甲越勇将伝 武田家廿四将 三討死之内 諸角豊後守昌清
甲陽廿四隊大将の中智勇は他人の右に出戦場
数か度の強者なり川中島の軍味方大に敗れ
大将既に危しと見えけれは此所に命を擲て主君を救ひ奉らんと手勢勝て一千余人
真丸に備を立渦巻立たる敵中に会釈もなく突て入七烈八裁に駆悩せばさしもの
勇みし越後勢右往左往に敗走なしあはや総敗軍にならんとなしけり時に遥
巽の方の茂林の
中に一道の
狼煙天を
焦て立
登と
等く怪
むべし川原の
地底一面に鳴轟き
敵兼てより伏置し
地雷火一時に発し
出諸角が一手の軍勢
人馬諸共中天に撃上
られ一騎も不残未塵になりぬ
正清僅に此火気は避るといへ
とも全身悉焼爛行歩又難ければ
火花飛散鎧の袖を弓手馬手に
(手ヘンに索・捜の異体字)捨陣刀口に引咥火中に
投じて果たりしは前代
未聞の陣没なり
應露
柳下亭種員誌
一勇斎國廿万画
甲越勇将伝 武田家廿四将 三討死之内 諸角豊後守昌清
甲陽廿四隊大将のうち、智勇は他人の右に出で、戦場数か度の強者なり。
川中島の戦、味方大いに敗れ、大将既に危うしと見えければ、ここに命を
投げ打って主君を救い奉らんと手勢勝って一千余人、真丸に備えを立て、
渦巻き立ったる敵中に会釈もなく突いて入り、七烈八裁に駆け悩ませば、
さしもの勇みし越後勢、右往左往に敗走なし、あわや総敗軍にならんと
なしけり。時に遥か巽(たつみ)の方(かた)の茂林の中に一道の狼煙
天を焦がして立ち登ると、等しく怪しむべし川原の地底一面に鳴り轟き
敵兼てより伏し置きし地雷火一時に発し、出で諸角が一手の軍勢人馬
諸共中天に撃ち上げられ、一騎も残らず微塵になりぬ。
正清僅かにこの火気は避くるといえども、全身悉く焼け爛れ行歩又難ければ
火花飛び散る鎧の袖を弓手馬手にかなぐり捨て、陣刀口に引咥え、火中に
投じて果てたりしは、前代未聞の陣没(うちじに)なり
應露
柳下亭種員誌
一勇斎國廿万画(歌川国芳)