曽根崎心中 生玉社前の段

 

読んだ本 http://www.enpaku.waseda.ac.jp/db/index.html(イ14-00002-481)

 ひら仮名が多いので読み易かった。現行の文楽公演と相違点多し。

 

8(左頁)
立まよふ うきなをよそに もらさじとつヽむ心のうちほん
まち こがるヽむねのひらのやにはるをかさねしひな
おとこ 一つなるくちもヽのさけ やなぎのかみもとく/\
とよばれてすいのなとり川 今はてたいとむもれぎの
きしやうゆのそでしたヽるきこひのやつこにになは
せて とくひをめぐりいくだまのやしろにこそはつきに


9
けれ 出ちや屋のことより女のこゑありや徳様さは
ないかいの コレ徳様/\と手をたヽけば徳兵衛 がてんし
てうちうなづき コレ長蔵 をれはあとからいのほどに
そちは寺町のくほんじ殿長きうし様 うへ町からゆき
がたまはつてさうしてうちへいにや 徳兵衛もはやもどろと
いやそれわすれず共あづち町のこうやへよつてぜにとりやや

たうどんぼりへよりやんなやと かげ見ゆるまで見をくり
/\ すだれをあげてコレおはつじやないか これじゃどう
じやとあみがさをぬがんとすれば アヽまづやはりきて
ゐさんせ けふはゐなかのきやくで 卅三ばんのくはんおん
様をめぐりましこヽでばんまで日ぐらしに さけに
するじやとぜいいひて ものまねきくにそれそこへ


10
もどつて見ればむつかしい かごもみなしらんしたしゆ
やつはりかさをきてゐさんせ それはさうしやが此
ごろはなしもつぶてもうたんせぬ きつかひなれど
内かたのしゆびをしらねばびんぎもならず たんば
屋まではお百どほどたづぬれど あそこへもおことづれも
ないと有 ハアたれやらがヲヽそれよ ざとうの大いちがともだ

ち衆にきけば ざいしよへいかんしたといへ共つんとまこ
とにならず ほんにまたあんまりなわしはどうならふ
共 きヽたうもないかいの こな様それでもぞいの
わしはやまひになるはいの うそならこれ此つかへを
見さんせと 手をとつてふところのうちからみたるく
どきなき ほんの めをとにかはらじな おとこもないて


11
ヲヽだうり/\去ながら いふてくにさせなにせふそいの
此中をれがうきくらう ぼんと正月其うへに 十やお
はらひすヽはきを一どにする共かうは有まい
心のうちはむしやくしやとやみらみつちやのかはぶくろ
銀ごとやらなんじゃやらわけは京へものぼつて
くる ようも/\徳兵衛が命はつゞきのきやうげんに

したらばあはれにあらふぞとためいきほつとつぐ斗
ハテかる口のだんかいの それほどにないことををさへ わし
にはなぜにいはんせぬ かくさんしたはわけがあろなぜ
うちあけてくだんせぬと ひざにもたれてさめ/\゛と
なみだは のべをひたしけり ハアテなきやんなうらみやる
な かくすではなけれ共いふてもらちのあかぬこと 去


12
ながら大から先すみよつたが 一ぶしじうを聞てたも を
れがだんなは主ながらけんざいのをぢをいなればねn
ころにもあづかる 又身共もほうこうひ是程もゆ
だんせず あきなひ物ももじひらなかちがへたこと
のあらずにて 此頃あはせをせふと思ひさかひすぢ
でかゞ一ひき だんなのなだいてかひがヽる是が一ごにたつ

た一ど 此銀もすはといへばきがへうりてもそんかけぬ
此正直を見て取て ないきのめいに二貫目付て
めをとにし あきなひさせふといふだんかうきよねん
からのことなれど そなたと云人もちてなんの心がうつ
らふで 取あへもせぬ其内にざいしよの母はまヽ母
なるが 我にかくしておやかたと談合きはめ二貫め


13
のかねをにぎつて帰られしを此うつそりが夢にも
しらず あとの月からもやくり出しをしてしうげん
させふと有 そこでおれもむつとして やあら聞えぬ
だんな様 私がつてんいたさぬをらうぼをたらしたヽ
きつけ あんまりななされやうおないき様も聞
えませぬ 今迄様に様を付あがまへた娘ごに かね

を付て申うけ一生女ばうのきげん取此徳兵衛
が立ものか いやと云からはしんだおやじかいきか
へり申とあつても いやでござると詞をすご
すへんたうに おやかたもりつふくせられ おれが
それもしつてゐる しゞみ川の天まやのはつ
めとやらとくさりあひ かヽがめいをきらふかな


14
よい此上はもう娘はやらぬ やらぬからは娘を立 四
月七日迄にきつと立あきなひのかんぢやう
せよ まくり出して大坂のぢはふませぬといから
るゝ 某も男のが ヲヽソレ畏たとざい所へはしる 又
此母と云人が此世があのよへかへつても にぎつ
た銀をはなさばこそ 京の五てうの醤油問

屋つね/\かねの取やりすれば 是を頼みのぼつて見
ても折しもわるう銀もなし 引かへしてざいしよへゆ
き一ざいしょのわびことにて 母より銀を請取たり
おつつけかへしかんぢやうしまひさらりとらちがあ
くはあく され共大坂にをかれまい 時にはどうしてあ
はれふぞ たとへば」ほねをくだかれて身はしやれがいの


15
しゞみ川そこのみくづとならばなれ わがみにはなれどう
せふとむせび 入てぞなきゐたるおはつも 共にせく
なみだ力を付てをしとゞめ 扨々いかい御くらう皆
わし故と存ずれば うれしかなしう忝し 去ながら
心慥(たしか)に思召せ 大坂をせかれさんしてもむすみ
かやきの身ではなし どうして成共をくぶんはわしが心

に有ことなり あふにあはれぬ其時は此世斗のやく
そくか さうしたためしのないではなし しぬるをたか
のしでの山さんづの川はせく人もせかるヽ人も 有ま
いときづよういさむ詞の中 なみだにむせていひさせ
り おはつかさねて七日といふてもあすのこと とて
もわたす銀なればはやうもどしておやかた様の


16
きげんをもとらんせといへば ヲヽさう思ふてきがせ
くが そなたもしつたかのあぶら屋の九平次が あと
の月のつごもりたつた一日入こと有 三日のあさはかへ
さふと一めいかけてたのむにより 七日迄はいらぬ銀
きやうだいどうしのともだちのためと思ひて時がし
にかしたるが三日四日にひんぎせず 昨日はるす

であひもせず今朝尋ふと思ひしが 明日ぎりに
あきなひのかんぢやうもしまはんととくひまはりて
うちすぎたり ばんにはいつてらちあけふ あいつも
おとこみがくやつ をれがなんぎもしつてゐる ぢよ
さいは有まいきづかひしやるなヤアおはつ はつせも
とをしなにはでら などころおほきかねのこゑ つき


17
ぬやのりのこゑならん山でらのはるのゆふくれ
きて見ればさきなはコレ九平次 アヽふでき千万な身
共かたへはふとゞきしてゆざんところでは有まいぞサア
今日らちあけふと手を取て 引とむれば九平次
けうさめがほになつて なんのことぞ徳兵衛 此つれ
衆は町の衆 上しほまちへいせかうにてたゞいまか

へるは酒も少のんでゐる きヽうで取てどうする
ことぞ そさうをするなとかさをとればイヤ此徳兵
衛はそさうはせぬ あとの月の廿八日銀子二貫
め時がしに 此三日切にかしたる銀 それをかやせと
いふことくいはせもはてず九平次かつら/\とわらひ
きがちかふたか徳兵衛 われとすねんかたれ共一せん


18
かつたおぼえもなし れうじなとをいひかけ
こうくはいうるなとふりはなせば つれもかさをはら
りとぬぐ徳兵衛はつといろをかへ いふな/\九平
次 身が此たび大なんぎどうもならぬ銀なで共
つごもりたつた一日でしんだいたらぬとなげいたゆへ
日ころかたるはこヽらと思ひおとこづくてかしたぞよ

てがらもいらぬといふたればねんのためじやはんを
せふと 身共にせうもんかヽせおぬしがをしたはんが
有 さういふな九平次とちまなこになつてせめか
くる ムウなんじやはんとはどれ見たい ヲヽ見せいでをかふ
かと くはいちうのはながみ入より取出し お町衆なら
見しりもあらふ コリャ是でもあらがふかと ひらいて


19
見すれば九平次 よこ手を打なる程はんはをれが
はん エヽ徳兵衛つちにくひ付しぬるとてもこん
なことはせぬものじや 此九平次はあとの月の廿五
日はながみぶくろをおとしてゐんばん共にうしなふた
はう/\゛にはりがみして尋れ共しれぬゆへ 此月から
此御町衆へもことはりゐんばんをかへたいやい 廿

五日におとしたはんを八日にをされふか 扨はそちが
ひろふて手がたを書てはんをすへ をれをねだつて銀
あおらふとはばうはんより大ざいにん こんなことをせふより
もぬすみをせい徳兵衛 エヽくびをきらせるやつなれど
ねんごろかいにゆるしてをく 銀に成ならして見よと手
がたをかほへうちつけ はつたとにらむかほつきはけん


20
によも なげにしら/\し 徳兵衛くはつとむねせいて
大ごゑあげ 扨たくんだり/\ 一はいくふたがむねんや
な ハテなんとせふ此銀をのめ/\とたゞをのれにとら
れふか かうたくんだことなればでんどへ出てもをれが
まけ うでさきで取て見せふ コレヤひらのやの徳兵衛
じやおとこじやががつてんの をのれがやうにともだちを

かたつてをすおとこじやないサアこいとつかみつくヤア
しやらなでつちあがりめ なげてくれんとむな
ぐら取 ぶちあひねぢあひたヽきあふ おはつは
はだしてとんでをりあれみな様たのみますわ
しがしつたお人じやがかごのしゆはゐやらぬか あ
れ徳様じやと身をもがくせんかたなくもあは


21
れなり きやくはもとよりゐなかもの けがヽあつてはな
らぬぞとむたいにかごにをしいるヽ いや先まつてく
だんせなふかなしやとなくこゑばかり いそげ/\と一
さんにかごをはやめて帰けり 徳兵衛はたゞ一人
九平次は五人づれ あたりの茶屋よりぼうずく
めはすいけまでおひ出し たれがふむやらたヽく

やらさらにわかちはなかりけり かみもほどかれおびも
とけ あなたこなたへふしまろびやれ九平次めち
くぢやうめ をのれいけてをかふかと よろぼひた
つねまはれ共にげてゆくゑも見えばこぞ 其まヽ
そこにどうどすはり大ごゑあげてなみだをなかし
いづれものてまへもめんぼくなkしはずかしと まつたく


22
此徳兵衛がいひかけしたるでさらになし 日ごろ
きやうだいどうぜんにかたりしやつがことくいひ 一生の
おんとなげきしゆへ 明る七日此銀がなければ我
らもしなねばならぬ 命がはりのかねなれ共たがひ
のことくやくに立 てがたを我らがてゞからせ ゐんばん
すへて其はんをまへかたにおとせしと 町先へひろうして

かへつて今のさかねだれ 口おしやむねんやな 此ご
とこふみたヽかれ男も立ず身も立ず エヽさいぜんにつかみ付
くひついてなり共しなんものをと大地をたヽきは
がみをなし こぶしをにぎりなげきしは だうりとも
せうし共思ひ やられてあはれなり ハアかういふてもむ
やくのこと 此徳兵衛がしやうぢきの心のそこのすゞ


23
しさは 三日をすごさず大坂中へ申わけはして
見せふと のちにしらるヽことばのはしいづれも御
くらうかけました 御めんあれと一れいのべ やぶれ
しあみがさひろひきてかほもかたふく日かげさ
へ くもるなみだにかきくれ/\ すご/\かへるあり様は
めもあて られぬ