読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/884683
小栗判官一代記
2
おぐりはんぐわんすけくには
みやこ九じやうのほとりに
すみて大内ごしよへ
つとめけるあるひ
みぞろが池の
ほとり
にてふえをふきしに
池の大じやびじんと
なりていでつるに
はんぐわんと
ちぎりを
むすび ける
「みそろがいけ」
小栗判官助国は、都九条の辺に住みて大内御所へ勤めける。
ある日、深泥池の辺にて笛を吹きしに、池の大蛇、美人となりて出ずるに、
判官と契を結びける。
「みぞろがいけ(深泥池)」
3
こゝにさがみのくにの
ひとにてよこやま大
ぜんてるてのひめを
ぬすみきたりて
わかせがれ
に
め
あ
はせん
とす
てるての
ひめしたかはず
よこやまはん
ぐわんをなき
ものにせんと
おにかげといふ馬にのらせ
けるにはしこのりこば
んのりなどなん
なくなしけるが
よこやまは
ちそうとして
さかなを
とゝのへ
ここに相模の国の人にて横山大膳、照手姫を盗み来たりて、
吾倅に目合わせんとす。照手の姫従わず、
横山、判官を亡き者にせんと、鬼影という馬に乗らせけるに、
梯子乗り、碁盤乗りなど、なんなくしけるが、
横山は馳走として肴をととのえ、
4
どく酒をすゝめころ
さんとしけるがはんぐわん
やうやくのがれいでたり
てるてのひめは人かひの
ために遊女
にうら
れける
はんぐわんは
ゆぎやうしやうにんの
くりきによりて一たん
しせししうじう
みなみよがへり
けり
毒酒を勧め殺さんとしけるが、判官ようやく遁れ出でたり。
照手の姫は人買いのために遊女に売られける。
判官は遊行上人の功力によりて、一旦死せし。
主従皆蘇りけり。(みなみよがへり=みなよみがへりの間違い)
5
こゝに
てるてのひめは
はからず
はんぐわんに
めぐりあひ
はんくわんの
びやう
きを
つや
さんと
日ごとに
くるまを
ひきて
くまの
ごんげん
のたきに
かゝりて
ついに
びやうき
せんくわい
したり
ここに照手の姫は、図らず判官に巡り会い、
判官の病気を潰やさんと、日毎に車を曳きて、
熊野権現の滝にかかりて、ついに病気全快したり。
6
また
もとの
けらいとも
たい
めん
なし
さがみの
くにへ
おもむき
かのよこやましう
じうのあくと
はらをのこらず
なんなくうちとり
又、元の家来とも対面成し、相模の国へ赴き、
彼の横山主従の悪党原を残らず難なく討ち取り、
7
よこやまの
やかたまで
やき
はらひ
たり
めでたし
/\
横山の館まで焼き払いたり。
めでたし、めでたし。