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菅原伝授手習鑑 喧嘩の段

菅原伝授手習鑑 床本

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856508

 

 

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328左頁
さして出て行く コレちよ様 年寄らしやつても   
物覚がよい事 こな様や此はるは氏神
しつて居る 八重様は今が始め いわしやんす
りや其通り 物覚のよい親御に違ひ 物
忘れする子供達 松王殿なぜおそいぞ

 

 

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329
こちの夫もなぜ見へぬ但しはこぬ気か けふ
見へいでよい物かいな それこそそこへ松王殿
エゝこれ女房を立たそに立たして 刻限過ぎたを
しらずかい ヤアべり/\とかしましい 時平さまの
御用有てそれ仕廻ねばいごかれぬ 先へ参つ

て其訳いへと云付たを忘れたか 梅王も
桜丸もまだこぬそふな 親父殿も内に
ござらぬ サア其親父様は八重様と同道で
もちつと先に氏神参り 兄弟衆はまだ見へ
ぬ ソレ見いな 遅いといふおれは主持 梅王も

 

 

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330
桜丸も主なしの扶持放され 用もない
わろ達が遅いのがほんのおそいの おはる
殿そじやないかと 詞の端にも残る意趣
梅王も日足はたけるせいて来かゝりつつ
かゝり 松王には顔ふり背け おちよ殿けふは

大義 コリャ女共 親人と桜丸 八重も爰
にはなぜ居やらぬ イヤ今も松王様のお尋
桜丸様はまだ見へぬお二人は宮参り ヤゝ桜
丸はどふしてこぬなァ 待ち兼る者はこいで
胸のわるい見とむない面構と 梅王に当て

 

 

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331
こすられ 松王が逸徹短慮 あたぶの
悪いねすり云(ごと) いひ分あらば直きにいやれ
何のわれに遠慮せう わか面構を見る
度々ゲイ/\と虫唾が走る ハゝゝ申したり腹の皮
此松王は生れ付て涙もろい 桜丸やそちが

様に扶持放されの痩頤 ひだるからふと
思ふてやるか兄弟のよしみだけ ホゝ扶持放
されと笑はふやつが 喰らふ扶持がろくな扶持か
鉄丸(がん)を食すといへ共 心汚(けが)れたる人の物
を受けずとは 八幡大菩薩の御託宣 心汚れ

 

 

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332
た時平が扶持有がたふ思ふはな 人でなし
の猫畜生 ヤア畜生とは舌長な梅王 今
一言いふて見い ホゝ望なら安い事 畜生/\
どう畜生 もふ赦されぬと松王丸刀の柄
に手をかくれば 梅王も反り打かへし詰より

詰寄る二人の女房 是はマアおとましい気が
違ふたか松王殿と ちよが夫を抱留れば
七十の賀を祝ひにきて親父様に逢もせ
ず 反り打ってどふさしやる 祝ひ日に抜いてよいか
こちの人梅王殿と 刀の柄にしがみ付く女房

 

 

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333
春を取って突退け 七十の賀でも祝ひ日で
も こらへ袋のやぶれかぶれ留め立して怪我
するな コリヤ松王隠れたな 女房が留めるを幸い
に頬げたに似ぬ腕なしめ ヲゝ留らるゝを幸い
とは 我心に引比べて松王には 慮外の雑

言 身が女房が留たよりそちが女房が
親にもまだとの一言肝先へきつとあたり
とらへ/\/\たがもふたまらぬ 真剣の勝
負は親人に逢ての後(のち) 夫レ迄の腹いせに
砂かぶらせねば堪忍ならぬ ちよに是を

 

 

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334
預けると両腰抜いてほうり出し 裾引ツからけ
身へ ホゝ其畜生めがこりやよい了見 桜
丸がくる迄は松王が命松王に預けると 同し
く両腰ほうり捨 刃物を渡せば血はあや
さぬ 女房共邪魔するなとつつと寄って縁

より下へ踏落せば 早速の松王落さまに
諸足かけば梅王丸まつ逆に落かさなり
掴み合 叩合 組んでは放れ 離れては又組合 捻
付引伏せ蹴つ ふんづ 左右方(双方)力も同い年 血
気盛りの根競べ 千代と春とは千人の両腰

 

 

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335
取れもせうかと気遣ひ半分傍へもよら
れず ハア/\/\と 心をあせり気をもみあげ
どちらが勝も負もせず叩き合たが二人の
存分 梅王殿もふよいわいな 松王殿もふおか
しやんせ 止(やめ)て/\といふも聞かず 勝負つか

ではむだ働き投げてくれんと松王丸かさに
かゝつて押す力 ひるまぬ梅王つつかくる 肩先
ひねつてがつくりさせ 横に抱へる松の木
腕 劣らぬ肘骨 梅の木腕がらみもぢつて
押合う力 双方一度にこけかゝり もたるゝ拍子

 

 

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336
に桜の立ち木 土際四五寸残る木の上は
ほつきりぐはつさりと 折たに驚く相嫁同士
二人か勝負も破(われ)角力供に呆れて手
を打払ひ うろつく中チへ早下向 アレ親父様
のお帰りじや 白太夫様のと云声に 二人は

肩入裾おろし 腰刀指す間も