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楠昔噺 砧拍子の段

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/856219

  

落語か漫才みたいで笑った。続きはしんみり涙アリの展開かしら。

でも時代物なんだっけ?じゃあ誰かの命が犠牲に? え゛~~

劇場でのお楽しみ!

 

  追記:劇場でお楽しみ後 徳太夫住家の段

 

 

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楠昔噺 三の口 (砧拍子の段)

むかし/\ 其昔 祖父(じじ)は山へ芝刈に 祖母(ばば)は
川へ洗濯にと子供すかしを今爰に
思ひ合せし河内の国 松原村に年(ねん)を
経て 身の達者なが徳太夫 七十越へし

 

 

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3
老の坂芝刈行く道連と 祖母は六十(むそじ)の
みづはくむ 洗濯盥いたゞいて 鶴のひよくの
友白髪 さそひ合フたる一ト連レは 殊勝にも
又しほらしし 祖母は川辺に盥をおろし サア
親父殿 是から山へは二三丁 けがせぬやうに

そろ/\といてござれ 其間にわしも洗濯仕廻ひ
連立っていにましよ 必ず/\重荷持つまいぞや
あのいやる事わしの 重荷を持てといやつても
膝節ががくついて持たれぬ 若い者共が刈って
置いてよい程に荷をしてくれる 是といふも

 

 

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4
聟の智恵を前の者が借(かる)追従 おれ程
仕合せな者はおじやらぬ 畢竟山へは腹こなしの
遊び仕事 苦に成る程何の持たふぞ つい一走り
いて取ってこふ そなたの川で怪我せぬ様に
洗濯仕廻い待って居や ヲゝおれが事苦に

せず共 七曲(ななまがり)ですべらぬ様に ソリャ気遣ひ
お仕やんなと 云つゝ別れ生駒山 平岡山
のつゞらおり 杖を力に 老の足 実に檀特の
峯を分け 難行有し身の上 思へば念仏
かみまぜてたどり行こそわりなけれ


5
かげ見ゆる迄祖母は見送り いとしや去年
迄あの様な足元ではなかつたに 一年/\よはり
が見へると思ふも同じ老の身の 仕廻ひ事して
戻りをまとゝ流れにおりて洗ひ物 揉み洗ひより
踏み洗ひと 川辺の石を臺にしてかいげ柄(ひしゃく)の

かけ水も さつと打ってはとん/\と サツサとん/\ サツサとん/\
サアとん/\ 砧拍子や三つ拍子水さはやかに
かけ流す 芝刈友の一むれに通りかゝつて
ハこりや徳太の婆様精が出ます 年利きては
ない足利くと笑ふて行をコレ/\皆の衆 明神坂は


6
すべりはせぬか ぢさまは後へ見へるかのと問ば
口々 見へる/\ 追っ付け爰へもふそこへと 山路の
友のしほら敷く ゆびさし教へ行き過る 老木
の 松の 枯枝に肩借し 背を借して 下る坂道
とぼ/\と 帰り来るを祖母は見るより ヲゝイ

待って居る/\ 思ひの外早かつたと いふを力に
あゆみ寄 そなたはまた洗濯仕廻はずか イヤ
まだ/\ そんなら幸い一休みと どつさりおろす柴
よりも 腰打つ音かひゞきける ほつと息つぎ
エゝ年は寄るまい物 二三年前迄は廿貫目程


7
宛(づゝ)背負 人にも浦山れたおれが 段々と十貫
目も背負ひにくい 方々刈って置いてくれたのを
漸と焼(たき)付け程持って戻った 祖母いかに
かげんがちがふた/\ ハテそりや其筈の
事はいの橙(だい/\)の数から見てはまだ達者な

チエ休んでの内洗濯仕廻ひ 連れ立っていにましよ
と裾引上げて踏みかゝれば アこれお祖母 めつたに
まくり上げんな どこぞの仙人が見たらば 昔を
思ひ出して通(つう)を失ふぞや ホそりや五十年も
前の事はいの 今は渋紙にけんぼ小紋置いた様


8
な太股(もゝ) 気違ひの仙人が目を廻して落ちふは
しらず 何所見せても気遣ひな事ござらぬ
イヤそふも云はれぬてや 猟師が悪い所を見たら
ば 猪かと思ふてねらをもしれぬ 何云はしゃるやら
機嫌じやの ほんに其機嫌な時にいふことが

有る コレぢさま こなたが勘当した竹五郎方から
わしが所へ内証で切々の侘云状 腹も借ず
顔も合さぬ此親を 母様参ると書ておこ
す心ざし 今は気も直り大きな出世 コレ祖母又
いやるかいの 聟の正作にさへ養はれぬおれが


9
出世したと聞て勘当赦しては 養ふてもらひ
たさと云はれるが無念な 竹五郎めを勘当したは
そなたと添はぬ先の事 十一や二で山へやれば 兎狸
を殺して殺生ひろぐ 田がへしにやれば牛を馬に
して乗り打のけいこ いふたことは云た様にせねば置か

ぬ片意地者 それから思へば今の娘おとはが孝
行 血を分けた其方を指し置き あかの他人の
おれを 真実の親と思ふて大切にしてくれる
取り分け聟の志し 五つや六つの孫迄が 祖父様
/\と廻す嬉しさ おりや外にかはい者おじやらぬ


10
ソレ其様に わしが連れ子のおとはが事をいふて下
さる程 こなたの子を勘当さして見てはゐられ
ぬ 殊に聟の正作は 牛博労に行くといふて 此春
から内を出て今に戻らぬ娘一人では力ない どふ
有っても勘当の侘云(わびこと) 機嫌直してやつて下

され ハテ扨くどい人じや 其様に竹五郎めが事斗り
を苦にしておゐやる故 肝心の聟の身のうへが
耳へ入らぬ あの正作はの アゝいやこれこなたが聟や
娘の事を 苦にしてきやによつて 大事の息子の出世
が耳へいらぬ あの竹五郎はの まだいやるわいの


11
おりや倅めが身の上は聞きたふない そういはしやら
わしも又 聟の事を聞かいでも大事ござらぬ そん
なら互ひにいは猿聞か猿 ヲゝいつそ夫れもまし 庚申待ち
にゆるりと咄そ 猿が守(もり)する洗ひ物 どりやゆすいで
しまをかと川へおりしも谷川の 水の面へ流れくる

花の一枝取り上げて 是はマア見事な花 ま一つこい
祖父におまそ ホヲゝきたぞ/\ ま一つこい孫にやろと
拾ひ取り上げコレ親父殿 見事な花が流れてきた
こりやマア何といふ花ぞ どれ/\ ホ夫は花橘と言って
大きな実のなるめでたい物 見やげにしたい


12
おれにたも ヲほしかしんじよ 大かた孫へのみやげ
で有ろ イヤ孫へはよい物山で取って来た けふは何んにも
みやげがないと思ふたれば 鷹が追ふたかして
雀が一羽袖口から飛び込んだ 懐へはいつた物は
狩人も取らぬといふに おれは坊主めにやらふと

思ひ 翅(はがい)くゝつて持って戻った コレ/\見やと出して
見せれば是は/\ よい物取てござつたの 何と
わしに其雀下されぬか ハテ望めならば橘と
かへ事しよ ソリヤ嬉しいと取かはし イヤ祖母 なんぼ
けん/\いやつても 血筋は忝い物じやの おれが


13
やる雀をそなたがやらふで とりやつたの/\
イヤ/\此雀を孫にやるのじやござらぬ そんなら
たれにやるぞ ハテ竹に雀といへば 竹五郎が羽(は)を
伸(のす)吉左右 持っていんで摺って置いた 糊くはして
養ひます エゝそんなら 舌切ていなそで有った物

こなたは又其橘を孫へ土産で有ふがの イヤ
おれも孫へじやおじやらぬ そんなら誰に ハテ聟
の正作は橘氏と聞いた 五月の祝ひ月に
橘が手に入りといふは 聟や娘に花実の咲く
瑞相 持っていんで女夫の者に悦ばする エゝ


14
それならおれも引むしつて捨ふ物 それが
悪い こなたも悪いと 互に実の子を捨て なさ
ぬ中をば思ひあふに 曇らぬ心日の本の神もあはれ
み給ふべし さのみはいかゞと折端も早く アもふよご
ざる おれが方から負けて出て 速立ていにましよと

盥かた付け居る所へ 麦かり男の二人連 道行
咄に何と六兵衛 日外(いつぞや)の天王寺合戦見たか
楠といふわろはきついわろで有たなァといひ
つゝ通るを祖父は呼留 ハテこなた衆面白い
咄して行くが 其まあ天王寺合戦といふは


15
どんな事で有ったぞ 此辺りからわづか二里
余りの所なれ共 切っつはっつの釼の中 慥に誰
が見た者もござらぬ 直に見た咄が聞きたいと
とへば見自慢一人の男 おいらはの団子売に
いてよふ見ました 六はらから隅田(すた)高橋とやら

いふわろが 五千余りの兵(つはもの)を連れて 鴈の渡る様に
押し寄せられた所に 彼の楠木殿は 三百余騎の勢(せい)
を隠して置いて やつとふとうが始ると あしこからは
ぬつと出し 爰からはによつと出し 出す程に切る
程に こりやたまらぬと六はら勢 足を切られ


16
腕切られ 逃げた所が渡邉の橋 かぼそい橋を
押す程にける程に 桁(ゆきけた)おれてめき/\/\ 五千余
騎がづでんどう 鎧武者が水にあふて瓜
茄子びが流れる様に どんぶりこ/\どんぶりこ/\/\/\
赤恥かいて隅田高橋 逃げて行衛はなかりける

ぢさまさらばと是行 噺の中より祖父はぞく/\
なんといばゝ聞いてか 楠木殿が六はら勢に勝った
といの アゝきついわろじや 末代迄の大手柄
是程嬉しい事はないと悦びいさめば コレぢさま
楠がまけふが勝たふが こつちのにかせにならぬこと


17
それを夫レ程嬉しいは こなた楠といふわろに深い
縁でも有るか イヤまあさして縁が有るでもないが
そなた楠をしらずか インヤおりや知らぬ そんなら
おれもしらぬ 其又しらぬ人の勝ったをめつた
むしやうに ハテめんよふな悦び様と ふしぎ立てられ

うち付所へ 剃り下げ奴の肌に鎧 軍(いくさ)の供と見る
よりやがて祖母は引留 申お奴様 おつそや有った
天王寺の軍 楠とやらが勝ったとやが ほんの
事やと問ば 突きのけ 何馬鹿つくす 其勝った
のはだまして勝った 其後又宇都宮の公綱殿


18
に負けた ヤア/\ あの宇都宮公綱殿が楠に勝った
か ヲゝサ/\其宇都宮殿は身が旦那つよい人/\ 隅田
高橋が逃げた後へわづか見共供に五百騎
の勢で懸け向はされた所に 彼の楠の古狸 一戦
にも及ばず 牛蒡程な尾をふつて逃げた/\ ハテ

なふ それは手柄な事や そふして其後はどふ
じやの ハテ根問するわろだ 主人公綱は 楠を
討ちもらしたを無念に思ひ 又百騎の勢を
天王寺に留め置き 今軍評議の最中 シテ/\其
後は ハテくどいわろだ 其後はもふない 皆だ/\ 溜つ


19
たら又咄にくべい 身共は用事有て国へ帰る
必ず逃げると思ふなと いらざる念て落武者
と看板打って帰りける ヤレ嬉しや/\ 宇都宮様
が勝ったといの ぢさま聞いてか 楠も叶はぬ/\ 日本一
のお手柄とほた/\いへば祖父はむつとし ヤイコリャ祖母

よつ程悦んだがよい 有り様は宇都宮と縁が有るか
近付きか イヤまあ 縁もなし近付きでもござらぬ
近付きでもない物が何でそれ程に嬉しいぞ あた
めんよふなわろで有る こなたも最前楠が勝っ
たと聞いて悦んだでないか ヲゝおれがよろこんだのには


20
ちつと訳が有る おれも嬉しがるには訳が有る 其訳
聞かふ ヲゝこなたのから聞かふ イヤ云はれぬ おれも云はれぬ 我
が云はぬからは宇都宮が勝ったのは嘘じや イヤ楠が
負けたのが定じや 嘘じや 定じや イヤこいつが口が
過ぎるかな こりやさつきにやつた雀かへせ おれもやつた

橘戻しや ソレ戻す 返すと 互にやつたを取り戻す
八十の三つ子とたとへにかはらず愚かさよ 橘取って
コレ親父 聟の氏じやと祝ふた其橘を コレ此
通りとかなぐり捨てれば われが竹に雀と祝ふた
雀を 舌切雀殿にしてくれると 此嘴折て


21
追いはなし あたどんくさい逝んでくれう おれも
いぬる 勝手にせい 勝手にすると負けず
おとらず腹立ち紛れの暮紛れ 祖父(ぢい)は盥
をいたゞけば 祖母(ばゝ)は芝を背なに負ひ むしや
人しや腹の取りちがへ 我が家へこそは 立帰る

 

 

  徳太夫住家の段へつづく