仮想空間

趣味の変体仮名

古今名婦伝 小野小町

 

 

「古今名婦伝」  豊国画  

 小野小町(おのゝこまち)
出羽の郡司か女(むすめ)とも 小野好実(おのゝよしざね)が
猶子(ゆうし)ともいふ 和歌は衣通姫(そとをりひめ)の流れ
を汲で 其頃の歌仙なり あるとき
内裏の歌合(うたあはせ)に大伴(おほとも)の黒主(くろぬし)と番(つが)ひ
て まかなくにの歌をよむ 黒主 暗に是を
聞(きゝ) 我歌の及ばぬを歎き 此歌 万葉の
古歌なりといひて 万葉の双紙を出(いだ)す
小町 面目を失ひしが 彼(かの)双紙を見るに
行(ぎやう)もしどろに 墨つぎもたがひたれば
此双紙を 洗ひて見度(みたき)よしを 帝に願ひ
お前にて洗ひければ 誠の歌出(いで) 小町が歌は
古歌ならぬ誉(ほまれ)顕れ これを世に双紙洗(あらひ)といふ

 まかなくに 何を種とて
  浮草の 浪のうね/\
   おひ茂るらん
     梅華山人記