出世景清 第一

 

 読んだ本 https://www.waseda.jp/enpaku/db/
      イ14-00002-383  ニ10-02172    など                          

 

2(左頁)
     出世景清 (第一)
めうほうれんげきやうくはんぜおんぼさつ ふもんぼん
だい廿五は大ぜう八ぢくのこつずい しん/\゛のぎやうじや
大じ大ひのくはうみやうにあづかり奉り くはんおんい
りきぞありがたき こゝに平家の一ぞくあく七兵衛かげき
よは さいこく四こくのかつせんにうちじにすべきものなり
しが 志はかろくしてやすし生はをもくしてかたし しよ
せん命をまつたくしてへいじのをんでき うだいしやうより
ともを一たちうらみ 平家のちじよくをすゝがんとおちう
とゝなりをはりの国 あつたの大ぐじにいさゝかしるべ有ければ


3
ふかく しのびていたりけり もとより大ぐじはへいじぢう
おんの人なれば ふかくいたはりひとりびめにをのゝひめと聞
えしをかげきよにめあはせ 子ともむこ共かしづき給ふ心ざし
にてわりまけれ かげきよ大ぐじの御まへに出 まことにそれがし
む二の御こんしにあつかりなが/\らう人仕り 身はむもれ木と
くちはてんすえたのみなき身ながらも せめてよりともを一
たちうかゞひくんふのうらみをさんじ そのゝちははらきつて
とにもかくにもまかりならんと むなしき月日をゝくり候
しかる所にこんてうくつきやうのことを聞出し候其ゆへは かまくら
殿へはなんととうだいじ大ぶつでんを御さいこう有べしとて ちゝぶ

のしげたゞかのぶきやうを承り きのふのくれほどに此所を
うつてとほり候よし たとへば頼朝なゝへゆへのじやうくはゝに
取こもり 天地ににくろがねのあみをはつてようじんきびしく候
共此かげきよが一ねんにてなどかねらはで候べき さりながら
しけたゞつねに頼朝のそばをはなれず じんべんふしぎを
かねたれば其身はみやこにありながら 心はなをかまくら殿の
そばにあり かう申かげきよは二さうをさとり候へへ共しけたゞは
四さうをさとる よりともに出合うたんとせしこと三十四とにを
よべ共 しげたゞにへだてられついにほんまうとげ申さずしからば
まづしげたゞをさへうちとらば よりともをうたんこと


4
くびすをめくらすべからす しげたゞ此度とうたいじのぶぎやう
に上ることさいはいかな仕合を 天の時きたりたりしのびや
かになんとに下りしげたゞがくび引さげて参らんにはやお
いとまと申さるゝ 大ぐじ聞給ひげにくつきやうのじせつござん
なれ かまへて人にさとられ給ふなせいてことをしそんずな へん
しもはやくと有ければ きたのかたもよろこびてむねもり
こうよりたに給ふあざ丸といふめいけんをかげきよに奉り
しゆびよくしおふせ給ひなば一日もとうりうなく はやく御帰
ましませとかどいでのさかづき出さるれば たかひにせんしう
ばんぜいとしゝのいきほび龍のせい いさみ/\てゆくとらの をは

りの国を立出てならのみやこへ「上らるゝいで其ころは ぶん
ぢ五年春すぎて夏きにけらししらはたのげんじの大将頼
朝公はなんととうだいじ大ふつさいこうの御くはんにて はだけ山
のしげたゞぶぎやうしよくを承り 松にも花をかすがのや
とぶひのゝべにかりやをうたせ よこめ張付かんちゃうがたやま
と大くにひだたくみぞまいり木つくりことをはり今日吉
日のはしら立 我身はさじきに一だんたかくむらごうの大ま
くうたせ つゝいて見へしはほんだの二郎其外のさふらひ共
ちやうば/\にしるしを立ゆみやりなきなたふきぬきに た
なぎさくらをこきまぜてはなやか「なりける御ふしんなり


5
かくてはんじやうのとうりやう もくのかみしゆりのかみ をのがし
なれる出立にて 吉方に打むかひまづやがための さいもんをとな
へつゝ御へいをふつてさいはいし てをのはじめの其さしき けんちうにこそつ
とめけれ むへもとみけりさきくさの みつばよつはの大がらんてをのはじめ
のことぶきに ちよをかためてはっしら立 春はひがしに立そむる 是ばん
もつのはじめなり なつはみなみにめぐる日の あやめかのきがほる
らん 秋は又西のそらつきをぬちぎりかたどつて天のがはらの橋柱 しら
け立るやつきがんな 空をそなたにやりがんな 冬は北にぞつゝいづゝ水こそ家のたから
なれめぐれや「まはれいどぐるま かまどにぎはふへついどの先いん
やうのうたばしら 二本のはしらはめがみおがみをひやうしたり 三本のはしらは

三世のしよぶつ四本のはしらに四天王 四かいたいへたみあんぜんと
いはひこめたるすみつほのいとのすぐなるくになれば たからや宿に
みつめぎりのこぎりくずのかず/\と はまのまさごと君がよはかぞへ
つくさじおもしろや しかるに此大がらんと申は しやうむ くはうていの御
こんりう 三ごくぶさうのれいじやうなり とそつてんのないいんえお
たもあり/\とうつさるゝ たうのたかさが廿ぢやう 仏のみたけは十六丈
くもにつゞけばをのづから 月をごかうとみかさ山 はしらのかずは天だい
の一ねん三千のきをあらはして三千本とさだまれりのきのたるき
は ほけきやうのもじのかす六万九千三百八十四本也 さんもんに
はしゝのこま 扨正めんより四ほう四めんのとびら/\のほりものには 松に


6
からたけぼたんにしゝ へうととらとがいせいをあらそひ百千万のけ
だものをぼつたて/\ くるり/\といはほにをひあげをひおろし
風にうそぶくなみまより しうんをまいてのぼり龍又下り龍
玉をつかんでこくうにさゝげ うろこを立たる其いきほひ手をつく
させてほりつくし 扨むながはら軒かはら こん/\るりはりしやこめ
なふさんごこはくすいしやうを ふき立/\ さごじゆのこまいを
こがねのびやうをかゝやかせん むな木をおふのはしらをして なん
ほののうふよりもおほく うつばりにかするのたるきはきしやうの
こうぢよよちもおほく ていとうのりん/\たるはゆにあるのあは

よりもおほく たんぼのせつほうどくじゆのこえはしゞんのげんぎよ
よりもおほからしむ 仏法はんじやう四かいちんごの大がらん によい
まんぞくのはしら立めでたし/\ ヲゝめでたしと てをのをつ取
ちやう/\/\ つちをつとつてはしつてい/\ かんな取のへさら/\/\
さゝげ千たび百たび きねんしてしげたゞにしきだいしとう
りやう座をぞ下りける てをのはじめもことすぐれば すせんばん
じゃう下々迄皆々こやにぞ「入にける はるかのあとより四十
斗のおとこなるが人そくとおぼしくて ひるがれいのひつをにな
ひほうかぶりしてとほりける ちゝぶのしつけんほんだの二郎きつと


7
見て ヤア是なる下らうめは かゝるはれいのにはなるにほうかぶり
はくはんたい也 しきだいせよととがみればかのおとこ小ごえに さ
ほうもしらぬ下々なれば御めんといひてつつとおりどこへ/\ 扨々
ぞんざい千万なるやつめかな ほうかぶりをとらずんばたれか有 それ
ぶてたゝけとげぢるれば ちうげん共承り一どにはらりととり
まはす ばんじやうのつりやう此よしを見るよりもいや是ほん
だ殿きやつは其日やとひのにんそくにてしやべつもしらぬ下らう
なれば さぞすいさんも候べし 去ながらかゝるめでたきおりなれば
たゞなにごともをんびんにはからひ給へと申けり ほんだきゝもいれ
ずいやさ かれめはちと人にたるものゝ候といへば 扨めづらしや本田殿

人が人にたるとはことあたらしう候いけに下らうちゃくひろぐゆへにこそ
人々にもあやしまれ しうぎにじやまをなしけるよ あたひをそんに
するまでぞまかりかへれとしかりければ よきさいはいとかげきよは
になひしひつをろしをき めいわくさうにもみ手をして おもてに
こそは出らるゝ しげたゞまくのうちより御らんじて しばらく/\ いかにかた
/\゛平家のおちうどこゝかしこにしのびいて君をねらふと聞
けるが 只今のにんそくはまざしくあく七兵衛と見しはひがめか あ
れあますないふても是は一大じのはしら立のきよめのには けがら
しれはいかゞ也 まへなるのべにおひ出しつつてすてよとの給へば もと


8
より はやりくはんとうむしや我も/\とかけむかふ かげきよ是を
見て になひぼうにしこみたるくだんのあだまるするりとぬいて
さしかざし 大ぜいをゆん手にうけあたまをたゝいてから/\とわら
ひ 是おさふらひ それがしはおはをからせしかまくらのらうにんもの
にて候が あさ夕にせまりかゝるわびしきいとなみを仕る さすが
人めのはづかし/\かほをかくして有ければ なんぞや某をあく七兵衛
とはまなこがくらみて有けるか たゞしは其かげきよがおそろしさ
におもかげに立けるか よしなにゝもせよ是程とざうごんせ
られ かんにんまかりながずかげきよ程こそあらず共 そつと手な
みを見せんずとれいのあだ丸こわきにかいこみ たぜいが中に

わつて入火水になれと「きりあひける じごくもうつらぬその中に
十四五人きりふせしけたゞにげんさんせんと こゝのつまりかしこのくまに
かけ入/\たはけ共 大ぜいにへたてられ今ははや是まで也 ふか入して
ざうひやう共に手をふせられてはかげきよが まつだいのなおれ也
又こそじせつ有べけれ いでおつはらふておちゆかんとはんじやうは
こをゝしひらき 大のみ小のみてっをののこぎりやりがんな くつきやう一
のしりけんとをつとり/\打たつれば さしもにいさむくんひやうは
わつといふてはさつと引 なをもよせくるもの共を小家の小ばしら
ひんぬいて 八方むぐうに「ふりまはれば 秋のあらしにちるもみ
ぢむら/\はつとぞにけにける ウゝさもさふすさもあらん此度は


9
しそんす共 此かげきよが一ねんのつるぎはいはをとほさんものを
と をとりあかりとびあがりはがみをなしてゆくくもの 月のみや
こにのぼりける あく七兵衛がちからわざ はやわさかるわざじん
づうわざたゝとぶとりのごとくなりとてをそれぬ ものこそなかりけれ