仮想空間

趣味の変体仮名

絵本江戸紫 中

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/pid/2575201

 

 

3

 櫛 楴枝(くし かうかい:櫛笄)

いにしへは 黄楊(つげ)にて

製したるを

上品と 定めけると 見へて

定家(ていか)卿(けふ)の 御うたに

つけのおくしと

読(よみ)給へり

鼈甲(べつかう)を

 

もちゆるは

近きころの

事と 見へたり

好み さま/\ 有な から

只(たゝ)遠山 より

朝日の 見ゆる

ほどに 有(あり)たし

 

 

4

 言声(ものごし)

女の声高 に

物かづ おほく

いふ中に

はやり詞

遊女めきたる

たわふれ に

人の よし あし

 

つくり 声 なとは

心ばへ

見おとり

せらるゝ もの から

つゝしみ 給ふべし

 

 

5

 居姿(いすがた)

行儀正しく

有 べし

たとへば

松 に

かゝれる

藤の

 

ごとく

弱き

ところに

つよき

ところ ある

風情こそ

あらまほし けれ

 

 

6

 歩態振(あるきすかた)

余り くらひ

とりて

 ねりて

あるくは

遊女の 品(しな)にて

好む へきに

あらず

 

弥生(やよい)の

うみに

帆かけて ゆく

大船(たいせん)の

心よかる

べし

 

 

7

 立姿(たちすかた)

立なから 我は

顔 なる こそ

にく体(てい) なる

ものなり

また気色(けしき)

過(すき)たる

 

様(やう)は なを

いやらしき か

たとへば

青柳の

風に

なひ くが

ごろくならんか

 

 

8

 腰つき

そりて

あゆむは

顔 あを のく

ゆへ

自慢らしく

見へて 悪し

うつむき

 

過(すき)たるも

見くるしき

ものなり

春風に なびく

呉竹(くれたけ)の ごとく

ならんか

 

 

9

 寝姿(ねすかた)

なし なみ の

第一 なり

とりわけ

仮寝(かりね) なとは

大切と

こゝろ

 

給ふ べし

育(そたち)いやし

ければ

かならす

ねすかた

いやしと

申 伝へ ぬ

 

 

10

 起姿(おきすかた)

まづ 目を とく と

さまし 髪の

結(ゆひ)めを

あらため

そゝ毛を

つくろひ

上に置たる

ものを

 

静(しつか)に 取のけ

立いづべし

寝 さめ 顔の

見さめ せら れぬ やうに

こそ あり たし

 

 

11

 起居(なりふり)

つね/\の

事は いふも

さら なり

たとへば 何ほと

悲しきこと

有(あり)とも

 

髪を 乱し

大声を あけ

畳を たゝき なと

常の 不嗜みより

いつる(出る)ぞかし

慎み給ふ

べし

 

 

12

 丸紅粉(まるべに)

官女の 化粧(けわい)の

具(ぐ)にして

下さまの

すべき事に

あらずと

なん