仮想空間

趣味の変体仮名

双蝶々曲輪日記 第二

読んだ本 https://archive.waseda.jp/archive/index.html

      浄瑠璃本データベース  ニ10-02245

 

 

13(左頁)

  第二 相撲の花扇に異見の親骨

茶を参れ/\/\/\ 中入迄も勝負附け かちまけの勝負附/\と 重言多き

売り声も 高台(たかきや)橋の南詰 けふ七日目の大相撲贔屓/\の玉の汗 濡髪贔

屓打まぜて 芝居張さく繁昌に 扇の花は雨と降り 羽織もぽいと堀江中 仏

浮出るあみだ池 人のうは気は嘸あらん 濱ばたへかけ出す茶店札売場 川は御座船

幾何艘 木戸は大入明日御出の張紙や余る見物横町筋 竹の行馬(やらい)に立留り 編

笠着たる賢人 残り多けに寄集り なんときつい大入 今の鯨波(ときのこへ)が中入そふな どふで

 

 

14

も濡髪(ぬれがみ)勝ますの 七日が間土付ず三ヶの津の前髪 第一立身取 左でも右で

も指したが最期 こりや/\と持て出る 留る とひねるか或はむそふと仕形咄に連の男

なんと大山と相引はどちらが強かろぞいの いやけふは関同士取ぬけなどちらにやら痛ができ

た其かはりに 下(しも)の屋敷の抱へ相撲 濡髪ととらしてくれと どれやら大身な侍衆の

所望故 勧進元頭取方が濡髪へ段々の頼み故 是非なふ一番取げなの 是は見たいかたし

たい あれ/\弁当口か透てきた 此間に割込押込もと皆々打連急ぎ行 川風に

天幕ひらめく石畳 堅い約束かはらじと あづま都か物思ひ 浮かぬ君達すゝめ込 舟の

 

一字の読音や皆一様の襠(うちかけ)は是ぞ両頭げきしうと 橋行く人もいくなやむ 引舟外山がうは調

子 爰らがよかろ舟当て まだ相撲は果まいか 太夫主一つ上りませ 市弥お銚子/\ はいの

返事も ヲゝそれ手元見や口からぢよろ/\出るわいの 一口上れ気が浮ぬといへどあづまは浮

ぬ顔 イエ/\酒置て貰ひませふ 夫はそふと都様 与兵衛様はどふじやいな 日外(いつぞや)浮瀬のやつ

さもつさ みんなあなたのいかいお世話 あの様な男気な立派なお方に五郎様をあやからしたい

けふも首尾してちよつとお出と文に委しうしらせしに 今において便りがない 夫でおかしも

なん共ない 但は舟で来てではないかと 見廻す向ふの紅梅に ちらりと見へし与五郎を 都は見る

 

 

15

よりこて招き早ふ/\ コレ外山主(とやます) 五郎様の舟へあづま様を借(かし)まして ちやつと/\に気損の

外山 へさきに立て舟の綱 結び合して サアあつま様御越と 呼れて嬉しさ機嫌もな

をり 五郎様なぜに遅かつたと 問れて与五郎されば/\ さつきにから此舟へもふいかふか/\と思ふていはいた

れ共 悪者の郷左衛門 有右衛門めが家来共を見へ隠れに付け置て 浮瀬の意趣ばらし 弱

い者は歩にとらるゝ とかふいふ中(うち)にも気味が悪い 長五郎が相撲仕廻次第くるであろ あれ

がくれば千人力 あの濡髪はこちの親仁の大気に入 じたいは家来筋なれば身請の相

談諸事万事 此中から頼で置た 追付芝居も果るであろ 委しい事はあすの晩

 

見付ぬ中に早ふいにたい/\と 元来正気がおぼこ育ちに気のせく都 コレ吾妻主(あづます) あの舟

へちやつとお乗り それから恨なりとすねなりと 早ふ/\に外山も供に あれ/\相撲が始るやら

柝(ひやうしぎ)が鳴る 御仕廻次第に早ふお帰し それ/\こち抔(ら)は酒にせう 此都が行事人 西は五郎様 東は

あづま主 やつと取たり障子をぴつしやり 遉(さすが)くるわの手なれ共 悪所仲間ぞ頼もしき 芝

居はざは/\賑はふ声 風が物いふなのか声 小松山/\/\/\ こなた神楽/\/\ どよみを作る見

物に札売男も走り行 東の方からいきせきとあゆみくるは与五郎がてゝ親 あつまから

けの山崎与次兵衛 年は六十二か三か始末親父のかたくな者 荷持でつちもおくれ足

 

 

16

趁跛(ちんば)ちが/\ほへ面(づら)かゝへ 申/\親旦那様 ちつとお休なされませぬか 肩も足もたまり

ませぬ エゝきたないやつら 道ならたつた七八里山崎から一息 昼休みは北濱のお屋敷是

も立ながらつい爰迄 それにちよこ/\休んだら茶の銭もたまらぬ 幸爰に茶店ちッ

との間休まそふと牀几にかゝればお茶上ませふ イヤ呑たうござらぬ火を借斗じやぞ

わいらかはくなら呑メ あだ茶呑むな腹がそこねるぞ イヤ亭主 相撲はきつい繁昌追

付果ますか イエ/\今面白い最中 今日は濡髪と アゝどれやら屋敷方の抱へ相

撲との所望有筈 ちと御見物 札一枚が六十八文 中木戸が七十八文 おつと待たり ドレ

 

そこな十露盤(そろばん)借したり サアいづたり エゝ札が六十八文 是が三人で二百十二文よ 中木戸

が七十八文 是が三人で二百四十二文 桟敷が七百六十 ヲイ 七百六十 上桟敷が

一貫八百 ホイ 一貫八百 是に酒が小半(こなから) マア三十よと 蛸の足一本が八文 三太めが小豆

餅が十(とを)で十文 コリヤ久三わりや下戸か ハイ酒も餅もよござります仕廻た こいつが

かいぜで二十よ 総〆三貫八十二文 是に目が四文こりや目が出るよしにせう わいらも

よう心得て銭あだに遣ふな 三貫八十六文大抵では設けられぬぞいやい 此銭を遣はず

に一つにして濡髪にやれば 結構な正月ごが出来る まちつと休で評判聞けば見たも

 

 

17

同前 どれ茶一つといふ折から いそがしそふに白台に巻物十本青ざし十貫樽肴 進

上机の立派な手代 やれいけ/\えいさつさ笹まめこと 行過るをば目早の与次兵衛 早くも

見付け こりや/\/\庄八/\と呼かけられて恟りはいもふ ハイ親旦那与次兵衛様 おかごにも召

ませずどこへお越遊しますと 大地に三つゆび気のとく顔 ハアやるは/\ 笹まめこ 味

やるは ヤイ与五郎めはどこにおる サア 有やうにぬかしおれ じだい此番頭の権九郎めがうつそ

り 此度のかはせ銀(がね)の事に付き おれか直にくる筈なれど折節わるう持病の疝気 夫故

にこりや権九郎躮斗は心元ない っそちが屋敷/\の勝手もしる 万事気を付け見なら

 

はせよ 埒明き次第連帰れ 隙が入程大坂の水に味が出来ると 底の底迄念を入 けふ

は戻るか あすは帰るかと待て共/\いかな事 此月でてうど足かけ三月(つき) 人をおこせばイヤ屋敷/\

に御用が出来た イヤかはせ銀が埒明ぬ 明かずは明かぬ様の義定(ぎぢやう)をしてなぜ帰らぬと 目先

の舟 見ても見ぬ顔そしらぬふり コリヤやい 此様に隙の入るのは尤 新町の傾城共に 鼻

毛読まれる与五郎め 権九郎めも儕めも 踊り狂ふて笹まめこ コリヤ 山崎から爰迄一人前

三十で乗合に乗せる 三人で九十 それ程の銭惜むではなけれどな 一文でもついえな事

に遣ひ果せば銀の冥加といふ物で 思ひばかゞ行ぬ物と 皆躮めが不便さに始末

 

 

18

するはい 内におればうそ高い金魚だらけ あの金魚が何の役に立 喰れはせず沙魚(はぜ)よ

りおとり 外へ出れば手放かけ 其大分の進物共大抵の銀目じやない 銭三十の乗合にさへ

得乗ぬ親 御子息は大方あの様な屋形舟に乗ちらし お山と一所に酒を呑 笹まめこふで

有ふがなと 舟をねめ付け/\て サ与五郎め連てこい サアいけうせふとせり立る 舟の内に吾

妻が ハア/\ 与五郎は夢になれとぞかゞみいる 庄八見るより即座の間に合 イヤ若旦那は先

程中入迄見物遊ばされ いかふ頭痛して目が舞様な 是ではたまらぬ定めて親父様も

お待ち兼 兎角親父様に早ふお目にかゝりたいと かごに乗て直ぐに山崎へお帰り 私も

 

御供と存たれば いや/\ われは此進物共おれかやるのではない 蔵屋敷ゟことづかつた 長五郎へ渡し

請取とつて屋敷へ渡し 跡から追付てござりますと間に合すれば 何じや 与五郎は病気故

山崎へ帰る 其進物は屋敷のじや ハイ 左様でござります ヲゝそれなら夫にして置 慥にそふ

か いやモ口もくされ えいは病気と有は是非がない ちいさい時からの虫が直らぬ物であろ

是から夜通しにやつてくりよ したがこいつらか足が立ぬ道から辻かごてぼつたてふ コリヤ庄

八 長五郎に逢たらおれもちと用事が有て下つたけれど 与五郎が病気故折帰りにいぬ

相撲仕廻次第見廻いかてらこいといへ けふも下つた次手に中風の薬で 相撲も見た

 

 

19

けれど銭がたんと入もする何やかやでいぬ こちへ来たら村中の若い者共よせて 銭いらず

にとらして見よ 嫁のお照も恟りせふ 権九郎に逢たら 銀(かね)の事首尾して早ふ帰れと

いへと かきたくる程云付けて ハアまだ忘れた 其進物の次手に此扇一本 けさおろした十二本

の加賀骨 要は象牙花じやといふて長五郎にやつてくれ 弥よ躮ば病気じやな ハイ弥よ

蔵屋敷のじやな ハイ 慥にそふと舟の内 かんじん要めの所をばいはぬ心の親骨は畳こんで

ぞ帰りける 庄八ほつと吐息つき 若旦那お聞遊ばしたか 聞た段ではない発明/\ ほん

にまあ庄八主(す)いかい働き もふわしやこはふて震ふて斗いたはいなァ どふぞ庄八濡髪

 

に逢て 太夫が身請の事頼んで 今夜中にいなずは又やかましかろが何とせう そこらは庄

八呑込でおります 先ず此進物を濡髪へ あれ/\名乗の声がする 諸事は後程/\と大木

戸さして行内に 濡髪/\/\ 放駒(はなれごま)/\/\ 是今日の結びの関と 内外評判取々に どちら

が勝ちかしらね共一度にどつとときの声 木戸はもやつく果太鼓(はてだいこ)あすもとふからどんからの

音にもまれて諸見物 潮のわくが〽ごとくにて もやつく中(うち)に サア/\あづま様ちやつと/\ 郷左衛門様

有右衛門様追付爰へ 見付られては大ぶ首尾 早ふ/\に綱ほどき舟遠さけて居る所へ 見物

群集(くんじゆ)に打交ぜり平岡郷左衛門三原有右衛門 問屋の手代が御供にて跡に付添ふ角

 

 

20

前髪は 大宝寺町の一番息子放駒の長吉 数多の見物押合いへし合 あれが屋敷

の抱への相撲 よふ関取様 見事な勝ち出来た/\にあふぎ立濱際 さして送りくえう 郷左衛門

舟よりも コレ/\放駒関取/\と 招かれ船へ飛のれば有右衛門 長吉きつい勝ち 郷左殿 あづ

ま殿の身請の義も 金の工面埒明瑞想 与五郎めが腰押の濡髪に勝たはめで

たい一つのも イヤ此郷左衛門が思ふつぼ 飛入どいはゞ長五郎めが立合ぬは定(ぢやう)の物 そこをぬからず

町人の長吉を 抱への角力放駒と偽り名乗上たればこそ 今の角力勝たは手柄 いよ/\

太夫が身請の世話も頼入る いや爰は船中 諸事は座敷で船やれ/\ はつと心得船

 

押出せば 与五郎あづま互に點頭(うなづく)顔と顔 遠ざかつても離れぬ思ひ 契りも深き堀

江川 別れてこそは行過る 与五郎も気詰りと船ゟ上り跡見送り コレ船頭 おれはかちでいぬ

程に迎ひをおこせと 九軒の井筒屋迄いふてたも アゝ心得ましたに船押切て別れ行 木戸

口よりも濡髪長五郎 評判一も角前髪 大郡内のふとりじゝ鮫鞘さすが関取と

一際目立 男ぶり 与五郎見るより 長五郎/\まあ/\爰へと 茶屋の床几に招れて ホゝ若

旦那是にお出か コ茶店のちよつと頼もふ あれ/\/\向ふへ行舟に追付て おれが名は云ず

に長吉殿に急にとちよつお目にかゝりたいと 誰やら待てござるといふて返事聞して下され

 

 

20

近頃大義にはい/\と其儘走り行跡に 鵺が見贔屓の与五郎 マゝ腰かきやかゝつた事

じやないけふの角力おれは力がとんと落た 太夫も今迄彼客と舟にいたが 力落して今

いんだ 郷左衛門めや有右衛門めが放駒を誉くさる胸の悪さ あづま身請の事埒明吉左

右と悦びくさる おれも船へ飛込で存分いはふと思へ共あつちは強し おれは弱し 兎角あ

づまが事が苦に成上 そなたは負るこりやまあどふせふと むしやくしや腹の詞を押さへ

イヤお気遣なされますな 相撲は放れ物 負たが負 さき程庄八殿のお目にかゝり 親

旦那の噂残らず聞ました 先ずお前は宿迄お帰り遊ばされ 金の工面なされませ 五日や

 

十日隙入ても濡髪呑込でおります 脇の手へやる事じやござりませぬ 改て申に

及ばね共 私が母者人はお前のお袋様の召使 私は八幡邊から養子に貰はれたげに

ござります 其お袋様もお果遊ばす 母も病死其上段々お世話に預りし大恩の与

次兵衛様 其若旦那のおまへ長五郎めが命の有中(あるうち)は あづま様の事世話致さいでなんと致し

ませうと 詞半ばへ茶店の亭主 申長五郎様 長吉様がそれへ参るとてござりますおつと

合点 サア/\お帰り コレ亭主 又たのも 此お方新町迄送て上まして 追付それへ参り

ます 随分早ふと与五郎は 亭主打連帰りける 早暮近き 濱側の 茶店目当

 

 

22

に放駒(はなれごま) 慥爰らと見廻せば 濡髪見るより イヤ是は御苦労 サア/\爰へ/\と 招れて放

駒 エゝちよつと逢たいとのお使いは濡髪殿 こなんでえすか 成程/\此長五郎 ちと其元へお頼申

度い事も有り 又外にお咄致さねばならぬ事サゝサ是へ/\ いかにもと互におれそれ床几に

ならび 腰打かける前髪同士 四角な十の二枚物 すは事こそと見へにけり イヤ長吉殿 お名

は切々聞及べどしみ/\逢はけふの相撲 扨きつい身塩梅に手のきゝ様 ハゝなんとごんすか

イヤモけうとい達者 イヤ/\ コレ長五郎殿 何やら咄したい事が有ど人を越たは其事てえすか いや/\

頼む事は外の事でもない けふの桟敷のお客ナ お侍そふな アイ ざぶてえす 夫が何とぞしたか

 

な イヤなん共せね共其お客が 此間(あいだ)新町の藤屋のあづまを身請の談合 其あづま

殿には 先からの馴染 則ち我抔が親方筋 若い人なり殊には部屋住故身請の金ど

我物で我儘ならず 此金のたんぞくする間も今四五日 其中に貴殿の方の彼お客に

請出されてはとそこが今の若い同士なり 何ぞ云かはした詞が立ぬとやらいふ様なむちやく

ちやした事が有そふなじや そこでわしは家来筋の事なり コリヤ長五楼 あつちへやつてはお

れが立ぬ われとふぞ先の客に逢て断(ことはり)いふて こちへ請出さして下されとほんの子供

のやうな若い人 わしじやといふて近付ではなし 何とせうと思ふ折から貴殿とけふの立合 是

 

23

は幸大坂同士若い同士 其お客のお気に立ぬ様にそこらをなコレとふぞ イヤこれ/\/\長

五郎殿 詞半ばじやが こなんのいはんす親方筋とは 山崎の与五郎殿の事でえすか いかにも

能く知てじゃなァ しつていやんす 其与五郎殿の事に付いて あづま殿の身請の相談 わしも又

成程侍衆に頼れ 金の工面する内 与五郎に請出されては立ぬ程に長吉頼む 金

の才覚する間脇へやるな 殊に向ふには濡髪が肩持つ程に われを頼むと頼れま

す わしも又与五郎殿とやらとあづま殿斗なりや 侍衆に断りいふて イヤそんな世話はいや

でござるといふまい物でもないてや なまなか濡髪が肩持と聞たによつて どふやら長

 

吉が濡髪がこはさにへり口いふと思はれるもめんだうなり 又友達仲間もそん

な物ナ そふじやごんせんか ムゝ天晴男 じやが そこじやてえ どこでえす イヤそこが

男同士 ひら押にたのみたい事あればこそけづの相撲 放駒と名乗を上た 見れば長

吉殿こなんじや 是はよい所といやおふなしに立あふたはアゝおかしやれいはしやんな そんな

りや 此長吉に此事を頼たいと思ふてけふの相撲をえいやうにしたといふのか イヤそふ

ではない イヤ/\ ふつたのじや おれがめんよふな貴様は評判の取出 とふで子供なぶる様

にするであろ おのれ左さいたら くひ付てなとやつてくりやうと思ひの外 ヤツトいふ

 

 

24

とずる/\と持て出た 其内に団(うちは)は上る 合点行ぬと思ふたがふつたのしやの なげる

なら投殺しておいて 又あらためて頼む事なら面白い引きはせぬ 其やうな人に物

やつて跡から金の無心いふやうな むさい長吉じやごんせぬ めい/\の心に引くらべ

ヘゝそりやもふ慮外ながら お関取には似合ませぬ イヤ長吉殿 そふいはんすりやいかふ

爰でやかましなるぞへ やかまし成たらなんとするへ さればさ 与五郎殿と其侍衆とが めつ

きしやつきに成所で貴様とわしとが立訳 まだ半分道もいかぬ内宿で互に

いひあふたり ぶつたりふんだりするは喧嘩の地取する様な物 そちらの身請もけふ

 

あすに埒明でもなさそふな 今四五日の事こちらも二三日には埒する筈 どう

ぞ ナゝ 貴様を頼むそちらの 金の隙入様に エゝごびつこい 其やうな工面仕り方便

者のいふやうな事はいやじや 叶はぬ迄も其時に成なら腕づく/\ 方便商売いや

でえす イヤ長吉殿 長吉よ 余りおとがいがあがき過るぞよ 与五郎殿の事に付ては

長五郎が命でも指上にやならぬ筋があればこそ 男の手をさげていふのじやないか それ

をかれがしつたかやい ナしらぬによつていふて聞すのじや モウえい頼まん 聞わけのない者

に物いふは放駒の耳に風 随分侍の腰おせ そりやしれた事 是から

 

 

25

内のあきなひも構はず 姉者人が勘当しらりやとまゝよ 随分貴様

の邪魔せうはい ホゝ侍がぬいて切かけふが といふが抜てかゝらふが 額に濡

髪 くさり鉢巻より慥な請人(て) ヘゝ切にくかろ ムゝまだ鞍味しらぬ放駒 人中(なか)

で馬のりに逢た事がないめづらしうふまれて見よわい 見るか ヲゝ見る 見

せうと互に 悪口(あっこう)にらみ合 おもうはず立たる茶碗と茶碗 手に持ながら コリヤ

長吉 此茶碗のやうに物事がナア丸ういけば重畳 長五郎 長吉と 此様

に破れたれば ハテ継れぬ角ひし 重て/\ わかれて こそは 〽帰りけれ