仮想空間

趣味の変体仮名

 

読んだ本 

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18番(PDF)

 

コマ30(左頁)

 檜垣

(ワキ詞)是はひこの国いはとゝ申山に

居住の僧にて候。扨も此いはと

の観世音は。れいけん殊勝の御

事なれは。しはらく参籠し

所のちけいを見るに(せん)南西は

 

 

31

海雲まん/\としてはんこ心

のうちなり。人まれにしてなく

さみ多く。ちけい有てけうりを

さる。まことに住へき㚑ちと思

ひて。三年か間は居住仕て候

(詞)爰に又百にも及らんと思しき

 

老女。毎日あかの水をくみて来り

候。けふも来りて候はゞ。いか成者

そと名を尋はやと思ひ唯

(次第女)〽かけ白川の水くめは/\。月も

袂やぬらすらん(サシ)夫ろう鳥は

雲をこひ。きかんは友を忍ふ。人間

 

 

32

もまた是おなし。ひんかにはしん

ちすくなく。賤しきには故人うと

し。老すいおとろへかたちもなく

。ろめい極て霜葉にゝたり なか

るゝ水のあはれよの其ことはりをく

みてしる(ウ)爰は所も白川の。(ウ)/\

 

。水さへふかき其つみをうかひやす

るとすて入に。ちくうをはこふ

足引の。山した庵りに付にけり

山下いほにつきにけり いつもの

ことくけふも又御水あけて参り

て候(ワキ詞)〽毎日老女のあゆみ返々も

 

 

33

いたはしう社候へ (下女)〽せめてはか様の

事にてこそ。少の罪をものかるへ

けれ。なからん跡を。弔ひ給ひ候へ。明

なは又参り候へし御暇申候はん

(ワキ詞)〽暫く候。御身の名をなのり候へ

(女)〽何と名をなのれと候か(ワキ)〽中々の事

 

(女)〽是は思ひもよらぬ仰かな。彼こせん

集の歌に。年ふれは我くろかみも

白川の。みつわくむ迄老にける哉

と。よみしも童か歌なり。むかし

筑前の太さいふに。庵にひかきし

つらひて住し白拍子。後には衰

 

 

34

へて此白川の邊りに住しなり

(ワキ)〽実さる事を聞しなり。其白河

の庵のあたりを。藤原の興のり

通りし時 (女)〽水やあるとこはせ給

ひし程に。其水くみて参らする

とて(ワキ)〽みつわくむとは(女)〽読し也

 

(上同)そもみつわくむと申は。/\只白

河の水にはなし。老てかゝめる姿を

はみつわくむと申なり。其しるし

をも見給はゝ。彼白川の邊りにて

。我跡とひてたひ給へと夕まくれ

してうせにけり/\(ワキ詞)〽扨は古への

 

 

35

檜垣の女かりにあらはれ。我にこと

はをかはしけるそや。ひとつは末世

のきとくそと。思ひなからも尋

ゆけは(上歌)ふしきやはやく日もく

れて/\河霧ふかく立こもる。か

けに庵りの灯の。ほのかに見ゆる

 

ふしきさよ/\〽荒有かたの弔

ひやな。あら有かたの弔やな

風りよくやにおさまつてえん條

なをし。雲岸頭に定まつて月け

いまとか也。朝に紅かん有て。せいろ

にたのしむといへ共(地)〽夕へには白

 

 

36

こつとなつてかうけんにくちぬ

(女)〽ういの有様(地)〽無常のまこと

(女)〽誰か生しの理りをろんせさる

。(同)いつを限るならひそや。老少とい

つは分別なし。かはるをもつてこと

せり誰か必めつを。こせさらん誰

 

かは是をこせさらん(ワキせん)〽ふしきやな

声を聞は有つる人なり。おなしく

はすかたをあらはし給ふへし。御跡

とひて参らせん(女)〽さらは姿を

あらはして。お僧の御法をうくへ

きなり。人になあらはし給ひそ

 

 

37

とよ(ワキ)〽中々に人に顕はす事あ

るまし。はや/\姿を見え給へ

(女)〽涙くもりのかほはせは。それともみ

えぬをとろへを。誰しら河のみ

つわくむ。老の姿そはつかしき

(下ワキ)〽荒いたはしの御有様やな。今も執

心の水をくみ。りんえの姿見

給ふそや。はや/\うかひ給へ

(女詞)〽我いにしへは舞女のほまれ世に

すくれ。其罪ふかき故により。今

もくるしみをみつせ川に。ねつ

てつの桶を荷ひ。猛火のつるへ

 

 

38

をさけて此水をくむ。其水ゆと

なつて我身をやく事隙もな

けれ共。此程はお僧のちくうに

ひかれて。つるへはあれ共猛火はな

し(ワキ上)〽さらは因果の水をくみ。其

執心をふり捨て。とく/\うかひ

 

給ふへし(女詞)〽いて/\さらはお僧

のため。此かけ水をくみほさは。罪も

や浅くなるへきと(ワキ上)〽思ひも深き

さよ衣の。袂の露の玉たすき

(女)〽かけ白河の月のよに(ワキ)〽底すむ

水を(女)〽いさくまん(上同)つるへの水に

 

 

39

影おちて。袂を月や上るらん

(クリ地)それさんせいのかなへには北けいの

水をくみ。こやのろには南嶺の。し

はをたく(サシ)〽それ氷は水より出

て水よりも寒く(同)青き事あい

より出てあいより深し。もとの

 

うき身の報ならは。今のくるしみ

去もせて(下女)〽いやまさりぬる思ひ

の色(同)紅いの涙に身をこかす

(クセ)つるへのかけなはくり返しうきい

にしへも。紅くはの春のあした紅

えうの秋の夕くれも一日の夢と

 

 

40

はや成ぬ。かうけんのよそほひふ

ちよのほまれもいとせめて。さ

もうつくしき紅顔の。ひすいのか

つら花しほれ。かつらの眉も霜

ふりて。水にうつる面影らうすい

かけしつんて(ハル)みとりに見えし黒

 

かみは土水の。もくつ塵あくた。かは

りける身の有様そ悲しき。実

や有しよを。思ひ出れはなつかし

や其白河の波かけし(上女)〽藤原の

輿のりの(同)其古への白拍子今ひと

ふしと有しかは。昔の花のそて

 

 

41

今さら色もあさ衣。みしかき袖

を返しえぬ心そつらき陸奥

の。けふの細布むねあはす。なにとか

白拍子其面かけの有へき。よし

/\それとても昔手なれし

舞なれは。まいても今はかなふま

 

しと(上女)〽輿のりしきりにの給へは。あ

さましなからあさの袖露うちは

らひまひ出す(女上)〽檜垣の女の身の

果を(女上)〽水むすふ。つるへのなはのつる

へのなはの。くり返し(上地)〽昔にかへれ

しら川のなみ。白川の波(地)白かはの

 

 

42

水のあはれをしるゆへに是まてあ

らはれ出たるなり(同)はこふあした

つの。ねをこそたゆれうき草の。み

つははこひて参らする罪をうか

へてたひ給へつみをうかへてたひ

たまへ