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近世狭義伝 猿の傳次

 

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近世狭義伝 猿(ましら)の傳次

傳次は清滝如きが下に立べき者ならず 本性姉崎傳次郎
光次とて由緒ある武士の二男ながら賭と淫酒に身を持
崩し 終に溢(あぶれ)者の群に入ぬ 素(もと)より武芸十八段の
印可を究め 打物取ては双(なら)ぶものなし 其上忍術に
妙を得 身のかろき事猿侯(えんこう)の梢を流(つた)ふ
如しとて人賞(よん)で猿(ましら)の傳次と云。殊に絶世の
美男にして詩歌連俳に拙からずさばかり
万能に達しだれど 一心の不足(たらざる)により鎌倉に
身の置く所なく丑倉弥助と共に清滝に
来(きたり)て子分となれり されども武士の果
成にや 義気たるを佐七等と日を同にして
語(かたる)べからず

 

 

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清滝盛力と不和なるを
嘆じ 度々(しば/\)和談をすゝむれ共 佐七愚にして
不用之(これをもちひず)傳次亦(また)飯岳(いゝをか)に不意に切入事の
謀計(てだて)をすゝめ 彼所(かしこ)に討入 既に捨五郎を
討(うつ)べかりしに 諸所の加勢飯岳に充満し清滝方
殆(ほとんど)危(あぶな)かりしを傳次が手練に敵するものなく
一方の血路をひらき味方を纏ふてひきあげしは
天晴ゆゝしきはたき(働き?)なりけり 

             一家略伝史

                   山々亭有人記

 

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