仮想空間

趣味の変体仮名

薩摩歌妓鑑  第三

 

 読んだ本 https://www.waseda.jp/enpaku/db/

      ニ10-02059


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(三行目)
  第三 屋敷の段             干よりひらりと 飛だる
ヤア推参者 関口内記 薩摩源二左衛門がかう打合した刀 女原に教へられ 血の色も見ず
納めふか 馬鹿尽すなすつこんで居よ 但むね打がくひたいかと 互に女房突退け/\ 気短か
親父の直ぐ焼刃 焼ても直らぬ相州物せきに関口尖き荒気 互に火に成刃の汗 冷
汗あせる裲の釼の肌に蘭奢のかほり とめてもとまらず打合たり 親と親とが打物の音

五臓に貫き一度にかけ出 親人暫く/\と いへ共耳に聞へず詮方いかに書院のやり 戸蹴放し
結城大学飛で出 お待なされ両人 是さ/\ サゝゝゝとめは致さぬ 只一言申たい事 心をしづめてお
聞有と 釼をゆふたる真中にとつかと座し 様子一々承はる 扨々々 いづれ共申されず 双方共
に尤至極 当座の詞咎めでなく 日頃の遺恨にもあらず 皆是お家の為を存ぜらるゝからの
口論 短慮などゝは若輩武士の事 御神妙/\ とめるでない大学がお目にかける事が有 ヤア伴
之進是へこい あうとこたへて何の気もつか/\と立出座す所を 扇子(あふぎ)抜出しりう/\/\ 眉間の
皮も付斗打のめして涙をうかめ いづれもの手前面目もござらぬ 貴殿達の遺恨の


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元は身が世伜(せがれ)と 申すも口惜い此伴之進め エゝにつくいやつ 入ざる舌の根を動す故 中能中も
不和と成 既に国の両の柱を打崩す大だはけ 年寄た大学迄 不忠者に成申た 此上のお頼は 両
人の捨る命 此大学にうれめされ 其あたいには近頃軽微ながら 伜が首を進上申 覚悟致せ伴
之進と早抜かくる刀の柄 源二左衛門押とゞめ イヤ/\大学殿 御深切忝い 御子息の知られた事
でない 遺恨は両人斗 内記が明き過た頤骨 粉(こ)に刻まねば堪忍ならぬ ヲゝ源二左衛門が穢れく
さつた心の臓を引ずり出して見物より外 余人の首所望におりない イヤサ/\ 御尤なれ共夫では
身共が殿へ立たぬ 只今目の前で伜を手討 夫を腹いせに遺恨をやめ 永くお家の為に成

て 我存念を立ててくれぬは曲もない イヤ/\そふは イヤ是非にと争ふ酢吸(すすい)の三幅対 正真贋
は白書院殿のお成と 告ぐる声 アレお成有内記先ずお待ちやれ ヲゝ勝負は後刻と納むる刀
少しは心も納る妻 榊しづま褥を設けむかへ申せば 大殿式部太夫 此頃の御心地にも 行儀乱
ぬすり呉は生れ付たる大名風 機嫌よげに座し給ひ 内記 源二左 近く/\ 主を思ひ家を
重んする故 命を捨てての争ひ 我家来に切腹云付くれ共 侍の義によつて死する命を
生きよとは 我迚も得いはぬ 覚悟の上にて打果さば果せ 去ながらいあふいふ我迚も 戦場の討
死 死を軽んずるは武士の常 珎らしからず 旗を捨鎧をぬいで 敵に後ろ指をさゝれて成共


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一大事を全ふする 是を古今の武勇といふ 靍は大鳥 鷹は又小鳥なれ共 番ひ心を合す時は
鷹の力靍にまさる そち達は身が両羽かい 互に心合いでは当家の長久覚束なし 爰を計
て身が了簡 今より遺恨を含まぬしるし 源五兵衛を関口内記が養子に遣はし家相続 又
三五兵衛は 源二左衛門が養子とし 互に子を取かゆれば 子を思ふ親の夜の靍 我も又愚息桂之
助が心腹 心にかゝるは同じ事 此口論の發りも嘸有らんと思へば 過分さはいか斗 夫レとても式部太夫
を 主に持が不足ならばともかくも 勝手にせよとさからはず 御憐みも深べりの畳に くい入二人
が額知行を掠めし麁忽の所為(しはざ) 遠慮も仰付けられず エゝ有がたき御指図 何かは違背仕

らんと 皺にしみ込む忝け涙 三五兵衛殿 源五兵衛殿 是からは 猶々昵懇/\と 丁寧三つ指二人
の母 わけていそ/\そんならば榊様 三五兵衛殿は此方へ貰ひます しづま様 源五兵衛殿は今日から
私が子 互にお頼申ますと双方子供の受取渡し 折紙入ぬ名作也 ホゝ得心してくれて満足/\
ヤア大学 伴之進も若い者 少々の過ちは了簡してやれ さよし手打にする程の悪事有らばそちは頼ぬ
禄をくる此式部太夫 善悪はよく知ている 気遣すな 源五兵衛 三五兵衛 親子の契約我も
改め盃せんと 小事を用ひず人を捨ざる主命に 恐入たる関口薩摩女房子供が扈
従にて常の 居間にぞ入給ふ 伴之進父が前に差寄て 親人 こりやマアどふでござる こつちの工面


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はくはらりつと 大事ない/\ 一旦中さへさいたればどふせうと儘 此僅かな播磨一国に目をかける大学でな
い まだ外に大望我胸の中に有 此跡はコリヤナ 合点かよし/\ 身は先へ帰る そちは奥へぬかるなと 何かは
しらず一大事を耳に残して立帰る 結城が振舞物かげより とつくと見たる源二左衛門 内記諸共窺
ひ足 人けなければ膝と膝 ナント只今のを御らふじたか 其元にも 御推量に違(たが)はず 両人に中違
はせ 邪魔を払ふて家国を 横領せん大学が佞姦 ムゝゝ乗た顔でわざと口論にもてなせし故 大方
底が知れました サレバ/\最前のお詞の端 殿にも有増(あらまし)御合点なれ共 さやつ関東よりの付け家老 是
ぞといふ証跡(じやうぜき)を見極めねば 御心にも任せず 此後迚も猶々中の悪い体 お耳にされる事も申さふ そ

こを思ふて伜と取かへられし殿の発明 最前の無礼まつひら/\ 是は/\いたみ入 此方から申す事 儕
源二殿申 殿の御指南も申す内記なれ共 切らぬ様の剣術はいかふ致しにくい物 ハゝゝイヤ人や聞 いざ御前
へ参るまいか イヤ先々(まずまず) おさきへ/\と気質かはれどかはらぬは 忠義にくだく胸の中 武士の誠ぞ頼もしき
どこが庭やら 広間やら見る程の事きよと/\と 走りつまづきヲゝこはにくてらしい 大きな木のねがによ
き/\と おまん様大名の内といふ物は 面白ふない物じやぞへ サイナ そして侍といふ物は 皆三五様や源
様のよふな粋かと思へば 押柄らしいようひかる物じやはいな 今もそこで とつかげべいが目をむいて
何やつだと咎めたこはさ やう/\顔見せの上の巻を思ひ出して 手前七里(さと)憎(にくみ)之介が女共と ちよつ


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ぽりと間に合したれば 辞儀してつい通したれど 気味が悪さに逃てきた わあしやもふどふぞ早ふ
いにたい サアそふ思へど夕部づだ八がいふた事 嘘とは思へど気にかゝる ぬしのかけさへ見付たら つかまへて訳
立ふぞへ そふはかいな胸さへすへたら何のやしきがこはい事 アゝ悲し又誰やらくる どこぞへ暫し柴垣
に 忍ぶは濡れの常なれや しぐれぬ袖を覆ひいる 榊は奥の盃に春を催す鶯の 子で子に
ならぬ三五兵衛ほろ酔ながら 母人といはんとして ハア内記殿の御内証 アイ源二左衛門様の御子息三五
兵衛様と他人向きなる挨拶も 姑君とは白露のさゝのは飛立小手招き なむ三五兵衛がにがい
顔 まぶたで呵る狂言も しらぬは我子に目のない母 イヤ申三五兵衛様 申はくどけれど 御前様の

お取持でめでたふ済んだ盃 随分中よふ末長ふ しづま様を大事になされへ 是はしたり何を
うろ/\御らうじる イヤサあの笹野さゝのあはいに 気転のきかぬやんまめが 我ち大禁物 御前
へ参ると立て行 コレ待しやんせ三五様と 月の丸顔ぬつと出る髩(つと)に梅花の室の君 ヤイ/\/\
儕根から近付でないからは ついに付合た事はないぞ 関口共いはるゝ武士が 女ゴに近付が有てたま
る物か 必麁相いふな三五兵衛はずんと堅いぞ ホゝゝヲゝ堅そふな物じや まあ何やかた云たい事は
日文にしても書たらぬ そこなお内義様ゆるしえ ほんにどこのお方かしらぬが お前も聞ておく
れ あの様の悪性さ 女房よし 仲居ござれ いつちつらい物はこちらが身 三味線箱が邪魔


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をして 成にくい色事も 男に惚たがこちの因果 見請/\と嬉しがらせ どこやらぽいと行平の中
納言 こちの心はすまの浦波 どふさしやんすときて見れば 何じややら御前様のお取持で盃
が済んだの 末長ふ中よふせいとは こりやどこぞの娘御と祝言の盃 めでたいしやん/\ こちらはじやん
と仕廻ふのじやな いかに慰み物じや迚 芸子も女ゴの内じやはいな むごいはいなと斗にて 娘涙に忍
び音も二上り調子と成にけり 挨拶仕兼あちらむく 母の粋ほど身にひつたりひや汗かく
と次の間に 聞気の毒さは源五兵衛しつま諸共立出て アゝ三五兵衛 いかに若いと申ても
かやうの所へひらりしやらりと女を引入 仮令(けれう)我々なればこそ大事なけれ 万一外の者の目に かゝ

つた事では有まい 嗜めさ/\ と堅い顔していふ声は源様かいのと出るおまん 首筋元へひいやりと
疵は五分/\赤面関口さんこみだらの仕合也 しづまはおかしさ押隠し 申榊様 今日殿のお差
図で 器量発明な子を設け 是程嬉しい事はない 此上に定る嫁が有たれば家相続気遣
なし 幸な嫁入盛の大振袖 袖の振合せも他生の縁 三五兵衛に娶しませうかいと うら問ふ
詞に榊が悦び ハテお前の御子息の事御相談に及ぶ事か お気に入たら嫁になされ お前に負け
ても居られまい あの詰袖は 源五兵衛に娶しませうかい ハテお前の御子息の事 どふ成共
御勝手にと 渡りに舟のいそ/\/\ 勿体ない母御様で有た物 初めてお目にかゝりまし 定めてなめじや 


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とおさげしみも有ふのに 女郎も及ばぬ粋なお捌き 大事のお子を断りなしに沢山に抱てねましたを
御ゆるされてと伏拝む 折から出る玄関番 大坂の掛屋西国屋八右衛門手代と 室の里の
くつわや 三五兵衛様編五兵衛様に お願ひと申只今是へと しらせば二人が胸にきつくり 何れ
も奥へ おまん さゝの人に見られな白砂の 庭の切戸を立切て 外から掛屋の手代よりくつわを
取て引廻す 横すぢ腕(かいな)の入痣 達者自慢の鉄(かな)親仁 コレ三五兵衛殿 わしはぐみたの久兵衛
いふて げいこの笹野が養ひ親 こな様方はおまんやさゝのを いしこそふに身受すると 跡の月から
勤めひかせ 其金はどれどこに めいわくするはあの親方 此屋敷へとつそりと埋んだ事もがんばつて

置た サア身受の金せうわいと ゆする跡からかけやの手代」先達てお貸申た千両の金子 抜さし
ならぬ此証文 只今遣はされずば 殿様へ直訴致しませうか サア/\何とゝ両方から せちがふ後ろへ伴之
進 さはがしい何事じや イヤ彼其共と一所に 借り受けた金子の事 何といふ 此伴之進お身達と一所
に 金かつた覚はないぞ ハテ植木や吉助が爰で ヤ寝とぼけて何をいふ 身が金かつたかからぬか
其証文の名書を見いといふに二人もいぶかしながら手に取上 年号明日 さつま源五兵衛判 関口
三五兵衛判と斗 伴之進が名も判も いつの間にかは烏羽の白い黒いのわけ様も 源五兵衛 三五兵衛 三
人一所に判した証文 両人が名斗有て 今一人の名が一字も残らずきへて有は コリヤ此墨に子細


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が有る みす/\の云合せとは見へすいても 糾明ならぬ身の誤り 金子の入用に眼くらみ まんまと十分
のわなにかゝつた 源五兵衛が一生の恥辱 無念至極と刀の柄捻切斗悔み泣 だまれ二さいめ
何しや伴之進が云合せなどゝ 武士の面(つら)に疵を付けたな もふよい 是からは身も垢ぬき 明白に吟
味する 千両といふ金をかたり 請出した親方へも渡さず 其金はどつちへやつた イヤサ其金は /\と
主人の御用に立ちしとは 云訳えせぬ 主思ひ ハゝゝ返答は有まい うぬらがほたへた儘」若殿を泥へ引
ずり込がは太郎め それ斗でない 御殿へ遊女を引込だ たつた今爰へ引出すと 一間の障子
あらけなく 内に二人の親々が肝に汗すつ 十面顔 ヤア御子息の不埒お聞なされたか 我子迚用捨

しては 国法が済まいとけしかくれど答もなく 思ひ切たる親子の縁先 一度にはつたと蹴落せば ハア
はつと斗身の科に体は 砂に埋もれける かけやの手代室のくつわや 殿のお広間でさはがしいやつ原
此捌きは源二左衛門が胸に有暫く次に控へておれ 早いけ/\と追立やる 源五兵衛内記が前に
手をつかへ 重々の不届き申訳の筋毛頭なし 迚もの事に親人の お手打願ひ奉る 今日親子の
契約を致し 家名をよごして相果る段 まつひら御赦免下さるべしと うつむく顔をはつたと睨み
大馬鹿め 夫レを儕に教へられふ 磔にかけても飽たらねど 殿のお声のかゝつたやつ手打は叶はぬ
一家中の見せして 衣類を剥で国中をあほう払ひ 恥頬(づら)かゝすがせめての腹いせ いかにも きやつらか指(さい)


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ておる大小は 大殿の御指しがへ 侍でもないやつに似合ぬ/\ 二腰共是へ出しおらふ ハツ 何うぢ/\ サア渡せ ハツ/\
とは云ながら 主人の御手をふれられし 刀にさへ捨られたかと 思へば手足をもがるゝ心地 是非なくし
ほ/\差出す 心を父も思ひやり 源二殿 内記殿 エゝ究竟な若いやつら 此大小横たへて まさか
の時の役にも立ず 侍の冥加尽果おつたあのざま御らうじ 人には好色者 衒といはるゝ其金
のいきは 親々がしるまいと思ふか 儕等が心の底はよつく知ての勘当 ヲゝサ 夫故に猶いつ迄も赦され
ぬ 其形(なり)に成ても 何の無念なと思ひおらふ 戦場の討死にも勝つたと 嘸心の自慢 エゝにつくい
やつ 早出てうせふともぎどふに いへど心は天晴伜でかしおつたとあちらむく顔は 涙のやどりなる ヤア

手ぬるい/\ 金の詮議は格別 遊女を引入れ殿の御殿を揚屋にした大罪人 片時も屋敷に 穢ら
はしい 命かはりじや脛腰の立ぬ程擲き払ひ 家来共/\と呼びはりちらして入にける ヤア内記が者
参れ 源二左衛門が家来科人追放の用意せよ 詞に随ひ事助嶋蔵 わり竹てんでにヤア
若旦那 此お姿はと恟りはいもう ヤイ/\ 何にもいふなきやつらは科人 主人でないぞ 儕等定めて若
旦那のお供などゝ願はふが 叶はぬ/\ 科人追放の役人 国境(ざかい)迄は送るではない追立い ヤイ科人
共 此大小腰に帯すれば 今日よりの源五兵衛 ヲゝ只今よりの三五兵衛 苗字は穢さぬ 譬大小は放し
ても 忠義の二字さへ赦さねば 刀に勝る武士の魂 去ながら 指し付けた腰が明いて見苦しい 身共


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が指添一腰づゝ指いてうせいと投出すは 貧苦を凌げと詞の謎 わつていはれぬ割竹の切て合
せし親心 始終立聞く母ぎゝの 有にもあられぬ二人の妻 かけ出転(まろ)び縋り付 赦して下さんせ 皆私
等が此様にしました おまん様さゝの様 けふといふけふ世間晴て 抱つかれる様に成たれば 此お姿はと 泣
しづむ しづまは遉武士の妻 科人の女房共 一所に是より御追放 擲払ひのわり竹と榊諸共
手に渡す 旅の用意の竹杖といたゞく笠の いたゞきにこもる 路銀の重き恩 ヤレ科人よ 勘当
受ても内記が伜 源二左衛門が惣領ぞ 乞食(こつじき)非人に成迚も 恥と思ふて短気な事 必々
してくれば 金銀故の切腹などゝおはれては 夫こそ苗字の大恥ぞや 科人は科人同士 夫婦

一所に 何国(いづく)いづくの浦迄も 見捨ぬ様に頼むぞや なふ榊様 しつま様 初めて逢た嫁姑 詞もかけす追
出す 侍の女房には何が成ぞとかつぱとふし 涙は玉の三五兵衛 母に名残は惜けれど 殿への恐れ
のふ源五兵衛 ヲゝ政法の通り 嶋蔵事助 其わり竹で サアぶて/\ じやと申て御主人を のふ
事助 ヲゝサ 是ばつかりはといふを睨め付け 主人とはうろたへ者 科人の成敗 そち達にはぶたれぬ 天
下の法にぶたるゝ体 ヲゝサ親人のお打なさるゝ杖 遠慮なくぶちすへい 違背すると五生七生
アゝ申誤りました 畏てごはりますと 涙すゝつて科人め 立ませいと打立る アレ御らうじませあの成敗
は若殿のお身がはり 同じ忠義をするならば 人にも誉られ羨まる はな/\゛しい手柄はせいで あほう払ひ


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の忠臣は 無念に有ふと声を上 見送る姑憚りて さらばとだにも得もいはぬ 嫁よ我子よ主従の
涙を左右に引分てなく/\ 追立出て行 源二左衛門涙をはらひ エゝくど/\と何ほへ頬 ヤア室のくつ
わや是へ参れ はつと答てぐみたの久兵衛 くつわや諸共つくばへば 今日伜共は 科有て勘
当したれ共 遊女の身受金を済まさいでは国法立ず 此刀は源二左衛門が重代備前長光
千両の折紙 金子のかたに持て帰れ 刀を町人に預けるは侍のかきん 此事他所へ觸あるかば首
がないぞ 立てうせうと 正しき武士の魂に口をとめたるくつわやも こは/\゛打連行折から あはたゝ敷
奥使 只今江戸表若殿様より 御状到来仕ると 指出す文箱に心も関口 箱投やつて

さつとひらき 両人一度に立かゝり読みも終らず なむ三宝 天下の重宝外龍の甲紛失とな 大
殿は最前上屋敷へ いざ諸共に内記殿 源二左衛門つゞかれよ と袴のまち/\取々に供にせき立女房達
 第四 松原の段        顔も裳(もすそ)も紅裏(もみうら)に露を 縫ふてぞ