大塔宮
護良親王は後醍醐天皇の皇子也 比叡
山に上り座主とならせ給ひて大塔宮と申し
奉る兵術に精く勇力ましますに依て北条
高時が奸訴暴行を悪み給ひ暗に是を誅
戮なし給はばやと御企ありしに忽ち六波羅
に聞へ討手の大軍向ふに居て笠置に篭ら
せ給ひしばしは支へ給へ共衆寡の勢ひ敵し難く
猛火の中を辛ふじて木立隙なき山桂谷の中道
奥深く落行給ひけりとなん 雲峯山人 筆記
大塔宮護良親王は後醍醐天皇の皇子なり。
比叡山に上り、座主とならせ給いて、大塔宮と申し奉る。
兵術に詳しく、勇力増しますに依て、北条高時が奸訴暴行を憎み給い、
密かにこれを誅戮（ちゅうりく）なし給わばやと御企てありしに、
忽ち六波羅に聞こえ、討手の大軍向かうによりて、笠置（かさぎ）に
籠らせ給い、暫しは支え給えども、衆寡（しゅうか）の勢い敵し難く
猛火の中を辛うじて、木立隙無き山、桂谷の中道奥深く落ち行き給い
けりとなん。 雲峰散人 筆記
