仮想空間

趣味の変体仮名

放下筌

 

読んだ本

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2

  序

今迄 世に ばけ物の本 あまたありといへども

皆怪(あやし)く 恐敷(をそろしき)のみにて 其变化の正体しる

べからず 黄金の精が人に変じ 川太郎が

女にばけ 天狗が小姓になりたる類(たぐひ)あれ共

ばけ様(よう)を見たる人なし 然る時は 人其妖怪

を恐れて 神明の如く 貴(たっとむ)ことあり 人は万物の

霊長なれば 人こそ ばけて 畜類を たぶら

 

 

3

かす程に有べき也 茲(こゝ)に放下筌(ほうかせん)あり 此書 始

には しな玉(だま)の術を極(きはめ) 其外(ほか)手(て)ずま人作(にんさく)の妖(ばけ)

物(もの)の作様(つくりよう)を著(あらはす)事は 仏(ほとけ)仮に法便を解(とき)玉へる

喩(たとへ)の如し 世間の子息(むすこ)ヤゝ人となれば 親を

いつわり金を費しなどするにより 親たる者

其品玉(しなだま)の本(もと)を察し 先へばけて財宝を隠し

置けば 悪遣(わるづか)ひするニ暇(いとま)なし 萬(よろづ)の事 此書ニ

よりて深く考る時は益(えき)ある事をしるべし

 

匹夫(ひっぷ)の業(わざ)も理(り)正しき事を見れば さいかくの

便(たより)も成(なる)べき者也 茲を以て大学の始の教(をしへ)

致物(ことをいたし)致知(ちをいたす)の義を解給へり 人々深く其理を

味(あじを)ふ時は 機知を生ずるの便とす 読(よむ)者其

理の浅(あさき)を以て 是をゆるがせにすべからず

 

 浪華 赤松閣 平瀬輔世 謹書

 

 

4

  しな玉(だま) の図

茶わんに

ふせたる

玉を いと

そこより

ぬきて 見せ

白き 玉を

赤きに かへ

又は 一つの ちや

わんより あまたの

 

玉をいだし

次に むかふの

いかきへ かよ はせ

又は 猫 狗子(いのころ)

 よこづち 等を いだす

 

 

5

 金輪の曲(かなわのきょく)

五色(ごしき)の砂を水中に入(いれ)

 すこしも 濡(ぬれ)ざる術

 

「江戸本家」「反魂丹」

 

 

6

竹の筒に

幣帛(へいはく)を たて

をき 行法(ぎやうほう)の

なかば に

 

をのれと

御幣(ごへい)

をどり うごく

術なり

 

座敷にて

狸七ばけを

現す図

 

屏風のうちより

高入道その外(ほか)

いろ/\のばけ物を出し

屏風をひらけば

すこしもそのあとを

見せざる術

 

 

7

一、苦蔵(はうづき)灯燈(ちやうちん)

一、起上りこぼし

一、はじき鉄砲

一、お長(ちやう)殿の手ぐるま

一、算盤

一、飛人形

一、もうせん

一、風鈴(ふりよう)

一、ぬり桶

一、鳴戸(なると)

一、鞠(まり)

一、まごの手

一、手鞴?(籥)(てふいご)

一、碁いし

一、眼鏡(めがね)

 

一、帋帳(しちやう)

一、火のし

一、からかさ

一、かゞみ

一。竹馬(たけむま)

一、へちまのから

一、綿ぼうし

 

右の道具類にて

 をもひつくべし

ばけ物は人のまへ にても

できる様(よう)に軽くするを

よしとするなり

つくり様(よう) 奥に

詳(つまびらか)なり

 

 

8

 鉄火 にぎりの図

 

鍋かぢりの図

 鍋釜をかみ くだき

 水にてのみ

 腹中(ふくちう)に滞(とゞこふ)ら

               ざる術

 

 

9

縄抜(なわぬき) 縄

  むすび

の図

 これは ほそ引(びき)を袖より とをし

両はしを

もたせをき 見物人の望(のぞみ)に

       まかせ 懐にて

       いくつにも まむすびに

       する術なり

 縄ぬきは

  両手を しばり

  縄をとをし 人に

  もたせ をきて

  ぬく 術なり

 

玉を のみ

耳より 出(いだ)す 図

 

玉をのみ 耳

より いだし 目 よりも

いだし 手のうちに

にぎりて

手の甲より

ぬきとる 術

 

 

10

鬼火の中に 異形を現す術

 

 

11

白紙を切(きり)て

水に入(いる)れば

泥鰌(どじよう)と

なる 術

 

小刀(こがたな)を のむ術

 

 

12

四国の山中に異形の者あり そのかたち 人に似て

 三つの目 青く光り 口に火を吹(ふき) そのゆく事 飛(とぶ)がごとく

  夜をこのんで 夜出(い)づ そのばけ物を あらはし

   見する

   戯れ

 

 摩醯首羅王(まけいしゅらをう) 三目(さんもく)の術

 

 

13

御祓(おはらひ)づりの図

器物(うつわもの)を釘なき ところに

折紙にて釣(つる) 術なり

 

紙を

やきて

雀と

なす

 

附タリ

 正真の玉子

   けふりとなり

    そらへ

     飛行(ひぎやう) する 術

 

 

14

川太郎をよび 出(いだ)す たはむれ

 

人の首(かしら) 長く見せる 術

 

 

15

紙を やきて

ひらく ときは

やけあと なき

戯れ

 

立雛(たてびな)

うごき

はたらく 術

 

 

16

庭前(ていぜん)に

化生(けしょう)の

ものを あつめ

五色(ごしき)の

雲気(うんき)を

おこさし

むる図

 

 

17

放下師

 

(以下略)

 

 

20

放下筌巻之中目録

一しな玉の術                 壱丁目

一金輪の曲                  六丁目

一五色の砂を水中に入すこしも濡ざる術 七丁目

一幣帛おのれと動く術            七丁目

 

 

21

一 狸(たぬき)七(なゝ)ばけの法

 第一 大坊主を出す事                  八丁目

 第ニ 行燈(あんどう)俄に手足を生ずる術       八丁目

 第三 見越入道を出す術                八丁目

 第四 逆に歩く女のすがた                九丁目

 第五 大蛙蟇(をゝかいる)赤気(しやっき)を吐く事 九丁目

 第六 小さき穴より大きなる頭(かしら)を出す事   九丁目

 第七 障子に人の面(をもて)を数多生ずる術    十丁目

 

一 鍋かぢりの術       十丁目

一 鉄火握りの術      十丁目

一 縄抜(なわぬき)の事  十丁目

「たまを作る事」 棕櫚(しゅろう)ぼうきの毛を

ぬきて 絵のごとく こしらへ 絹切(きぬぎれ)の内にぬひこ

むなり かくのごとくする時は 多く握れども かさびく に

なり 手をひらけば 甚だ をゝく見ゆるものなり

(図)「此所 手にて はかるべし

 

 

22

(図)「此内に くろ玉 あり

「第一」

手の内に

くろだま

を にぎり

絵図のごと

く ちやわん

を もちて

ふせるときに 下なる玉を人さし指の

またへ かくのごとくに はさ

みて 前のかたへ ぬき

ちやわんの上を みぎへ 一編(へん)まわし

むつかしき手じなをして いと

ぞこ より ぬきたるやうに する也

 

(図)

此内ニ玉 をゝく あり

此ては はなす也

さいぜんの玉

あらわれたる所

 

「第二」

さて右の手にて ちや

わんをとり さいぜん 替(かへ)

きたる玉を見せ 又ひだりの手

に をゝく玉をにぎりて 図のごとく

ちやわんをもち ひだりの手にて ふせ

をくなり

 

(図)

さいぜんの玉

をゝく 此内ニ

いれてあり

 

「第三」此玉を 手の内へ にぎりて

ちやわんの中へいれます と いふて

左の手をはやく にぎり 玉は やは

り右の手の内ににぎり居るなり

ひだりの手の内に にぎるやうに見せ

る事を よく考ふべし

 

(図)

玉は此所にあり

此内に玉

をゝく あり

 

「第四」

さて図のごとく あふぎを もち

て ひだりの手を口にて吹き

小ゆびより一本づゝひらきて

見せるなり

 

 

23

「第五」

図のごとく

ちやわんの

いとぞこを

もちて開き

見せるなり

但し此ちや

わんのそこ

には はじめ

より やわらか

なる のり を つけをくなり さて ちやわん

を 左の手にもち 右の手にかくしもち

たる玉を人の見ぬやうに のり に つけ

て ふせをくなり

 

(図)

此手の内ニ

玉一つあり

 

此所ニ

のりを

つけ

をく也

 

「第六」

そのとき

図のごとく

いとぞこを

もちて 中の

見えぬやうに

すこし上げて

ちやわんを あ

らため あらく

ふせをけば そこにつきたる のり はな

れて 玉は おちるなり

 初心の内は 白きちゃわんの内に

 白びんづけ を ぬりて すべし 玉の

はなれ よきものなり

 

(図)

此玉ハ やわらかなる

のりにて つけをく也

ざしきにて するときハ

酒をしたみて するも よし

水にてハ できず

 

(図)

のりの

つき

たる 玉

此内ニ

あり

 

「第七」さて此玉

を ちやわんの外からいれ

ます と いふて ひだりの手を

はやくにぎり 玉は やはり

右の手にもち居るなり

(此仕(し)やうハ 前にあり

  第三の所)

 

(図)

もちかへたる玉

此内にあり

此内に

ものなし

 

のりの

つきたる

玉 此内に あり

 

「第八」

(此仕様も前にあり 第四の所)

 

(図)

此玉を 見へぬ

やうに持べし

 

此ちやわんを

あふぎ にて

たゝけば 玉

ハ おちる なり

 

のりの つき

たる玉 此内ニ あり

 

「第九」

(此仕様も前にあり 第四の所

 

 

24

「第十」

さて のりのつき

たる玉を出し

右の手にかくし

もちたる玉を

図のごとく もち

て はじめの玉と

一つに ふせをき 又

別の玉を 右の

手にもち 此玉を にぎりますれば ちやわん

の内なる玉は 二つになります と いふて 左

の手を はやくにぎり 玉は やはり右の手に

もちいる也 さて ちやわんをひらき 手の内な

る玉を「第七」印(しるそ)のごとく すべし かくのごとく

何度(いくたび)もすれば 玉ハいくつも いづる事なり

(図)

此玉は 見へぬ

やうに持つべし

 

此玉ハ 上

の玉と一

つに入れ

をくなり

 

「第十一」

図のごとく

べつのちやわん

の中へ紙ざいく

の松茸を やわ

らかなる のり

にて つけをき

ちやわんの いとぞこを もちて 中の見へぬやうに

少しあげて 茶わんを あらため あらく ふせをけば

そこに付(つき)たる のり はあんれて 松だけは おちる也

そのとき別の松たけを ひだりの手に もち 此

まつだけを にぎりますれば りやわんの内へ

かよひまする と いふて やはり右の手に も

ちいるなり 紙松茸の仕様 次にあり

(図)

此松茸

は のり

にて

つけ

をく

なり

 

「紙松だけ

 作りやう」

紙を竹に m

きて 上より しめ

よせれば ちゞみ 紙

となる っそのとき

竹をぬき 図の

ごとく まきたる

ところを 少しあとへ もどし 竹をぬきたると

ころへ こより を とをし 両はじを一つに しめよ

すれば輪となる この輪のところを手のひら

にて をさへ ともし火にて あぶれば ゆえん

つきて 実(まこと)の松茸のごとし

 

「第十二」

ちやわんを

四つならべて

玉を一つづゝ入(いれ)

をき 此玉は左

のちやわんへ う

つります と いふ

て 図のごとく

中二つの玉をつかみとり ちやわんをふせる

とき ひだりのかたへ 二つ入れをき 右のかた

の玉は二つとも手の内につかみとりて

次の図のごとく するなり

 

 

25

「第十三」

図のごとく左の

はしなる ちや

わんに玉を二つ

入れ 右のはしな

る玉は 二つとも

つかみとり ちや

わんを四つながら

うつむけ あふぎ

を手にもち 此

ちやわんを たゝきますれば 玉はひだりへ かよひ

まする と いふて あふぎにて ちやわんの いと

ぞこを 右より次第にたゝくべし

  すぎにて たゝく事は 手じな

  にて用なき事なり

(図)

此内ニ玉 二つあり

此内ニもの なし

此内ニ ものなし

此玉ハ二つ ともつかみ とるなり

 

「第十四」そのとき右三つの茶碗を

あらため ひだりのはしなるを うつむけながら

図のごとくにもちて 中なる玉をうごかし 手

の内なる玉を 小ゆびと べにさしゆびと

にて 左のかたへ は

ねこむ也 これは

中にはじめより

玉あるゆへ あと

よりいれたる玉

は まぎれ しれ

ず 玉なきとき

ハ此とをりにてハ

できず

(図)

此二つ ハあと より いれ たる 玉也

 

「第十五」

茶碗を

四つならべ

玉を一つ

づゝ入れて

ちやわんを ふせるときに

みな つかみとりて ひあの下へ

かくし あふぎ にて ちやわんを

あをぎ たゞいまの玉ハみな

いかきの中へ かよひました

れども 玉ばかりでハおなぐ

さみに なりませぬ ゆへ 生(いき)

ものに かへて 御目にかけまする

と いふて いかき の いとを引(ひき)

きりて ひらくなり

 いかき の しかけ次にあり

 

「第十六」狗子(いのころ)を 一疋 ふとき

もめん糸にてつなぎ いかき を ひら

くときに 図のごとく 糸をきりて いか

きを あけるなり

 但し 初心のうちハ 亀(かめ)鼈(すっぽん)

よこづちのごとく こえ の なき

ものを もちひて よし

(図)

此ところをきれば

いとは 上のかたへ

ぬけるなり

 

 

26

「金輪(かなわ)の曲(きょく)」

(図右上段)

「第一」

此合せめの

見へぬやうニ

作り置

べし

(二段目)

「此金輪を上

よりうちこみ

下へぬきますと

いふて次のごとく

するなり

但し手ばやくす

ること肝要也

(三段目)

「第二」

手ばやく

すれば人の

目には上より

下までとをり

なるやうに見

ゆるもの也

(四段目図)

左の手

右の手

此図のごとくはづれ

たるとき次の

ことくすべし

(中上段)

「第三」

左の手右の手

(二段目)

「まへの図のごとく

金輪をぬきて此(この)

図のごとくもてば

下へぬけたるやうに

見ゆるなり

(三段目)

「第一」

右の手 左の手

(左端上段)

「第二」

さて此絵図のごとく

横へひけばぬけるなり

(二段目図)

右手左手

(三段目)

「第一」

此四ツのか金輪を

下までとをし

まするといふて

次のごとし

(四段目図)

右の手左の手

 

「第二」

絵図のごとく下へ

うちこめば二つ

ともにとをる

ものなり

(二段目図)

右左

(三段目)

「第三」

此仕やう まへに書(かき)

しごとくはやく

すべし金輪の曲

は此外(このほか)に ひでん

なきもの也

(四段目図)

左 右

此所下へ

引はめける 也

「五色の砂を水中にいれ すこしもむれざる術」 つねのすなをうす膠(にかわ)にて

                            五しきにそめわけ蝋(らう)にてま

ぶす そのつもりは すな一升に蝋一匁なり さてよくまぜ

合せてのちに 松やにの粉をかけ 目八分いれ これもよくまぜ

合させて すな一つかみにぎり 水中へつかみながらいれ 水

中にてつよくにぎりかためて 水のそこにしづめをくに すな

すこしもみだれることなし さて五しきを五たびに右のごと

くしづけをき 人ののぞみにしたがひ とりいだす そのと

き水中にて砂をみぎりて 水より出し にぎりながら とくと

水をふりのけて すなを手のうちにて もみくだきて

をとす にかわ きたる すなとなる

 

 

27

「幣帛おのれと動く術」 幣(へい)をかざるところすこし台たかき

をよしとす ずいぶん厳重にともし火をかゝげ 絹をはる しんしと

いふものに幣を針にてとめ だん上に穴して 秤の をもりの糸 つよく

もぢらし弊の中につり ずいぶん もじりのゆるまぬやうに弊の紙にて

とめをき いのる内に物のひゞきにて彼(か)のをもりをはづす そのとき

  この弊おのれとうごき

いで びり/\とおそろしく

をぼゆるなり 但し

をもりを しらかみにて

つゝみ しろき いとを もち

ゆべし

(図)

此ところへ秤のをもりを

    かけるなり

針にて

とめたる所

此をおりを紙にて

つゝむべし

 

「狸七ばけの術」 高入道をするには火燵(こたつ)のすいつ

           をぬきて杖一ぽんとうちわに

かくのごとく数を書て たゝみの下に入をき 屏風

をひきて その内へ人二人かくて 一人はたい

こをうつべし これはたゝみをあげるおとをまぎらかすため

なり さて一人は帯をゆるめて衣裳を上のかたへくりあげ

そで口より杖をとをし彼(かの)うちわと杖のまん中と一つにもちて

上のかたへさしあぐれば身の長(たけ)つねに三ぞうばいに見ゆるものなり

そのとき又別の人を出(いだ)して役につかひ しまひには皆屏風の内へかく

れもののごとく穴より逃(にが)し やはり二人にてするやうに見せ 一人は形を

かくし はたらく也 此仕やうにて ばけ物は幾色も思ひ付 次第に出すべし

但し此たゝみ 半間(まなか)たゝみを工面すべし 取(とり)なやみ かさびく にて自由也

 

 

28

「(二)行燈(あんどう)俄に頭手足を生ずる術」 大きなる行燈のさやをもちゆ

その中へ一尺ばかりの竹をもつつてはいり かしら手足をちゞめ

弓張てうちん を さかさまにして顔をつくりたゝみて行

燈のうへにをき かくしもちたる竹にて てうちんのそこをつ

けば かしらとなる そのときあんどうをやぶり手を出し次に足

をのばしておどるべし 仕形(しかた)そのときの気転あるべし

「(三)見越(みこし)入道を出す術」 干瓢(ふくべ)に眼とはなとを書き

口のところを小がたなにて ほりぬき 干瓢の中に糸をゆるく張り

そのいとに鯣(するめ)をつけて舌となし ふくべをうつむくるときは

口より舌を出すやうにつくりをき さてそのふくべに ふとき

 

をけの輪の竹をくゝりつけ屏風の中より くだんの竹を次第

にさしあぐれば天井へつかゆるゆへ竹しはりて人を見越す

そのときふくべの口より舌出るなり

「(四)逆に歩く女のすがた」 手に きやはんと?(をび)とを はき 白き

                 衣物(きもの)を逆にき 黒き帯をし 灸(やいと)ばゝ

といふ様に前後(まへうしろ)をまわし提灯にはりぬきの 女のかづら きせて

帯にさげる あるひは さばき髪の体(てい)に つくるもよし

「(五)大蝦蟇(をゝかいる)赤気(しやっき)を吐(はく)事」

蚊帳の中にからかさをいれをき箕(み)を二つ合して水にてぬ

らし抹香をふりかけ茶台を目となし(但し箕をさか さまになすべし)箕の中

に あか紙をきざみて をゝくいれをき 蚊帳の中に人二人はい

 

 

29

り 一人はからかさをひろげてさしあげ 蚊帳を ふくらし

一人はうちわにて あをげば 箕の中なる あか紙 かいるの口

より みだれちるものなり

「(六)小(ちいさ)き穴より大きなる頭(かしら)を出す事」 美濃紙を四枚つぎて 但し

  のりに しぶをすこしいれて よし

  火吹き竹に絵図のごとく くゝり付け

  目鼻口をえがき 水にて

  ぬらし ちいさく丸め 障子の

  あなより すこし出して 火

  ふき竹をふけば 丸くふく

  るゝものなり

(図)

此所よりふき出す

水にてぬらさ ざればふくれず

 

「(七)障子に人の面(をもて)をあまた生ずる術」 鉄汁(をはぐろ)と めうばんと

二色(いろ)合せて障子に一間/\顔をかき 能(よく)乾かせをけば 白紙のごとし

さて ばけ物を出すときは障子をさしまわし風のぬけるやうにし

て屏風の内より大うちわにて あをげば障子こと/\゛く鳴動

するものなり そのとき障子の外より芼箒(すべほうき)に水をひたして

ちふれば障子紙ぬれて いろ/\の顔あらわるゝなり

「鍋かぢりの術」 投げを火にて焼(やけ)ば やわらかに

なりて歯にて かみわるほどに なるものなり これに雷丸(らいぐはん)

の あぶらをぬりて食すれば むね あしくなるゆへ しばらく

すれば のこらず はき出すなり

 

 

30

頃日(このころ)或家の小児 銭を咽喉(のど)につめて既に死せんとすときに

医師ありて彼(かの)小児の口にあぶらをそゝぎけるに忽(たちまち)はき出しける

かくのごときの事あれば いやしき小術(せうじゆつ)も捨(すつ)べきにあらず

「鉄火にぎりの術」

寒水石(ふんすいせき)と 小便の をり とを ねりて 身にぬり かわきて

のり火の内にとびいれば ぬるき湯に入たるほどの あ

つさに おぼゆるなり

「縄抜(なわぬき)縄むすびの事」 両手をしばりて別の縄

を絵図のごとく とをし 手のひらを合せて すれば

両手のあいだより縄の わな出るなり 次の図のごとし

(図)

此所ゟ(より)

縄の

わな

出る也

 

図のごとく両手

のあいだより縄の

わな を いだし 手

さきを こやして

なわを引(ひつ)ぱる

ときは まへの

かたへぬける なり

 

此所へ ぬける也

此縄を こやす なり

 

「蜜柑をつかふ戯(たわむれ)」 みかんの上の方へあなをあけ(へたの方えは できず)紙を

                   すみどりにして しごき 穴の小口へすこしさしこみ

みかんをぐる/\と何度もまわせば蜜柑一つに紙三まいほど入るもの也

○又一法 みかんを三つにわり(但しはなれぬ ようにすべし)中の身を取り ちやわんに水を入 へたの所を持ち

て ちやわんの中へ入れ しばらく置いて取出すに みかんの内へ水一ぱいはいりて

あれども すこしもこぼれず これを別のちやわんへうつし何度もすれば 水

みなになる かやうの事はしれやすき事なれば目録にのせず

 

 

31(挿絵)

 

 

32

放下筌巻之下目録

一、縄むすびの術        三丁目

一、玉を呑て耳より出す戯   三丁目

一、鬼火を現ずる術       四丁目

一、小刀をのむ術        五丁目

 

一、白紙(しらかみ)生(いき)たる泥鰌となす術     五丁目

一、摩醯首羅王三目(まけいしゅらわうさんもく)の術  五丁目

一、御祓釣(おはらひづり)の術              六丁目

一、紙を焼(やき)て雀にする術              六丁目

一、正真の玉子烟(けふり)となり空へ飛行(ひぎやう)する術 七丁目

 

 

41

一、川太郎を出す術      七丁目

一、人の首長く見せる術     八丁目

一、紙をもやして焼跡なき術  八丁目

一、立雛動(うごき)はたらく術  九丁目

一、庭前に化粧物を集め五色の雲を発(をこさ)しむる術  九丁目

 

「縄を両袖より とをし 両はしを ま

むすびにして むすびめを ふところへ

まわし 両はしを引けば ほどける術也」

(図上)

此ところを むかふへ ひかすべし

此所を下の方へ 真直(まっすぐ)にひけば 次の図のごとく なるもの也

(図下)

此図のごとく なるとき

これをまわして

そでの内へいれ

て図のところを

両方へ ひかすれ

ば むすびめ ほど

けるゆへ 縄は

ぬけるなり

「此所をひく  此所をひく

 

 

34

「縄を袖にとをし

両はしを人に持(もた)

せて 中を まむす

びに する術」

「なわを両そでより

とをし 懐中にて図

のごとくむすび なわ

をもちたる人に この

なわを ひだりへぬき

まする と いふて 手を

はなさせ ひだりへぬき

出すひやうしに懐中

にて図のごとく右へ

ぬきて出すなり」

(図)

此わなへ とをす也

此所を 上の わなへ とをせば 左の ごとく むすべ る也

此はしを ふとこ ろにて 右へ ぬく べし

「玉をのみて耳より出す戯れ」

玉一つ ひだりの手の人さしゆびの

あひだへ うらの方(かた)よりはさみ 手の

ひらを上にすれば 手には物なき

やうに見ゆるなり そのとき右の

手に玉一つ もち 口のうちに入れ

ひだりの手にかくしもちたる

たまを 耳よりぬきたるてい

にするなり

 但し二つとも同じ いろの

 玉を もちゆべし

 

「握(にぎり)たる玉を手の甲(こう)より打込(うちこみ)又抜取事

図のごとく手の甲に玉をのせて

うちこむやうにして ひだりの手を

むかふへ かたむくれば 次の図の ごとし

(下)

図のごとく玉をすべらし

下の手にもち

次の図の ごとく

する也

 

此所へはやく うちこむ なり

 

そのとき図のごとく

して 玉を人に

見せ にぎるやうに

して次のごとし

 

 

35

さて 上ゟ(より)おちる

玉を蝿をとる

手つきにて

はやく 中

にてとれば む

かふからは見

へぬもの也

 

とのとき中にてとりたる玉を 手の

甲よりぬきたるていに見すべし

 

「鬼火を現ずる術」

わら人形をつくり 糸にて木

のえだにつり 鰯のくびを多

くあつめ はりがねにて目を

つらぬき じゆずのごとくにして

わらにんぎやうの背中にとぢ

つけ 闇の夜に見れば いわしの

ひかりあらわれ わらにんぎやう

くろく見へ 風にてうごく

ゆへ そのおそろしき事

いふばかりなし

 

「小刀をのむ術」 小刀の柄をみじかく切り 能(よく)ぬけるやう

          にして(図)かくのごとく紙に

つゝみ たゞ今これを呑で御目にかけませふ といふて 口をおし

ゆるときに 柄をものして 小刀ばかり膝のあいだへおとし 紙

を口のうちへ次第に をしこみ 終には柄も口中へいれ

てのみたるていに見せ 柄を口のうちなる紙につゝみ

見へぬやうにしてとり出すなり

「白紙(しらかみ)生(いき)たる鯲(どじやう)に化する術」 鯲を紙につゝめば すこしもうごく

事なし これを たもとにかくし

鉢に水を入れをき 紙にあやしき文字を書て 鋏に

て ほどくきざみて 彼(かの)鉢に入れ 楊枝にて かきまわし

一(ひと)所へよせて鉢のうへに あふぎをひろげ蓋となし 右

 

 

36

の大ゆびのまたに どじやうの いりたる紙をはさみ ふせ

をきたる あふぎの下に手をいれて どじやうのいりたる

を水中にいるれば どじやう はねるゆへ 紙はやぶるゝ

なり そのとき鉢にいりたる紙を どじやうのいりたる

紙と ひとつにつまみ あふぎをとりて こしにさす時

に 紙もともに帯のあひだへ かくすなり

 饂飩(うどん)に変えるも同じ事なり これも うどんを多く

 出して見るが上手なり

摩醯首羅王三目(まけいしゅらわうさんもく)之術」 ほたるの背(せなか)に のりをつけて両

方の眉毛の下と ひたい とに つけ 消ずみを半火(なかばひ)にして

歯にて くわえ くらき所に立て いきを せわしくすれば

 

口中あかく見えて おそろしき事たとゆるにものな

し ほたる なきときは あわびの青貝を(図)かくのご

とく はりがねにてつなぎ ひたいにあてゝ 糸にて くゝ

れば 火のうつりにて 目のひかりに似たり

「御はらひづりの術」図のごとく紙を折て

            ちやわんの中へいれ

(此所ちやわん内の方)かくのごとく竹をけづりて ちいさき釘

を うちをり 紙のうしろへ見へぬあうにはさみ 壁に

おしつけをけば 釘にてとまるなり

「紙をやきて雀にする術」雀のくびを右の春音の下へはさみ

樟脳をひきたる紙にて ちいさき紙袋をこしらへ すゞめの

くびを むかふへ なして おしこみ これを右の手にかくしもち左

 

 

37

(図内)此紙の中に すゞめあり

の手に つねの紙を一枚もちて うらおもて

をあらため見せ さて右の手にかくしもち

たるすゞめを絵図のごとくもちて 下より

火をつけてやけば樟脳のつきたる紙なる

ゆへ すゞめはすこしもいたむ事なくして

飛さるなり 此すゞめも常に禽(かい)をきて

なれたるものがつかふに便なり よく馴れたるは はなしても

近辺なれば家にもどるなり 世に戯術(ぎじゆつ)をおこなふ

ものは手法(てじな)第一なり 手じなの外(ほか)にすこしづゝの仕かた

あり 両方もち合て いよ/\妙なり これらは看るも な

 

ぐさみとなるべし 又きつねにてもつかひて戯術の たす

けとする人あるよし 何を役につかひても地(ぢ)に手法(てじな)なき人

つかひては席上の戯術は出来ぬ事なり 祈祷をする者

のつかふは 理づめをよくすれば たぶらかさるゝものなり 又きつね

つかふやうに見せて それならぬいつわりあり これは一二段も下

品なり 或人のうわさに 飯綱(いづな)の法といへるは鼠を禽馴るゝ

ごとく きつねを禽て仕(つか)ふ事なり 杜編新書(とへんしんしょ)とやらんに狐の

心を深山(しんざん)にてまつりて これを仕ふことあるよし 大いなる ひが

事なり 狐は霊なるものゆへ いかほど祭られても我仇人の

ためには役(えき)せられぬものなりとかや

 

 

38

「正真の玉子烟(けぶり)と成空へ飛行する術」 鶏の玉子の前後にちいさき

あなをあけ 中のしるをよくすい出し あとへ酢をいれ

一(ひと)ときほど をき さて中の酢をふり出し そとの皮

をわりとり あま皮の玉子となるとき その中へ

たばこのけふりを一ぱいふきこみ さて座敷へもち出

たゞいま此玉子けふりとなりまする と いひさま手の内

にて玉子をもみつぶせば けふりとなりて そらへ

飛行するものなり

「川太郎をよび出す術」

六七さいの小児をあつめ 顔にちりがみを はり 眼と口

 

とのところをやぶり はすの葉をかづかせ 藻のうき

たる池にしづませ をき 客のきたるとき小児水中

をくゞりて うかみ出れば ちいさき藻 惣身に ひし と つき

て人肌は見へず これに相撲をとらするなり 池なきところ

にては 池の藻をとりよせ 水にて小児につけ 植木のあいだより

おもひがけなく出すべし さて川太郎(がたろう)の事 山海名物図会と

いふ絵本 豊後国の所にしるしあり 其外(そのほか)鯨のしほふき一の

銛二の銛 置き網 引縄なでの仕かた 金山(かなやま)の敷口げざいの

はたらきの次第 讃岐の平家蟹等(とう)諸国のめづらしきこと

ども多く右の絵本にくわしくしるしあり

 

 

39

「人の面(をもて)長く見せる術」

狼の糞を とりもち にて ねり 大きさ●これほどの丸薬に

こしらへて 火にたけば 其けふりの むかふに居る人の顔

長く見ゆること 刀のさやに顔をうつすがごとし

「紙の真ん中を焼きてひろげる時 焼け跡なき術」 小さき紙 もみたるを

右の手にかくしもち 左の手に常の紙を一枚もちて うらおも

てをあらため すみどりに折て 小紙をはさみ図のごとく

たゝみて 小紙のはしを しりのかたへ出し

一つねじて 此小紙にばかり火をつけて

 

もみけし ひろげるときに 鼻にてかぐまねをして 小

紙ばかり口のうちへ のむべし

「立雛(たてひな)動き はたらく術」

けしにんぎやうの雛の はかまに せんくず(鉄くず:砂鉄?)を つめて

あんどう(行燈)の下ざらにのせて ひだりの手にもち 右の手

に磁石をもちて さらのうらを なでるなり その

とき磁石にて せんくずを すふゆへ 雛は立て

おどるなり

「庭前(ていぜん)に化粧者を集め五色(ごしき)の雲を発(をこ)さしむる術」

五しき目がね といふものを あま戸のふしあなに 外(そと)

 

 

40

よりあて あつ紙にて ふちをはり 戸にかたく しり

さしをして あかぬやうに しつらひをき

 但し戸にふしあな なき時は あなをあけても

 くるしからぬ 戸一枚 かへをくべし

さて庭に いろ/\のすがたの つくりものを こしらへて 尻の

めん 猿のめん きつね 天狗 大黒 お?く(おたふく?)金平などの面を

きせて くだんのあなより のぞき見れば つくり物は はるか

上のかたに見へ その四方は すべて五しきに見へ そのけしき

はなはだ あやしく おそろしきものなり 前にかきしごとく

此眼鏡 一切五しきに見ゆるしかけなり そのつくりやうは

硝子(びいどろ)なりとも水晶なりとも 三角にすれば一切五色に見ゆる

なり 其理(り)の根元は天の虹を考へてつくりたる物也 日の???

 

中天にあめ あれば 西に虹となり 日の入に中天にあめあれ

ば 東に虹見ゆる 中天に日あり東西に雨ありて虹出来つ

ことなし これ則ち 水気斜めに光りを とをす故に 五色の虹となる 此

理を以て五色眼鏡をつくれり 一名 天人目かかね(てんにんめがね)ともいふなり