじくたちよとてけなげにも御じ

かい候ものかなそれがしもやかておひつ

きたてまつらんとてはら十もんじにか

きやぶり太子のじがいにまろびかゝり

てふしにけりありさま見るにこと葉も

をよばれずむざんなりしためしなりさて

 

ふたりがくびをとりてこくわうにさゝぐえい

らんありてきえつのまゆをひらきたまふ

いまはうたがふところなくていえいに心を

ゆるし一の大臣にそなへたまふこそ御うん

のきはめとぞおほえけるされもていし

はひまをうかゞひてかたきのこくわうを

うつてすみやかにしゅくんのとかんかを

世にたて二たび国王にそなへしかば

もとのごとくていえいをさうしんにたてら

るゝによつてしよきうきくはくの為につい

 

 

58

ぜんそのかずをしらず三年(とせ)にくにこと

ごとくしづまりおはりてちていえい

きみにいとまをこひていはくわれしよきう

にけいやくしていのちをきみにたてま

つるにちそくをあらそひしなり御くらひ

これまでなり今は思ひをく事なかればし

よきうが草のかげにてのこゝろもはづかし

じがいつかまつらんと申ていわう大きに

なげきてこれをゆるす事なしされどもひ

まをはからひしのび出てしよきうがつかの

 

まへにゆき君の御位はおもふまゝまりい

かにうれしく思ひ給ふらんわれまたかく

のごとしいにしへのけいやくわすれずと

いひてはらかききりうせにけりあはれな

りしためし也されば大見やはたがしうの

ためにいのちをかろんじていとうをねらひし

心ざしこれにはすぎしとぞ

  おぼえ ける