仮想空間

趣味の変体仮名

斎藤別当実盛 第三?

 

読んだ本 https://www.waseda.jp/enpaku/db/ 

     イ14-00002-331

 ※「小松姫道行」を含むかも。←わからないので第二に入れておいた。


32(左頁)(多分第三
千代の古道跡たへぬ小松の中将惟盛の御子 六代御前と申せしは父維盛入水の
後 母君のやういくにて物うき草もこもり口の しやうぶ谷と云所に世をへだてたるやえ
がきの しばし心もやすからぬ御身のほどこそいたはしや 御そばちかき女房遠
かれよ是よとさしづとひ さくえとり/\゛しつらひてすぐにくはへてつぐ酒の
みさかなにはなによけんあはびさたおかかいしきに またきのさえだ折からに野菊
の露も色はへて 人のする事もどかしくざれて女の高笑ひ はしたなやとて若
君はつか/\と出給ひ 是は先何をするぞとの給へば 梅がえ花野承りさん候
よんべより 母君様の仰にて さげ重をしつらへとの御事ゆへ さだめし是は若


33
君様あたご参りの御用意か もしさもあらば我々も 御供に召つれんアゝうれし
やと思ふから としやををしと朝おきの日頃にもにず候が シテ先おまへ様は 此もよほし
を御存なく候やとうかゞひ申せば母うへは 几帳をしやりヤアそち達はわかいとて 何
のわかちもわきまへぬ心の程こそうたてけれ 扨もきのふの夕つかた去ものゝ申
せしは 北条の四郎時政と云ぶし じゆんけんとがうし此あたり迄来るよし 是は必
定六代御前の在家をしり からめとらんとのはかりことゝ覚ゆれ 此節に至り
のがるへき共思はねば をしあらはれてたいめんし九こんをすゝめ親と子の 此世の名
残をおしまんと思ふも是ぞ今生の わかれのきはとかなしさも やるかたわかめ我身

やとさめ/\゛ないての給へば 女房達はけうさめて扨もさやうの御ことゝ しらぬから
とていさましく今朝から何かと精出し こしらへたるくやしさよ花よ月よと
いつくしむ 若君様をころさんと むごき所存を持たりしあの北条のけむしめ
に 何御ちそうの入べきぞエゝ我々が男なら 何とぞ仕様も有べきをいふにかひ
なきことやなと はをくひしばりいきをまき互にめとめを見合てほろ/\
涙をこぼしけり 中にも時雨といふ女房すゝみ出て申やう 近頃さしでが
ましきことながらみづから存じ候は 一先爰をしのばせ給ひ いか成かたへ
も御越有てじせつを御待かへがし 山もみへぬさかとやらんいふごとく


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あまりにはやき御かくご 却てふかくの至りぞと憚りもなくいさむれば 母
うへ涙の隙よりもヲゝ大切なる心から きやうにいふもことはれなれ共 去ながら
いとしかはゆき此若を敵のかたへわたさん事 去とてはかなしくて夜の
めもねられずとやかくと あられぬ事のむかしまで思ひ出されて 有
し世に 平家の一もんさかんにて源氏のぶしの末葉迄 ねをたへさんとせしか
どもときは御前といひし人 太政入道殿になれむつみ 今若牛若
二人の子虎口万死をのがれえて ついに天下にはびこりて今又
平家のあたと成 かゝる手だてを思ふに付 姉小松姫は世の人にもすぐれたる

かたちなれば 何とがなしてえんをもとめ鎌倉へたより せめて六代の命斗は
こひうけんと つね/\゛たくみしかひもなく過しころより小松姫 三十三所巡
礼に出ての後はけふまての 日数程へて帰らねばもしやはるけき旅の
空 いか成やまふにおかされてはかなく成しかとやかくと 一かたならぬ我思ひと
かくながらへよしなしと ふつつり思ひきつたりとせんかたもなき 御ふぜい見奉る
もかなしくて 清例(きよす?)の前といふごたちにことほゝえみ ハア只今の御詞につき存
知付たることの侍ふ 何を申も君の為 是に在あふ上らう達色々と様を
かへ 色より心をやはらげてだますに手なし北条が こしをぬかしてひたすらに


35
若君様の御事を しつほりとなげかんと思ふはいかゞといひければ いづれもわか
き女房達是は一段よう御座らふ して/\其北条が心とまるふうぞくは
いかやうにしませふぞ さあ/\聞たし/\と壱所にこぞりてのゝめけば アゝさは
がしい衆かな 先心をしづとおとしつけことのやうを聞給へ いふてもかれは関
東兵のことなれば ついにめなれぬ姿にてあるひは町の小娘 又は人の内
儀のふう 其外遊女けいせい奉公人のらうにんをなこ こそ/\したるふうをし
て取かへひつかへしかけんに 五かいをたもつ上人でもころりとやらひて置物か 只此うへは
いつれものきてんしだい手がらしだい 用意し給へいざ/\とかみゆひなをし身

ごしらへ いはれぬことゝ母君は思ひながらも若や又 しおふする」ことも有らんとよきなき心ぞ
あはれなる 爰にお末の手切にくれ竹と云女房 姿そいにたくましくくはとうびたいにひし
げばな けら/\笑ふて申し皆様がたエ わらはゝいかやうなふうがにあひませふな さし
づをしてくだんせとをめぬかほつきけうさめて さすが無用とえもいはす ハテどう成とわか
身のとは 勝手次第と云すてゝ皆々おくにぞ「入にける去程に 北条の四郎時政はけふ
しもさがの遊覧に なぐさむことの大井川近習の小姓侍迄 遠のけて只ひとり 物
静成つりざほのいとま「おしげにみへにけり 女房達は是をみて サア彼人が来りしは我をとらじ
と ざゝめきわたる其中になまめき立るをみなへし花野のまへは今様の桜ぼかしの


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浮世海 かゞすげ笠にかゝへ帯きのとをつたるふうぞくは たれにみせても小娘の開帳参
としられけめ 時政のそばちかくわざとえむしろ敷かけ さゝえひらきて小盃一つかけ持
ヤア是はおじきも申さひでほんにそさうや ちとそれへ進ぜまぜふとさし出せと 有
無のこたへもあらざればそばに立より ヤアこゝなお人はいねぶりておはせしか 先程から
魚は取もせで つり物のしやうもしらぬお人やと 笑ひかゝれば時政めをほつちりと
あき ハア是はめなれぬお御れうの 某がふぜいをいぶかしくとはるゝことムゝ女俄(?)なれば尤々
御存知なくは語てきけ申さふ 惣じてつりをたるゝ心持は天下の政道に同しく とがの
少しなるははつせず大をつみして是をちうす まつ其ことく小魚をすてゝ大魚を得る


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ヲゝ此上郎は髪を切しは 仏道に入出家の心か 宿因感果の道理ヲゝ殊勝/\と
ほめられて ヤア是でもならぬ後家の手てもいかぬはと にが笑ひしてのきよける 中に
すぐれてさく花の梅がえはけいせいの 姿をついに見もせねど人の「咄しに身をにせて
髪の 詰ふりえもんつき あぢにきこなす身の取まはし すねたやうにてぎすになく 
八もんじにゆりかけてうしろのかたにすんと立 時政のあたまをたゝき コレ大じん様(さん) けふは
わしがかりましたぞエ あれ一ちよつとこざんせいひたいことがあるはいナ 用が有はい
なエしさいらしい大じん様と とんともたるゝ様子よく 誠の遊女も及ぶまじ 時
政かつてがてんゆかず そなたのていたらく本気では有まい 先物をよくわきまへていふ

たがよい 某は無位無官の身 禁中方の事は夢にだにもみぬものを大じんとはアゝ
もつたなやと つつくすんでぞみへにける アゝしんきけいせいの手でもいごきがとれぬ
こりや成ませぬと立のけば清例(?)のまへは黒ほうしあぢにむすんでかた手には
小箱かゝへてみくまのゝ びくに姿のさへ/\とさつさ時雨のナかや 屋の雨か をともせてき
てふり 心エ ちとくはん入てくたんせと云ければ 時政きよつとして是は扨 人の前に
立はたかつて いれてくれとはなんの事ぞとあれば イヤ私は清林といふびくにたん
な様がたのわる口に 丸太とよばるゝ者也とにつと笑ふてつくはへは ヲゝ是は国
もとにて聞及申た 丸太はさがの名物 ムゝすれば其材木をうる人か さもあれ


38
拙者は遠国ものなればづしんの用事も候はず と木を切てなげ出したる
ことくにてつやなき詞に清例の前といきをふつとふき出し さあ/\みやくがあがつ
たいしやや/\ どうしてもかなはぬとあきれはてたる有様の心よはしと女房
達時政のゆんでめて まへうしろより取まはしつめつたりさすつたりしなたれたはふ
れかゝりしはうるさかりける次第也 時政今はこらへかねやあびろう也かた/\゛?
すいりやうするに小松殿に召つかひの女中成が はかなき手だてを以て此
時政をはかるよな よしなき隙をとらんより早々帰つて申さふには 六代御前の御迎に
追付それへ参る間 御用意あそばし候へと急度申され候へ 去ながらかくいふとても

母心に情なしとな思れそ りふじんにらうぜきせんもいかゞぞと しあんして先
程よりわざとためらひいたる也 じこくうつらば却ておためあしからんと にがり
きつたる其ふぜい女房達はきもをけし ヤアかなしや是は先何とせん エゝいはれぬ
そなたがふんへだてイヤそなたこそおぬしこそと 中間われして返りしはかたて かり
ける「ふぜい也 かゝるさはぎの折ふしに手塚の次郎光成は 六代御前かくれ家を聞より
はやく 家の子少々引つれしやうぶ谷に押よせ 小こえになつて云やうは 我近年
鎌倉殿に召出されてより させる手がらも無念に思ふ折から 天のあたふるた
まもの諸事は我にまかせ きずをつけずにからめ取手だてこそかんじんなれと 門


39
前にたゝずみ大をんあげ 此御所に六代御前のわたらせ給ふ由 鎌倉殿より仰
をかうふり 北条四郎時政罷向て候 心しづかに出し参らせ給へと神妙にこそ
申けれ 母うへ夢の心地してつや/\物の光なく 若君にいたき付とはうに くれ
ておはします しばらくあつて光成門内へつつと入 時こそうつれはや/\御
出候へと高声色(?)にのゝしれば 若君すこしもさはぎ給はずアレ聞給へ母上
様 とてもかなはぬことなれば御いとまを給はり我を敵に渡してたべをそなはり
てはぶし共の みたれ入てこはくかたげ成御有様を 見られんも口おしければ今
ははや是迄と 立出んとし給ふを母上袖にすがり付アゝさすが三位様の

種とて扨もゆゝしき心やな そなたにいさみを付られて母もかくごを致せしぞ
さは去ながら此まゝにて出しやらんも見ぐるしとて 小袖を着せ参らせて
御ぐしを かきなで/\ ナフいかに六代御前 敵のやかたの内にてはみるも/\
近付ならぬぶしにて よろづものうく候はん くごやくはしなど出る共ぎやう
ぎたゞしくつくろひて 北条の時政にはとうめされかうしられよとの
詞をつかひ 又つぎ/\の侍にはどうしやかうしやと 大やうにいひ給へよや
大かたたけきものゝふも敵のとりことなる時は 心をくれてかたすぼり
いふまじきことばをさげ とてものがれぬものゆへについしやうけいはく


40
する事はあさましきこと共なり されば虎は源山に有時は よろづの
けだものおそれをなしいきほひたけきものなれど 人にとらはれおり
にこめられては おをふつて食をもとむるとかや きつねはうたがひお
ほく心をくれたる物なれ共 をかにまくらして死する時をしるとかや かゝ
るちくるいの上にては おとえいまさりの有事はげにことはりと思はるゝ 過し
寿永の秋の夢 平家の一門むねとの人々の中にも いさぎよく討死し
給ふ人も有 色におぼれしんそくに心ひかれ 思はぬふかくを取事も世のならはし
といひながら ぶしたる者の道ならず中にもそなたのめのと 斉藤別当

盛はにしきのひたゝれを着し 大将のまなびして死たる跡のほまれを取 人は一
代名は末代 かまへて/\心入が大事成ぞと様々にいさむるうちにも心くれ涙の
露のはら/\と 六代御前の御ぐしにこぼれかゝるををさへんと すれ共いとゞせきかねて
わつと斗に なき給ふ是ぞ あはれの かぎりなる かゝる所へ女房達おひ/\に立帰り
扨は北條が先へまはつて来るかや 先々爰ははしぢかなればおくに御入あつてしばしの
御名残をもおしませ給へと御手を引おくにいざなひ参らせて サア皆の衆もう此うへに
分別はないか あゝ情なやかなしやとうろたへまはるぞ道理なる 光成はあまりに
待かね?ひの折戸をきり/\とあけ さしも平家のとうりやうたる其様子として


41
をくれ給ふけふかくなりとう/\御出給へをそくはそれへ参らんかとあらゝかにいふ
こえに 人々おどろきものかげよりおづ/\そつとさしのぞき やああれは
先程川ばたにて見たる男にはあらず コレたまりや/\ すいりやうする
にあいつめはにせものゝねだれもの エゝにつくい事かなとは思へ共何とすべき
やうもなく あなたこなたとかけまはりお次にたれかいびきのをと ヤア
是はくれ竹か ナフ時折もおり 是程のさはぎにねていると事がある
ものか アレ北条といつはりてかたりめがうせをつた 日頃のかむしやは爰成ぞ
さあ/\とうぞ頼むぞと ゆすりおこせばフンかしましい 何を云と事じやまで 私はな

おやたちかわるううみつけられたるゆへ こなた衆にえり出されやくにも
たゝぬものなれば おかまひ有なと大あくびのびするかいなをぬつと
出し そば成はりばこ引よせて ころりとこけてねいりけり ヲゝ是は道理
/\何事もかんにんして 一はたらきせい出してたも ひらに/\とそやされ
ヲゝかどわきのうばにも用が有と いふ事思ひしり給へとすんど立て出
けるが いや/\此なりではなるまいそれ 御前の大小を申おろして給はれと
十もんじによこたへハア是でも何とやらにやくにみへてきみわるし エゝなんのてんほ
それかみそりにて 私がふりをそつて給はれ ヲゝ出来た/\それみゝだらひよちり


42
とりよととり/\゛に立かゝりうしろさがりにそりおとし かほにはべにの色を
つけまゆばけとつてつくりひげ ホウこはいかほかなどれ/\と かゞみにむか
ひすつとすえいと手をふつて しりかつつまげえい/\と大庭にゆるぎ
出 シテ/\只今爰もとへよせられたる侍の けみやうじつみやうはなんと申
ぞ ヲゝ事もをろかや鎌倉殿の御代官 北条四郎時政也 ヤア時政
じや ハゝ 天下に名こそおほけれ 北条の四郎と云者二人有べきやうもなし
アノわうちやくものめ 先身をたれと思ふぞ 時政がしつけんえまの八郎竹広と云
者にて 六代御前は身が預て?をする あしうよつてけがまくるなと 刀のつばを

ちやんと打 じうめんつくつてねめまはせば 光成大きにぎやうてんし
ヤレあれこそは聞及ぶ 大力のかうの者かほ見しられては後日の
ためきづかはしおそろしと かくしこのやぶのかたかげにわぢ/\ふ
るふてかくれけり しすましたりとくれ竹はもとのざしきに
立帰る 母うへ若君出給ひヲゝでかしたり/\ 時にとりての
高名と悦び給へばくれたけは さかやきをなでおろしお主
のためとはいひなから あんまりざんない我姿とはしりにかゝり
かほあらはんとする所に光成か郎等共 かきの外よりさしのぞきひ


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そ/\さゝやきたゝずむを そりや又敵がよせたりといふこえにくれ竹は 心得たり
とをどり出 先にもこりぬおくびやうもの いで/\此はものでをのれらかつふ
りを いもの子をつくるやうにぢよつきり/\ときつてくれふと 太刀ひんぬいてをど
り出散花みぢんに切ちらす此いきほひに ざうひやう共わつと云てにげゆくを
女心におもしろく十七八はやぶちから 竹がきしばがきおぎすゝきをどりあ
がつてちやうどきり うろたへまはりしやつばらをゆんでめてに引つかみ えい
やつとなげつれてひらり/\といなづまの光よりげにすさまじくとも
えの水にかげうつる 山ぶきがいきほひも あつはれかうこそ有らんと人々 かんづる斗也