仮想空間

趣味の変体仮名

好色入子枕 巻の三 (二)千人の侘言

 

読んだ本 

http://mahoroba.lib.nara-wu.ac.jp/y05/html/1049/index.html

 

 
7/15 左頁

 (二)千人の侘云
青のりあまの里は伊勢の名物みやけ物とりそろへ顔も古市
の平兵衛が伯父大黒屋にきたり草鞋をはき尻からけをおろし


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旦那の御機嫌よろしきみね松坂の見せまてはたよりにうけ給り
一入のよろこびと。あいさつかさね/\・たれあつて相手になるものも
なく月夜にかままはりの人に袖をひいて此首尾たつねけるに。
ふせうな?付して。おはなし申きのどく平兵衛殿はかね/\旦那
の御目に入兄手代衆より出せをおよさ付て。きりまいの外の心付
二季の仕着せもきぬけをはだにつけ人もうらやむ程の身をもち
ながら 年と蜆川のあざなひ旦那よし屋といふ色茶屋に小吉とやら
こけちとやら申。てんや者にたらされて給銀はいつのむかし旦那の
銀まてに手が付てしなのあしきことどもかず/\なれど旦那慈悲
ふかく番頭は了簡づよく若者のこと博奕さへ打すはと まだずてに

度々の異見畏たも二三日此事をやめず大勢つかふ主人なれば
一本の指に九本の爪はかへがたしと。まだこらしめのため請人の所へあづけ
られひまも出ずこれもつね/\奉公ぶりのよきゆへほうばいしうも
おしい人じやと。様子さまつけられた丁稚共まてにふみつけられし
文月七日から此家にはいやらぬと始終を聞て子筋のしはに泪を
ながし左様とはそんぜずまいるたびに。きれ壱尺ちがへずたしなみて大食
いたしかへることもなきにほうばいしうもすまぬかほは御尤坊主がにくけれは
袈裟八軒屋をあがり天満の天神へまいり平兵衛が出世の願望神
もおかしくおほしめさん。大かたならぬ不届大坂なればこそ命も
あれ旦那の慈悲をかへり見ず在所へつれかへり水牢へぶちこみ


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甥子をひとりすて申所存と請人の方へはしり出るをおしとめ
六十六国に此家の出店家来も小千人あまり平兵衛一人の
仕そこなひに大勢のさはぎ外聞もいかゞ旦那の慈悲ほうばいの
情もきゝいれずやと。めうがのほどもおそろしきあいさつこのうへ
はいつれもがたを門跡さまとも存じますと人参よりふときもろ手を顔に
あてゝ涙ながらにんごろにたのみをきすご/\古市へかへりぬこひは
心の外といへど心の内にやるせなく小吉は平兵衛をあこがれ候て
このころの首尾きのふの文此度旦那手前のひきおい外のおやかた
なれば大坂もかまはるゝしなを手代中間の侘言たつてわたくし
奉公のうち小吉言を思ひきり商いの外蜆川の地もふむまじき

一札おそろしさ神文旦那へ一通手代中間へ一通ふつ/\思ひ
きれともいはず奉公の内と此うへのなさけねからおもひきるでは
なし一年半か二年ほとは蜆川の地へ足もむけずまして顔見る
事もならず心はいつまでもかはらぬやうに月日もたつならばことづて
ほどの事はくるしかるまじき命こそ大事とかくたがひのそくさいを
いのるとこま/\との文章見る手もかなしく世の中のたうりと
いふものにせめられ神文のとかめも思ひやり泣てくらす八十日
あまりねられぬまゝに小吉がつく/\おもふは。平兵衛様奉公
の内かほも見まい蜆川のつちもふむまじき神文此方(ち)らから
いて。あふは神のとがめもあるまいと勝手つくの了簡 平が小宿迄


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一夜まぜによひぐるま松重の生貝も気にかゝるほど心をつくし
こな様に売はせずしゞみ川のつちはふまさず誓紙のはちもあた
らふ所もなし。わしにかはるも男 傾城ふつてくだんすなとあじやら
もじやら平兵衛のたはけも小首をかたふけいづれかうしてあひに
おじやれば神文の文句とはちがふ氏神もゆるし給ふと。床入のことは
しらず諸事をあちらこちらにして小吉が夜食をくへば平は魚も
あらさずあほうのありたけつくし。どのやうにしてなりともあひたいは因
果此事親かたへもれて猶首尾も八角にいれて手代中のあいさつの
つなもきれて仏の顔も三度飛脚江戸店(たま)へもきこへぜひなく天笠浪人
小吉も身揚りの銀づまり手くだのやりくり荷はず㭷(おうこ)中や絶なん

 

挿絵

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