仮想空間

趣味の変体仮名

曽根崎心中

読んだ本 https://archive.waseda.jp/archive/index.html

      浄瑠璃本データベース イ14-00002-481(再読)

 

 

2

   曽根崎心中 付観音廻り

(観音廻り)げにやあんあらくせかいより 今此しや

ばにじげんして 我らがためのくはん

ぜおんあをぐもたかしたかきやに のぼ

りてたみのにぎはひを ちぎりをきてし

なにはづや みつづゝとをとみつのさと ふた

 

 

3

しよ/\のれいちれいぶつめぐれは つみも

なつのくもあつくろしとてかごをはや をり

はのこひめさぶろくの 十八九なるかほよ花

今さき〽出しのはつ花にかさはきず共 めさ

ず共 てる日の神もおとこ神 よけて日ま

けはよもあらじ たのみ有けるじゆんれい

 

道 西国卅三所にもむかふと きくぞ有がたき

一ばんに天まの大ゆふじ 此御寺のなもふりしむかしの

人も きのとほるの おとゞの君かしほがまのうらを

都にほり江こぐしほくみぶねのあとたえず

今もぐせいのろびやうしに のりの玉ぼこえい

/\ 大坂しゆんれいむねにきふだのふたらくや

 

 

4

大江のきしにうつなみに しらむよあけの とり

も二ばんに長ふくじ そらにまばゆき久からの ひ

かりにうつる我かげのあれ/\ はしればはしる

これ/\又 とまればとまるふりのよしあし見る

ごろく 心もさぞや神仏 てらすかゞみの神明宮

おがみめぐりてほうぢうじ 人のねがひも我ごとく

 

たれをか恋のいのりぞと あたのりんきやほうかいじ

東はいかに 大きやうじ くさのわかめも春過て をくれ

ざきなるなたねやけしの 露にやつるゝ夏の虫 をの

がつまごひ やさしやすしや あちへとびつれ こちへ

とびつれ あちやこち風ひた/\/\ はねと/\を

あはせのそでの そめたもやうを花かとてかたに

 

 

5

とまればをのづから もんにあげはのてうせんじ

扨せんだうしやいつたうじ 天まのふだしよのこりなく

そなたにめぐるゆふ立のくものはごろも せみの

はの うすき手のごひあつき日に つらぬくあせの

玉つくりいなりの宮にまよふとの やみはことはり

御仏も 衆生のためのあやなれば 是ぞをばせの

 

かうとくじ よもにながめのはてしなく 西にふなぢ

のうみふかく なみのあはぢにきえずもかよふ おき

のしほ風身にしむかもめ なれもむじやうのけふ

りにむせぶ いろにこがれてしなふなら しんぞ此

身はなりしだい さて げにけいでんし えんにひ

かれて 又いつかこゝにかうづのべんめういん ぼだいの

 

 

6

たねや上寺町の 長あんじよりせいあんじ のぼ

りやすな/\くだりやちよこ/\ のぼりつをりつ

谷町すぢを あゆみならはすゆきならはねば しよ

ていくづをれアゝはづかしの もりてもすそがはら

/\/\ はつとかへるをうちかきあはせ ゆるみしおび

を引しめ/\ しめてまつはれふぢのたな 十七ばん

 

にじうぐはんじ 是からいくつ生玉のほんせいじそと

ふしおがむ じゆずにつながんぼだいじや はや天王

寺に六時堂七千〽よくはんの経堂に経よむ

とりの時ぞとて よそのまつよひきぬ/\も 思はで

つらきかねのこえ こん金堂にかうだうやまんどう

いんにともすひは かげもかゝやくらうそくの新

 

 

7

清水に〽しばしとて やがてやすらふ あふさかのせきの

しみづをくみあげつ 手にむすびあげ口すゝぎむみやう

の酒のえひさます 木々の下風ひや/\と右の袖口

左の袖へ とほるきせるにくゆる火も 道のなぐさみ

あつからずふきて みだるゝうすけふり そらにきえ

ては是もまた ゆくえもしらぬ あひおもひ

 

ぐさ 人しのぶぐさ道くさに 日もかたふきぬいそ

かんと又立出るくものあし しぐれの松の下寺町

にしん/\゛ふかきしんかうじ さとらぬ身さへ大

かくじ さてこんたいじ大れんじめぐり/\て是

ぞはや 三十ばんに 三津寺の大じ大ひを頼に

て かくる仏の御手のいと しらが町とよくろか

 

 

8

みは恋にみだるゝまうしうの 夢をさまさんはく

ろうの こゝもいなりの神やしろ仏神すいはのしるし

とていらかならべし新御霊に おがみをさまるさしもぐさ

くさのはすはなよにまじり 卅三に御身をかへいろで

みち引なさけてをしへ 恋をぼだいのはしとなし わたして

すくふくはんぜおんちかひは たへに〽有がたし

 

(生玉社の段)立まよふ うきなをよそに もらさじとつゝむ心のついほん

まち こがるゝむねのひらのやにはるをかさねしひな

おとこ 一つなるくちもゝのさけ やなぎのかみもとく/\

とよばれてすいのなとり川 今はてだいとむもれぎの

きじやうゆのそでしたゝるきこひのやつこにになは

せて とくひをめぐりいくだまのやしろに〽こそはつきに

 

 

9

けれ 出ちや屋のとこより 女のこえありや徳様では

ないかいの コレ徳様/\と手をたゝけば徳兵衛 がてんし

てうちうなづき コレ長蔵をれはあとからいのほどに

そちは寺町のくほんじ様長きうし様 うへ町からやしき

がたまはつてさうしてうちへいにや 徳兵衛もはやもどろと

いや それわすれず共あづち町のこうやへよつてぜにとりやや

 

だいとんぼりへよりやんなやと かげ見ゆるまで見をくり

/\ すだれをあげてコレおはつじやないか これはどう

じやとあみがさを ぬがんとすればアゝまづやはりきて

いさんせ けふはいなかのきやくで 卅三ばんのくはんおん

様をめぐりまし こゝでばんまで日ぐらしに さけに

するじやとぜいいひて ものまねきゝにそれそこへ

 

 

10

もどつて見ればむつかしい かごにもみなしらんしたしゆ

やつはりかさをきていさんせ それはさうじやが此

ごろはなしもつぶてもうたんせぬ きつかひなれど

内かたのしゆびをしらねばびんぎもならず たんば

屋まではお百どほどたづぬれど あそこへもをとづれも

ないと有 ハアたれやらがヲゝそれよ ざとうの大いちがともだ

 

ち衆にきけば ざいしよへいかんしたといへ共つんとまこ

とにならず ほんにまたあんまりなわしはどうならふ

共 きゝたうもないかいの こなさまそれでもすもぞいの

わしはやまひになるはいの うそならこれ此つかへを

見さんせと 手をとつてふところのうちうらみたるく

どきなき ほんの めをとにかはらじな おとこもないて

 

 

11

ヲゝだうり/\去ながら いふてくにさせ なにせふぞいの

此中をれがうきくらう ぼんと正月其うへに 十やお

はらひすゝはきを一どにする共かうは有まい

心のうちはむしやくしやとやみらみつちやのかはぶくろ

銀ごとやらなんじややら わけは京へものぼつて

くる ようも/\徳兵衛が命はつゞきのきやうげんに

 

したらばあはれにあらふぞとためいきほつとつぐ斗

ハテかる口のだんかいの それほどにないことをさへ わし

にはなぜにいはんせぬ かくさんしたはわけがあろなぜ

うちあけてくだんせぬと ひざにもたれてさめ/\゛と

なみだは のべをひたしけり ハアテなきやんなうらみやる

な かくすではなけれ共いふてもらちのあかぬこと 去

 

 

12

ながら大かた先すみよつたが 一ぶしゞうを聞てたも を

れがだんなは主ながらけんざいのをぢをいなればねん

ごろにもあづかる 又身共もほうこうに是程もゆ

だんせず あきなひ物ももじひらなかちがへたこと

のあらばこそ 此頃あはせをせぐと思ひさかひすぢ

でかゞ一ひき だんなのなだいでかひがゝる 是が一ごにたつ

 

た一ど 此銀もすはといへばきがへうりてもそんかけぬ

此正直を見て取て ないきのめいに二貫め付て

めをとにし あきなひさせふといふだんかう きよねん

からのことなれど そなたと云人もちてなんの心がうつ

らふぞ 取あへもせぬ其内にざいしよの母はまゝ母

なるが 我にかくしておやかたと談合きはめ二貫め

 

 

13

の かねをにぎつて帰られしを此うつそりが夢にも

しらず あとの月からもやくり出しをしてしうげん

させふと有 そこでをれもむつとして やあら聞えぬ

だんな様 私がつてんいたさぬをらうぼをたらしたゝ

きつけ あんまりななされやうおないきさまも聞

えませぬ 今迄様にさまを付あがまへた娘ごに かね

 

を付て申うけ一生女ばうのきげん取此徳兵衛

が立ものか いやと云からはしんだおやじかいきか

へり申とあつても いやでござると詞をすご

すへんたうに おやかたもりつふくせられ をれが

それもしつている しゞみ川の天まやのはつ

めとやらとくさりあひ かゝがめいをきらふよな

 

 

14

よい此上はもう娘はやらぬ やらぬからは銀を立 四

月七日迄にきつと立あきなひのかんぢやう

せよ まくり出して大坂のぢはふませぬといから

るゝ 其も男のがヲゝソレ畏たとざい所へはしる 又

此母と云人が此世があのよへかへつても にぎつ

た銀をはなさばこそ 京の五てうの醤油問

 

屋つね/\かねの取やりすれば 是を頼みにのぼつて見

ても折しもわるう銀もなく 引かへしてざいしよへゆ

き一ざいしよのわびことにて 母より銀を請取たり

おつつけかへしかんぢやうしまひさらりとらちがあ

くはあく され共大坂にをかれまい 時にはどうしてあ

はれふぞたとへばほねをくだかれて身はしやれがいの

 

 

しゞみ川そこのみくづとならばなれ わがみにはなれどう

せふとむせび 入てぞなきいたる おはつも共にせく

なみだ力を付てをしとゞめ 扨々いかい御くらう皆

わし故と存ずれば うれしかなしう忝し 去ながら

心慥に思召せ 大坂をせかれさんしてもぬすみ

かやきの身ではなし どうして成共をくぶんはわしか心

 

に有こと也 あふにあはれぬ其時は此世斗のやく

そくが さすしたためしのないではなし しぬるをたか

のしでの山さんづの川はせく人も せかるゝ人も有ま

いときづよういさむ詞の中 なみだにむせていひませ

り おはつかさねて七日といふてもあすのこと とて

もわたす銀なればはやうもどしておやかた様の

 

 

16

きげんをもとらんせといへば ヲゝさう思ふてさがせ

くが そなたもしつたかのあぶら屋の九平次が あと

の月のつごもりたつた一日入こと有 三日のあさはかへ

さふと一めいかけてたのむにより 七日迄はいらぬ銀

きやうだいどうしのともだちのためと思ひて 時がし

にかしたるが三日四日にひんぎせず 昨日はるす

 

であひもせず今朝尋ふと思ひしが 明日ぎりに

あきなひのかんぢやうもしまはんととくひまはりて

うちすぎたり ばんにはいつてらちあけふ あいつも

おとこみがくやつ をれがなんぎもしつている ぢよ

さいは有まいきづかひしやるな ヤアゝおはつ はつせも

とをしなにはでら などころおほきかねのこえ つき

 

 

17

ぬやのりのこえならん 山でらのはるのゆふぐれ

きて見ればさきなはコレ九平次 アゝふでき千万な身

共かたへはふとゞきしてゆざんところでは有まいぞサア

今日らちあけふと手を取て 引とむれば九平次

けうさめがほになつて なんのことぞ徳兵衛 此つれ

衆は町の衆 上しほまちへいせかうにてたゞいまか

 

へるが酒も少のんでいる きゝうで取てどうする

ことぞ そさうするなとかさをとればイヤ此徳兵

衛はそさうはせぬ あとの月の廿八日銀子二貫

め時がしに 此三日切にかしたる銀それをかやせと

いふことゝ いはせもはてず九平次かつら/\とわらひ

きがちかふたか徳兵衛 われとすねんかたれ共一せん

 

 

18

かつたおぼえもなし れうじなことをいひかけ

こうくはいするなとふりはなせば つれもかさをはら

りとぬぐ徳兵衛はつといろをかへ いふな/\九平

次 身が此たび大なんぎどうもならぬ銀なれ共

つごもりたつた一日でしんだいたゝぬとなげいたゆへ

日ごろかたるはこゝらと思ひおとこづくてかしたぞよ

 

てがたもいらぬといふたればねんのためじやはんを

せふと 身共にすもんかゝせおぬしがをしたはんが

有 さういふな九平次とちまなこになつてせめか

くる ムゝウなんじやはんとはどれ見たい ヲゝ見せいでをかふ

かと くはいちうのはながみ入より取出し お町衆なら

見しりもあらふ コリヤ是でもあらがふかと ひらいて

 

 

19

見すれば九平次よこ手を打 なる程はんはをれが

はん エゝ徳兵衛つちにくひ付しぬるとてもこん

なことはせぬものじや 此九平次はあとの月の廿五

日 はながみぶくろをおとしていんばん共にうしなふた

はう/\゛にはりがみして尋れ共しれぬゆへ 此月から

コレ此御町衆へもことはりいんばんをかへたいやい 廿

 

五日におとしたはんを八日にをされふか 扨はそちが

ひろふて手がたを書てはんをすへ をれをねだつて銀

とらふとはばうはんより大ざいにん こんなことをせふより

もぬすみをせい徳兵衛 エゝくびをきらせるやつなれど

ねんごろかいにゆるしてをく 銀に成ならして見よと手

がたをかほへうちつけ はつたとにらむかほつきはけん

 

 

20

によもなげにしら/\し 徳兵衛くはつとむねせいて

大ごえあげ 扨たくんだり/\ 一はいくふたがむねんや

な ハテなんとせふ此銀をのめ/\とたゞをのれにとら

れふか かうたくんだことなればでんどへ出てもをれが

まけ うでさきで取て見せふ コレヤイひらのやの徳兵衛

じやおとこじやががつてんか をのれがやうにともだちを

 

かたつてたをすおとこじやないサアこいとつかみつくヤア

しやらなでつちあがりめ なげてくれんとむな

ぐら取 ぶちあひねぢあひたゝきあふ おはつは

はだしでとんでをりあれみな様たのみます わ

しがしつたお人じやがかこのしゆはいやらぬか あ

れ徳様じやと身をもがくせんかたなくもあは

 

 

21

れ也 きやくはもとよりいなかもの けがゝあつてはな

らぬぞとむたいにかごにをしいるゝ いや先まつてく

だんせなふかなしやとなくこえばかり いそげ/\と一

さんにかごをはやめて帰けり 徳兵衛はたゞ一人

九平次は五人づれ あtありの茶屋よりぼうずく

めはすいけまでおひ出し たれがふむやらたゝく

 

やらさらにわかちは〽なかりけり かみもほどかれおびも

とけ あなたこなたへふしまろびやれ九平次めち

くしやうめ をのれいけてをかふかと よろほひた

つねまはれ共にげてゆくえも見えばこそ 其まゝ

そこにどうどすはり大ごえあげてなみだをながし

いづれものてまへもめんぼくなしはづかしと まつたく

 

 

22

此徳兵衛がいひかけしたるでさらになし 日ごろ

きやうだいどうぜんにかたりしやつがことゝいひ 一生の

おんをなげきしゆへ 明日七日此銀がなければ我

らもしなねばならぬ 命がはりのかねなれはたがひ

のことゝやくに立 てがたを我らがてゞかゝせぬ いんばん

すへて其はんをまへかたにおとせしと 町内へいひろうして

 

かへつて今のさかねだれ 口おしやむねんやな 此ご

とくふみたゝかれ男も立ず身も立ず エゝさいぜんにつかみ付

くひついてなり共しなんものをと大地をたゝきは

がみをなし こぶしをにぎりなげきしは たかりとも

せうし共思ひ やられてあはれ也 ハアあういふてもむ

やくのこと 此徳兵衛がしやうぢきの心のそこのすゞ

 

 

23

しさは 三日をすごさず大坂中へ申わけはして

見せふと のちにしらるゝことばのはしいづれも御

くらうかけました 御めんあれと一れいのべ やぶれ

しあみがさひろひきてかほもかたふく日かげさ

へ くもるなみだにかきくれ/\ すご/\かへるあり様は

めもあてられぬ 天満屋の段)恋風の身にしゞみ川 

 

ながれては其うつせがいうつゝなきいろのやみぢを

てらせとて よごとにともすともしびは 四きのほ

たるよあまよのほしか なつも花見るむめだばし

たびのひなびと地の思ひ人心〽こゝろのわけの

道しるもなよへばしらぬもかよひ 新いろざとゝに

ぎはゝしむざんやなてんまやの おはつは内へ帰りても

 

 

24

けふのことのみきにかゝり 酒ものまれずきもす

まずしく/\ないて いる所へ となりのよねやはう

ばいのちよつときてはなふはつ様 なにもきかんせぬ

か 徳様は何やらわけのわるいこと有て たんとぶたれ

さんしたと 聞たがほんかといふも有 イヤわしがきや

く様のはなしじやが ふまれてしなんしたげなと

 

いふも有 かたりをいふてしばられての にせばんして

くゝられてのと ろくなことは一つもいはずとふにつらさ

の見まひ也 あゝいやもういふてくだんすな きけば

きくほどむねいたみわしからさきへしにさうな いつ

そしんでのけたいとなくよりほかのことぞなき

涙かたてにおもてを見ればよるのあみがさ徳

 

 

25

兵衛 思ひわびたるしのびすがたちらと見るより

とび立斗 はしり出んと思へ共おうへにはていしゆ

ふうふ あがりくちにれうり人 にはでは下女がやく

たいのめがしげければさもならず アゝいかうきがつ

きた かど見てこふとそつと出なふ是はとうぞいの

こな様のひやうばんいろ/\に聞たゆへ 其きづかひ

 

さ/\ きちがひのやうになつていたはいのふと かさ

のうちにおかほさし入 こえを立ずのかくしなきあは

れ せつなきなみだ也 おとこもなみだにくれな

がら きゝやるとほりのたくみなればいふほどを

れがひにおちる 其内四はう八はうのしゆびは

ぐはらりとちがふてくる もはやこよひはすごさ

 

 

26

れずとんとかくごをきはめたと さゝやけばう

ちよりもせけんにわるいさたがある はつ様内

へじゃいらんせとこえ/\によびいるゝ ヲウ/\あれじや

なにもはなされぬ わしがするやうにならんせと

うちかけのすそにかくし入はふ/\なかどの くつ

ぬぎよりしのばせて えんの下やにそつといれ

 

あがり口にこしうちかけ たばこ引よせすひ付て

そしらぬかほしていたりけり かゝる所へ九平次

わる口中間さ二三人 ざとうまじくらどっつときた

り ヤアよね様たちさびしさうにこざる なにときや

くになつてやらふかい なんとていしゆ久しいのと の

さばり上ればそれたばこぼんおさかづきと ありべ

 

 

27

かゝりに立さはぐ イヤさけはをきやのんできた 扨はな

すことが有 これのはつが一きやくひらのやの徳兵衛

が 身がおとしたいんばんひろひ 二貫めのにせ手がた

でかたらふとしたれ共 りくつにつまつてあげくには しな

ずがひなめにあふて一ぶんはすたつた きやうこうこゝらへ

きたる共ゆだんしやるな みなにかうかたるのも徳兵衛めが

 

うせまつかいさまにいふとても 必まことにしやるなや よ

せることもいらぬもの とどでのへかとびたものとまこと

しやかにいひちらす えんの下にはをくひしばり身

をふるはしてはらを立るおはつは是をしらせじとあしの

さきにてをししづめ をさへしづめししんべうさ ていしゅは

久しいきゃくのこと よしあしのへんたうなく さらばなんぞお

 

 

28

すひ物とまぎらかしてぞ立にける はつは涙にくれなが

らさのみりこんにはいはぬもの 徳様の御こといくとしなじみ

心ねをあかしあかせし中なるが それは/\いとしぼげに

みぢんわけはわるうなし たのもしだてが身のひしでだまさ

れさんしたものなれ共 せうこなければりもたゝず 此上

は徳様もしなねばならぬしな成が しぬるかくご

 

が聞たいとひとりごといなぞらへて あしでとへば打う

なづき あしくびとつてのどぶえなで じがいするとぞ

しらせける ヲゝ其はづ/\ いつまでいきてもおなじこと

死ではぢをすゝがいではといへば九平次きよつとして

おはつはなにをいはるゝぞ なんの徳兵衛がしぬる

ものぞ もし又しんだら其あとは をれがねんごろし

 

 

29

てやらふ そなたもをれにほれてじやげなといへば

こりや忝なかろはいの わしこと念頃さあんすと

こなたもころすががつてんか 徳さまにはなれて

かた時も生ていよふか そこな九平次のどう

ずりめ あほりぐちをたゝいて人が聞てもふしんが立

とうで徳様一しよにしぬるわしも一しよにしぬる

 

ぞやいのと あしにてつけばえんの下には涙をながし

あしを取てをしいたゞき ひざにだき付こがれなき女

もいろにつゝみかね たがひに物はいはね共 きもと/\に

こたへつゝ しめり なきにぞなきいたる 人しらぬこそ

あはれなれ 九平次もきみわるく さうばがわるい

おしやいの こゝなよねしゆはいなことで をれらかやうに

 

 

30

かねつかふ大じんはきらひさうな あさやへよつて一

はいしてぐはら/\一ぶをまきちらし そしていんだらね

よからふアゝふところがをもたうて あるきにくいちわる

口だらけいひちらしわめいてこそは帰りけれ てい

しゆふうふこよひははやひもしまへ とまりの衆

はねせませひはつも二かいへあがつてねや はやうねや

 

といひければ そんならだんな様ないぎ様 もうおめに

かゝりますまいさらばでござんす うちしゆもさら

ば/\とよそながら いとまごひしてねやに入是一

生のわかれとは のちにこそしれきもつかぬをろかの

心ふびんさよ それかまの下んえんを入さかなをね

ずみにひかするなと 見せをあげつかどさしつ

 

 

31

ねるよりはやくたかいびきいかなる〽ゆめもみじか

よの八つになるのは ほどもなしはつはしろむくしに

出立恋ぢのやみくろ小袖 うへに打かけさしあしし二

かいの口よりさしのぞけば おとこは下やにかほ出し

まねきうなづきゆひさして 心に物をいはすればは

しごの下に下女ねたり つりあんどうの火はあかしいかゞは

 

せんとあんぜしが しゆろはゝきにあふぎを付はこはしごの

二つめより あふぎけせ共きえかぬる 身も手も

のばしはたとけせば はしごよりとうどおちあんどう

きえてくらがりに 下女はうんとねかへりし 二人はどう

をふるはして尋まはるあやうさよ ていしゆおくに

てめをさまし 今のはなんじや をなご共有あけの

 

 

32

火もきえた おきてとぼせとおこされて下女はね

むそにめをすり/\ まるはだかにておき出火打

ばこが見えぬと さぐりありくをさはらじとあな

たこなたへはひまつはるゝ玉かづら くるしきやみの

うつゝなややう/\二人手を取合 門口迄そつと出

かきがねははづせしが くるまどのをといぶかしくあけかね

 

し折から 下女は火うちをばた/\と 打音にまぎら

かしちやうどうてばそつとあけ かち/\うてばそろ

/\あけ あはせ/\て身をちゞめ袖と/\をまきの

とや とらのおをふむ心地して二人つゞいてつつと

出 かほを見合せアゝうれしとしにゝゆく身をよろこ

びし あはれさつらさあさましさ あとにひうちの

 

 

33

いしの火の命の すえこそ〽みじかけれ (天神森の段)此よのな  

ごり 夜もなごり しにゝゆく身をたとふればあだしが

はらの道のしも 一あしづゝにきえてゆく ゆめのゆ

めこそあはれなれ あれかぞふればあかつきの 七つ

の時が六つなりてのこる一つがこんじやうのかねの

ひゞきのきゝおさめ しやくめついらくとひゞく也 かね

 

斗かは草も木も そらもなごりと見あぐれば くも

心なき水のをとほくとはさえてかげうつるほしのいもせ

のあまのがは むめだのはしをかさゝきのはしとちぎりて

いつ迄も 我とそなたはめをとほし 必さうとすがり

より 二人がなかにふる涙かはのみかさもまさるべし むかふ

の二かいは なにや共 おぼつか情さいちうにて まだねぬ

 

 

33

ひかげこえたかく ことしの心中よしあしの ことのはぐさ

や しげつらん きくに心もくれはどりあやなやき

のふけふ迄も よそにいひしか明日よりは我もう

はさのかずに入 世にうたはれんうたはゞうたへ うたふを

きけばとうで女はうにあもちやさんすまい いらぬも

のじやと思へ共 げに思へ共なげゝ共身も世もお

 

もふまゝならず いつをけふとてけふが日まで 心の

のびしよはもなく 思はぬいろにくるしみに どうし

たことのえんじややら わするゝひまはないはいな そ

れにふりすてゆかふとは やりやしませぬぞ手に

かけて ころしてをいてゆかんせな はなちはやらじとなき

ければ うたも多きにあのうたを 時こそあれこよひ

 

 

35

しもうたふはたそやきくは我 すぎにし人も我々

も 一つ思ひとすがりつきこえもおしまずなき

いたり いつはさもあれ此よはゝ せめてしばしは

ながゝらで心もなつのよのならひ いのちをおは

ゆるとりのこえあけなばうしやてんじんの もり

でしなんと手をひきえむめだ〽つゝみのさよがらす

 

あすはわか身を えじきそや まことにことしはこな

様も廿五さいのやくのとし わしも十九のやく

どしとて 思ひあふたるやくだゝりえんのふかさのし

るしかや かみやほとけにかけをきしげんぜのぐはん

を今こゝで みらいへえかうしのちのよもなおしも

一つはちすぞやと つまぐるじゆずの百八に涙の

 

 

36

玉の かずそひてつきせぬ あはれつkる道心も

そらも かげくらく風しん/\たるそねさきのもり

にぞ たどりつきにける かしこいんかこゝにかとは

らへばkぅさにちるつゆの 我よりさきにまづきえて

さだめなきよはいなづまかそれか〽あらぬかアゝこは

今のは何といふ物やらん ヲゝあれこそは人だまよ こよひ

 

しするは我のみとこそ思ひしに さきだつ人も

有しよな たれにもせよしでの山のともなひ

ぞや なむあみだ仏/\のこえの中 あはれかなし

や又こそたまの世をさりしはなむあみだ仏と

いひければ 女はをろかになみだぐみ こよひは人の

しぬるよかやあさましさよと涙ぐむ 男涙を

 

 

37

はら/\とながし 二つつれとぶ人だまをよそのうへ

と思ふかや まさしう御身と我たまよ なになふ

二人のたましひとや はや我々はしゝたる身か ヲゝつ

ねならばむすびとめつなぎとめんとなげかmし

今はさいごをいそぐ身のたまのありかをひとつにす

まん 道をまよふなたがふなと いだきよせはだをよせ

 

かつはとふして なきいたるふたりのこゝろぞふびん

なる 並mだのいとのむすびまつしゆろの一木のあひ

おひを れんりのちぎりになぞらへつゆのうき身

のをき所 サアこゝにきはめんと うはぎのおびを徳

兵衛もはつも涙のそめ小袖 ぬいでかけたるしゆ

ろのはの其玉〽はゝき今ぞげにうきよのちりを

 

 

38

はらふらん はつが袖よりかみそり出し もしも道い

ておつてのかゝり我々になるとても うきなはすて

じと心がけかみそりようい致せしが のぞみの

とほり一所でしうるこのうれしさといひければ

ヲゝしんへうたのもしし さほどにこゝろおちつくから

はさいごもあんずることはなし さりながら今は

 

(のと)きのくげんにて しにすがた見ぐるしといは

れんもくちおしし 此ふたもとのれんりの木に

からだをさつとゆはひつけ いさきようしぬまい

か世にたぐひなきしにやうの てほんとならん

いかにもとあさましやあさぎぞめ かゝれとて

やはからへおび両はうへ引はりて かみそりとつて

 

 

39

さく/\と おびはさけてもぬし様とわしが

あひだはよもさけじと どうどざをくみふた元

三元ゆるがぬやうにしつかとしめ ようしまつたか

ヲゝしめましたと 女はをつとのすがたを見おとこ

は女のていを見て こはなさけなき身のはて

ぞやとわつとなきいる斗也 アゝなげかじと徳兵衛

 

ほふりあげて手をあはせ 我ようせうにてま

ことの父母にはなれ をぢといひおやかたの

くらうと成て人となり おんもをくらず此まゝに なきあ

とまでもとやかくと 御なんぎかけんもつたい

なや つみをゆるして下されかしめいどにまし

ます父母には おつつけ御めにかゝるべしむかへ給へと

 

 

40

なきければ おはつもおなじく手をあはせ こな様は

うらやmしやめいどのをやごにあはんと有 我抔が

とゝ様かゝ様はまめで此世の人なれば いつあふこと

の有べきぞたより此春聞たれ共 あふたが去年

の初秋のはつが心中取さたの あすは在所へ聞え

なばいか斗かはなげきをかけん いやたちへも兄

 

弟へも是から此世のいとまごひ せめて心がつうじ

なばゆめにも見えてくれよかし なつかしのはゝ

様やなごりおしのとゝ様やと しやくりあげ

/\こえも おしまずなきければ をつともわつと

さけびいり りうていこがるゝ心いきことはり

せめてあはれなれ いつ迄いふてせんもなし はや

 

 

41

/\ころして/\とさいごをいそげば心えたりと わき

ざしするりとぬきはなし サアたゝいまぞなむ

あみだ/\と いへ共さすが此とし月いとしかはいと

しめてねし はだにやいはがあてられふかと まな

こもくらみ手もふるひ よはる心を引なをし

とりなをしてよもなをふるひつくとはすれど

 

きつさきはあなたへはづれこなたへそれ 二三とひら

めくつるぎのは あつとばかりにのどぶえにぐつ

ととひるかなむあみだ/\なむあみだぶつと くり

とほしくりとほすうでさきも よはるを見れは

両手をのべ たっっまつまの四く八く あはれと〽いふも

あまり有 我とてもをくれふかいきは一どに

 

 

42

引とらん かみそり取てのどにつき立 つかも

おれよはもくだけとえぐり くり/\めもくるめ

き くるしむいきもあかつきのちしごにつれて

たえはてたり たがつくるとはそねざきのもりの

下風をとにきこえ とりつたえきせんくんじゆ

のえかうのたね みらい成仏うたかひなき恋の 手本と成にけり

 

 

 

 

生玉社の段でお初と徳兵衛が、九平次が登場する迄の間ベンチ(縁台?)に腰掛け膝突き合わせ、仲良くおはなしをしている様子が、露天神のこの像そのままでした。