仮想空間

趣味の変体仮名

火水風災難輯(一) 12~30コマ

 

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2592140?tocOpened=1

 

 

12

此度世に珎らしき

野和魔獅子(やかましゝ)と云怪獣

出たり 抑獅子は其種類

最も多しに散財図会に

委く誌(しる)せり 先「王耶山(おゝやさん)」ゟ

出るを隠居獅子・苦累獅子(くるしゝ)共いふ

「ヨアキンド」より出るを

天当獅子とも云・又加難獅子(かなしゝ)共云「バンヤ」の

際(わき)「カザリツケ」ゟ来るを

合力獅子(かうりよくしゝ)といゝ・たま馬伽羅(ばからしゝ)と云「ヨバン」より

渡るを勢ひ獅子いゝ又・以也良(いやら)獅子と云「ヂメン

モチ」より出るを忌々獅子と云・又長者獅子と云

「ゴホフビ」より渡るを宇曽(うそ)

良獅子(らしゝ)といふ又・神楽獅子ともいう たゞ「りう

コシヤ」より出るは宇礼(うれ)獅子と・いゝ又存財(ぞんざい)

とも・いふ 此の野和魔獅子(やかましゝ)は

大民油断の産にして

対馬の国に渡り夫より

東都へ渡り懸廻る事は

昼夜休(やすむ)時なし虎は

嘯(うそぶい)て風を生ずと伝(つたふ)れども

この獣は風の烈きに随て

勢猛(はげし)く砂煙をあげ

地響して爪音喧(かまびす)く鉄棒(かなぼふ)の如く尻尾逆立て割竹の声あり走處(はしるところ)小児(こども)の夢を脅し

濃語(はなし)の腰を折(おる)其災多しといへど元来(もと)火防(ひぶせ)の獣にして火難少きこと不思議なり

願くは長く此獣を養育し置て火防となさんことを万民これのみ悦びぬ

 干時(ときに)火衞(かえい)御念(ごねん)鼠年(ねづみのとし)

蛮人(ばんにん)  呉狗楼仙伴録(ごくろうせんばんしるす)

 

 

13

おゝつえぶし

そうかへ ぶし

龍吐水

 

火ろ

用心

見立

そうし

 

 

14

「ちくぜんのだざいふに。

ごちんざまします

てんまんごう。これこそあら

たなる。おんやしろ。

じんごうこうくうのご

こんりう。あまたのうつしは

 

しよ/\にあり。なかにもかめどの

こかいてふはあまくにのほう

けんであめがふる。この

せつはおまへの

ふでの大文字が。

あまくにゝ

よくにて

あしきりに

ふりまする。五をりに平川うし天じん

がこぞつていよりの御きたうする

 

(下段)

木を

いれて

まはり

しかけの

水くるま  素白

 

君恩四沢(したく)に溢れ店子多く露地に寄る

龍越清季を楊香番(つげこうばん)五町(てう)に秀(ひいつ)とは

とんだ狂詩のもじくりに自身番の

長役の居眠を醒し作者の本名は弁

当の燗徳利と共に隠して笑(おか)し割竹

サラ/\として猫の舌の鈴虫りん/\として冬なから

秋に似たり町内のかざりつけは大見世の

二階にひとしく鳶の者を懐手も目立ぬ程に(次頁下段につづく)

 

 

15

えいほうかたよれ/\と。

かなぼうもつて

すぎ王が

詞「此せつおふれの

きびしいのに つけて

時平公の御だい

さん。なんといいたか

さくら丸。

よいところでであふたが。

うらみをいおうじやあるまいか

 

くるまやらぬとうしろ

から。だいおんあげて

まつわうが

いきかけた。

このみくるまを

なんとする。

ならばてがらに

とめてみよと

うめまつさくらの

ばつさりにらんでひようしまく

 

(下段)

なりしは全く公家(おほやけ)の御恵み大雨のふりし跡かと

あやしまれ黒くなるは天水桶白くなるは町内

の名札赤いは分別盛りの家主のあたま

青いは地主にして黄いろい声で火の用心さつ

しやりませうにフト目をさませばかな棒の

音かん/\

 維時嘉永五年

 冬十月下旬稿成 野暮正銘

 

春雨や

となり

近所 に

 

こと

なかれ

 

「水」

 

てうちんを

もつ手に

とゝく

寒さ

かな

 

 

16

(左上)

火之元     新板「中」

大勢つえふし

当世 流行

 

水用心「麻」

 

(下段)

「太平山安楽院」

開山たんねん社金棒上人

かいは也

「ごしんごんにはおんそろ/\

ふいたりや大事なしそわか

寺中・夜ばん院

居眠院等(とう)あり

本尊は弁当冷飯如来

かまの前のおさんどん

のこけ作り

 

此てらより

火防といふ

ぞく防(よけ)

いづる

 

 

17

春のでぞめの。夜なかのころに。ま組ら組が

先に立。またぐら御もんと前おかけりや。それ

じやおしりでさわぐだろ。〼/\ひのこはいせい

よく。さつ又おつゝぱらし。ありやりやんりう

こしをもちやげ〼一ばん二はん三はんとつゞ

けて。たがいにいきせきはたらけは。しばしつか

れをやすめんと夜中にさかるははしごもち

 

此春のふく風に。せけんは五しきのいろおなす天水

おけが黒くなり。江戸まち/\の名札が白くなり

。金持じぬしはざつぴで青くなる。家ぬしはおみき

のかげんでゆるりにあたつて赤くなる。店(たな)がりは

ひやうし木かち/\おくりばんわり竹をがら/\ひいて

ねむい目をこすり。きいろなこへをはり上て

火の用心さつしやりませうとふれてゆく

 

(下段)

廓の言葉覺(おぼへ)

「ヲヤはやう おさりかんした  夜まはり

「アレサ人かもん すいな    弁当の くわんどくり

「もつとこつちへ およりよ   つめばんの いとこ

「もうおかへりかへ       あけばんの

「アゝうつかりした       ろじばん

「何(なん)とても いゝなんし わる口

「まウやつと おしまいか    水札を となりへ

「いつそぐだ/\ するよ     なまえひの 長人(てうにん)

「たいそう おだしだね     あんしんだヨ

終 以上

 

「おけつこうの鶏」

「あたま」小判「眼は」百銭

「腹は」弐朱金「羽根」壱分金

「尾は」嶋のさいふ

「こりやこれ佐どの山からいけ

どりました世の中おけこうなには

とりてござります御らんの通りみな

人さまのおしいほしいがかたまりにして

一つを玉子をうみおとし やゝこ うまるゝに

おひてかよふな龍と化し一名ヨクと

申しますえじきにはたなこの外

食ませんサア/\となたさまは

よくきをつけて尾らんなさいまし

なんとおそろしいものでござります

初代一筆座か画きましたよくの

くまたかをこゝににはとりにいたしたのも

やつはり作者のよくでござりますアゝ銭がほしい金がほしい

 

鳴声(なくこえ)

「アンタイ

メデタイ

/\/\

 

 

18

おゝイ/\をゝやさん。そのかぎこつちへかして

おくれ。家ぬしはびつtくりつらをして。いへ/\

此かぎはかされません。おふれがやかましい。

ようしがあるならばながやへあづけませう

。さて/\こまつたおゝやめと。くちこゞと。なん

ぎしごくのひとりもの。ろじに六つぎり。

こんばんあかねば立すくみ

 

今の世の。はやりもの。あまたしやうばい

あるなかに。はんじやうは。りうこしや。水

でつほうのあたりどし。しぶい渋やも笑顔(わらいかお)

。かじやは金棒銭となるおけやはそこぬけ

もうけ〼。こまるははなしかかうしやくし

。夜あきんど。よくに目のないさつとの坊も

りよじがひまゆへあんまりむごいとぐちおいう

 

(下段)

「大薬罐繁用寺(おほやかんはんようじ)」

此寺の門ぜんには名物いと おほし

○蕎麦 更科 長寿庵 砂場

○名酒 内田 四方(よも) 矢野

○餅菓子 ようかん いまさか 玉子のよつやき

 

〽そも/\下戸山上戸寺は

唐(とう)の張(てう)入道和尚 伝来の

本尊十一面 観世音 ぼさつ

 

御しんごんには

御そろ/\/\

のんだり

くつたり そわか

 

 

19

さかりばに世見世なし。くれるとゆじゃなし木ひ

ろいせわかなし。三廿どんはくろふなし。かなほう

ひつきりなしよまわりひまはなし。よせには

入がなし。たなかりはらくはなし。せうことなし

のねづのばん。せけんにことなし火事はなし

。ろじ口は六つきり出入なし。しめりがあれは風

かなしおかみのおふれにぬけめなし

 

日本(ひのもと)   新板

大勢 つえ

  ぶし 「上」

 

(下段)

コレ松兵衛さん

大そう小間物屋を

ヲゝエゝ いけきたない

大そうどぶ ろくの

にほひ が する

 

コレ はち えも どん

おめへそんなに

 

わらつでいづと

こゝへ来て 薬ても

のませてあけ ねへな

 

いけぶせうな

なんだと

もりがさめる

 

どれおれも

くうべい

其間

八さんかは らつし

 

 

20

かざで本。やうじん口。夜まわり夜うちの

いで立で。四十七きのまとい組大やは大めし

くらの助。めい/\りゝしき合じるしかけやに

あらぬゆみはりや。鑓にまがひのとびぐちて

高(こう)めうてがらのけし札に。家ぬしはすきはら

をかゝへてわかやへもとりすみべやのからのものを

ひきづりだしてちやつけくい。ほんもうとげる

 

へつゝいがしへ店(たな)をかり。かまや堀からなべ丁に。

おたんす町を。かいたい町でたくみ丁まてしきこんで。

幸ばしとおもふたか。うはきをすきや丁で

品川丁女と三田ならかうじ町うちにわちつと

もいなば丁。わたしをばあんまりばと丁にしよウ

でん丁いまさらぐちをいゝだ町もぬしを

代地とおもふゆへ

 

(下段)

「よくどうの辻 せ人○○」

 

一ヨリ

御くろう山(さん)

この山に

 の

やしろ あり

 

 

21

春風がふきや丁。てりふり丁のそのときは

。火の用心とこへは大坂丁。わり竹丁や金ぼう

のそのおとは丁たかさご丁大家さんは丁内まわり

に北じま丁。すいど丁から水をくみりうこしでや

ねの上のへあげや町。夜るや中ねづに夜ばんを

するが丁それで火事さきさつぱり仲丁

世の中よし丁であんじん丁

 

六つ切のろじ口で。しめだしくろうたぽん

太郎。たゝいてもあけてはくれず。いぬにわん/\

ほへられて。せんかたしようもなまけもの。

いつそこれから吉原じぇ。とまりにゆこふと

おもへ共。ごろねするにわぜにはなし。四つすぎに

四百四びよのやまいより四百ないのわつらい

もの野じゆくするのはなさけなや

 

(下段)

「なんぢう峠」

とうげを越人北は

〽ヤレ/\たいぎだのう

弥二さんおらァ火事も

おほかたたびへたつてだ

らうとおもふゼエ江戸にや

チヤンともいゝやしねへ

 

 弥二郎

〽フウヨこれも神のおかたのお心づ

かれたでさぞ下/\/\のものが

こまるであらうのこのたび

のゆきとゞいたおふれで此なん

ぢうとふげをこして

しまへば五年天神

さまへおまいり申ておいら

たちも一つへいつゝもやろうかのう

喜多八

 ウントコナ/\

此とふげをこすひとは

晦日のぢぞうをしん/\゛

してよし目の下に

氷山ひがけのもり

なしくずしのやしろとう

みゆる

 

 

22

夜まわりのきびしさに。しんみちうらやの

けいこじよもくれるとひまになりものわ

。へんともしやんともおとはなし義太夫はこへ

もふとざをでわり竹元やしん内のおもて

うらきどあけ?す。火の用心とふれて

ゆく。長うたのなかき夜ばんもかせさわぎ

。きよ元大せ津文字は六切で〆ります

 

当世流行新板

火之元大せ津絵ぶし

 

(下段)

○五斗天神(ごとうのてんじん)  神主 赤井下総(したち)

○さゝのむの尊(みこと)御合殿

三十番神のやしろ

御朱印 昼夜六百寛

当社造営は元気三年亥冬霜月

とりたて也

境内広くしてもつとも風けいよし

 

「五斗天神社(ことうてんじんやしろ)」

 

 

23

風の夜にmつぽうはやく。ねぼけて出かける

火の用心。さつしやりませうと。三丁金ぼうで。

わり竹がら/\゛うちならし。ろじは六つ切〆ツ切。

家ぬしは詰ばしよ仕事する。丁代さんはぢ

しんばんでまじめがほ。中にもひげだらけな番

太郎おやじ。火事をながめ。ひようし木たゝいて

とうい/\と。やけばおさして弁当箱のぼりおもて

はしる

 

安政二卯年

 火之用心三十六歌仙 全」

 

(下段)

「四文屋仁王の写」

○仁王尊体はかしらは酒たちにし

て水ばんのはんてんをまき

つらは五(こん)の字もやつたる色

にてもつとも赤く▲

▲あたまは

▲盃をまきじやのめしぼりの

三尺のでんきなり口よりさけのにほひが

仁王そんのかたちなり

 

みくじのうつし

「三十三番吉」

列風吹土砂上 れいふうふいてとしやをあける

此時表子木音 このときひやうしきのおかすかに

番太眠覺寒  ばんたねふりをさましてさむし

地主手前共悪 じぬし手まへもつともわるし

 

此みくじにあふ人は めさとくしてよし もつとも二十番神

をひとすじにねがひてよし 水なん火なんおほし き紙

つけおくべし 常に せわ くらう おほく きがねあり くち

くわほうあり 人の上にたつ事わなし いみにくまるゝ事

あり もつともつゝしむべし おのれよりめしたの人をあ

はれみ なにごともひかへめにしてよし

 

 

24

(右上)

天智天皇

あきたなの

やねまで水を

たな火けしわが

からだまでついにぬれつゝ 「水」

 

柿本人丸

あしよはを

つれてにげゆく

やまのてへしるべ

たづねて一夜かもねん

 

猿丸太夫

おくの間のたんす

ながもち火が

つていすておき

にげるときぞかなしき

 

(右下)

持統天皇

はるすぎてうちから

どゝの火事ゆへに

あれ人ともに

かぎやうかくやま

 

山辺赤人

両ごくへうちいで

みればみせものゝ

こやのたかねへ

火のこふりつゝ

 

中納言家持

いさゝかのわたせる

にもつせおひいで

うしろをみれば

よくやけにけり

 

(左上)

安部仲麿

火のみからふり

さきみればはるか

なる身よりのへんに

出し火事かも

 

小野小町

はなのあな

くすぶりにけりな

いなづらとゆきゝの

人がながめせしまに

 

僧正遍昭

みなみかぜくもを

かすみにやけて

くるあさくさ

だいちでしばしとゞめん

 

(左下)

喜撰法師

わがうちは火もとの

きんしよしかも

るすよふやけたりと

人はいふなり

 

蝉丸

これやこのゆくも

かへるもあきだな

をかすもかさぬも

おふや衆のむね

 

参議筥

またのはら

両ごくへんへやけ

ゆくと人には

つけよみつけそとまで

 

(下段)

○風ふきは南風

ならい北おろし

なといたつてはけしく

 

去明暦三年の大焼に

十万八千人死亡夫よりひきつゝき東都数しれす

こたひおほやけよりめてたきおほせ事をこうむり

火のばんあひつとめ亥冬より子のことしに

いたるまで萬民まくらをたかくして

眠らるゝ事無世にためしなき政道あほぐべし

尊とむべし

 

 

25

(右上)

陽成院

つくかの

おとよりはやく

八方へやけぞ

つもりてはいとなりぬる

 

光孝天皇

主のためやけのに

いでゝはいをかく

わか小づかいに

くきをうりゝ

 

在原業平朝臣

ちはやふる神の

ごばちかこのように

にからのはだかで

やけいつるとは

 

(右下

河原左大臣

みちもなく

しのびかへしを

こへてにげあしを

いためてわれならなくに

 

中納言行平

たちわかれ

いなかへゆくも

やけゆへに金を

かりたら又かへりこん

 

藤原繁行

すみなれし

ところでやけて

わき丁へみせをだし

たでひとめすぐらん

 

(下段

「欲の岩窟」

落る事なかれ落ると

一生あかられず

〽これもこういふ

がんくつのある

事は此さく者

ゟほかにしる人は

あるまひて

おそろしや/\/\

なんとみなさん

御用心なさい

まし

 

深いにかぎりは

ござりまセン

 

慈悲心のみなと

常におだやかにして

波かぜなし

安く世を

わたる

 

〽けたかなる

人のこゝろ

たいらふね

 

ゆたの

たゆたに

 

世や

わたる らん

 

 

26

(下段

 草臥相(くたびれそう

「火の用心サシャリませうといふ事も

できねへよひむすびを二つくつたきりて

はらがへつていけねへ/\/\ヲイばんとさん

いそがしいナ「ムゝたれだ長まつどんか

おめへのとこのわかだんなは

どふした「おらんとこの

わかだんなはちつとしく

じりの一件て本店へ

当ぶんいつてイルヨそふか

どうりて見えなさら

ないとおもつた直しても

すてきとさむい かふるへて声か

てやしねへ犬のあしをふむまいめへヨ キヤン/\それ見たか

いゝふむなといふのに キャンホイ おれもけつまついた

 

店子か骨をり相

「源こう手めへは

玄馬かおらァ龍吐水の役ヨ

 

わた しや 龍越

 

ぬしは玄馬

やかてこゝまなきまゝに

おけならはツとんたはるさめたアゝ

さむい/\/\モウ四五軒水をあげたら

自身ばんで一へいおみきをあけな

くちやにつちもさつちも

いけねへ龍吐水の音 キイ チヨ/\/\

 

 

27

(下段)

家主が閙敷(いそがしき)相

「松兵衛さんおはやうまだだれも

つめませぬかどふもいけづるいことだ

丁内にももうふるひ人がないから

せわがやけてならぬそれに書役が

しんざんだからみんなわしが所へ

もちこむじやて龍吐水の注文だの

げんばの作たのとナニ半天ができてき

たとみせなせへえりじがなんたかちつ

ともわからねへ ト目かまを かけて フトウへかくじで店

ばんかむづかしくかいた物たなんたと

またかなほうを折たどふもなら

ねへ丁入用よりおゝいから地主にもきの

とくてござるハてエゝ又地主からよひに

きたとかやれ/\せはしねへことた

 

 がとられ相

ハテこまつたものじやそとしも

てうど三〆五百目ほども

たらぬじやおれもなこう

おきかてめへはならぬサカイニ

チツトのうちとうちにでも

いつてきをはらしてこよふか

しらんエゝハこれもたなこの

御奉公とおもふて十五匁も

地面のうちの子とも

せぎやうに出そうか

いや/\/\よそう/\いや

とんとやくたいしやトゝとうも

あんじがつかんやつはり家守の

いひなりほうたいにこゝろよく出してやるがヨイハ

 

 

28

(下段)

商ひがひま相

「イヤ伊せまんさんいふへ三平さんの市へ

いきさつたかなんたかよみせも

うれぬと見へてそこらじう

からもつて来てうりてばかり

しやホン/\/\此ころは

ひどいものでいやばんせんだ

かけちんだのととられるはかり

おきゃくはたゝずいちにあくひと

引はりしや此上についかし

ほんに一冊もかりてよむとじき

に夫レ四百と五百さんざいが

できまするいやはや

ひまなことでござルテ

 

よせは入がなさ相

見物かいふ

「モウ四つか「いゝエまたて

ござります ヘイあなた半札

をおもちなさいまし

ヘイおかいなさいまし

明ばんはきつとしん生が

お席いたします「また出る/\と

いつていくばんもつられるやつさ

あしたのばんてねへとあさつてから

只でんぼうで見にくるせ「ヘゝゝゝゝ

「しかし勝二郎の火事のおとしばなしは

ヨク出来たおゝかた都々(どゝ)一坊も

これじやとつちりとんても出来た

ろう「明後日は扇歌と舞鶴か出席いたされます▲

▲「ヘイあなた

おかへりなさいまし

 

 

29

(下段)

おさんどん

おこされ相

おらか のおかみ

さんはだんなさんが夜ばんに

じしんはんの時はよひつてエ

何かぐず/\/\おきていてあさ

かただんながかへるといつしよに

旦那の中にのたくりこんで

ねていなさるそれほど

ていしゆがこいしけりや

いへぬしの女房にならなけりや

よいにコレをおもやあこれからいへぬしの

女房にやおれがまご子の代までも

させやあしねへ火をうつおと

カチ/\/\

 

 女房

独り寝さむし相

ひるま亀さんが為永

の中本をかしておくれた

からあんまりねられ

ないからはんぶんば

かりよんだらモウいつそ

あつなきになつて耳が

あつくなつてうちまだが

いつそもしやくしやして

ホンニ/\モウいへぬしの女房

なんぞになるものじやねへ

モウ七つまゝや一時か半

ときとおもやうおもふ

ほとふところさむしくつてねられやァしねへチヨツ

「アゝいゝかげんにかへりそふなものだのう とろ/\と寝ると

うちの人のゆめを

見てホンニ/\/\

じれつてへのう

 

 

30

(下段)

ろじばんの人さむ相

ろじばんの人はなかた

「はるさめにびつしよりぬるゝ

よまわりのおかげてになふ

水さへもはだにさはりていちらしや

じぬしでさへもひとすじに

ねずにさはいできがもめる若しや

ねむるしぬしはばんやがて四月5月になるならば

ヲゝうれしいじやないかいなサアサばんでもよいかいな引

ヲゝさむい/\どぶろくぐらひじや中々おつつかない