キの字やの事 咄の絵有多

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1242667

 

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キの字やの事
享保のすへ中の町に
喜右衛門といふものあり
元来小田原町生れ
にてありければりやうり
などこうしやにし
けるによりふとだいのものやを
おもいつき角町かとへみせを出せしに
めつらしき仕出しなり
とて評ばんよく喜の
字のかたへ肴を取に
つかはすべきなど云はやし
ければしぜんと喜の字やと
よびならわしける今は
すべて台肴やの
いへ名となりぬ 又巻
せんべいは此里第一の
めいさん也中の町かど
万屋左郎兵衛工夫し
はじむちかごろもなか
の月をもせいし
出す
今の竹村
伊勢也

 

享保の末、中の町に喜右衛門という者あり。元来小田原生れにてありければ、
料理など巧者にしけるにより、ふと、台の物屋を思い付き、角町・角へ店を出せ
しに、珍しき仕出しなりとて評判良く、喜の字の方へ肴を取りに遣わすべきなど
言い囃しければ、自然と「喜の字屋」と呼び慣わしける。今はすべて台肴屋の
家名となりぬ。又、巻き煎餅はこの里第一の名産なり。中の町・角、万屋太郎兵衛
工夫し始む。近頃、最中の月をも製し出す。今の竹村伊勢なり。