仮想空間

趣味の変体仮名

箱根霊験躄仇討 上の巻

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/884319

 

箱根霊験躄仇討 上

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はこね れいげん 上のまき から吉はん

○頃は天正のむかし関白秀吉
公の直参に飯沼三平
といふ者あり妻子ある
身も思案の外島原の
浮かれ女綾機(あやはた)といへるに
契りを重ね夜毎
日ごとの通ひ路に
末は女夫と約しける爰に
飯沼が朋友にておなじく
殿下の直参なる佐
藤郷助といへる者是
も又彼の綾機の許に▲

▲通へどいつかななびかぬ
女の心三平といふ間
夫(まぶ)ある故我心に随
がはぬ恋の敵のあの
三平人知れ
ず□
□討はたし
而して彼を
手に入れんと
ある夜三平が
帰りを待受け
声をもうけず
背後(うしろ)より只
一ト打と切付ける
不意を
討れて三
平は驚
きながら[次へ]


3
[つき]抜合
せ卑怯
なり
郷介
何意趣有て▲

▲だまし討と
よろめきながら
切結
へと最
初の痛
手に堪り
得ず後(しり)
居(い)にどうと倒るゝを
郷介得たりとたゝみかけ
止(とゞ)めをさゝんとする折しも
此方(こなた)へ来る人影に●

●見付られては
一大事とあはてゝ
其儘郷助は何国(いつく)
ともなく逃失せり
三平が下男筆助は
主人の迎ひと□
□提
灯照
し来
かゝる途
中つま
づく



れば
むざん
や主人
の●○

●○三平是はと驚き
介抱なし様子を聞けは片息なが
ら敵は佐藤郷助なれはいかにもし
て伜を守り立て修羅の亡執(もうしう)[次へ]


4
[つぎ]はらして呉たのむと一声此よの別れ
果敢なく呼吸(いき)は絶にけり斯て筆
介が注進に三平が
妻倅勝五郎
を始め家内
愁傷▽▲

▽▲大かた
ならず斯ては果てじと
気を励まし方の
如く野辺送りを
なし跡懇ごろに弔ひける実に光陰矢の如く●

●勝五郎は早十八才に成し
かば供に天を戴かざる父
の敵を討んものと上(かみ)へ
願ひ譜代の家来谷十
兵衛といふ
物を○



連れ筆
助も仇討の供を願ひし

かど母の波路の介抱を
頼みて国にとゞめ
今ははや心安し
と両人旅の支度
を整へ何国をたてと
定めなく仇の在家(ありか)
を求めつゝ三年(とせ)が
間諸国を歴(へ)めぐり
陸奥(みちのく)へと
来りし

[次へ]


5
[つぎ]当国磐城の
藩中に佐藤民
右衛門と名乗る
武士は郷介が
兄なるよしを
聞き能(よき)手がゝ
り主従
二人目も
西山(せいざん)に
傾ふく
頃磐城
の城下へ

差(さし)かゝ
るに
向ふより
来る一個(ひとり)の
武士彼の
郷介に
能く似た
れば思はず
見つけて
居たりしに
此方の武士は
不興気に□

□汝何ゆへ我を
にらむぞ某は
当磐城藩
佐藤民
右衛門と
云ふ者な
り武士に○

○似合ぬ無礼奴めと
云に此方は進みより扨
こそ郷介が兄なりしかよい
所にて出逢ふ
たちろ
谷が
留る

突の
けて
大音に名のりかけ汝
も敵の片はれなれば

観念せよと切付る
心得たりと民右衛門
抜合はせて戦ひしが
一心とつたる
飯沼が白刃
にいかで敵
すべき供
に民右衛門
を切伏て
一息つきし
其折
から[次へ]


5
[つぎ]俄かに
城下騒がしく
狼藉ものを
からめると
十手打ふり
捕手(とりて)の大
勢とへはたへ
に取囲めば
主従は覚
悟を極め
死物狂ひ
にはたら

きて漸々
一方を打
破り辛ら
くも此場の難儀を
のがれ山づたひに
人家へ出である
百姓家に宿りを求め先(まづ)安心と思ひやる
心のゆるみか十兵衛は受たる疵が俄かに腫れ
破傷風となり終に空しくなりしかば勝五郎
は涙と共に其亡骸を葬りて自分は此
地に足をとめ敵の在家(ありか)を探らんと磐城
藩の釼法指南大原新左衛門が□

□許へ

に住
込みける
そも此大
原が家には

諸国より武者修
行の者
多く入
こみける
其中に武蔵
の者に
て松本
平馬と
いへ

者あり
[次へ]


7
[つゞき]
勇気
ある
者にて
諸国を▲

▲修

行し此頃
奥州へ下り
大原が有名なるを?て尋ね
来り仕合を望むに門人の
内にても勝
五郎は
見所
ある
者な
れば立
合を命
ぜられ○

○両人道場へ立出
互ひに呼吸を計り
しばしが程は戦ひしが
双方劣らぬ
早業手練
互角の勝
負に物分れ
となり是より
平馬は
新左衛門が門
弟となり別

て飯沼とは深く
交はり兄弟の

を結ひ
ける斯て飯沼はいつ
迄止る身にあらねば
ある日新左衛門へ我仇討の
大望あるよしを語り暫く暇を乞ひたるに大
原も兼てより
斯る者を探しおれば
大望成就のうへ目出度再会[次へ]


8
[つぎ]すべしとて旅費を慮(?)み勝る方なき
しん左衛門が厚意を対し平馬を始め夫う(ら?)へ
暇をつげ爰を立出日をへて
古河の宿に着しけるが
其夜俄に大熱発し
ける旅宿の主人は
親切に介抱し
医者を招きて
見せけるにこは?
症傷?にて?たの
大病なりと厚く
療治を加へ

病ひは漸々
いへたれ共
ひだちかね廿日
あまりの逗留
にろようも大
方尽はてしが
杖にすがりて爰を
立出漸々草加宿迄来りし
に飢に疲れて眼(まなこ)くらみどうと
計りに倒れ伏し暫くして立あがらんと
せいがいかゞしたりけん足萎へ腰しびれて
立つ事(あた)はず余りの悲しさに声を上げ▲

▲男泣に
泣居けるを

土地(ところ)の
者が
不便(ふびん)に
思ひ小屋
しつらへ
食もつを
はこび
最(いと)親
切に


けり[次へ]


9
[つゞき]中にも庄屋の
徳右衛門は
いざりの△

△小屋を日毎におとづれ
労はりけるが或日いさり車を
持ち来り御身はよしある人と見えたり斯零落(おちふれ)てさこそ□

□無念におぼすらん
此車に乗りて箱根
の湯治にもおもむき給へ
病のいへる事も
あらん
名残
惜く
は思へ
とも爰
にいても
詮なき事と
ねんごろに教へつゝ

袂をわかちて
帰りける爰に又
忠僕筆助は国
元へ立戻り
老母の養
育なしつゝ
も早五年
の年月
を過しけるがらう
母は長病のうへ
遂にむなしく成しかば
懇ろに葬りつゝ[次へ]


10
[つゞき]最早是にて安心と旅の
用意もそこ/\に東(あづま)を
さして立出る爰に
関八州の領主北條家
のはたしたに武蔵の国
入間郡(こほり)入間左衛門の
領分に一人の破落(あぶれ)者
あり近辺の酒屋の妻と
奸通しいけるが此女淫乱なる
ものにて又外にも男ありて
忍びあひける彼の破落戸(もの)これを
聞きて大いに怒りあるとき

酒屋へ入来りたらふく
飲だあげ句
酔(えひ)に乗
じて日頃の遺恨
晴してくれんと
彼女を
一刀に
突ころし
返す刀に主人(あるじ)を
目がけ切付る此時今一人の
奸夫も居合せけるが棒おつ取てかけ
へだてしばしが間戦ひしが是もおなしく▲

▲肩先切
られ倒るゝ●

●近辺の者
立さはき捕手(とりて)の人
数を迎へけれど彼の勢
ひに恐れて左右(さう)なくは
すゝまず△

△いかゞせんと[次へ]


11
[つゞき]猶予(ためらふ)
たり
この時
一人
の▲

▲たびの
浪人通り

(かゝ)り役人に
向ひて申しけるは
某計草(?はかりごと)を以て彼の者をからめ
捕るべし心利きたる者一人を●


貸(かし)」給へと
己れはこしなる大小
をなげすて丸ごしとなりて

一人を表にのこし門口より
声かけてはやまいふな□

●(□の間違い)しばらくと
狼藉者
の傍(かた)
へに
座し事
の子


聞終



にも男の

意気地(いきち)
でかされ
たり此
所に
来りし

足下(そつか)
を助ん

なり見ら
るゝごとく
[次へ]

 

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12
[つゞき]丸ごしなれば足下の心を
やすむる証拠時刻のびては
事むづかし先裏道より落
給へ然し
ながら取
乱しては
見苦しし
血に染みたる
衣類を脱ぎ
捨て身共が
衣服を
着かへ●

●給へと
物静かに
諭しければ
彼の者は
大いに喜び
刀の地をおし拭ひ
鞘に納めて帯とき
すて衣服を着かへんと
なす其折に郷介早く□

□刀を取
戸外(おもて)の
方(かた)へ投げ
すを
こはあざ
むかれしか
残念と
郷介に
掴みかかる
を心得たり
と組合しが終に
郷介に組ひかれて[下へ]