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曽根崎心中 天満屋の段

床本 曽根崎心中

 

読んだ本 http://www.enpaku.waseda.ac.jp/db/index.html (イ14-00002-481 )

 


23
恋風の 身にしゞみ川

ながれては其うつせがいうつヽなきいろのやみぢを
てらせとて よごとにともすともしびは 四きのほ
たるよあまよのほしか なつも花見るむめだばし
たびのひなびと地の思いひ一心こヽろのわけの
道しるもまよへばしらぬもかよひ 新いろざとヽに
ぎはしヽ むざんやなてんまやの おはつは内へ帰りても


24
けふのことのみきにかヽり酒ものまれずきもす
まずしく/\ ないて ゐる所へ となりのよねやはう
ばいのちょっときてハなふはつ様 なにもきかんせぬ
か 徳様は何やらわけのわるいこと有て たんとぶたれ
さんしたと 聞たがほんかといふも有 イヤわしがきや
く様のはなししやが ふまれてしあんんしたげなと

いふも有 かヽりをいふてしばられての にせばんして
くヽられてのと ろくなことは一つもいはずとづにつらさ
の見まひなり あヽいやもういふてくだんすな きけは
きくほとむねいたみわしからさきへしにさうな いつ
そしんでのけたいとなくよりほかのことぞなき
涙かだてにおもてを見ればよるのあみがさ徳


25
兵衛 思ひわびたるしのびすがたちらと見るより
とび立斗 はしり出んと思へ共おうへにはていしゆ
ふうふ あがりくちにれうり人 にはでは下女がやく
たいのめがしげければさもならず アヽいかうきがつ
きた かど見てかふとそつと出なふ是はとうぞいの
こな様のひやうばんいろ/\に聞たゆへ 其きづかひ

さ/\ きちがひのやうになつてゐたはいのふと かさ
のうちにかほさし入 こゑを立ずのかくしなきあは
れせつなきなみだなり おとこもなみだにくれな
がら きヽやるとほりのたくみなればいふほどを
れがいひにおちる 其内四はう八はうのしゆびは
ぐはらりとちがふてくる もはやこよひはすごさ


26
れずとんとかくごをきはめたと さヽやけばう
ちよりもせけんにわるいさたがある はつ様内
へはいらんせとこゑ/\によびいるヽ ヲウ/\ あれじや
なにもはなされぬ わしがするやうにならんせと
うちかけのすそにかくし入はふ/\なかどの くつ
ぬぎよりしのばせて えんの下やにそつといれ

あがり口にこしうちかけ たばこ引よせすひ付て
そしらぬ かほしてゐたりけり かヽる所へ九平次
わる口仲間二三人 ざとうまじくらどつときあ
り ヤアよね様たちさびしさうにこざる なにときや
くになつてやらふかい なんとていしや久しいのと の
さばり上ればそれたばこぼんおさかづきと ありべ


27
かヽりに立さはぐ イヤさけはをきやのんできた 扨はな
すことが有 これのはつが一きやくひらのやの徳兵衛
が 身がおとしたゐんばんひろひ 二貫めのにせ手がた
でかたらふとしたれ共 りくつにつまつてあげくには しな
ずがひなめにあふて一ぶんはすたつた きやうこうこヽらへ
きたる共ゆだんしやるな みなにかうかたるのも徳兵衛めが

うせまつかいさまにいふとても必まことにしやるなや よ
せることもいらぬものとうでのへかとびたものと まこと
しやかにいひちらず えんの下にははをくひしばり身
をふるはしてはらを立るおはつは是をしらせじとあしの
さきにてをししづめ をさへしづめししんべうさていしゆは
久しいきやくのこと よしあしのへんたうなく さらばなんぞお


28
すひ物とまぎらかしてぞ立にける はつは涙にくれなが
らさのみりこんにいはぬもの 徳様の御こといくとしなじみ
心ねをあかしめかせし中ながら それは/\いとしぼげに
みぢんわけはわるうなし たのもしだてが身のひしで だまさ
れさんしたものなれ共 せうこなければりもたヽず 此上
は徳様もしなねばならぬしな成が しぬるかくご

かたいとひとりごとになぞらへて あしてとへば打う
なづき あしくびとつてのどぶえなで じがいするとぞ
しらせける 其はづ/\ いつまでいきてもおなじこと
死ではぢをすヽがいではといへば九平次きよつとして
おはつはなにをいはるヽぞ なんの徳兵衛がしぬる
ものぞ もし又しんだら其あとは をれがねんごろし


29
てやらふ そなたもをれにほれてじやげなといへば
こりや忝なかろはいの わしと念頃さあんすと
そなたもころすががつてんか 徳様にはなれて
かた時も生てゐよふか そこな九平次のどう
ずりめ あほりぐちをたヽいて人が聞てもふしんが立
とうで徳様一しよにしぬるわしも一しよにしぬる

そやいのと あしにてつけばえんの下には涙をながし
あしを取てをしいたゞき ひざにだき付こかれなき女
もいろにつヽみかね たがひに物はいはね共 きおと/\に
こたへつヽ しめり なきにぞなきゐたる 人しらぬこそ
あはれなれ 九平次もきみわるく さうばがわるい
おしやいの こヽなよねしゆはゐなことで をれらかやうに


30
かねつかふ大じんはきらひさうな あさやへよつて一
はいしてぐはら/\一ぶをまきちらし そしていんだらね
よからふアふところがをもたうて あるきにくいとわる
口だらけいひちらしわめいてこそは帰りけれ てい
しゆふうふこよひははやひもしまへ とまりの衆
はねせませひはつも二かひへあがつてねや はやうねや

といひければ そんならだんな様ないぎ様 もうおめに
かヽるますまいさだばでござんす うちしゆもさら
ば/\とよそながら いとまごひしてねやに入是一
生のわかれとは のちにこそしれきもつかぬをろかの
心ふびんさよ それうまの下にねんを入さかなをね
ずみにひあするなと 見世をあげつかどさしつ


31
ねるよりはやくたかいびき いかなるゆめもみじか
よの八つにあるのは ほどもなくはつはしろむくしに
出立恋ぢのやみくろ小袖 うへに打かけさしあしし二
かいの口よりさしのぞけば おとこは下やにかほ出し
まねきうなづきゆひさして 心に物をいはすればは
しごの下に下女ねたり つりあんどうの火はあかしいかゞは

せんとあんぜしが しゆろはヽきにあふぎを付はこはしごの
二つめより あふぎけせ共きえかぬる 身も手も
のばしはたとけせば はしごよりとうどおちあんどう
きえてくらがりに 下女じゃうんとねかへりし 二人はどう
をふるはして尋ねまはるあやうさよ ていしゆおくに
てめをさまし 今のじゃなんじや をなご共有あけの


32
火もきえた おきてとぼせとおこされて下女はね
むそにめをすり/\ まるはだかにておき出火打
ばこが見えぬと さぐりありくをさはらじとあな
こなたへはひまつはるヽ玉かづら くるしきやみの
うつヽなややう/\二人手を取合 門口迄そつと出
かきがねははづせしが くりまどのをといぶかしくあけかね

し折から 下女は火うちをばた/\と 打音にまぎら
かしちやうどうてばそつとあけ かち/\うてばそろ
/\あけ あはせ/\て身をちぢめ袖と/\をまきの
とや とらのおをふむ心地して二人つゞいてつつと
出 かほを見合せアヽうれしとしにゆく見をよろこ
びし あはれさつらさあさましさ あとにひうちの


33
いしの火の命の すゑこそ みじかけれ