仮想空間

趣味の変体仮名

鎌倉三代記(紀海音) 第一

 

読んだ本 https://www.waseda.jp/enpaku/db/
     イ14-00002-193


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  鎌倉三代記(第一) 作者 紀海音
広徳真異録にいわく 天地はけうあく
をちやういくせず 蛇鼠(じやそ)は龍虎と成こと
あたはず てんもう恢々たり去ていづくに
ゆかんとす 天せい大樹の御気じやう くは
実そなはる鎌倉山 うごきなき世に扇
が谷 千代万代の亀が谷 春しりがほ


3(裏面)


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の梅が谷 ときめく源氏ぞかうばしき
時これ建仁三年源頼家卿 古右大将
家のゆづりを受け征夷将軍に拝任あり
とらの威有て猛からぬ共二歳の若緑(わかみどり)
丁固(ていこ)が松と見ゆれ共李伯が酒とほくが
色 二つの品に身をひたし政道おこたり給ふ
ゆへ 秩父北條土井小山旧老智化の忠

臣等 たび/\にいさめの術つきてきんばん
出仕も遠ざかれば 弁佞じやきょくの
若者共 昼夜おそばに蹲踞(そんこ)する中にも
比企の判官が いつき姫のわかさのまへ君御
てうあひ浅からず 一幡君とて当主は四さい
のわか君ましませば 舅心によこしまをさ
ばけと御ぜん能員(よしかず)とて どんよく驕奢(きやうじや)のあら


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入だう同名三郎員家 笠ばら太郎かねずみ
中野の五郎ひろのり 胸に悪事を徒党
の武士まくらをわつて謀計の 色には出ず
判官はつゝしんで申やう 扨も此頃出羽の国
羽黒山の山伏 願行院がう海とて当国
にはいくはいし たとへ手足かなはざる年来の
病人を一いのりにはたらかせ おしにたちまち

物いはせもうじんにまなこをひらかせ なん病
はいびやうかぢりきにてほんぶくさせずと
いふ事なし 世こぞつて此げんしやをいき
ふどうとそんしよす さるによつてそれがし
もひそかに私宅にまねきよせ 殿若ぎみ
の御身のうへ御きたうを頼みしに たんせいを
ぬきんでゝ御じゆさん二百余歳までは


6
たしかにかぢしのばせしと巻数をぢさんし
こんちやうより 御ひろ間へあひつめさせおき候
御め見へをとげさせたく願ひ入候と詞をつくし
ごん上す よりいえ御きげんうるはしく其げん
しや義はそれがしも さきだつて聞てありい
そいで相看(しょうかん)いたすべし それこなたへと御ぢやう
にてそうしやにつれだちくわんぎやういん

ゆう/\とたちいでゝ御めどをりにかしこ
まる よりいえ御らんじ ムゝぐわんぎやういんかう
かいとはきそうの事よな 世はちよくらんにお
よべ共さんみつゆがのこうつもり びやうくをす
くひかつうは又ちんごこくかのしぐわんのむね は
なはだもつてしんべうなり けふよりしてはより
いえがいのりの師ぞとのたまひて かつがう

 
7
あるこそせうしなれ かうかいへつらふけしき
もなくさゆうを見まはし打しわぶき そのかみ
えんのうばそくくじやくみやうわうのじゆ
をじゆちかし きじんをえきしにんみんのじゆ
みやうをのべし ほうりうをくみしるものは
いまの世におそらく拙僧只一人此度修法の加持
力にて御寿算二百余歳迄 慥に受合せしと広言

はなつていひちらす 門注所にひかへたる朝比奈の三郎
する/\と走り寄 がうかいが膝もとにどつかとすはり コレ御坊
某元来ぶこつ者 仏法も有難いも仙術のふしぎなも かつ
て以存ぜね共 大かた人の寿命には方量の有べい物 大食
大酒ぬれごとを随分つゝしみたしなんでも 百年は生にくい
よし又和僧のまじなひで 我君二百余歳迄御長生
なさるゝ共 誰有て其時迄御奉公を仕り うそか誠の証


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拠には何者が出て立べいぞ どふやら護摩の灰くさい 判
官殿も旁も とつこ中間のくるらしいとあたまたゝいて嘲笑ふ
兼々しめし合せたる中野五郎つゝと出 いしくもいはれし朝
比奈殿 八まん拙者と同腹中正法に不思議はない 外法(げほう)
成就の人ならば其段はしらぬこと 命をのぶるもちゞめるも
畢竟もつては同じこと 某を一加持にいのり殺して見せられよ
経文のはしくれもちつとおぼへている男 現証なくては信用せ

ずいかに/\とつめかくる がう海ちつ共わるびれず ヲゝおもしろし
/\邪正(しやう)一如の宗意なれば善悪にはかはらじ 望に任せ其
方の命を落してたつた今 あざけりをふさがんと印(いん)こと/\
しくむすびかけ 神呪をとなへ眼を閉じ暫く観念する内
に ふしぎや五郎忽ちに面色かはりふるひ出し あらたへがたやくるし
やな 大聖(しやう)不動明王の索に五たいをしめ付られ 手足も
すくみうごかずと 眼を見つめわなゝきしは不思議といふもあ


9
まり有 各々是はと仰天しあつばれ御坊の御法力 方便の御殺
生もう此上は御赦免あれ 縛(ばく)をもとかせ給はれと声々
にこそ侘にける がう海は打うなづきそれこそ出家のほん
ぐはいたり くつうをすくひ申さんと重ねて印をむすびかけ
じゆずさら/\とおしもめば五郎即座に起なをり せんびを
くやむ涙の体皆々ハツトかんじ合 かうべをたれていたりけり あさ
ひなから/\と笑ひ 此義秀がむき出したくろひ眼をぬ

かうとは むまたらしい旁 売僧(まいす)坊主が行力にてちくとん
斗朝比奈が 腕さきにても縛て見よ さないとおのれおほ
がり一寸もたゝせじと 太刀ひねくつて押なをり いきほひに
気をのまれがうかいとかふ返答なく 五人の者もうぢ/\と
かたずみほゝき気色也 かくとは誰かしらせけん和田の義盛
かけ来り 御前に畏り 君をば始め諸歴々御尊教有きやく
僧え 世伜に候朝比奈め持病の我儘さしおこり慮外


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のふるまひいたす由千万恐れ入候 義盛日頃の忠きんに
思召かへられて 御赦免あらせ給はれと頭(かうべ)を付て言上有
判官大きに悦んで ヲゝ御尤々子を持てこそ世の中の親
の心ははからるれ 法印へは某が幾重にも侘申さん 御
子息の我儘も時に取ては武士一疋 浦山しい/\ そこい
を残さぬせうこにはわかさの前が妹に あさぢと申すおと
娘貴殿の嫁に進ぜたい 朝日奈殿を判官が聟に取

義は成まいかどふじや/\とだきいるゝ 是も工の一つぞと
義盛がてんゆきながら さあらぬ体にえしやくして 出頭無
二の能員殿殊更以て我君の 御縁家につながること身に
とつての大慶と 世に嬉しげに領掌有 朝日奈ずつと
立あがり ヤアつきあかるな入道め けふ此頃に漸ととり出武
士の分際で 聟なんどゝはぞんさいな口引さんと飛かゝる
を 義盛中に押へだゝり是非わきまへぬ若ものかな


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汝をむこにとらんとは心に一物有てのこと 契約申義
盛も心に一物有ての事 ひらに/\とさゝやけば朝比奈
はやくがてんして 成程聟に成ませう 是判官殿随
分と仕拵へにお気はられい よめり長持ぬりたんす 琴
箱貝おけ犬はりこ 部屋の世帯もそちつから 味噌塩
薪米あぶら 其外てんしやうむしやうじやと笑ひて 屋
敷に帰りけり 頻伽(びんが)はかいこの内よりも其声諸鳥に

まさるとかや おいさきしるき初もとゆひ千幡君と聞えしは
頼家卿の御舎弟にて今年十二のえとの馬 手綱かい
くりしづ/\と春の野かげの乗りすがた おとなしやかにうつ
くしくぼつとりとしてしほらしく げにも武将の二葉とは
名乗てしるき御器量や 山の内の松影に暫し御馬
をひかへられ 谷(やつ)七郷の繁栄を悠々と眺望有 さどう
坊主のかんさいをつかく参れと召よせて 汝は当地の者


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なれば 此所をいぜんより鎌倉と名付たる いはれは定めし
しるらんな イエ/\所には住候へ共名所共旧跡共 白河夜舟
又してもうまひ所を引起され 髭作たりふすべたりこ
まつたる若旦那 かたつて聞せたび給へ されば入鹿の大臣
とて猛悪無道の逆臣あり 又大織冠(たいしゃうくわん)かまたりとて
智仁勇をそなへたる 忠臣是を悲しみて天神地祇(ちぎ)
にきせいをなす 忠貞神にや通じけん天より一つのかまふ

りしを 是吉左右と押いたゞきたばかり寄て入鹿が首
若もたまらずかき落し それより天下太平の守りのため
とそのかまを 此相洲におさめしゆへ鎌倉山となづけ
たり なんとめでたい所でないか ハゝ/\/\殿様にはいつの間に
左様のことを御存有 然らば拙者もおぼへたる谷々の
名は多けれど 寝もせで君を松葉が谷 みゝと口と
にさゞめが谷かごとはつきぬいづみがやつ にくいかイゝヤかはいが


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やつ のぼせはいかうなめるがやつすしなやつとてそしるが
やつ せつかく茶の湯教へてもかねくれるやつくれぬや
つ しはいがやつかむごいがやつ あらましかやうに候とたはこと
つくせば若君は 気さくなやつとのお口合馬上「しづかに
あゆませ行 東見かどのむかふより比企の三郎員家(かずいへ)
御所よりの帰りさに此所へ来かりしが 出頭ぢまんの
鼻のさき千幡君のおさき共 しらず顔成せきばらい

あたりを払いて打て来る 御近習の若侍つか/\と
立寄て ヤア比企殿にて候か 若君のお供さき下馬なさ
れいと立ふさがり 三郎驚くけしきなく 当時某下馬
せん者武将ならで恐らくは鎌倉中におぼへなし 家来
の者共かたよるな通れ/\といひはなつ お先かちの
しゆ声々にヤアくはんたい成詞かな 太守の御舎弟千幡
君眼が見へぬか酔狂か 但は引ずりおろそうか返答き


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かんとのゝしれば 員家けら/\と笑ひ 眼つぶれはお主
らよ 我君の小ぢうとわきまへしらば其方より 急度
下馬をはいたす筈 若輩人に見ゆるすと傍若無人
いひちらし 一鞭あてゝはいしいと中つきわつてかけ通る コハ
慮外者のがさじと一度にはらりとぬきつれて 追かけん
とする所を若君は声を上 ヤレはやまるな/\ おれらがぶれ
いは頼家の御心よりすることぞ 大老役を相勤むる和田ちゝぶ

さへ了簡して 見のがしにするらうぜき者若年の身がいひ
つのり かれに迷惑いたさせては頼家公の御心に うれし
とはおぼすまじ 親兄(しんきやう)の礼おもければ堪忍するぞ旁よ
必麁相いたすなと道のみちたる御一言 御幼稚ながら頼
朝の器量の種を受給ふ さうめいえいちの生れ付いろには
出ず心には 千里の馬も伯楽にあはねばあしなへ目前と
余を恨たる御まなじり近習の武士も口々に さつてもにく


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い比企が谷(やつ)いざ追ついてきりがやつ ほつこしもないやつ/\を
越えて やかたに入給ふ 善悪を身にあづからす忠言の すき
鍬やめし畠山重忠のやしきには 賓客車馬のみち
たへて雨を疑ふ松の風 糸にみだるゝ浅緑五柳(ごりう)
千勢窓により 七松(せう)居士が床に臥す気色を見せて
文机(ふつくえ)に 文武の眼まくばりて悠然としておはします
本田の次郎近常 とのいにつめていたりしがさしよつて

小声に成 今日御所の様子をぞいまだおみみに達せずや
こさいはしうとしらね共佞人原と朝比奈殿 口論
を仕出され闘争(とうしやう)に及びしを 親父義盛かけ付
られ事穏便におさまる上 判官がおと娘義秀に
めあはすとの 契約迄ありし由 一門ひろき和田殿
が悪人徒党になられては やす大事にて候はん何とぞ
御思案めぐらされ 此縁組を妨げてしかるべうやとうかゝへば


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重忠につこと打笑ひ ハテ吉左右かな/\ 比企と縁
組いたさせしは義盛あつばれ発明者 敵の手だてを此方
の手だてにするが軍書の秘事 おゝ頼もしき和田殿と
咄の跡もとりあへず 又さしむかふ物の本気もしん/\と
すみ渡る夜もたけなはに 裏門をしのびやかにおとづ
るゝ 近常やがておつとり太刀かけよつてさしのぞけば 頼
家卿の御母君千幡君と只二人扉(とぼそ)の外にたち給ひ

しげたゞにたいめんしひそかに尋ぬる事の有 案内せ
よとの給へば ハツト斗に立帰りかくとつぐれば重忠も驚き
あはてむかひに出 御両所をいたはり上座にいざなひ奉り
其身ははるかに押すさり 重忠おめし有べきを夜いん
の御歩行去とは きづかはしく候とつゝしんでおはします 母
君暫し御涙御衣をしぼらせ給ひつゝ さればとよ世の中に
みづから程なうき事の 数々おほき者はなし 頼朝卿に別れし


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時ともによみぢにおもむくか さらずはいか成山のおくたに
のかげにも世をいとひ 後世(ごせ)願はんと思ひしにふたりのわか
に身をつながれ 心にもなく世に立て嘆きを重ね日を
かさね 漸として頼家に家をゆづりて嬉しやと 思ふ
かひなく此頃は酒と色とに打みだれ 親のいさめを
聞ぬからまして臣下のこは異見にくみうとめばかた/\゛も
出仕をとゞめ請ふに付 小人共が世にほこり人を人とも

思はずして けふ此若が供先を乗り打せしとは何ことぞや
いかにもんもうやじんとて 刀も腰にはさむ身がしう
じうのれいしらぬとはよもやせけんへいはれまじ よりとも
生てましまさばかやうな不義はいたすまじ 後家の子
ぞとてあなづるのか 武将の弟たる者を匹夫の馬の
蹴上をかけ 衣裳をけがせし無念さを 思ひはかりてた
まはれとさめ/\゛ 泣ておはします 重忠横手をちやう


18
ど打 古今まれ成狼藉者 きつねはとらのいをかる
とはかやうのことを申べき 糾明にいたすはやすけれ共露顕に
及ばし頼家公政道くらきそしり有いづれいづれ
わきがたき 御連枝の中なればしらず顔こそ御自愛と
なだめ申せば母君は 成程そなたのいふ通り此ことのみは
みづからが 心ひつとにすみもせん只うらめしきは頼家が
よこしま者に気をうばはれ其行末は身をほろぼし

国をもついに失ふは鏡にかけて見るごとし せめて此
子をなき人の形見と思ひさはりなく 成人さして詠め
たしそなたならでは後ろ見に たのまん武士はなきぞとよ
日頃の忠義あらためず いたはりつかへ給はれとお手あはす
れば重忠は コハ勿体ない御有様 頼家公のおわかげは老臣
共が入かはり 千度も万度もいさめをいれそれにもせう
いんなされずはお家のためにはかへられず 無体に押込め


19
参らせて此若君をもりそだて 官仲晏子(くはんちうあんし)が義を
まもり鎌倉三代将軍と 嘉悅(かしづき)申さば四海の内なび
かぬ草木は候まじ 人かずならぬやつばらは轍魚(てつぎよ)の水を
しとふ共 ついには自滅いたすべしお心やすかれ母君様
こよひお成のことぶきにさしふるし候へども畠山が重代
を 若君に献上と 太刀をおまへにさしおけばはゝ君
かんばせ打とけて ヲゝ頼もしさりながら李陵がごとき

ちうしんも えびすの方へかうさんししやうかんが勇持
たるも 秦をそむきしためしあり ふた心なき神文に
けつばんあれとの給へば しげたゝ少しえせ笑ひ 神もん
せいしと申事武内(たけうち)の大じんの 湯起請よりこと
おこり てつ火をにぎりあるは又ごわうに血をばあへし
など 上古(じやうご)のふうぎに候へども末世はにんげん邪ぎよく
なゆへ 神もひれいをうけ給はずせいしの名有て誠


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なし ぎけいをいつはるとさぼうが七まいきしやうのせん
れいなど お家において不吉なり それ迄もなく御心を
やすめ申さんそれ/\と 詞の下にちかつねおくのふすま
を引あくれば あけの鳥いのあり/\と八まんぐうのがくを
かけ よろひをならべ玉がきのひかりかゝやく有様はいかめし
くこそ見えにけれ しげだゝやがてくはいちうより一紙の
ぐはんもんとりいだしたからかにこそよみあげたり   


     忠臣しるしそろへ

さいはい/\ ぐしん重忠うやまつて申てもふさく それ
神道人道正直の一つをもつてこんりうす なかんづく
正八まん宮は源氏るいたいおふごのそんれい 神に
ちかひてめん/\がやくそくかたき金てつの よろひ一
りやうはたさし物 宝前におさめ奉り 扨わか君の
御手を取 一々次第におしへ給ふ まつひんがしの第一は御代


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ばんぜいのはる秋を かさね桜や八重桜 小桜おどし
はなやかに いむけの袖のしろたへに くもらぬひかりひさ
かたの 月にほしのさし物はちごの介たねなを 忠義の
弓の一張にやたけ 心の幾度か 敵をあざむくやり梅や
とりげにまがふうぐひすの 花にとまりし印はそも ばん
どうの八平氏 時めくぶしの名取川なのりて通る 時鳥
卯の花かざるはらまきに なつの雪かとあやまたる

鷽(?)はの紋は小玉とう 風にそよ/\ 吹ぬきのこずへばしりにち
りうかふ もみぢながしの龍田川 ひをどしは岩ながとう 五ばんに見
えしは春日野や 柴すそごのわりこざね 甲はほしのきらめ
きてまつかう まびさき しのびのを釣鐘のさし物は しなのゝ七
とうござんめり もよぎにほひのもがみがたしやうじの板のあげ
まきによつめゆひを付たるは 近江源氏のさゝ木とは 誰もしる
らん白糸をそめぬ心に色とかを 錦草の胸めとぢ 鬼の


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かいなをするごとくも 一きはめ立さし物こそあたりの与市と御らん
ぜよ 扨八ばんにかざりしはこん糸おどしのどう丸に 惣ふくりんの 
筋甲大はた 小はた吹ながしお花ながしのそめこみは むさしの
国の住人 新田の四郎忠綱 次にならぶはいつとてもむかふ敵
をうつのみや このむ所の藤なわめ 龍虎のさし物いかめしき
末座(ばつざ)なれ共かくれなき 黒革おどしに金紋の二つがしら
のまふたるは するがの国の住人天ち天王の末孫(ばつそん)竹の下の源八

左衛門 扨其外大和源氏見の侍 近江の国には山本柏木木村
あね川 はりまの国には冨田(とんだ)高なしあか松とう 伊賀に服
部いせ平氏三河にあすけやはぎむしや いづもにみちだ阿
井山 ほうきにたくまあねはの一とう 惣じて日本国中の
侍所武者所 ちやくりうそりうはいしんまで末世末代
子々孫々 ながく源氏のばつかにしよくし不忠の心を
さしはさまば 神ばつかたがひ有べからず 今日よりしては


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重忠がわか君ほさの臣となり 眼にげてうがかゞみを
はりひぢにいさめのつゞみをかけ むねにひほうの木を
いだきびあくじや正を手のうちに 四海太平国はん
じやう さゞ浪や/\ 浜のまさごはつくるとも 源氏の御代
はつきせじと三べんかたひかなづれば 母君若君もろ共に
よろこびいさみ立給ふ かんの大公きじんけつしめりけい有
忠ありとも中/\申 はかりかなかりけり