仮想空間

趣味の変体仮名

勘者御伽双紙 中巻

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3511865?tocOpened=1

 

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勘者御伽双紙中目録
一 男女年を待ちて嫁いりする事
二 洛書の事 二ヶ條
三 円陣の事 三ヶ條
四 同じく中の一をかへてならべやうの事 六ヶ條
五 異形洛書の事 四ヶ條
六 はかりの錘の重さをかけずしてしる事
七 杠秤(ちぎ)の定目よりおほくかゝる事


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八 ひろひものゝ事
九 ならべ物石数しる事 二ヶ條
十 四方成る紙を一刀にて七曜に切る事
十一 かるた四十八枚にてよそろにならぶる事
十二 かるたのうらなひの事 二ヶ條
十三 鴛鴦のあそびといふ事
十四 二つとひの事
十五 年数(としかず)をしる事

十六 ヒノキコといふ事 二ヶ條
十七 三角より十五角迄の内望みの角をえがく事
十八 又何角(いくかく)にても望みの角をえがく事
十九 又五角をえがく捷径(ちかみち)の事
二十 かけてわれ除(わう)てかゝる算の事
廿一 合否を知る術の事 五ヶ條
廿二 尺なをしの事 六ヶ條
廿三 女子(めのこ)平方の事 二ヶ條


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廿四 つぎたし平方の事
廿五 曲尺平方の事 二ヶ條
廿六 高配開平皈(き)除術の事

勘者御伽双紙中目録終

勘者御伽双紙中
〔一〕男女年を待ちて嫁入りの事
むかし何がしとかたいひつる人一人の娘をなんもたり
けり其むまれつきいときよらにありけれはおひさき
いみしうおもはれ春の花秋の月のごとくいつきかし
づきそだてつゝすでに七年(なゝとせ)にもなりしかば嬋娟(せんげん)らる
花のよどほひ又もやにるへくもあらねば見る人けざう
せざるはなし爰にまた其邉りになん年の程三十(みそぢ)にぞ
なれりけるあてなるをとこ是もかの娘を見てしより
しづ心なくついには此女をこそえめと日々に恋しく


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いかにも/\

にぎやかな
ことじやなふ

かゝ様こゝが
ぎをんかへ

見事/\

さても

よいきりやうの


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のみおほえけれはある時かの家にゆきつゝ娘の親にけしきを
とりてしか/\のことども語りはべりしにおやはおもひ
まうけぬことにていかゞとためらひけるがさすがなをざり
にも成かたく誠にせちなる心ざしいかでむげにおもはんや
しかあれとも年のほどけやけくたがひはべりぬせめて
半ばのちがひならはくるしからんに今公(きみ)の年を四つにして
其壱つにたらぬ女のことなれはねがはくば是をゆるし給へと
ありければさあらはもしくは年をまちてたがひに半ばちがひ
たらん事あらは其時たびてんやとひたふることばをつくし
こひけれはさすが岩木にしあらねはいなみがたくてとも

かくもとなんいひしを男いといたう悦びて此こと年頃
したしき友とちの算士にとひけるに即ち十六年まち
たまへば男は四十六歳女は廿三歳となるとこたへしときゝ
つたへはべりしが其術いかんととふ

     待つこと十六年
  答云 男四十六歳
     女二十三歳

 法曰く女子の年数七つを置て之を倍して十四と成是を男の
 年数三十の内にて引は残り十六と成是待つ年也 是に
 今の年の数をくはふれば各の年の数となるなり


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〔二〕洛書の事 二ヶ條
たとへば碁石に一より九まで書きて一通り十五つゝにかぞふる
ならべやうの事かるたのむしより九までにても同じ事なり
 法曰く図にて尺合せしるべし
  此めならべ置き 二と八と取り かへて
  かくのごとくなら ぶるとき角(すみ)から よみても縦から
 よみても横からよみても一通り十五つゝあるなり又二より
 十までの時は一行十八つゝすなはち此図にをの/\一つ
 増すとしるべし

又一より十六まて書きて一通り卅四つゝにかぞふるならべやうに事
 術曰く図にて見合せしるべし
  此めならべ置きて二と十五と 取かへ三と十四と取かへ九と八と
  とりかへ五と十二と取かへ下の 図のことくならふるなり
 右奇偶方数に三十行迄あり故に四行巳上は之を略す 三行は
 ならべやう一色より外になし四行巳上はいかやうにもならぬ也
 又曰く各一通りの数をしる術は行数を左右にをきかけ合せ
 定法一を加へ又行数をかけて二つにわればしるゝなり


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〔三〕円陣の事 三ヶ條
たとへば碁石に一より九まで書て二径二廻何れも廿二つゝに
かぞふるならべやうの事(但し中の一をくはふる時は右の数に 一つましとしるべし末これに同じ)
 法曰く何径何廻にても始の一を真中と定め次の二を其下に
 をき終りの数(石数一より九にをはるものは九なり 一より十九にをはるものは十九なり)を一の上にをいて
 それより径数(二径なれば二なり 三径なれば三なり)をしだしに上の方へは減(ひき)たる数
 下の方へは増したる数をならべて外まはりまでの上下の
 数を得るなり扨其各々得たる数より真中の上のぶんは
 左のかたへ一つべし下のぶんは右のかたへ一つましに図のごとく
 ならぶるなり猶見合せ類にてしるべし

(図)外まはり
 又二より十迄の時は此 図に各一つ増しにて廻りは
 二を加へて何れも廿八 つゝならぶ也下の図のごとし

たとへば碁石に一より十九まで書きて三径三廻いつれも六十三
つゝにかぞふるならべやうの事
 術前に同じ下の図の ごとし


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〔四〕同じく中の一をかへてならべやうの事 六ヶ條

 (上右)二径二廻 何れも廿 一つゝある なり
 (上左)二径二廻 何れも十 九つゝある なり
 (下右)二径三廻 何れも廿 つゝある なり
 (下左)二径三廻 何れも十 八つゝある なり

 右何径何廻にても石数(二径三廻なれば九なり三 径三廻なれば十九なり)をしる術は径の

 数を倍して廻りの数をかけ定法一を加へてしるなり是に
 真中に最初にをく数二段(たとへば一より九まで又は一より十九までの類は二也 たとへば二より十まで又は二より二十までの類は四也)
  猶三よりはじまれば六四より はじまれば八也余りは是に同じ)を加へて内定法一を引き余りに石数を
 かけ二つにわれば惣数(たとへば二径二廻にて一よりはじまれば一二三四五 六七八九まで九口合せて四十五あるかごとし又
  二よりはじまれば二三四五六七八 九十、九?こゝの?口合せて五十四あるがごとし)となる也此内真中にをかんと
 おもふ数を引て残り径の数にわればかぞふる数しるゝなり
 但し次第に真中のさだめをく数は最初一なれば一より
 二なれば二より径の数をひたとくはへてしる也(たとへば二径 二廻のとき
  一よりなれば一に径の数をひたと加へて三五七九の内ををくなりまた
  二よりなれば二に径の数をひたと加へて四六八十の内ををく也余りは
  是に 同じ)其余りの数はならぶことなし


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 三径三廻 何れも 六十 二つゝ あるなり
 三径三廻 何れも 六十 一つゝ ある也
 右何れも変化多しかんがへしるべし

〔五〕異形洛書の事 四ヶ條
たとへば一より三までの数を三通りかきて一通り六つゝに
かぞふるならべやうの事

又一より四までの数を四通りかきて一通り十つゝにかぞふる
ならべやうの事


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右図のごとく是も三行はならべやう一色より外になし四行
巳上(いじやう)は変化多し余りは考へしるべし其一二をしるぞのみ

たとへば一より九までの数を三角にをきて十五つゝにかぞふるならべやうの事

 たとへば一より 十六までの数を 四角にをきて卅 四つゝにかぞふる ならばやうの事

〔六〕はかりの錘(をもり)の重さをかけずしてしる事
はかりのさほばかりをみて其をもりの重さをしるは末のとり緒
より皿緒までの寸を取て其寸をむだ目より末の方へくらべて


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其あたる所よりむた目迄の目即ち錘のおもさなり又中の取緒
より皿緒までの寸をとりて前目にあてゝしるも本(もと)の取緒にて
とりて向目にあてゝしるも同じ事なり さりながら中と本の取緒は
すみ/\かくして少しのちかひみえず故に末の取緒にて考ふべし

〔七〕杠秤(ちぎ)の定目よりおほくかゝる事
あるひは卦貫目かゝる杠秤有其をもりたとへば百五拾目取緒と
鉤緒との間一寸二分初星(むだめ)は取緒の右の方八分にあり(但し 杠秤の
本緒には初星なしかんがへてしるべし又初星 取緒の左へ出るあり此術後に見えたり)是にて四五貫目程を
懸け度き時先ず仮に五貫目と置き卦け貫目を以てわれば二五と成是に
をもり百五拾目をかくれば三百七十五匁と成を新錘の重さとす

次に取緒と初星との間八分に百五十目をかけて新錘三百
七十五匁にてわれば三分二厘と成是新錘の初星より取緒
までの寸なり是を以て八分の内を減じて残り四分八厘に新錘
三百七十五匁をかけて取緒と鉤緒との間一寸二分にてわれば
五百拾目と成是を加減の差と名づく扨右かりにおきたる
五貫目の内加減の差百五拾目を減じて四貫八百五拾目迄
かゝるとしるなり扨何にても新錘を以てかくるにたとへば壱貫
八百目の星にかゝれば壱貫八百目に二五をかけて四貫五百と
なる内加減の差百五十目を減じて残り四貫三百五拾目と知る也
若し初星取緒の左にあるものは反(かへり)て加減の差を加ふるなり


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初星をかんがふるとは錘をいづくへなりともかけて衡(さほ)の平らに

(図)かぎを むだめの所なり 八分 (上部)取緒 一寸二分

(図の下・本文続き)
 なる所をいふなり又杠秤(ちぎ)に
 よりて鉤緒の右に懸けても
 左のさがるあり是は本緒の
 夙(にく)懸りたとへば壱貫目ならば
 其壱貫目の星より又壱貫目
 加へて卦貫目の星迄の間を
 取てこれを夙掛りの星より
逆に右へあつるに其寸必ず衡(さほ)より外にあたる其所を初星と
定めて術するなり

此術統宗にいづるといへども加減の差を論ぜず故にむだめ
取をの正中(せいちう)にあらざるものは不合(あはざる)を以て術を改めのす

〔八〕ひろひものゝ事 七ヶ條
たとへば碁盤の上に左の図のごとく石をならべて夫(それ)を筋違ひ
にも又直(ぢき)にあともどりもなく目なりにひろふやうを問ふ

 術曰く左の番付のごとくひろふ時は筋違いにも跡(あと)もどりもなくひろへる也


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(図左上)かん ざし


〔九〕ならべ物石数しる事 二ヶ條
 たとへば白黒の石を図のごとく幾つ成とも
 片狭(かたせば)に右の白と左の黒と同じ数に
 なるやうにならべて其右の方にて黒二つ


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白五つある時惣数を問ふ

  答云 惣数廿九

 法曰く廣(ひろ)の五に定法一を加へて六と成此内狭(せば)の二を引き残りに
 廣狭合たる七をかけて惣数としる也
又図のごとくいくつなりとも片狭にならべて右は黒二つ白六つ
左は黒五つ白三つ有る時惣数を問ふ

  答云 惣数三十二

 法曰く右の黒と左の黒とを以て多き
 方にて少なきを引き残り三に定法
 一を加へ右の白黒の数合たる八を懸て

 惣数としる也

〔十〕四方なる紙を一刀(かたな)にて七曜に切る事

(図)先ず此かどをとりて 此角へ折り付けて下の図のごとし
   
   笠寸分の所也
   如此なるを また中の 二つの筋の 印のごとく 三つ笠寸分に 折て次の
   図のごとし すなはち 次の図ふり かへてあり み合すべし


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(図)如此(このごとく) なるを
   此竪(たて)の筋の通りの所にて 図のごとく印の筋より
   横に三つ笠寸分に折て 次の図のごとし

   かくのごとくなるを しるしの丸のごとく 
   切るなり但しうへにかさ なりたる方は丸の折めに 
   付く所五六厘のこして三所 ともにしたの方は皆きる
   べし此心付なければ 七曜七つにはなるゝなり

 扨ひろげて見れば かくのごとくなる也

〔十一〕かるた四十八枚にてよそろにならぶる事
先ずはじめに一二三四五六七八九十馬きり一二三四五六七八九
十馬きりとかくのごとく次第に四拾八枚なからかさね扨上を
人の手にまかせきらせてその上へ残るかるたをのせるなり
かくのごとくする事何べんにてもくるしからず扨三間に四間に
図のごとくならぶるに何にても皆うつぶせにして初めのかるたを
一の所にをきそれより書付のごとく次第に十二枚ならべ又
 最初の所へもどりて前のごとくならぶる也
 かくのごとくすること四度にて皆同じもの
 四枚づゝそろふなり但し右のきりやう中をぬき

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きりまぜてはあはぬとしるべし

〔十二〕かるたのうらなひの事 二ヶ條
かるた四十八枚を切まじへていづく成共あけて見てtがとへば七ならば
七八九十馬切と切迄かぞへてうつぶせにするなり其みえたる七斗り
にて残りは何にてもかまはずにかぞへこむなり又次に九ならば九十
馬切と切までかぞへてうつぶせにする也又次に三ならば三四五
六七八九十馬切と切までかぞへて以上三所にうつぶせにして
をき其余り札を此方へ受け取りてうつぶせにしたる目は合せて十
九目有るべしといふなり但し馬と切とは数へ始むる時十にたつるなり
 法曰くあまり札数の内何(いつ)にても九枚引て残る札数を答とする也

又かるた十枚ばかり何にても客に渡して此内にていづれに成る共
心をつけて其心付の絵上より何枚目といふ事を心におぼえ
口にいはずして此方へかさねたるまゝにてうけ取り残るところの
かるたの上にふせながらのせて或ひは懐中或いはうしろにてきやくの
見ざる様にかのかさなりたる惣札を左の手に持ち右の手を以て
第一枚より次第に一枚づゝ逆にかさねかへす事前に渡しちゃる札
数より二三枚も四五枚もおほくかさねかへして尤も其多き分を
覚え居て其残る左の札の上へのせて扨客の眼前へ左の手
から出してうへの一枚を右の手にてすて札とてふせながらおとして
いふやう其方心付の絵を前方心覚えの何枚めと申さるゝ数


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より三枚めに出しみせ?申といふて扨客の心付の絵は何枚め
なると只今問ふ時たとへば五枚目と答ふ其時初めおとしたるふだは
のけて一二三四五とおとして此五枚めより三枚めをあけて
みする也たとへば三枚おほくかへす時かさねかへして左のごとし
 
 捨て札・・・・とかぞふれば五枚目の札に当る也

 右くりかへす時二枚おほければ二枚め三枚おほければ三枚めといふなり

〔十三〕 鴛鴦(えんあう)のあそびといふ事
黒石三つ白石三つを ・・・・ 此図のごとくまじへ
ならべて置き二つづゝ一所に置きなをして・・・かくの

ごとくかたづくやうを問ふ

 法曰く四五を取て七八 一二を取て四五 三四を取て九十へ
 やりて一二三四・・・・かくのごとくなるなり

〔十四〕二つとびの事
たとへば図のごとく碁石十ならべて石数二つつゝこえてならび
かへ五所にかさなるやうを問ふ 

 法曰く先ず四を取て一へ 六を取て九へ 八を取て三へ 二をとりて五へ
 十をとりて七へやりて左のごとくかさなるなり


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〔十五〕年数をしる事
たとへば辛丑(かのとのうし)より甲午(きのえむま)まで幾年に成るとぞと問ふ

   答云 五十四年か百十四年かといふ

 術曰く辛丑(しんちう)の辛を取て辛壬癸甲(しん・ぜん・き・かふ)と甲午の甲まで
 かぞへて四つを右に置き別に丑寅卯辰己午(ちう・いん・ばう・しん・し・ご)とかぞへて
 六つを左に置き此左の数に十二つゝいく度もくはへて其
 はした右の数と同じく成るまでくはふる時四度くはへて五十
 四と成るを年数としる若し五十四年より多しといはゞ
 六十つゝひたと加へてしるなり
 もし又辛丑より庚午までは幾年ぞと問ふ時辛壬癸(しん・じん・さ)

 甲乙丙丁戊己庚(かふ・をつ・へい・てい・ほう・き・かう)とかぞへて十となりてはしたこれ
 なしと覚えいて別に丑寅卯辰己午とかぞへて六つを
 左に置き十二つゝ二度くはふれば右のはしたなきも同数成
 ゆへ三十年か九十年としる也

〔十六〕ヒノキコといふ事 二ヶ條
たとへば銭にても碁石にても図のごとく八つならべて先の人に
心おぼえをさせてそれを右にあるか左にあるかと問て扨
一の石を中指にて五の石を食指(ひとさしゆび)にて一所にをさへ又二六三七
 四八各々其ごとくをさへたてにとりなをす
 こと左のごとし(但し番付は取なをしやうをしら しめんがためにかりにしるすのみ)


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 又こゝにて右にあるか左にあるかと問ふて
 扨まへのかくのごとく指にてをさへ取
なふす事左のごとし
 又こゝにても右にあるか左にあるかと
 とふて扨先の人の心覚えの石をさす也

 術曰く此しりやうは右のごとく左右を三度たづぬるなり此内
 三度目は左右をしるばかりにて二度バカリニテヒノキコの
 文字をつくるなり其作りやうは先ずはじめに人のしらざる様に
 定まりて石一つをく事・かくのごとし扨第一の所にて右に
 あるろいはゞ・・かくのごとくならぶる也又第二の所にても

 右にあるといはゞ・・・かくのごとくならぶるなり是なれば
 キの字に似たる故三度目の左右をしりをきたるところにて其
 上の方より三段目をさす也又第一にて左にあるといはゞ・・
 かくのごとくならぶるなり又次に右にあるといはゞ・・・かくの
 ごとくならぶる也是なればヒ字に似たる故三度目の左右を
 しりをきたる所にて其上の方の初段めをさす也余りは
 これに同じ・・・是はノの字・・・是はコの字としるべし

第三のヒノキコ右
うつしヒノキコ左

  ヒノキコの文字不用(もちいざる)仕様の事


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たとへば銭にても碁石にても八つならべて先の人に心おぼえを
させて其左右をきく事前のごとし

 たとへば此所にて右にあるといはゞ左の
 方へとりなをして第二の図のごとし
 たとへば此所にて左にあるといはゞ右の
 方へとりなをして第三の図のごとし
 此所にて右といへば一なり左といへば二也
 何れにても言葉にさかふて取なをすれば
 此所にて上の初段の左右に極まるなり

 右何れも左の方へ取なをすをさへ様は前に同じ右の方へ取なをす

 時はをさへやう左右ふえいかはりてさかてに成る也猶図にて見合すべし

〔十七〕三角より十五角までの内望みの角をえがく事
幾角にても図のごとく横に一尺の界(けい)と又其真中よりたてに正しき
界とをひきて其竪の界に望のたての寸法をしるして其所
よりよこけいの左右の端へ界を引く時は即ち望みの角形をうる也

(図)たとへば五角を えがゝんとおもへば 此図のごとし
   此かど望む 角形の高配に あふなり

  各竪の寸法 (以下省略)


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  (省略)

〔十八〕又何角(いくかく)にても望みの角をえがく事
たとへば何角にても望次第に角形を得度き
ときは図のごとく丸をまはして其内へのぞみの
角形をぶんまはしにて割合せいるゝがよし

(図の下)たとへば 七角を 得度き時は 図のごとし

〔十九〕又五角をえがく捷径(ちかみち)の事
 法曰くたとへば五角の高配をえがゝんと
 おもふ時はすぐなる長き紙を図のごとく
 結びて両端を切すつる時は五角に成る也

〔二十〕かけてわれわりてかゝる算の事
 術曰く二つに割り度きものは五分をかくるなり
 五分に割り度きものは二をかくるなり四つに
 割度きものは二分五厘をかくるなり二分
 五厘に割度ものは四をかくる也余りは
 皆是に同じ

 或は二十に割度ものは五厘をかくるなり
 猶位の進(しん)(或は一を千とし又は 百とするがごとし)退(たい)(或は百を十とし 又は一とするがごとし)
 乗除の数にしたがひて見合すべし又
 右の術に不拘(かゝはらず)直(ぢき)に反率(へんりつ)をもとめんと

(下)是は最初の一を 次第に二つに割る也 又五分をかくるも 同じ断り
   是は最初の一に次第に 二をかくるなり又五分 にて割るも同じ断り


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 欲するものは其除(わら)んとおもふ数にて一をわれば乗(かけ)法出(いづ)る也
 是を反率といふたとへば卅二にわらんとおもへば一を卅
 二にわりて三厘一二五を得るがごとし

〔廿一〕合否(がふひ・あふとあはねと也)を知る術の事 五ヶ條
たとへば銀七分五厘五匁拾三匁四十匁三匁九匁ををき合せて
七拾匁七分五厘となる此算合たるや不合やと問ふ

   答云 合

 法曰く右の惣銀目七分五厘五匁十三匁四十匁三匁九匁を
 位に不拘(かゝはらず)算盤一けたにて置く時三十七と成九に満つるは
 すてゝ余り一つを左に置き又七十匁七分五厘を算盤一

 けたにて置く時十九となる九に満つるはすてゝ余り一と成る是
 左にをきたる一と同数なる故に其算合なりもし同数に
 あらざるものは不合也末に同じ

たとへば金七百八拾六両有是にて金一両に付き八斗七升五合?の
末六百八拾七石七斗五升の時此算合たるや不合やと問ふ

  答云 合

 法曰く金高の七百八拾六両を算盤一けたにて置き合せ廿一と
 なる九に満つるはすてゝ余り三つを左に置き又一両の?八斗
 七升五合を算盤一桁にて置合せ二十と成九に満るは
 すてゝ余り二つとなる此二つに左に置たる三をかくれば


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随分吟味 なされたか 
めづらしい をき やう な さるゝ
何とぞうけ たまはりたい
もはやちがひ ござるまい

(上)
九つうつたに かはりがをそい 

せいが つきた
かしこ まり ました


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 六と成を(九に満ればすてゝ 余り別に置なり)別に置き又六百八十七石七斗五升を
 算盤一桁にて置合三十三となる九に満るはすてゝあまり
 六となる是別に置たる六と同数なる故に其算合なり

たとへば長さ百六十七間に横三十四間の坪数五千六百九十
八坪あり此算合たるや不合やと問ふ

  答云 不合

 法曰く長さの百六十七間を算盤一けたにて置合せ十四となる
 九に満るはすてゝ余り五と成を左に置又横の三十四間を
 算盤一けたにて置合せ七と成(九に満れば すつるなり)是へ左に置たる五を
 かくれば卅五と成又九に満るはすてゝ余り八と成を別に置き又

 坪数の五千六百九十八を算盤一桁にて置合せ廿八と成九に
 満るはすてゝ余り一となる是別に置たる八と同数ならざる
 故に其算不合なり

たとへば銀壱貫八百七拾六匁を三十八人に分くる時壱人に付き四拾九匁
三分つゝとなり余り卦匁(?)六分有此算合たるや不合やと問ふ

   答云 合

 法曰く銀高壱貫八百七拾六匁をを算盤一けたにて置合せ廿二と
 なる九に満るはすてゝ余り四と成を左に置き又三十八人を算
 盤一桁にて置合せ十一と成九に満るはすてゝ余り二と成を
 別にをき又四拾九匁三分を算盤一桁にて置合せ十六と成


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 九に満るはすてゝ余り七となる是に別にをきたる二をかくれば
 十四と成是と余りの二匁六分と算盤一けたにて置合せ十三と
 成九に満るはすてゝ余り四となる是左にをきたる四と同数
 なる故に其算合なり

たとへば積一万八千七百六十九寸を平方に開いて百三十七寸と成
此算合たるや不合やと問

   答云 合

 法曰く積一万八千七百六十九寸を算盤一けたにて置合せ卅一と
 なる九に満るはすてゝ余り四となるを左にをき商の百三十
 七寸を算盤一けたにて置合せ十一となる九に満るはすてゝ

 余り二ろなるを両方にをきかけ合せて四となる(又九に満れば すつるなり)是
 左にをきたる四と同数なる故に其算合なり
 右合否の法は諸算随分吟味の上にてやむことを得ざれば外に
 一度試むる法なり一概になづむべからずあはざるものまゝ
 ありとしるべし

〔廿二〕尺なをしの事 六ヶ條
鯨尺(くぢらざし)を曲尺(かねさし)になをすには八分に割ればしるゝ也
曲尺鯨尺になをすには八分をかくればしるゝなり
呉服尺(ごふくざし)を曲尺になをすには一ヶ二分をかくればしるゝ也
又三分をかけ四をかくるも同じ断り


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曲尺を呉服尺になをすには一ヶ二分にて割ればしるゝなり
又三分に割り四に割るも同じ断り
呉服尺を鯨尺になをすには九分六厘をかくればしるゝ也
又三をかけ四分をかけ八分をかくるも同じ断り
鯨尺を呉服尺になをすには九分一厘に割ればしるゝ也
又三に割り四分に割り八分に割るも同じ断り

 右尺なをしの法は女も裁物(たちもの)などに用いる事なればたゞしり
 やすからんことを欲て術を二様にしるぞのみ

〔廿三〕女子(めのこ)平方の事 二ヶ條
たとへば積二十五寸を平方にひらくとき商を問

  答云 五寸

 法曰く積を置て内一寸引て商一寸とし次に三寸引て商
 二寸とし次に五寸引て商三寸とし次に七寸引て商四寸
 とし次に九寸引て商五寸とす こゝにて積に残りなきゆへ
 商五寸を答へとする也

たとへば積十一寸を平方にひらくとき商五寸を問う

  答云 三寸三分一厘六毫(ばう)余

 法曰く積を置て内一寸引て商五寸を一寸とし次に三寸引引て商二寸
 とし次に五寸引て商三寸とし次に七寸ひけぬゆへに商の
 三寸に一分加へて是を左右に置かけ合せて九寸六分一厘と成


28
 此内商の三寸をかけ合せたる九寸を引き残り六分一厘をまへの
 ごとく残る積の内にて引て商三寸一分とし次に六分三厘を
 引て商三寸二分とし次に六分五厘を引て商三寸三分とし
 次に六分七厘をひけぬゆへに商の三寸三分に一厘加へてこれを
 左右に置かけ合せて十寸○九分五厘六毛一糸と成此内商の
 三寸三分をかけ合せたる十寸○八分九厘を引残り六厘六毛一四糸を
 又前のごとく残る積の内にて引て商三寸三分一厘とし次に
 六厘六毛三糸ひけぬゆへに商の三寸三分一厘に一毛加へて是を
 左右に置かけ合せて十寸○九分六厘二毛七糸二忽(こつ)一微と成
 此内商の三寸三分一厘を懸け合せたる十寸○九分五厘六毛一糸を

 引き残り六毛六糸二忽一微を又前のごとく残る積の内にて引て
 商三寸三分一厘一毛とし次に六毛六糸二忽三微を引て商
 三寸三分一厘二毛とし次に六毛六糸二忽三微を引て商
 三分一厘三毛とし次に六毛六糸二忽七微を引て商三寸
 三分一厘四毛とし次に六毛六糸二忽九微を引て商三寸
 三分一厘五毛とし次に六毛六糸三忽一微を引て商三寸
 三分一厘六毛とす次第に是を求むること前のごとし

〔廿四〕つぎたし平方の事
たとへば左の図のごとく碁盤の上の左の角(かど)より下の右の角への
長さをしりたきといふ時


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 法曰く図のごとく其盤の厚さ
 ほど上へはしらを立てて其上の
 角よりごばんの面までの寸を
 さしてしるなり何にてもぢきに
 寸の取にくきものは此こゝろ
 有るべし

〔廿五〕曲尺(きよくしやく)平方の事 三ヶ條
たとへば積十六寸を平方に開く時は何程と問う

  答云 四寸

 術曰く十六寸を左右に置て各四に除(わり)左は一加へ右は一引て

 図のごとく左の五寸を弦と定め右の三寸を勾と定めて

(図)弦五寸・勾三寸・股四寸 ○此寸をさして答ふる也

たとへば積六百廿五寸を平方に開く時は何程と問

  答云 廿五寸

 法曰く積六百廿五寸を左右に置て左は一加へ右は一ひき各
  二つに割て図のごとく左は弦と定め
  右は勾と定むる也

(図)○此寸をさして答ふる也


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 右二術何れを用いてもあはずといふことなし しかれども先ず
 積を見て偶数なつものは初めの術を用い 奇数なるものは
 後の術を用いるがよし かくのごとくすれば桁数みじかくして
 寸取りやすし(但し偶数とは丁の数をいひ 奇数とは半の数をいふ也)

たとへば八拾ますを深さ五寸四分にして面何程と問う

  答云 九寸八分

 法曰く枡法六十四寸八二七を置きて八枡をかけて深さ五寸四分
 にて割れば九十六寸○四となるを曲尺平方にして答へを得る也
 但し初めの術によれば左の上の図のごとし又後の術によれば
 左の下の図のごとし

〔廿六〕高配開平皈(き)除術の事
たとへば四寸高配はのび何程と問う

  答云 のび七分七厘○三余(よ)

 術曰く四寸を左右に置てかけ合せ十六寸となる是に定法
 二百寸を加へて二百十六寸となる是に定法四十をかけて
 八千六百十寸と成を法とす又右の十六寸に定法四百寸を


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 加へて四寸を二度かけて六千六百五十六寸と成を実(じつ)として
 法にて割ればのびしるゝなり此術一尺高配(かうばい)には二桁あひ六寸
 高配には四桁あひ四寸高配には五桁あふ 如此(かくのごとく)高配ぬるきに
 したがひてあふ所愈々多しとしるべし今こゝろむるところの
 桁数が一のくらいよりさだむる所也

勘者御伽双紙中巻終