仮想空間

趣味の変体仮名

碁太平記白石噺 第九 道行いはぬいろきぬ

読んだ本 https://archive.waseda.jp/archive/index.html

      浄瑠璃本データベース ニ10-01458

 

105(左頁)

  第九  道行いはぬいろきぬ

爰の在所によいこの嫁御 よその男に気をもみ洗ひ かいげ柄杓のえにしは千年かけ水の 流と

人の行すへは いさ白石や さゞれ石 千代に八世と結びあふたるいもと背のちぎりは かたき

石堂の館を出て伊達介も かどの取れたる玉川の 里の紺屋の吉六に千束の姫も陸奥

故郷を捨てて井出の里 きのふは袖の錦木も けふのほそ布 手に巻て 花の露そふ玉水の

水仕奉公もなれやすき 賤の手わざのさらし布 さらして染て 水にいくたびぬれた同士 互にかた

も春の川辺の うららかに山吹匂ふ峯づたひ さらし場〽さして 行方の 山のはことに 花

 

 

106

くもり さくらをさそふ 春雨のふかばかざゝんかさぎ山 ふらずば木津の川風に 恋風そへて二人つれ 若草や

ねよげに見ゆる嫁が萩 さいな/\そうかいな 気をつく/\゛しこま/\゛と 文のすみれは筆つばな 八重

山吹のかへす書き さいな/\そふかいな よい中とふじとしらつゝじ 浮名菜たねの咲た妻 うら紫の藤の

花 さいな/\そうかいな うき名たつ共いとふまじ いとふまじとは思へ共 袖をほぼりの鳴見染 思ひ切せと

きらぬ瀬と 二世と書たるせいしのまこと かならずやいのと寄添ば わしゆへしなれぬ賤のわざ

こらへてたもとしめる手も 女たらしの袖のうち ほんに此ごろしみ/\゛とお顔のやつれを見るに付

よしない私が有故と思へば 身で身がにくらしさ 此世は侭の水楓色にぞ井出の 下ひもの

 

むすぶえにしはいつ迄もかはらにおりてつまからげ かいしよらしげな取なりも 面白や 布つく

ふりのやさしさよ なつきにけらし 衣ほすてふ/\なつきにからし衣ほすてふ 恋人を したい紺やの

やさ娘 八尾六つれて玉川の水にうつらふ花のかほ遠目にそれと見るゟも ヲゝイ/\吉六イノフ お

竹ヤイとどす声も 思ひは同じ心の色香 落る所は谷川の ながれに二人が立寄て コレ吉六あれを

見や 蝶が恋するいろかせぐ わけも女の心からかいしよらしいがいとしうて 井出の山吹おとこの

木性 川の水性 ふう婦じやとかためた中じやないかいな わたしも心は河原の真砂 よみつく

されぬお情と よればお竹がおしへだてコレ男下にいや さりとては悪性な /\男づら エゝきこへ

 

 

107

ぬと顔そむけうらみかけたるなよ竹のふしをこめたるうき思ひ 中に分け入八尾六が 引けどなびかぬ

三味の糸 つんとしたのが猶たまらぬ 我らは名にと奈良ざらしせめて一臼つかしておくれつき立の布

なんどは力を入てとんとつく とん/\とつくべと思へどあの子の顔見りや手をつく 品ものめ ぼつとり者めへ

女夫さらしが ならさらすへ とんつく杵でつつぱりこふたづんばいぼう ふり/\づんばいほう/\と杵付きなびけ/\と八尾

六が付つ廻しつお竹をかこふ吉六に もつるゝ娘ふり袖や いふもいられぬ竹垣の中を へだてゝアレ/\/\ 見へ渡る

/\ 笠置木津川みかの原いづれおとらぬ名所かな /\ 立浪が/\ ぜゞのあじろにさへられ

て流るゝ花をせき留よ/\ 所から迚な/\布を手ごとに 井出の里人打連て我家へこそは 〽帰りけれ