二代尾上忠義伝 九段目つづき(その1)

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10301710

 

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尾上はけらいを次の村へひらかせくれを
あひづにいひつけししなむかひのときぢさん
せよといひつけやりてことばをあらため「十内
どの足利家より上使「イヤナニ上使とは「ほゝヲ
へつぎでもないそのほうこと紙崎が井江
にて高木十内といひしこと
しさいあつて上には御ぞんじ
先だつてりんしふんじつの
おりより縫之助みさほ姫
の御ゆくへしれずしかるに
御二方をもかくまひ
おく事ちうしん
ありてことめいはく
花の方様の御けん
りよにて京都への
申わけ縫之助様
の御くびうけとり
かへるべきよしけんし
のやくめくむりし
此尾上女だてらに
ふさうおうのやくめも
しゆうめいなればそむかれず
ときいて十内とうわくせしが
「今いさい御ぞんじのうへはちんずるに
ことばなし花の方の御けんりよ
女中のけんしいかにも縫の助
さまの御くび御けんしへおわたし
申さんしばしの内一間にて
上使には御きうそくと

 

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 むねとむねとをへだての
ふすま一間へこそは
ともなひなり
かゝる所へ立かへりしじう立ぎく
畑介がなにげなふ内へ入れば尾上も立出
「これは/\おまへが畑介様むかしにかはる今のおすがた
「イヤそのしうあしらひはやめにしてアノさそふ水あらばト
尾上がことば畑介はうつゝになり「なにがなんとムゝ
さそふ水あらばアノながれてくれるお心かへ「したが
うはきがちな男の心きつとした心中みたうへ
「イデ心中とこしがたなに手をかくる「イヤわたしが
のぞむはゆびきるのきせうのではないおまへのくびが
もらひたい「シテ命を立る心中のお心は「ほかでもない
此小づかコリヤ
これ足利家
より紙崎
の家へはい
りやうせし
ほりはすな
はち二疋獅子
せんくん持氏卿
さがみ川にて御らく
めいのせつおとせし
せうこ「スリヤ持氏卿
には御病死とはいつわり
さがみ川にてアノくせものゝために御らくめいとやホイハア
ハツトおぼえの小づかにらみつめもろてをくんでほつと

 

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ひといき「ホゝかりそめならぬ
心中立ついちよつとも見せられ
、あおくれをかぎりに畑介殿
かならずまつてをりますと
ことばの目くぎこひ口も

しめて小づかのはんじ
もの一ト間へ
こそは入りにけり
○折からうしろに縫の
みさおひめうかゞひ
いるとみてとる畑介
「かねて手はずの通り
縫の助がくびうつて軍平に
わたし典膳様へさし上んとおくへ
ゆかんとして二人を見つけてほそ
ぐひつかみかくごひろげときり
こむだんびら「イヤ主にはむかふ
にんぴにん「こしやくなト畑介が
ねぢふせ/\
いかりの
どすこえ
「コレ今まで
ていせつと
見せたは
いつはり
くびに
して
典膳様へ
しんぜる
と切
こむ
かたな
いかゞは
しけん

 

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 きりはづ
せば縫の助
はねかへし畑介
がわきはら
つきこんだり
十内もはしり
出すでに
とゞめを
さゝんとす
「ヤレわか
だんな
此畑介が
たゞ一ごん
申上たき
しさいあり ト
いふより
はやく
はらへ
つきたて
「忠心無二
の源蔵が
弟ひれひ
どうといは
れて死ぬはいと
はねどかんどう
うけし此とし月
仁木がぎやくいに
やかたへはせ付「次へ」

 

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尾上は家来を次の村へ開かせ、暮を合図に言い付けし品、迎いの時持参せよ、と言い付けやりて言葉を改め、「なに十内殿、足利家より上使」「いやなに上使とは」「ほほう、別儀でもない、その方事紙崎が家にて高木十内と言いし事子細あって上には御存知、先立って綸旨紛失の折より縫之助、操姫の御行方知れず、然るに御二方をも匿いおく事、忠臣ありて事明白、花の方様の御賢慮にて京都への申し訳、縫之助様の御首請け取り帰るべき由、検使の役目被りしこの尾上、女伊達らに不相応の役目も主命なれば背かれず。」と聞いて十内当惑せしが、「むむ、委細御存知の上は陳ずるに言葉無し。花の方の御賢慮、女中の検使、いかにも縫之助様の御首御検使へお渡し申さん。暫しの内一間にて上使には御休息」と、胸と胸とを隔ての襖、一間へこそは伴いけり。
かかる所へ立ち帰り、始終立ち聞く畑介が、何気なう内へ入れば、尾上も立ち出で、「これはこれは、お前が畑介様、昔に変る今の御姿」「いや、その衆あしらいはやめにして、あの山吹の花の謎、実の一つだに無きぞとは」「あい、誘う水あらば」と尾上が言葉。畑介は現になり、「何が何と、むむ、誘う水あらば。あの、流れてくれるお迎え」「したが浮気がちな男の心、屹度した心中見た上」「いで心中」と腰刀に手を掛くる。「いや私が望むは指切るの着せうのではない。お前の首が貰いたい。」「して、命を立てる心中のお心は」「ほかでもない、この小柄、こりゃこれ足利家より紙崎の井江へ拝領せし。彫りはすなわち二疋の獅子。先君持氏卿、相模川にて御落命の節落せし証拠」「すりゃ持氏卿には御病死とは偽り、相模川にて、あの、曲者の為に御落命とや。ほい、ハア」はっと覚えの小柄睨み詰め、諸手を組んでほっと一息、「ほほ、仮初めならぬ心中立て、ついちょっとも見せられまい。暮れを限りに畑介様、必ず待っております」と言葉の目釘鯉口も締めて小柄の判じ物。一間へこそは入りにけり。

○折から後ろに縫之助、操姫窺い居ると見て取る畑介。「予ねて手筈の通り縫之助が首討って軍平に渡し、典膳様へ差し上げん」と奥へ行かんとして二人を見付けて細首掴み、覚悟ひろげと斬り込むだんびら。「いや主に向かう人非人」「小癪な」と畑介がねじ伏せねじ伏せ、怒りのどす声、「これ、今まで貞節と見せたは偽り、首にして典膳様へ進ぜる」と斬り込む刀いかがは仕けん、斬り外せば縫之助跳ね返し、畑介が脇腹へ突き込んだり。十内も走り出で、既にとどめを刺さんとす。「やれ若旦那、この畑介がただ一言申し上げたき仔細あり。」と言うより早く腹へ突き立て、「忠心無二の紙崎が弟、非礼非道と言われて死ぬは厭わねど、勘当受けしこの年月、仁木が逆意に館へ馳せ付け、「次へ」