仮想空間

趣味の変体仮名

国牛十図

丑年も残す所あと僅か、お名残に読んでみました。

 

 

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2543102

 

 

5

国牛十図叙文ノ首闕惜ヘシ又牛図十アル

ヘリメ今所存九ツ君一図逸スルカ他日全本ヲ

得ルヲ俟

  安永七年歳次戊戌五月 藤貞幹

 

あらたなりこゝに馬は東開をもちてさきとし

牛は西国をもちてもとゝすはかりしんぬ

洛陽の精霊たるによりて名をふたつの

境にえたりといふことをことすこし

幾なりといへともあへて此ことはりを

わきまふるものまれうなるものか但馬は

賢根のをしへかたくあきらかに

牛は葛葉のうたかひなきをのこるところ也

王侯将相これをもてあそひ惣民返?

 

 

6(七行目から)

これをこのむによりて五畿七道より

京洛にあつまる琴蟻のことし

そのうち皮肉筋骨につきてかの所生の

国あらはなることまゝ見をよふところ

わつかに十か国見んものさとりやすからん

かため其形?(躰?)をしるして十図と名つく

もとより管見の至りなれは十に八九は

あやまる事おほかるへしといへともおの

つからかなふところあらはまたその

要なかるへきにあらすこれたゝ心さし

のゆくにまかす後見のあさけりかねて

おもひまうくるものなり

 

 

7

筑紫牛 以壱度伝牛 構也

そのかたちめうしかほにて角さきほ

そく耳しろしをきるくひ木のし

たすこしうすく骨ほそく皮うすく

実すくなくすちあらわにけみしく

すへてそのすがたうつくしくえたつめ

かたくとしおふまてつまもとさわや

かなり印まる/\なり

上ふるいより上牛駿牛これにおほかりけるにひとゝせ異賊

此嶋におそい来てかすをつくしていけにえにもちい

けるによりてなかころまれになりたりしかいまはもと

のことくいてきにたるとかや

 

 

8

御厨牛 筑前国宇野御厨

      貢牛構之

角なかく骨ふとく皮実あつくえたふとく

おほかた牛大きなり中古の名におほく

これにあり印大文字に鞆絵(自故今出皮入道大故大尽家 被下此印云々)

或云大文字にはあらす散毬打に鞆絵といふ

と云々

 

 

9

淡路牛

あたませはく角さき上へはねて実かたく

なか骨すくにみしかふとなり凡せいちい

さくしてちからたゝしすくれたるか

逸物すくなきものか

近年西園寺より御厨の印をきらせ

られ又大きなる牛も出来歟

 

 

10

但馬牛

ほねほそく実かたっかわうすく腰骨まろし

つの蹄ことにかたくはなのあなひろし

逸物おほし

 

 

11

丹波

右略但馬牛におなしひたいのかみしれり

まなこおごきに出たり

ひりて皮さきの骨つき出てよせなわ

のあたりかれたることにけやし

近年逸物おほし

 

 

12

大和牛

ほねふとく実皮あつく頭肩大にひ

くさかりすへてまへうしろおほき也

腰ひらにあしふとく蹄大にうす

く角はこまかにひさしくさく角蹄

やすかによはしけるになるましに足

もとみくるし近年逸物おほし

 

 

13(14と同じ)

 

 

14

河内牛

角のさきやうあたまよりことに出い

出たるさまにて額さし出てこほ

ろきかほなりはなのかわつよく

あなひろし蹄かたくえたに実

なくせなかうすくはらほねさし

はる逸物あり

 

 

15

遠江牛 相良牧白羽立牛構相良牛

      件庄蓮花王院領

あたませはく角もとすきつらそりて

耳の根つよく小ひくさかり上顉あつく腹

骨まるく身なかくしてしたすきたり

皮のかくりえた蹄つくし生にまかふ腰

尻さきまてすくにて貘骨のあたり

みにくしよせなわのあたりかれたり

すへて牛すくなふして駿牛あり車にては

ぬるくせあり人おほくあやまりてつくし

牛といふ印いほりのなかにものありまた

すわまをもさすそや

 故今出川入道太政大臣家よりつくし牛の

ちゝはゝをこのまきにうつされて

よりこのすかたなるよし有某説

 

 

16

越前牛

角もとふとくさきほそく耳すこし

おほきなりはなのかわなかくつよし

うじぇすくにわたりてしたくつろき骨

ふとく実あつくしかもかたし腕す

こしおして蹄うすくしてさき

ほそなりあたらしき時はみしかく

うすゝりに見ゆるものなり大なる

 

 

17(6行目)

牛逸物おほし

 

 

18

越後牛

あたませはくて額のかみなしつのなかくおほきに

耳おほきに肩うすく腹おほきに骨ふとく

実うすく牛大に力あり逸物まれにあり

十牛のすかたは概はしにしるしおはり

ぬこのほか出雲石見伊賀伊勢んとよりも

事よろしきおいてきたるよしさたは

きゝ侍れどもそのさまはまた見るため

す抑おなしたちのうち角のかつき身

つゝきよりはしめて??のおなし

からさるさましな/\にしていひつくし

しるをこのたつおもてに目をとゝめて?

をくはふ類人あるへしこれ程にに

かはするたとへおろかなるおしはかり

なるへしたゝしるとしらさるともか

いるもゆるさるとなり時に

延慶三年庚戌五月十日あまり雨の中の

ひまにしるしをはりぬ

  河東牧童寧直磨記也

安永七年歳次戊戌五月二日畢 左京 藤貞幹