平家女護島 六波羅の段(初段)

 

カンニングなしだと所々読めないなあ。近松自筆草稿と被る部分を赤字にしました。

 

読んだ本 http://archive.waseda.jp/archive/index.html

 

 イ14-00002-723

  平家女護島 作近松門左衛門
序詞
籠の中に鸚鵡檻(おばしま)にしたがつてふし仰ぎ。

?(まど)を窺ひて踟?(はづくひ)す。紺の足紅(あかき)觜緑
の衣翠(あおき)衿。金精の妙質火徳の明
輝弁才そうめいにして。能言(ものい)ふれい鳥
いかんぞ時のさかしきにあへる。はなたれたる
臣棄てられたる妻。懐(おもひ)を爰におなじうす。


3
平の朝臣清盛入道相国の。四海に
おほふ驕慢の網にはもるゝ。かたもなし。
家にふ子なけれは家正しからずとかや。
松の内府所労によつて致仕(ちじ)し給ひ。教
訓も惰れば驕奢ぼうきゃく心の儘。第
九の姫君は高倉の帝の中宮にて。殊
に此頃於懐妊の御祝ひ。?柄(?つへい)華族

の公卿も平家にk諂ふ御進物。或は高太
刀巻絹織物。綺羅みち/\て殿中花
のことく。門所に市をなし。万寶(?まんぼう)一つとして欠け
ざれば。禁中も仙洞も是には。過まじと
見えにける。是に子息三位の中将重衡。
南都の軍(いくさ)に勝利を得。ならの都の八重
桜けふ九重の梅が香と。鎧の袖にかつ迄


4
見せ御前に畏り。去る廿八日。てんがいはん
にや坂の柵さか茂木押彼(や)り。興福寺
大寺諸がらん残らず放火せしめ。奈良法師
の首七百余。猿沢の池に切かけ。大将ぶんの
首五十余級。ならびに大仏の頭焼落ちしを。
衆徒の首と共に車につんで開陳仕る。外に
生捕一人。いそぎ実検有て生捕の罪。御沙

汰有べうものやとぞ述らるゝ。入道相国えつほ
に入。悪法師共源氏に心をよせ。当家に敵対我
威光に恐れぬは。仏を甲にきる故。悪徒の張本
大仏の首をも取たるとは手がら/\。扨又源氏肩
入の大悪僧。文覚法師南都にかくれ住むと聞しが。
生捕とは文覚かそれへひけとの給へば。重衡しさつ
て?(ゆぶくろ)より。白骨(されこうべ)一つ取出し。是は源氏の大将古左馬


5
の頭義朝が髑髏。かの文覚東大寺の二階樓に檀
をかまへ。源の義朝公と書きしるし本尊に立て。平家調伏
の行法まぎれなき所。四方をつゝんで攻すくめ候へ共。たゞ
者ならぬ文覚太刀かたなもゆる火も事とせず。ほの
ほをくゞつて落失せ残せし所の白骨。うばひ取候と
聞よりつゝ立はがみをなし。エゝにくや/\。此禅門を亡さん
とせし義朝。白骨と成ても二たび足下に来たり。入道が

いせひ思ひしれと髑髏もくだけ桧扇も。おるゝ斗に
丁々てうど打ては小おどりし。はたとけちらしがんとふみ。
一門の人々是を見よ。二度の朝敵討たりと。殿中ひゞく
高笑ひ怒りより猶凄まじし。扨生捕とは何者顔(つら)をみん
と御諚の中。縄め血ばしるよはかいな指迄おなじ紅
鹿の子も。奥様じみておもやつれ三十斗の?(みだしかみ乱髪)。盛り過ぎたる
妖桃の春をいためる姿にて。ひかれ出たる百(もゝ)の媚(こゆひ)列座


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の一門めをうごかし。えぼしひら/\ひらめけば入道も気を
とられ。?(おくば)?(むかうば)まばらの大口くはつと明け。とろ/\見とれ
おはします。重衡すゝみ出。此女は鬼界ヶ島の流人。しゆん
くはん僧都が妻あづまやと申す者。南都法華寺の尼寺に
かくれ住。平家に敵対小長刀を以て某が陣を窺しを。
搦取候と披露も聞ず。ムゝ。色よき花は匂ひもふかし。
みめがよければ心もやさしくけなげ也。俊寛法師は

たうとげもなき妻帯坊主なれ共。二万石の寺領を
あたへ僧都になして崇教(そうきゃう)せし。清盛が恩を忘れ。法
皇の謀叛に組したる罪科。女房に咎はんし。それゆへに
当家を一旦の服は殊勝/\。向後我にみやつかへよ。とし
よりし禅門が起き伏しの撫でさすり。介抱に預らんそれ縄
とけとの給へば。瀬尾太郎兼康。縄をとかんと取つく腕
もとずんと立てはたとふみ。慮外也青士。院の昇殿を


7
?りし法性寺の?(しゆ)行俊寛僧都が妻。軍のならひ雑
兵にも搦めらるゝ是非もなし。我夫と膝を組し平家の
前。ひかるゝさへ口おしきに。此あづまやが身におのれらが
手をふれさせうか。羽ねあらば空をもとび妻諸共
と思ふ身を。命なすかりみやづかへとは情しらぬ清盛公。
エゝむかしの世が世ならばかゝる無念は聞まい物。神仏
の罰利生も人によるか入道殿と。はつたとにらむ目

に涙包み。かねてぞ見えにける。いや入道を情しらぬとは了簡
ちがひ此白骨義朝が妻。常盤が我にあまへる不便さ。年
若などいふ子供を助け置しはなんと。俊寛を島より戻さふと
戻すまいとおことが心に有べき事。それ局々の女共。あづまや
が縄をとき西の尉(たい)にて随分痛はり馳走して。酒宴音
楽舞踊り。??して慰めよ禅門が秘蔵の若人。もてなせ
/\との給へば。上中﨟の女房達手々に縄も打とくり。人々


8
の取なしにて夫俊寛のもしや帰洛の種もやと。心にそま
ぬけいはくの空たのめこ和理なけれ。ヲゝ梅桜にもまさつ
てちることしらぬ入道が閨の花。老後の詠め寿命のくすり。
皆重衡が忠孝手がら/\。なら法師の首に此髑髏をそへ。
大仏の頭をも六条河原に獄門にかけ。難波瀬尾けいごし
て見物群集の聞前。首張を読み立て諸国にかくむ源氏
共。聞伝へにもおどしをくれ平家の威勢を顕せ。もしう

ばゝんと近付か。うさんな奴原切捨にせよ。やつと長絹のそば
ひつつかみ。帳臺に入給ふ六十有余の老木桜。がまんの色に
咲出る心。花や春の水六条かはらに高垣?ひるしやな
仏の御くしに。義朝のどくろをならへ中央にかければ。照る日の
顔も金色に五十余級の衆徒の首。光明に照されて累々
とるらなりしは。梢に実のる仏前の按謨羅菓(あんもらくわ)共いつゝべく。
洛中の貴賤踵(くひす)をつぎ。近国他国の老若男女道さりあへず


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立つどひ。五天竺の??を一日にめつきゃくし。八万四千の僧
尼(に)を殺せし弗沙弥多羅か悪逆を。末世の今に見ることよ。
ならくのそこには刹利もしゆだもかはらぬ物。こはやすごやの声々は
巷にみちておびたゝし。瀬尾の太郎兼康入道相国の仰に
よつて。首帳ひらき高々とこそ。読み上げけれ。第一物始坂
の四郎法師永覚。山科寺の大くら坊かなこぶしの式部卿
是等は六原に怨を得し悪僧。いくさ神の祭とす。かいだん

いんのふる(か?)なしやみ。詞たゝかひ悪口に寄手も口を食しばる。
西大寺のにが口ほうげん反魂坊。二月堂のあらわかさ吉祥
院のばらもん佐渡。南大門の貫の木日向釘ぬきすはう。
南園堂に八角めだまのがん光法師。伝法院の今いだ
てん今ひしやもん。洋を取てはならび名取の。法師むしや
倶舎唯識唯摩の学頭にて。ちえことにすぐるれば。今
もんじゆ共字(あざな)せり。ちんじゆだうの鰐口因幡いのしゝいづみ


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とら禅師。是等ははやわざ隼の飛ぶ鳥の願にさきだつて。
風を追かけ嵐を追つめ楯わり。石割。岩切坊発志院
にはとんばう返りの通明法師。矢くりの小聖夜刃しんぼち
榎の木寺になた僧正元興寺に鎌僧都。管鎗中将
熊手快源黒不動赤不動。十五大寺七大寺のあら
法師悪法師。野ざれの首は源の義朝。金色の大頭は
聖武天皇の御建立。逆徒の大将金銅のるしやなぶつ。

前仏さつて後仏を得首数都合五十六級。七千万
歳みろくの世迄作る平家の御代の大数かなひ畢(早?)
従三位右近衛の中将平の朝臣重衡是を。うつとぞ
読みたりける。往来群集めをそばめ。恐ろしや勿体なやと
皆手を合する折から。六波羅のはや使。下司の次郎友方。
鞭鐙を合せかけ来たり。難波瀬尾に述べけるは。常盤御前
より義朝のどくろを申請け。持仏堂にあんちして経よみ


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えかう弔ひ度くとの願。かなへられては又新参の
俊寛が妻。あづまやが何事をか了けんに。かなへられずは
かたみ恨。所詮此白骨ことやかまし。打砕かき加茂川へ流し
捨よと御一門一統の仰。おではからひ申さんと脚達(きやたつ)を
ふんでのびあがれば。あらふしぎや大仏の鼻より。大手を
もつて下?がかうべをぬんずとつかみ御くしの中に
声有て。義朝のどくろよりおのれがすかうべはりくだ

かんと。握りかたあしかなこぶし体もわれよと二三十。?も
えぼしも打さかれ眼もくらみこれ死ます/\。おたすけと
ほゆるもかまはず前へかつはと突ふせ。其手をのはし
白骨つかんで御くしへ引入しは。二たび爰に羅生もん。
いばらき童子が腕ぼねにて相手が綱には組ざりけり。
難波瀬尾肝をけし。今度の兵火に焼け落し此中に。
狸野干(やかん)も住べき様なし。黄金の交りし念仏。金(かね)の精と


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おぼえたり。ついでに御くしも打ひしぎ。鋳つぶして公用
に進ぜんそれ/\と。あらし子中間立ちかゝり。大槌大杵かな
手こなんどごう/\くはん/\百千の鉦(どう)釣鐘。河瀬に
ひゞき漣立木草もゆるぐ斗成に。裳なし衣に種子(しゆじ)
袈裟かけ。六尺の大坊主御くしの中より踊出。槌
も杵もふみちらし蹴ちらし。ヤアやかましいうんざい共。音にも
聞らん鷹雄の文覚といふ源氏の腰押し。此白骨はもと

我物。取かへさう斗仏のあたまふみあらした。罰は平家
利生は源氏。清盛にまつかうぬかせと立出る。それ盗
人坊主難波瀬尾をしらぬか。一足ものかさしと大勢
どつと取まいたり。やれこと/\し。那智の瀧に千日うた
れ。龍神と相撲取。あたご鷹雄の大天狗と腕押
したる坊主。手なみを見よと獄門柱えいと引ぬきふり
廻し。河原の院の古道より長講堂の裏筋を追かけ。


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追込なくりたつればみけんまつかう。腰骨ひざほね打
みしやがれ。あたりに近付雑号なし。ヤア口程もなき難波瀬
尾。あたまは?れて堪忍するか。下司の頭郎折あへ出合
と鷹の尾にて掴まいたる九寸五分。よらばつかんづ貌(つら)魂
恐れて寄付者もなし。ヲゝさもあらん。うぬらが主の清盛は
国土をなやます大悪魔。此文覚はあくま降伏(がうふく)国土安
穏を祈る。大行者をくるしむる悪逆。遠くは三年近くは

三月(つき)に思ひしらせん。此身は則不動明王。なまくさばんだ
ばさらだ。せんだまかろしやなそはたやうんんたらあんだら共と。ど
つと笑ふて立帰る。勇猛そ 春風も。庭は踊の。秋の
露さつさふれ/\。ふるやこつまはいとしえ。えいえい/\えい/\縁に
ひかるゝ柳の糸の。雪におれぬも風になびく。竹は恋しり
幾夜もなびく。なびきくる/\くるす野の萩野分のすゝき。?
はななびきてやつちり/\ちりゝちゝみ髪も油とろ/\


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櫛のはになびく。たん/\丹波の酒天とうしも。サアエさすぞさ
かつき飲めさよえさ。酔ふたまぎれにな君と寝てさ。うたひ。踊て
上らう達。局の縁に腰打かけ。申しあつまや様是見さしやんせ。
?ならぬ踊も御奉公。入道様の仰ずいぶんお心慰め。御盃の相手。
おねまのそひねも遊ばす様にいたせとて。あれあのちんに
御座なさるゝ。いざ気をうかして我々が。踊につれ御所へお出。サア
踊とざはめけば。アゝいや/\。みつからをさめの踊笑ふではなけれ共。

世に有し昔は妓(まいこ)おどり子嬪まじり。様々のかはり踊。やゝこおどり
木曽おどり小町おどりいせおどり。見せたい物は都おどりのぬき
拍子。ムゝ見たい/\いざ一おどり所望/\とうかされて恥かしながら
こうしたふりにわるしや出立のめせき笠。金鍔鰄(かいらぎ)くわんぬき
持ちで。たんだふれ/\千代の松坂こえてエ。松は千とせの色ながら。
おしや小松は。雪おれて老木かれせぬ六はら踊がしよもだが
合点か。平家/\と千種もなびく。扨はいよいか住よいか。いよも住よふ


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も慈悲もなさけもしやんとしよ。我は身一つ。なきくらす。踊
とが見たくは。昔に返せ世の中対のゆかたしやんときたおどり
ふりがゆかしい。吉野初瀬の花よりも。紅葉よりも。恋しき夫が
見たい物。うたてのおどりやな。情には人々鬼界ヶ島へながされ。
妻諸共住む様に。申してたべと斗にてかつはと臥して。泣給へは。おどり
子の上らう達。げにことはり痛はしと皆々袖をぞしぼらるゝ。
おどりの声の聞えてや亭(ちんの内より)越中の頭郎衛盛次。御使

として局に入。なふあづまや殿。此間御一門衆入かはりたちかはり。
さま/\仰らるゝに承引なきも尤ながら。御身とて岩木ならず。
今日本にて西を東との給ひても。そむく者なき入道殿。恋
なればこそ我々迄御頼。時世に付も一つの道?は身のくはほう。
常盤御前の仕合是ぞよい証拠。女たる身の望む所とお
もはずか。サア/\よいお返事をとすりよれば身をしさり。エゝ主人
達から内衆迄人らしい人はない。ときは御前の仕合とは武士の


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口から聞にくい。夫義朝の白骨迄一ふみたゝく敵の。手かけ妾(めかけ)
と成様なすけべいの徒ら者と。此あづまやくらべらるゝも口惜しや。
八重の塩路の鬼界ヶ島。雨露も凌ぎかね餓鬼同然に
成はてし。とのごをいとしや恋しや。あひたやと思ふより外望みは
ない。身の果報何にせう。何も聞ぬ聞共ないと。両手にて耳
ふさぎ。ものゝふの情けにはせめてなかせてくれるなと。わつと斗に
うつぶしてしつみ入たる有様に。盛次も詞なくすご/\奥に入

けれは。ひつつゝいて斉藤別当実盛。しらが髭食いそらし。我ら
六十に余り色けをはなれ。奥方女中を預る実盛といふもの。
お寝間の勤めはともかくも。御前へちよつと出る分は年寄りのわるひ
事申しまじと。いひもさらせずアゝくどや/\。きのふも来ておなじ
ことくど/\と長口上。聞入耳がないとあいそなければ手持わるく。
拙者生国越前近年御領に付られ。武蔵の長井に有し故。
それでながいは御免あれとまきらしてこそ入にけれ。胸にせまれ


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ば声に出。うらめしの世の中や。召人と成程ならば桎械(てかせあしかせ)牢獄屋に
も入られず。情まじりのうきめを見る水ぜめ火責のくるしみも。
心のつらさは劣るまい。此上にお使たゝば何と返事も詮方なし。なふ
上らう達。我内には有王丸とて音に聞えし大力の若者有。もし
忍んで尋ねくるならば今生後生のお情。ひそかにそつとしらせて
たべ有王を力に此地獄がのがれたい。有王がな来れかし有王はこぬ
事かと。立てはくどきいては嘆の折から。渡殿に足音して能登の守

教経。わつはの菊王相具しつゝと入。俊寛が妻あづまやとは汝よな。
某などは朝敵退治の大将か。其外天下の大事ならでかやうのおとな
げなき小節に。詞もくはゆる能登の守にあらね共。入道殿の仰は某
とてもそむかれず。先ず入道殿を誰とか思ふ。一門の棟梁国家
のかため。いか非道をの給ふとて。汝らふぜいが利を利に立させ。情
盛入道が利をまげて天下の仕置立べきか。さりながらおことが女の
操を守つて。二張の弓を引まじとは。弓取の義にもおとらぬ魂


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感じ入。匹夫疋婦も志を奪はずといへり。屍の上迄恥辱なき。貞女の
道は能登の守がたてゝとらせん。又おことは一旦入道殿の御詞。屹度
立べき御返事。サア只今/\と道理正しき詞の末。涙にかき
くれ。手を合せ。アゝ有がたし共嬉し共。申しあぐる詞なし。平家の中
にも小松殿が能登殿かと。一二といふて三のなき文武二道の
御大将。数ならぬ下主女に道を立てとらせうとの。海山の
御恩徳夫の名をも穢さず。生ての本望しゝての誉。いで

みづからも清盛公のお詞の立お取事をと。懐の守り刀するりと
ぬいてきも先に。ぐつと突立て一くりくつて申教経様。あづまやが
死ぬれば平家の御意をそむく者此世にない。御意をそむく者
なければ。入道殿のお詞は立たぞや。お詞立るは此あづまや。あづまや
が道を立て下さんすは教経様。御恩は忘れぬ。アゝ忝いとこれを
さいごにたへ果たり。驚きさはぐ女房達つきのけ押のけ。出かい
た女と首打落し。是菊王。此體門外に捨おけと。たふさつかんで


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首ひつ提げ。御前まぢかく欄干に謹んで。御心をかけられしあづまや。
教経がくどき落しつれ参る。御望叶ひ候。いそぎ御酒宴/\と
呼はり給へは。入道殿障子も御簾(ぎよれん)も引のけほや/\えがほ。つれな
きあづまやをなびかせて来たとや。能登の守は弓矢打物斗か。
恋の中立の名将高名/\はやふあひたし。彼の君はいづくにぞ。即ち
是に候と袖の下よりなま首。御ひざもとに指しおけば入道くは
つと顔色かはり。ヤア腹立やせがれめ。首きれとはたがいひし。年

寄て色にふけると嘲つたるしかた。親同然の伯父にむかつて
くはんたい至極。返答せい能登の守いひわけせい教経と。日来の
短気増長して。掴みつかんずあら気にもちつ共恐れず。是はちか頃
御無理千万。もと此女の心だて善悪(よしあし)は御存なく。面体うつくしき
妍色(かほよき)を恋こがれ給ふゆへ。其顔ばせをお手に入し教経。御感はなく
て御立腹はむたい千万。されは法皇の御謀叛に組し当家を亡ぼし。
一門の首とらんとせし俊寛が妻。おりかな時がな夫の寇(あた)と心に釼を


20
ふくんだる女。寝間近く寵愛は。鴆(ちん)毒に砂糖に幸蔓(?あまつら)を付て
唇に寄せ味はふことく。命がけのたはふれ大将たる身のせざる所
申すに及ばず御存のうへとかくお心かけられしは。あづまやがめはな口もとより
外はいらぬと存じ。くどきおほせ顔斗りつれてまいつたり。サアお盃の相
手それ御銚子御肴。?おねまの新枕かとなま首をひざもとへ。
押やればさすがの入道顔しかめ身をちゞめ。ハツアけふは安芸の厳
島の御縁日。精進を忘れた教経明日/\と。座を立給ふを是は

どうよく。あづまやが思はく余り不興ととゞむる折から。御門はた/\し
むる音近侍さはき立。俊寛が召使有王丸と名乗り。十八九のあ
ばれ者。清盛公へ直(ぢき)見参と御所中を切ちらし。御座あやうく候と
追々の言上に。いよ/\どうてん能登殿甥御頼入る。伯父は老もう
はいもうといひ捨奥に入給ふ。あれにあれさる有王丸当番の
詰め侍。放免の役武者所牛に?(あぶ)の付ことく。よればけちらしすがれば
はらひ。大床に立て大音上。清盛相国は主人俊寛が妻のくにと。


21
こんれい有由たつた今聞た。よめか御寮は首斗。聟殿にどうが
有ては片ちぐて似合ぬ女夫。入道の胴を切て入滅の仲人。よい所
に有王丸聟殿に見参と。八方に眼をくはりふりちらす前髪は。時雨
の雲に風あれて暮山をめくる勢也。下司の頭郎友方でつち
めやらぬとすかり付を。首筋掴んでぐつと引よせ。文覚法師がはりや
はらげたるあたま。手間はいらずと刀の柄にてはつたとうてば。ざく
ろを割たることくにてかゝへてほう/\゛逃てけり。近よつては叶はじと

難波瀬尾が無分別。巻ろくろの大綱を両方四五間引はつて。巻
てとらんとひしめいたり。ハアゝ子供遊びの綱引かわるあがきするがきめら。
是見よと片足上やあうんと気をこんで。ま物をふつゝと踏きれば
瀬尾は武士のきづ難波。すいくはまろばすことくにてころ/\ころびうつ
たりけり。此上は能登鯖を一口くふ迄。能登殿/\とかけ入所を。菊
王丸とんで出どつこい慮外な能登よばり。旦那には手にたらぬ。わつ
はの菊王サアこいと四つ手にむんずと取組だる。両方年は十八


22
さゝぎ。力は藤こぶ藤つるの捻合しめ合からみあふ。有王が大たぶさ
菊王が大からは。みたしかけふりかけ。下手上手に押合て勝負は
互角と見えたる所に。ヤア/\あやまちすな菊王。汝らが手に叶はじ
ととつて引のけ。教経が一ひしぎと組付給へば。望む所と有王
がかいながらみに指しこんで。一押ぐつとこりや/\/\。捻附る大力
にさしもの能登殿よろ/\/\。ヤ前髪めにまけうかとふみな
おせばはたとつき。エゝ口おしと取付ばふりほどき。くめば捻まげ引

廻され。平家一番の大力と音に聞えし能登の守。大腰に地ひゞき
うたせ尻居にどうと投すえたり。有王めには教経も叶はぬ。一人も
出あふな手並は見へた。おのれも帰れとの給へば。イヤ生きて帰るは
のちなし。入道と指ちがへんと。かけ入る所を立あがり。上帯つかんでうつ
たへたり若もの。おのれら五人や十人は。教経が片腕にもたらねども。
情のまけとしらざるか。鬼界ヶ島に流人の主を持ながら。犬死するかた
わけ者。誠の力是見よと片手につかんで。車よせの築地ごし投げこす力


23
かせを持。桐の葉のふうはふはひら/\ひらりと。おり立て。恩をかんする
かんるい落涙。うはべは色だつ敵と敵。にらむも徳に入の門。能登の守は入道を
諌めて徳に入の門。六はらの大手門惣門樓門かぶき門。?は金石鉄壁の透
間のかぜも通さねど。さはらで通るゆみやの情助るも道ころすも道。
任地かへれ有王。おいとま申と礼義は身の上のこる恨は主君のうへ。こふしを握り牙
をかみ。しどろ足にて帰る波。内には義理を立波の音に聞え名に聞え。
能登殿の弓ぜい勇力まなばすして。学問力も有王丸ひかれて。名を能つたへけれ

  

 

 第二(俊寛)へつづく