仮想空間

趣味の変体仮名

北海道の人魚図

 

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 謹白

抑此人魚の儀は宝暦七癸酉年奥州??もなく蝦夷
漁人(りよじん)某 ある時海上はるかの沖へ??しに 何やらうかみ
出るものあり よく/\見るに其丈三?余り 惣身(さうみ)は魚にして
かしらは小児のごとく あまり不思議のものゆへ網をひかんと
するに 彼の魚手を合せ かしらをたれ 詫するさま あまり不便(ふびん)に
おもひ たすけ帰せしに さいなくて大いに悪口(あくこう)いたし逃行くさま
言語さながら人間に異(こと)ならず 彼の漁師大いに立腹して
網を入れ引上げ 諸人に見せしむるに 是なん
世にいふ人魚ならん あまり珎らしき魚なれば
其後乾物となし う??の家に留(とゞ)まれ
ども 辺鄙の事ゆへ其儘なりしに 去る天保
巳年能登の国の某 諸用ありて彼の地へ
わたり ことからざる因縁(ちなみ)に右の人魚を交
易して所持いたされしを 此度当處
遊暦のついで社参いたし 尤当座摩
の御社へ志願ののぞみもこれあり
且は先年当御座敷にて御覧に入候 例しにならひ
こたび諸君子の御一覧に備ふ 尤一たび閲(けみ)する時は
第一長寿にして福徳を増長し 疫病を
うつらずと いにしへより云つたへり よつて
吉并神合?ら敷御来賀并玉下かなう
しぐはんの一助とも相成願主の幸ひと
催主の銘々ともに諸天子の高評
をこひねがふになん

 天保亥年四月