仮想空間

趣味の変体仮名

好色入子枕 巻の三 (一)黒犬も関守

 

読んだ本 

http://mahoroba.lib.nara-wu.ac.jp/y05/html/1049/l/p043.html

 

 

好色入子枕

 

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   目録   巻三

(一) 黒犬も関守  餅花も柳腰 恋と思ひの染絹

(ニ) 千人の侘云  組あはせの生貝も 気にかゝる提げ重

(三) 田楽も胸の穴 命もつなき捨た舟 なみだのしほとき(?)


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好色入子枕
 (一) 黒犬も関守
伊勢の津で買ふた絹も気にいらねば大津高麗橋の見せへ。も
とし又いづれなりともと。心よく受取判鑑おほりうなるしかけ。げん
銀かけねなし今銀の山を打出す名も大黒屋とて呉服店のくはん
くはつ四方に四季をかざり龍虎の勘定場花鳥風月の腰障子
歌仙蔵と名付二階三階金襴銀らんの釣戸棚かいきの長持いく
さほ。あやにしきの巻物蓬莱山をうつし四十八人のいろは手を番
頭は唐物の間をかこひ銘々の役々。けびろうど新七しや/\゛
ひの長七らしたの茂吉しゆすの森右衛門ちよろけんの権七どんすの吉兵衛


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鹿子の長八羽二重の佐兵衛縞づくしの勘右衛門夏物の六兵衛
冬棚の久四郎 能衣装の㐂介けさ衣の三右衛門其外もめん
つむぎまで。一いろつゝのさばき毎日きりいだす着(きる)かたよりも
売かた?してすざましけれ中にもみ手代の平兵衛とて
生国伊勢路のもの。きりやうこづがら人にすぐれ商のこう
しや算用の達者律儀一はいにとくいを仕こなし屋敷/\の
お入さふらひの気をとり奥かたの腰を打ぬき巾着のきれ/\に
すえの女をたらし平兵衛は売口がよいと。めしたきまでになづき
をさげさせ此りはつを見てとつて寺かた町かたはいふに
およばず堂島蜆川のいろ里まで。のこらず平兵衛が受

取 師走の風しづかにいづくも色町の餅搗は一入にぎはふ。せい
ろうの湯気(いけ)たほやかに嘉例のごとくよねを臼へいれんと。
ときめき座敷二階をさしがせど鼠もなく戸棚ほし入
あるひは湯殿雪隠へかくれ。うすへはひりわびことに
金壱両出しながらめいわくと年ま女郎のしたつゞみ
に受付てうすへはひらぬ尻をむりやりにいはふ、猶すみ
/\をさがし火燵のうちに身をちゞめているを手ぐる
まに。のせてうすへだきられるゝは小吉といふつき出しの
新造正月まてはかこひの梅 口切もあなたこなたより
のやくそく。よし屋の伽羅と祝ひの餅万石におさまり。さて


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内証客へのもてなし年寄組中牛蒡のゆでかげん数の子の
鳴音何からなにまで来年はお仕合と男らしうせない
けいはく彼呉服屋の平兵衛もあきなひ旦那の祝ひ日爰に
一座して心一はいの馳走膳後の吸物寒のうちにも。ひやし
物はいさぎよく水栗よりうつくしき小吉かあいさつ
猶酒になりて親からのきりやうじまん。いやしからぬ小吉
か親里のはなしとりわけ持参のいしやうかぎ/\平兵衛と
相談すぐに座敷にかけならべまた冬ながらうぐひすといふ
文字を金糸にぬはせ琴柱(ぢ)に雁がねのちらしかゝりに鞠の
きり付せいがい波に水車あるひは千秋万歳とのすそ

もやう憂世をうらみたる小ふり袖平兵衛此衣裳の物
好をしばしながめてさて/\手をつくしたる小袖いづれわけ
ある人の娘貧(まづしき)親のために身をなかれにしつめわづか百両に
足らぬ金にかはり夜毎にはだをあらはし生もつかぬ言葉をつかひ
ほれらぬ酒に身をけつり親かたの気かねをとり ほうばいに心ををく
こと。いとしやいぢらしやと正気なる心から思ひよるこそ縁か。恋は
わつかの所よりおもひつく物ぞかし猶すてがたく平兵衛は小吉が
初姿をおもひそめて十日えひすまてに棚おろし。そこ
/\に仕廻(しまい)十六日をやくそくして。こきちおそしと松の内
蓬莱も冬野になりてかれ/\゛の三つ四つのこる。ころ柿かや


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挿絵

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かちぐりをあらしてまてど。くらせど暮かたに小吉様出
と申稲荷殿のお出と口あひもぐそくぶるひ座頭も邪魔に
なる汐時屏風引頃になりて物いはぬちきりもふかく。ねまの
さゝやき後のどよみ平兵衛はわりなき心底をあかしこきちは
あさからぬ心さしにほだされすてかたきおもひたかひのち
ぎりと。申かはしてあけの日よりあひこかれといふものに成て
付きに三度つゝ買ぞかはるゝぞの約束も内証法度毎夜格子より立
くだで口吸ふ首尾もあれかし今宵はどこのやつが抱てねをる
と。とがもせぬ犬えのころをふみこかし寿命の毒じやと小吉が
異見せし尺八をきけかしとわれるほど突立此あたりに

ちかがつへの鶏はないか烏(からす)の声赤子の泣まても。うつし夜明を
いそぐ悋気もにくからぬことそかし。これを思へば密夫(まおとこ)としらず
本のほとこのれいにもさためしかるき世界中八才の大晦日まては。ほとけも
まよひの雲まして人間のたのしみ道具ふかくはたしなむべき道と
申せし