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趣味の変体仮名

件獣(くだんじう)の写真 

 

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件獣(くだんじう)の写真  

○夫(それ)この件(くだん)といふ獣は古へよりあるといふ説有 先も文政年間に
此獣出(いづ)るその時年中の吉凶を諸人に知らして我姿を家の内に
張置ときは厄難病難を除くといふて三日にして死せしといふ 夫ゆへ
皆銘々に其図を求めたりとある老人のはなしなり 一体この件と
いふ獣は牛の腹より産れるなり 形は牛にして面(おもて)は人間のことくなるが
頭(かしら)には角をいたゞき 能(よく)ものいふなり 故に文字(もんじ)は人へんに牛といふ字を書也
此度所は雲州の在方に於て当四月上旬に生れしが伝へていふ
当年より諸国稀なる豊作あり然りといへども孟秋のころに
辺り悪しき病流行することあるべしと吉凶を示(しめし)三日にして落命
せしとぞ さたる故右の次第を諸人に伝へしめんと爰に其図を形(あらはし)
出(いだ)すものなり 必(かならず)銘々に求め給ひて家の内に張置(はりおき)疫病の難を
除き給へといふ

○夫(それ)病の根元といふは皆食物より生るなり 余り飲食飽食を
なすものは必後には病気発するなり 故に意腹(いふく)の分限に応じ
人々身の養生を專一として諸難を免れ給ふべし

 附(つけ)て曰(いふ)降文(こうもん)またいろ/\の書附のおはりに仍(よめ)る如件(くだんのごとし)と畄(よめ)るは
 全く相違なきゆへといふことなりそはこの獣の言葉よりいゝ出すなりとぞ 

 

 

 

 件獣(くだんじゅう)の写真 

○それ、この件(くだん)という獣は、いにしえより有るという説有り。先も文政年間にこの獣い出(いず)る。その時、年中の吉凶を諸人に知らせて、「我が姿を家の内に貼り置くときは厄難病難を除く」と言って、三日にして死せしと言う。それゆえ皆銘々にその図を求めたり、と、ある老人の話なり。一体この件という獣は、牛の腹より産まれるなり。形は牛にして、面(おもて)は人間の如くなるが、頭(かしら)には角を戴き、よく物言うなり。ゆえに文字は人偏に牛という字を書くなり。


このたび、所は雲州の在方において、当四月上旬に産まれしが、伝えて言う、「当年より諸国まれなる豊作有り。然りと言えども、孟秋の頃に、辺り悪しき病流行する事あるべし。」と吉凶を示し、三日にして落命せしとぞ。然(さ)たるゆえ、右の次第を諸人に伝えしめんと、ここにその図を表し い出すものなり。必ず銘々に求め給いて、家の内に貼り置き、疫病の難を除き給えと言う。

 

○それ病気の根元というは、みな食物より生れるなり。あまり飲食飽食を為す者は、必ずのちには病気発するなり。ゆえに意腹(いふく)の分限に応じ、人々身の養生を専一として諸難を免れ給うべし。

付けて言う、降文(こうもん)また色々の書き付けの終りに読める「如件(くだんのごとし)」と読めるは「全く相違なきゆえ」という事なり。そ(それ)は、この獣の言葉より言い出すなりとぞ。