仮想空間

趣味の変体仮名

人倫訓蒙図彙 五巻(細工人部)

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2592443?tocOpened=1

 

 

3

   細工人部(さいくにんぶ) 次第不同

「金彫師(かなほりし)」此細工むかしより

あり 中頃 後小松院の御時に

後藤祐乗(ゆふじやう)といふ者 名人にし

て其かくれなし 其頃 狩野(かの)

越前守元信(もとのぶ)といふ名筆の

絵師と居所近きゆへ した

しく友なへり よつて祐乗が

彫物の下絵を元信にかゝし

む 元信は古法眼(こほうがん)是なり 絵

といひ細工といひ ともに比

類なき名手ゆへ 其工(こう)いたつて

名高し   「絵師」唐土

 

(挿絵内)「金彫師」「絵師」

 

 

4

優師(ゆふし)といふ者 秋の月の水中

にうつるをみて書初(かきそめ)しとかや 日本

にては仁徳天皇の御宇 嘉佐(かさの)

金岡(かなをか)絵師の元祖として 千枝(ちえの)常(つね)

度(のり)など名人也 今都において

狩野家并土佐家あり 又は俵

屋流 野々村 友松(ゆふしやう)海北(かいほ)其外あ

またの流あり 又仏像をえかく

を絵所(えところ)といふなり 仏絵師(ふつえし) 室(むろ)

六角通(ろっかくとおり)下ル町(ちやう)木村了琢(きむられうたく)其外

左京徳應(とくをう)佐助抔(とう)あり 細金師(ほそがねし)

諸(もろ/\)の彩色に有事なれども

専(もつはら)仏像のえに是を用ゆ 金銀

 

の箔を細(こまか)に割(さき9て衣紋をなし

花の筋(すぢ)をわかつ 細金師は絵師

にしたがふ也   「筆師(ふでし)」筆は

文殊菩薩の指を表(しやう)するとかや

筆の長四寸二分とかや 筆 日本

にては丹後野崎(たんごののさき)の与松(よまつ)といふ

者に 切戸(きれと)の文殊 児(ちご)と化(け)し

て教(9をしへ給ふとかや 諸流におい

て品々の筆形(ひつぎやう)あり 又絵筆

蒔絵筆 別に結手(ゆひて)あり 京

の筆師 川原町二条下ル丁 祐以(ゆふい)

祐二 寺町通松原上ル裏辻

和泉(いつみ) 二条通間(あいの)町の西 小法師(こほうし)

 

(挿絵内)「筆師」「珠摺」「仏師」

 

 

5

等(とう)其外所々にあり 筆毛(ふでのけ)外(ほか)

にうりてあり 江戸福用小法(ふくようこぼう)

師(し) 福永通町(ふくながとおりちやう)にあまたあり

「珠摺(たますり)」眼鏡(めかね) 数珠粒(じゆすつぶ) 舎利(しやり)

塔(たう)皆水晶をもつて造る 其

外諸(もろ/\)の石緒占(いしをじめ)是をつくる

金剛砂(こんがうしやう)に水を酒(そゝき)て鉄の

樋(ひ)にあてゝ是をするなり 伝(つたへ)

聞(きく)唐土にはさま/\゛の名珠(めいじゆ)

有 日本にては昌泰年中(しやうたいねんちう)に

陸奥(みちのく)より堀いたせり 京 御幸(こかう)

町通 四条坊門の下(しも)其辺に

住す 大坂は伏見町にあり

 

(挿絵内)

「経師」「表具師

 

(左頁)

江戸南伝馬町神明前(しんめいのまへ)三嶋町(みしまちやう)   「仏師」釈迦仏御母摩(ま)

耶(や)夫人(ぶにん)忉利天(とうりてん)に御出生有事をしろしめして 彼(かの)天に

上(のぼ)り摩耶報恩経をとき給ふ 其御留守のうち仏を奉

らぬ事をなげき 修達(しゆだつ)長者 毘首羯磨天(びしゅかつまでん)に仏像を作ら

しむ 是始(はしめ)也とかや 日本にて聖徳太子の御時 大唐より

鳥仏師と云細工人来り 太子に仕へ奉り作りしを 太子

の作と云なり 後一条院の御時 定朝(ちやうてう)江州坂本大宮に

住する故 大宮形と号す 安元年中に運慶と云仏師

あり 七條形の元祖なり 其子旦慶(たんけい)弟子康慶(こうけい)同

快慶(くわいけい)後安阿弥と云 其時右の四人に四菩薩の官位

を下さるゝ 此家筋は四條通かんこぼこの町南側 康慶

今の左京是なり 其外法橋数人有也   「経師(きやうじ)」経師 或説に

 

6

多田満中(ただのまんちう)の子 美女御前にはじまるとかや 諸々の経巻(きやうぐわん)巻物

色紙 短冊 薄様(うすやう) 香包(かづゝみ)其外色絵の紙 贈経(をくりきやう)抔紙をもつて造

る類(るい)一切これを造る 其中の長(ちやう)を大経師(だいきやうじ)と号(かうす) 禁裏の御細

工をなす 此家 暦を改版して世上に出(いだ)す 又 院の御用をつとむ

るを院経師(いんきやうじ)と号す 大経師 室町通仏光寺通上ル丁 内匠(たくみ)院

経師 車屋町丸太町上ル藤蔵(とうさう)也 暦は宣明暦(せんめいれき)を用(もちい)たり 又貞

享年中に改(あらたむ) 大統暦(だいたうれき)を用(もちゆ)唐にても代々暦を改むる事也

元来は黄帝(くはうてい)の時に始(はじむ) 唐の一行阿闍梨(いつぎやうあじゃり)よりくはしく発明す

日本へは欽明の御時 百済国(ひやくさいこく)よりわたす 泥絵(ていえ)書諸々の紙に

下絵をなす 此者経師の下細工也   「表具師(ひやうぐし)」唐書に所謂(いはゆる)徘匠(はいしゃう)

是なり 屏風張付抔ともにこれをなす 諸々の色紙 軸 金物 組

緒 絹巻物抔是をつかふ 其品々商人(あきんど)細工師あり   「櫛挽(くしひき)」

 

神代(かみよ)のむかし稲田姫(いなだひめ)に其親

手摩乳(てなづち)が櫛をもて髪揚(かみあげ)し

て姫を素戔嗚(すさのを)に奉りし

とかや 然(しかれ)ば始り久しき事也

又 妻櫛(つまぐし)とは化生(けしやう)のおそるゝ

櫛と也 櫛をなぐるは大(おほき)に忌(いむ)

事とかや 櫛は伊須(いさゝ) 黄(つ)

楊(げ)抔其外諸々の唐木(からき) 象牙

玳瑁(たいまい)抔をもつて造り 蒔

絵 金具をもつて彩(いろどる) 各々下(した)

細工人有 唐櫛(とうくし)は唐(から)よりわた

す 其外 大坂長町(ながまち)にて造る

又 梗概(かうがい)是を商(あきなふ)也 細工人

 

(挿絵内)「櫛挽」「印判師」

 

 

7

別にあつて此所えうるなり

竹 角(つの) 象牙 鯨鰭(くじらのひれ)をもつて造

る 京櫛挽(くしひき)寺町通押小路

下(しも) 舟木 長門(ながと) 其外所々にあり

伊須(いす)の木 長門より出(いづ) 此木を

舟木(ふなぎ)と号す   「印判師(いんはんし)」水(すい)

牛(ぎう)をもつてこれを作る 又 絵

墨跡の印(いん)は石をもつて是を

彫(ほり) 又 韻経(いんきやう)を考(かんがへ)字を反(かへ)し

て名乗をあらためてもほる

なり 野人(やじん)小児(せうに)これを調法(ちやうほう)

とす 京極通二条上ル丁 井上

大和(やまと)其外所々にあり 大坂は

 

堺筋 平野町にあり 江戸 京

橋四丁目銀(しろかね)町 乗物町

「縫物師(ぬいものし)」諸々の衣装 其外 織物

にさま/\の糸をもて模様を

縫あらはす 縫に色々の名

有 暖簾に松をえかきて印

とす 縫箔屋(ぬいはくや)とかく家には

紋形のきはばく摺箔(すりはく)抔をも

するなり 吉備大臣入唐(にっとう)のと

きに相伝して来たれりとかや

縫物師の元祖と仰(あふぐ)なり

「扇折(あふきところ)」唐土より始りて 其

時代さだかならず 古語に

 

(挿絵内)「縫物師」「扇所」

 

 

8

月長山(ちやうさん)に入ぬれば扇を

上てこれを教ゆといふ時

は 遥の上古と聞えたり 都

において城殿折(きどのおり)是根本

なり 城殿(きどの)今 鷹司通(たかつかさとおり)の

西に住す 畳紙(たゝうかみ)此家に

作り名物とす 扇 畳紙 共

に公家より此所にもとめ

らるゝなり 中頃より五条

の御影堂(みえいだう)の僧これをなす

女の業(わざ9なり 扇あまたの手

にわたれり 地紙師(ぢかみし) 絵師

骨師 要師(かなめし) 箱指(はこさし)抔(とう)外(ほか)に

 

あり 末広(すえひろ) 中化(ちうけ)抔は公家出(しゆっ)

家(け)これをもつ 舞扇(まひあふぎ)は能(のふ)

太夫(たゆう) 狂言師これを持(もつ) 舞扇

師 小川通上立売(かみたちうり)の下(しも)にあり

近世(ちかきよ)由禅扇(ゆふぜんあふぎ)とて一風あり

「蒔絵師(まきえし)」五十嵐(いがらし) 蝶屋(てふや) 山本

田付(たつけ) 原田抔の家あり 中にも

五十嵐は東山殿の時名人也

将軍慈照院(じせういん)義政(よしまさ)公 蒔絵

をあひし給ひて五十嵐にかゝ

しめ給へり 今にいたつて時

代物と称じ 東山殿御物(ごもつ)と号

して世上の宝となす 其様(さま)

 

(挿絵内)「蒔絵師」「時計師」「針摺」「縫針師」

 

 

9

比類なきもの也 重箱をはじ

指物(さしもの)の下地師(したぢし)別にあつて

是を木地師(きぢし)といふ也 釘をもち

いず膠(にかは)にてこれをつくる也

下絵書(したえかい)外にあり 金銀の粉(ふん)

や 同切金師(きりかねし)抔(たう)外にあり

「時計師」出所いまだ考(かんがへ)ず 唐(とう)

書(しよ)に所謂時明鐘(じめいしやう)是也 京御(ご)

幸町(かうまち)八幡丁上ル丁 平山武蔵

堀川通中立売上ル丁 元佐(がんさ)も外

所々にあり 江戸弓町 理右衛門(りえもん)

鍛冶橋(かじばし)元信(もとのぶ) 乗物町 政次(まさつぐ)

「針摺(はりすり)」針立(はりたて)これをもちゆ

 

諸流あつてかはれり 村

駿河 寺町四条下ル丁

奈良弥左衛門 寺町四条上ル

丁 江戸京橋南へ一丁め南

大工町   「縫針師(ぬいはりし)」針(はり)

鉄師(かねし)外にあつてこれを造

る 都において根本(こんぼん)姉小(あねがこう)

路(ち)に住して其名高し

中世 御簾屋(みすや)といふもの

あり 今にいたりてこれを

名乗る 唐(から)よりわたす針

これを唐針(とうばり)と号す 京 針

師 三条河原町角(かど)福井 伊与(いよ)

 

(挿絵内)「額彫」「栄華」「木彫師」「面打」「青貝師」

 

 

10

富永 伊勢 井口 大和 五条油(あぶらの)

小路(こうじ)其外 大津 追分 池川(いけのかは)

大坂 堺筋(さかいすぢ)にあり 江戸

京橋 四方棚 新橋 小竹川(こたけかは)

丁   「額彫(がくほり)」たこやくし

柳馬場(やなぎのはゞ)東へ入ル丁 勘兵衛(かんひやうえ)

堀川通中立売下に住す

其外所々にあり 江戸宇(う)

田川(たかは)町 京橋二丁め

「木彫師(きぼりし)」仏塔(ぶったう) 厨子(づし) 其外

さま/\゛のかざりに板木(いたぎ)の

面(おもて)にこれを彫(ほる) 上古に

は飛騨内匠(たくみ)名人なり

 

天正の頃 左と号する名人

あり

「面打(めんうち)」楽人(かくにん) 能師(のうし)これを

もとむ 上古にはさま/\゛

奇特(きどく)有しとかや これを

作(さく)の面(めん)と号して世上の

宝とす 又唐土よりわた

せし面 世上にあり 京 堀

川通中立売下ル丁 出目(てめ)

近江(あふみ) 烏丸(からすま)下立売上ル丁

清右衛門 同(おなしく)烏丸東へ入丁

勘右衛門 江戸尾張町二丁目

出目二人 日比谷一丁め出目

 

(挿絵内)「角細工」「錺師」「象眼師」

 

 

11

源助(けんすけ)   「青貝師(あをがいし)」青貝は

二条川原町をはじめて

其外所々にてこれをす

るなり これをかいとり

て諸々のえやうをつくり

器(うつはもの)につくるなり 塗(ぬ)

師 外にあつて これをえ

て地をぬるなり 所々に

住す   「角細工(つのさいく)」梗概(かうがい)

櫛払(くしはらい) 掛落(くはち) 根着(ねつけ) 緒(を)

占(ちめ) 挽蓋(ひきぶた) 鉄砲の薬入 抔

角(つの)象牙をもちゆるたぐ

ひこれをつくる 寺町通

 

をはじめ所々にあり

「錺師(かさりし)」一切の仏具并障

子の引手 硯の水入 諸々

の金物をなし えやうをほる

を錺師と号す

象眼師(さうがんし)」鐙(あぶみ) 鍔(つば) 小柄(こつか)

抔をはしめ一切の金

具にこれをなす 所々

にあり   「銀師(しろかねし)」諸々の金物

これをつくる 此中近世 紙

入れの金物師別に名乗り 看

板をいたしてこれをつくる

「幾世留張(きせるはり)」今二条通富小路

 

(挿絵内)「銀師」「幾世留師」「無節(らう)竹師」「鈴師」

 

 

12

に桜やといふ者あり 其先

祖これをはじむとかや むかしは

葭(よし)をそぎて それにてのみしと

也 京間町(あいのまち)通 二条の下 三条

大橋の東大仏におほく住す

近頃水口(みなくち) 坂本(さかもと) 團子(だんご)や これ

名物なり   「無郎(らう)竹師(し)」

品々(しな/\)塗色(ぬりいろ) 化彫(けぼり) 籐巻(とまき) 青貝(あをがい)抔

あり 諸(しよ)商人(あきひと)にこれをうる 中

京所々にあり 又 菪莨入(たはこいれ)紙

をもつてさま/\につくる 所々に

あり 革は滑革師(なめしかはし)これをつ

くる 寺町通の下(しも)にあり

 

此家 刀 脇指(わきざし)の寸袋(すふくろ) 鏡の覆(おほい)

袋抔これをつくる

「鈴張(すゞはり)」鈴 鷹鈴(たかのすゞ) 御子鈴(みこのすゞ)

神前にかくる鈴あり 内侍(ないし)

所(どころ)の御鈴(おんすゞ)の音は ゆふにやさし

きもの也と古人もほめし也

神道に五十鈴(いそすゞ)とて鈴の造様(つくりやう)

種々この伝あり 天竺にては

時をつくる番の者 鈴をふり

て廻る事あり 唐土にては

非常をいましむる者 腰に

鈴をつけてこれをしめす 其

外 高官の束帯にも鈴を

 

(挿絵内)「茶入袋師」「巾着師」「紙入師」

 

 

13

つける事也 鷹の鈴師 三

条通橋東 明珍宗長(めうちんむねなが) 丸太町

通新町の西に一家(け)あり 守(まもり)

の鈴は 三条橋東 浅田市右衛門(あさだいちえもん)

其外所々に是をつくる

「茶入袋師(ちやいれふくろし)」并 壷(つぼ)の網師(あみし)

色々の糸をもて網をすく也

所々に住す 大坂ふしみ町

藤重(ふししげ) 江戸西紺屋町 南槇(まき)

町 中通本郷五町眼 日本橋

南二丁目   「巾着師(きんちやくし)」諸々の

唐革(からかは)これをもちゆ 銅印(とういん)

同しく造り 所々に住す

 

「紙入師(かみいれし)」諸々の絹 毛織 革

抔をもてこれをつくる 并

巾着 手帞(ふくさ) 同(おなし)所にもあり

所々に住す   「眉作(まゆつくり)」むかし

仁和寺(にんわじ)の邊(ほとり)に住す 依て

其名乗となす   「人形師」

諸々の人形これをつくる 小(ちいさき)を

芥子(けし)人形といふ 又 操(あやつり)人形 指

人形 抔あり 寺町通をはじ

め所々に住す 冨嶋(とみしま)和泉(いづみ) 是

細工人也 今 麩(ふ)や町 押小路

に住す 張抜(はりぬき)人形 所々に

造る   「衣装人形(いしゃうにんぎやう)」諸々の織(おり)

 

(挿絵内)「眉作」「人形師」「張子師」

 

 

14

物をもて えを切抜(きりぬき)これをつ

くる 寺町四条の上 同(おなしく)四条

川原町のひかしにあり

「張子師」犬はり子をはじ

め 一切のかたちをあらはし

香合(かうはこ)抔をつくる 絵師

これにえかくなり 所々に

住す   「雛師(ひいなし)」紙ひいな

装束ひいなあり 紙ひいなは

紙をもて頭(かしら)を造る 又ほう

このかしら これをつくりて ひ

いなやにうる也 雛屋これを

もて品々に仕立(したて)あきなふ也

 

「楊枝師(やうじし)」打楊枝(うちやうじ) 平楊枝(ひらやうじ)

品々あり 木は豊前国(ぶぜんのくに)立石(たていし)

又は河内国(かはちのくに)玉津村(たまつむら)名物なり

粟田口(あわたくち)の猿やは 玉串村の

者なるによつて 其名高し

加賀国 越前よりいづるは ごぶ

ある木なり 猿屋楊枝といふ い

われからの猿は 歯あかく かほ白し

日本の猿は歯しろきゆへに

楊枝の看板たり   「茶杓師(ちやしゃくし)」

所々に住す 是をあきなふ家 茶

ひさく(柄杓) 竹輪(ちくわ) 自在(じざい)抔これあり 堺(さかい)の

甫竹(ほちく)名人也 利久(りきう)のながれといふ

 

(挿絵内)「雛師」「楊枝師」「茶酌師」「物指師」

 

 

15

寺町一 斎   「物指師(ものさしし)」鯨指(くじらさし)は伊

勢 大坂より出す 竹指(たけさし)京にて

これをつくる 所々にあり 周(しう)

尺(しやく)とて代々唐の尺を考へて

出すなり   「箸師(はしし)」四条坊

門にこれをつくる 上(じやう)を数寄(すき)

屋箸(やばし)といふ 白木 杉 丸箸

八角箸 品々あり 又 塗箸

所々にあり

「刷毛師(はけし)」はけの根本は東の

洞院(とういん)松原上ル丁 竹村

治右衛門とかや 今 御幸(ごかう)町

四条上ル丁 左を名人と

 

す 絵はけ壱寸について

三分 或は五分 ほく刷毛

抔品々あり 絵師

経師 表具師 表紙師

抔これをもちゆ

「嘉留多師(かるたし)」かるたは 阿蘭(おらん)

陀(だ)人の翫(もてあそふ)也 一種 各(おの/\)十二枚

あつて ころふ わうる はう

いす の四種あつて 合四十八

枚なり 又 歌かるた 詩かるた

あり 歌かるた寺町通二条

の上 ひいなやにあり 四十

八枚は五条通におほし 大坂

 

(挿絵内)「箸師」「刷毛師」「嘉留多師」「賽師」

 

 

16

久太郎(きうたら)町にあり 彩色(さいしき)外(ほか)に

出してもこれをつくる也

「賽師(さいし)」双六(すごろく)の賽これを

つくる 所々に住す

「胴人形師(とうにんきやうし)」十四経(じゅうしけい) 類(るい)

経(きやう)をもつて経絡(けいらく)を考(かんかへ)

つくる 諸々の醫師(いし)これを

もとむ 所々に住す 大坂あ

はぢ町八丁目 江戸京橋

北へ一丁目 大蔵(おほくら)

「團師(うちはし)」天竺の白月(はくげつ)といふ

者 月を表(ひやう)してこれをつ

 

くると也 日本において

軍配團(ぐんはいうちは)あり 奈良団(ならうちは)

は春日の社人(しやにん)の中(うち)

にこれをつくる 京は

油小路中立売上ル丁に

あり 当世大坂長町(ながまち)に

つくる 野人(やじん)童子(とうじ)の持(もち)

領(りやう)として 判物(はんじもの)さま/\の

えをかく 代物(だいもつ)三銭にし

て 涼風をもとむ まことに

軽行(かるゆき)の調法なり

「蔟削(しいしけつり)」都の詞に蔟(しいし)を

しんしといへり 田舎(いなか)はづ

 

(挿絵内)「胴人形師」「團師」「蔟師」「鐘木師」

 

 

17

かしき片言(かたこと)なり 張物(はりもの)

師これをもちゆ 巻物

絹 品々のわかちあり 大

仏近辺所々に住す

此見世に竹のひき粉(こ)

田楽串(でんがくくし) 編竹(さゝら)抔これを

うるなり

「鐘木師(しゆもくし)」鐘を敲(たゝく)宗旨(しうし)

これをもちゆ 東洞院(ひがしのとういん)三

条上ル町 因果源兵衛(いんぐわげんひやうえ)其名

高し

「楊弓師(やうきうし)」楊弓は玄宗帝の

御代にこれをはしめて 楊

 

貴妃これをあひすとかや

書一巻なり 所々につくる

近世 雀小弓(すゝめこゆみ)又所々につくる

楊弓矢師 外にあり

中にも下御霊(しもごりやう)の前 小倉(おぐら)

出羽掾(ではのせう)其名聞(きこ)ゆなり

江戸は神田天神の前

「造花師(つくりはなし)」諸々の糸をもて

つくる むすびはなとも

いふなり 又は紙をもつて

これをつくる 所々に住す

「形彫(かたほり)」一切染物の小紋 紋

所(どころ)これをほる 染物や 紺掻(こんかき)

 

(挿絵内)「楊弓師」「作花師」「形彫」

 

 

18

抔これをもとむ 所々に

住す 伊勢しろこより国

/\え うりにまはるなり

「堆朱彫(ついしゆほり)」唐土(もろこし)にては 珍星(ちんせい)

張成(ちやうせい)其外数多の名人あり

日本にて彫はしめしは

下京辺に門人とて其名

四方(よも)に聞えたる名人ありし

その子孫 仏光寺通東洞

院西へ入ところに堆朱や

二郎左衛門とて名人今もあり

彫りの手きは むかしの門入(もんにう)

にはまさりなんとみな人

申あへり 江戸南大工町にあり

 

(挿絵内)「堆朱師」