仮想空間

趣味の変体仮名

勘者御伽双紙 下巻

 

読んだ本 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3511865?tocOpened=1

 

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勘者御伽双紙下目録
一 時の数自然の数の事
二 交会術の事 五ヶ條
三 蚊帳縦横之布数にて幾畳釣をしる事
四 境内の町数をしる事
五 道路里程之事
六 歴術を不用してあらかた暦をしる事
七 多くの年数月数日数を速やかに求むる事


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八 童偐(どうげん)十三七つの事
九 変数をしる事 四ヶ條
十 堆積の事 五ヶ條
十一 三十三所之観音倍増賽銭の事
十二 将棋盤面倍増米数の事
十三 算盤にむかひつぶあぐる事
十四 扇にてあさ瓜の値段をしる事
十五 飯焚く法の事

十六 桜木の目付の事
十七 名香六十四種の目付の事
十八 俵数を端なく杉形につむ事
十九 割賦算の事
二十 節分の豆の数をしる事
廿一 同豆の数にて年数をしる事
廿二 弧背真術事 二ヶ條


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勘者御伽双紙下目録終

勘者御伽双紙下
〔一〕時の数自然の数の事
ころしも秋の暮木々のこすえ紅葉の色もいつしか
あらしにさそはれ木の葉の時雨とふりしきいたうもの
あはれにつれ/\なるまゝちるつもりたる琴をしのごひ
かきならしなどする折ふし友どちむれつゝ来たり四方
山里の物語をなんしつゝ酒汲かはしうたひまひ詩なんど
ぎんじいとむつまじくねんなきありさま誠に虎鶏の
三笑もさらなりと思ひしまゝにはや日も西にせまり
晩鐘(いりあひ)もほどちかしといふよりはやく山寺の鐘の音


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さやうで ござります
内にやら 琴の 音がする

たれぞまた きたそふな


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かまびすしく耳にふるれば其座につら成けるひとりの
いふやうは今つげわたる鐘の音に付尋ぬべきふしんこそ
あれされば世に用来たりし時の数が九つより八つ七つと
次第に一つづゝへりて四つになれば次は又九つといふめる
是はいかなることはりにや其説まち/\にしてきくところ
くゞもり何れを是(ぜ)とすべくもなし思ふに何の心ばへも
なきとならんもしかた/\の内にきゝつたへしる人もあらば
きかまほしゝわれひたふる此事に思ひをこがすのみとありければ
おほかる中にいちはやき人のありていしくもたづね給へり
とてげに/\しくもこよなふむつかしきことにて世のつねの

算司(かずのかみ)などのしるべきことにあらずされば心さしの同じき
人しあらばみそかにかたりつたへてともになぐさまんと
おもひいしが今尋ねにまかせ其おもむきをなんこゝに
しるし侍る

(漢文読めない)

 たとへば四の次はいくつうつぞとたづぬる時は三十五の内
 四を減じて残り三十一と成り是に四をかくれば百二十四と


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 なる是を四百八十五の内にて減じて残り三百六十一と成
 是に四をかくれば千四百四十四となる是を三千三百廿五の
 内にて減じて残り千八百八十八と成是に四をかくれば
 七千五百二十四となる是を一万千二百五十四の内にて減
 じて残り三千七百三十となる是に四をかくれば一万四千
 九百二十となる是を一万五千百の内にて減じてのこり
 百八十となる是を二十にてわれば九つとしるゝなり

となんいひければ聞く人かんをもよほしけうにいることなを
かぎりなく誠に神変(しんべん)ふしぎの妙術かなむかし人はいざ
しらず今やうの人いかでしることをえんやしかあれどまた其

数のをこりをこまやかにきかでおもひつることのとげざるも
いとほいなくねがはくばこと/\゛くせちにをしへ給へとなんいひ
ければまたいらへしつゝぞ解しにける

(漢文)

 又九は陽数の極(きよく)なり是を以て則(すなはち)子の時の数と定め


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 乃(すなわち)きのふけふのさかい成が ゆへに極数を用いるなり)前の術による時は其次この時の数を
 得るなり

右は予ふりわけがみのころほひよりかぞふる道にのみからう
じてとしちやうじすでに其奥義をきはめぬこゝにひと心
此時の数にも自然の理(り)やあるべきことにおもひはべりしに
ほどなく心ざしはたしけるは誠にむまれながらにして
しるものかとよ世々うたがふことなかれといとけうとくも
したりがほにてかたりければまといの人々同音に是は奇
妙とさゞめきつゝ座をくつろげて横雲のたな引わたる
しのゝめやからすとともにせきをたちいづちゆきけん

あとはかもなし

〔二〕交会術(かうくわいじゆつ)の事 五ヶ條
たとへば詰め所有りて番を勤むるに一人は九日ごと一人は十二日
ごとに出づる今日両人相番也又何日(いつか)を経て相番に当ると問う

  答云 再び会うこと三十六日 (九日の方四度也 十二日の方三度也)

 法曰く九日と十二日と互いに引き合ひて等数三日と成を法とす
 九日と十二日とかけ合せて百八日となるを法にてわれば三十
 六日としるゝ也是を九日にわれば四度としるゝ又三十
 六日を十二日にわれば三度としるゝなり


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たとへば京(みやこ)より江戸まで百二十三里あり京より下る者は日
ごとに十二里歩む則四日己前(以前)に出づる江戸より登る者は日ごとに十三里
歩む則今(こむ)日出でて幾日(いくか)目に行き逢ふぞ又其各々の里程を問う

   答云 下る者七日目 道八十四里
      登る者三日目 道三十九里

 法曰く京の者十二里を置て四日をかくれば四十八里と成是を百
 廿三里の内にて減して余り七十五里を実とす江戸の者十
 三里を置いて京の者十二里を加へて二十五里となるを法と
 して実をわれば江戸の者三日としるゝなり是に四日を入れて
 京の者七日をしる也又是に京の者十二里を乗(かくれ)ば八十四里を

 得る也是を百二十三里の内にて引けば残り三十九里としるゝ也
たとへば牛馬あり毎日歩む事牛は十里馬は十五里にして牛は先へ
行く事三日なり馬今日出でて幾日へて牛に追い付くと問う

   答云 六日

 法曰く牛の十里を置いて三をかくれば三十里と成るを実とす
 馬の十五里の内牛の十里を引き残り五里を法として
 実をわれば六日としるゝなり

たとへば周(めぐり)百里の池あり是を牛馬/\方(かた)へ廻るに日毎に歩むこと
牛は五里馬は三十里なり今日一所に出でて又幾日経て再び会ふと問ふ

  答云 四日


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 法曰く馬の三十里の内牛の五里をさりて残り二十五里を法と
 して周(めぐり)百里をわれば四日としるゝなり

たとへば周九十六里の池あり是を羊鹿牛同じ方へまはるに
日ごと歩むこと羊は二十六里鹿は三十五里牛は十一里也今日
一所に出でて又幾日を経て各々再び会うと問う

  答云 三十二日

 法曰く羊鹿の歩む差(たがひ)九里と鹿牛の歩差二十四里と互に
 引合て等数三里となるを法として周(めぐり)九十里をわれば
 三十二日としるなり

〔三〕蚊帳(かちやう)縦横(じうわう)之(の)布数(ぬのかず)にて幾條畳(いくでう)釣(つり)をしる事

蚊帳四布に六布を卦畳づり五布に六布を卦畳半づりと
いふ其術を按ずるに縦横の布数をかけ合せて実とし十二を
以てわれば幾畳づりといふことしるゝなり(布幅曲尺一尺二寸 五分を定法とする也)

〔四〕境内の町数をしる事
たとへば三町に五町の境内に町数何程あるぞと問う(勿論四面は皆 片側町なり)

  答云 三十八町 但しつきぬけなし
     五十三町 但しつきぬけあり

 術曰く三町に五町をかけ倍して三十町となる是に三町と
 五町とをくはへて三十八町としるゝなり若しつきぬけともに
 かぞふるならば三町に五町をかけて三倍して五町と三町とを


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 加へて五十三町としるゝなり つきぬけといふは壱町の間に
 又一通りあるをいふ也

〔五〕道路里程の事
塵劫記(ぢんこふき)にいはく曲尺六尺五寸を一間(けん)とし六十間を一町とし三十
六町を一里とす或人の云はく伊勢道は四十八町を一里とすと云伝へ
たり近曽(さいつころ)一算士の説を聞きに伊勢道四十八町といふは偽りなり
馬子(まご)駕舁(かごかき)の類(るい)は為にすること有ゆへかゝりといひなすなり
東海道の里程は曲尺六尺を一間とし六十間を一町とし三十
六町を一里とす伊勢道はたゞ六尺五寸を一間とするのみたがひ
にて余数は東海道に替る事なしといへり然れば伊勢道

一里は六尺間の三十九町にあたるなり一里ごとに三町多し
伊勢道の十二里は東海道の十三里にあたるなりいか成故にて
四十八町を一里とすといへるぞと考ふるに山田外宮(げくう)宇治内宮(ないぐう)の間
四十八町有る是を所の人一里と称するよりおこれるなるべしと
いへり又或儒のいはく西国は皆四十八町を一里とすといへり又
延喜式東西両景の丈尺を記すにもとづきてかぞふる時は
一町は四十丈也若しこれを六十間とすれば一間は六尺六寸六分
有奇(ゆうき)なり一間の尺寸和漢ともにいぶかし

〔六〕暦術(れきじゆつ)を不用(もちいず)してあらかた暦をしる事
九年以前の(たとへば壱の子の暦には 卯のとしを用いる類なり)古暦を取出し其二月の十五日の


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干支が即ち当年の正月朔日の干支なり扨古二月の大小を新
正月の大小とし古三月の大小を新二月の大小と次第にあつる也
又術に古暦正月朔日の干支をみて其月大なれば干は五つ目
支は九つ目小なれば干は四つ目支は八つ目を新正月の朔日の干支と
する也たとへば古暦正月朔日甲子にて大なれば戊申 小なれば丁
未と心得べし扨二十四気はたとへば古暦立春甲午なれば干は
三つ目支は七つ目の丙子を当年の立春としるべし但し其気の
入り時刻は古暦より六七刻先立つゆへ古暦丑の二刻以前に入ならば
一日前をとるべし かくのごとくして月の内に中気なきを閏月(じゆんげつ)と
定むる也又別に閏月を推す術あり前年の冬至の日数を以て

定法二十九日の内を減じて余りたとへば四日なれば四月に閏有と
しる也尤も前年の冬至十八日以後ならねば求むる年閏なし

〔七〕多くの年数月数日数を速やかに求る事
神武天皇辛酉の年正月朔日庚辰に御位に即(つき)給ふ 夫(それ)より
享保十六年辛亥の正月朔日乙丑まで年月日の数を問う

  答云 年数二千三百九十一  月数二万九千五百六十一
     日数八十七万二千九百廿六 潤月八百八十

 法曰く前の辛より後の辛までがぞへて十一を得るを十はすてゝ
 余り一を左に置き又前の酉より後の亥までかぞへて三つを
 右に置き右の数に十二つゝかさねくはふること其はした左と同じ数に


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 なるまで加へて(今四度 加ふる也)五十一となる扨神武天皇より大凡二千
 三百年成る事を前方に覚悟して先ず六十(甲子 一周:ひとめぐり)つゝ三十九めぐり
 二千三百四十を加へて二千三百九十一年としる又月数を考ふるは
 右年数の内一を減じて定法二百卅五をかけて五十六万千
 六百五十と成を十九にわれば二万九千五百六十(不尽:ふじん は すつる也)を得るに
 一月(いちげつ)加へて月数をしる(但し二百廿五と十九とは一章十九年に 月数二百廿五ありとすること大率不差:おほむねたがはず)又日数を
 しるは月数の内一を減じて定法二十九日五三○六をかけて
 八十七万二千九百二十五日(不尽半日己 上は一日に收む)を得るに一日を加へて日数を
 しる也扨合否を試むるに往古の正月朔日庚辰より後の正月
 己丑迄の日数を前術に随ふて四十六を得る扨右の八十七万二千九百

 二十六を置き六十二満るはすてゝ不尽四十六を得る右と同数成
 ゆへ合算としる也若し否算(ふさん)は是を相減して残り(前少なく後多きを減とす 前多く後少なきを加とす)
 一か二かを得る者は是を以て日数に加減して答ふる日数とす又
 廿九及び其前後の数を得る者は月数に一月を増損して(増損を定むる こと別に前のごとく
 して前年迄の月数を求めて其月数と求むる年の月数と 相減余り十二を得る者は一月を増し十三を得る者は一月を損する也)答ふる月数とぞ是を
 以て日数を求る事前に同じ又閏月の数をしるは年数の内一を去り余りに
 七を懸けて十九に割り不尽は捨てて閏月の数をする也(但し前に増損ある者は 其増損にしたがふ)

〔八〕童偐(どうげん)十三七つの事
月の平行十三度十九分度の七をいふなり

〔九〕変数をしる事 四ヶ條


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たとへば象戯(しやうぎ)の駒四十枚をひたとなげて表裏の変数(へんかず)何程と問う

  答云 三十二万六百二十五品(しな)

 術曰く 玉(ぎよく)三 金五 銀五 桂五 香五 飛三 角三 歩十九
 右八口かけ合せて得る也(右各有り駒に一算 つゝくはへたる数也)たとへば銀一枚桂一枚香一枚
 なれば是をひたとなぐるに 「銀桂香」「銀金香」「銀金金」
 「銀桂金」「金桂香」「金桂金」「金金香」「金金金」かくのごとく
 変数八品あり此外は何度(いくたび)なげても変はる事なし

たとへば金銭五文銀銭四文銅銭三文是をひたと投げて表裏の
変数何程と問う

  答云 百二十品

 術曰く各の銭の数を置いて皆一算を加へかけ合てしる也

たとへば薬種七味有て三味を一方に組立つる時は方(はう)何程出来ると問う

  答云 三十五組

 法曰く一二三相乗(かけあはせ)て六となるを法とす七六五かけ合せて卦百
 十となるを法にて割れば組数しるゝなり

たとへば十?香(じしゆがう・十種香)の出香(でかう)の変数を問う

 答云 壱万六千八百品

 法曰く一二三四五六七八九十相乗(さうじやう)して三百六十二万八千八百と
 なるを実とす一の香一二三相乗して六となる二の香一二三
 相乗して六と成三の香一二三相乗して六と成客の香一

 

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 右四位相乗して二百十六を得るを以て実をわれば変数
 しるゝなり

〔十〕堆積の事 五ヶ條
たとへば図のごとく三角並(へい)有り周(めぐり)十八箇(か)にして惣数を問う

  答云 二十八箇

 法曰く周十八箇を左右に置いて左は三箇加へ右は
 六箇加へ是を相乗して五百○四となるこれを
 定法十八にわれば惣数知るなり

たとへば図のごとく圓箭(えんせん)あり周十八箇にして惣数を問う

   答云 三十七箇

 法曰く十八箇を左右に置いて何方(いづかた)へなりとも一方へ
 六箇くはへ左右相乗して四百三十二と成是を
 定法十二に割り得(うる)数に一箇くはへて惣数をしる
 なり

たとへば図のごとく四角錐?(だ)有り 下一通り六箇つゝにして惣数を問う

  答云 九十一箇

 法曰く下一通りの六箇を置いて是を倍して三箇
 加へ六箇をかくれば九十となる又一箇加へ六箇を
 かくれば五百四十六となる是を定法六つにわれば
 惣数しるゝなり


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 又術曰く六箇を左右に置いて左は一箇加へ右は是を倍して一箇
 加へ左右相乗して九十一となる是に六箇をかくれば五百四十
 六となる是を定法六にわるも同じ断り

たとへば図のごとく三角錐だ有り下一通り七箇づゝにして惣数を問う

  答云 八十四箇

 法曰く下一通りの七箇を置いて三箇加へ七箇をかけて
 七十となる是に二箇加へ七箇をかくれば五百○四と成
 是を定法六に割れば惣数知る也
 又術曰く七箇を左右に置いて左は一箇加へ右は二箇
 加へ是を相乗して七十二となる是に七箇をかくれば五百○

 四となる是を定法六に割るも同じ断り

たとへば図のごとく直錐だ有り各下一通り濶(ひろさ)は五長さは八箇に
して惣数を問う

  答云 百箇

 法曰く濶を置いて一箇加へ長さをかけて又定法三を
 かけ一箇加へて百四十五となる此内濶と濶と懸け合
 せたる廿五を減じて余り百二十となるに濶を
 かけて定法六に割れば惣数しるゝなり

〔十一〕三十三所の観音倍増し賽銭の事
壱番の観音には参銭壱文二番の観音には参銭三文三番めは


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四文かくのごとく倍増にして三十三所の惣参銭を問う

  答云 参銭八百九十四万七千八百四十八貫五百三十一文
     十二匁銭にして十万○七千三百七十四貫百八十二匁二分余り

 法曰く三番目の参銭四文を左右にをきかけ合せて十六文となる是
 五番目の参銭なり是を左右にをきかけ合せて卦百五十六と
 なる是九番目の参銭なり是を左右にをきかけ合せて六五
 五三六となる是十七番目の参銭なり是を左右にをきかけ
 合せて四二九四九六七二九六となる是三十三番目の参銭なり
 是を倍して八五八九九三四五九二となる内一を減じて残り百
 以上は九分六厘にて除き八百九十四万七千八百四十八貫五百卅

 壱文となる是参銭の惣数なり又百己下(いげ)も九分六厘にて除き
 十二匁をかくれば惣銀になるなり

〔十二〕将棋盤面倍増し米数の事
たとへば小将棋(せうしやうぎ)の盤面に米を置くに最初は一粒次は二粒三つ目は
四粒かくのごとく倍増しにして八十一目(もく)に置く時は米数何程と問う

  答云 二京四千百七十八万五千百六十三兆九千二百二十九万
     二千五百八十三億四千九百四十一万二千三百五十一粒

  又右の米数を枡めになをす時は三十八兆五千七百四十五万
  三千百五十七億六千七百二十七万千五百九十三石七斗
  一枡と不満(ふまん)三万八千○七十一粒なり


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 法曰く三番目の四粒を左右にえおきかけ合せて十六と成是五番
 目の数也是を倍して三十二と成是六番目の数也是を左右に
 をきかけ合て一○二四となる是十一番目の数なり是を左右に
 をきかけ合て一○四八五七六と成是に十一番目の数なり是を
 左右にをきかけ合て一○九九五一一六二七七七六となる是四十
 一番目の数なり是を左右にをきかけ合て一二○八九二五八一九六一
 四六二九一七四七○六一七六となる是八十一番目の数なり是を倍
 して内一粒を減じて残り惣米数としるなり是を六万二千
 六百八十粒(あるひは六万三千 八百粒ともいふ)にて除て枡目とするなり

〔十三〕算盤にむかひつぶあぐる事

ある人算盤にむかひ其右のはしに一をひたとくはへてついに
二十桁目にいたりてあるひは八あるひは九を得ること血気さかん成
ころわづかに四五日にて上げたりといへり予是をかんがふるに甚だ偽り
なり人力の及ぶところにあらず凡そ人に百年いたりとも五代
或ひは十代などにて中々上ることにあらず故(かるがゆへ)に其大略をかん
がへて左(さ)にしるすもしくはしく試みむと欲する者は呼吸を吟味
してかんがふべし先ず呼吸昼夜に凡そ一万三千五百息(そく)(天経惑:てんけいわく問ひにしは 二万五千二百息)
歳周(さいしう:としのめぐり)凡三百六十五日として一息に上ぐること凡そ四十なれば昼夜に
五十四万也しかれば一年に一億九千七百十万上ぐる是によりて六百
億年にいたりて漸二十桁目に一余を得る故に三十(一世の 数なり)を以て


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六百億年を除いて二十億代かゝる事をしる況や九に満つるをや

〔十四〕扇にてあさ瓜の値段をしる事
  我が大人(たいじん)いとけなき時に人問ぐていはく
  あさ瓜の出そめし時は人甚だたふとむ愈々
  大きになるに随ひて愈々いやしむ故に諺に
  一寸十文壱尺一文といへり此つもりを以て
  五寸の瓜は何程ぞといひしに大人即時に
  扇をひらきて十本の骨に命じて右
 より一寸二寸三寸と次第にあて扨左より一文二文三文とつい
 手にあつる時六文にあたると答へられき

〔十五〕飯焚く法の事
たとへば釜にて古米壱枡五合を食(めし)に焼(たか)んと欲するとき
其水何程と問う

  答云 水壱枡九合三匁七丈五

 術曰く枡目を置いて是を九倍して定法二枡をくはへ
 得る数を八つにわれば水の枡めしるゝなりしかれども枡め
 又は火の焼(たき)やうそまつにてはあひがたし故に諺に食(めし)たくは
 初めちよろ/\中くわつくわ親はしぬるとふたとるなと云伝へ
 たり但し塩の入る食と鍋にてたくとは少し水を控ふべし

〔十六〕桜木の目付けの事


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右の目付は図のごとく色枝の内一枝ごとに さくら木のふみや
いづれとおぼろけもはなにありしをかずへてぞうる と
いふ歌をかきて各其葉に有る字は数にとらず花に有る字を数に
とる也其数の取りやうは下より最初の枝を一と定め次の枝を二と
定め三の枝を四と定め四の枝を五八と定め五の枝を十六と定
むる也扨人に一字目を付させて其字は枝ごとに花にあるか葉に
あるかと問ふに其見る人たとへばつの字に心を付るなれば一の枝
にては葉にあるといふ故に数にとらず扨二の枝にては花にあると
いふ是を二とおぼえいて又三の枝にては葉にあるといふ故に数に
とらず四の枝にては花にあるといふ是を八と覚えいて五の枝にては


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葉に有と云故に数にとらず扨右の二と八と合て十と成是によりて
右の歌をそらにおぼえいて心の内にてゆびを以てかぞふるに

 さくら木のふみやいづれとおぼろけも
  はなにありしとかずへてぞうる と十番めつの

字にあたる故につの字なるべしといふなりあるひは又をの字に
目をつくるなれば一二三の数にては各葉にありて花になし四の
枝五の枝にては花にある故四の枝の八五の枝の十六合て廿四と
なる故に右の歌のかしらより二十四番目はをの字に当り故をの字
なるべしといふ余りは是に同じ但し中のをゝ奥のおに
紛らはさぬ様にすべし

〔十七〕名香六十四種の目付の事 (但し蘭奢待東大寺と同香也 又みやこ玉槙は名香の外也)

(図:円の最上部から右回りに読みます)

第一 法花経 八嶋 蘭奢待 見吉野 法隆寺 逍遥 中川 花橘
第二 七夕 枯木 紅塵 たつた 丹霞 有明 般若 やうきひ
第三 園城寺 夕時雨 ねさめ にたり 東大寺 千鳥 あかし 菖蒲
第四 寒梅 臘梅 十五夜 薄紅 しやこはん 隣家 雲井 花かたみ
第五 はつせ 斜月 月 種嶋 須磨 うはたき 青梅 しのゝめ
第六 みやこ 八重垣 法花 花雪 玉椿 富士煙 白梅 上馬
第七 橘 花宴 名月 卓 蘭子 標澪 賀 紅葉賀
第八 花散里 薄雲 紅 とび梅 手枕 ふたば 霜夜 早梅


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(図:円の最上部から右回りに読みます)

第一 にたり 十五夜 種嶋 みやこ 橘 霜夜 見吉野 枯木
第二 千鳥 しやこはん うはたき 法華 名月 花散里 花橘 丹霞
第三 菖蒲 雲井 しのゝめ 玉椿 蘭子 紅 法隆寺 やうきひ
第四 夕時雨 寒梅 斜月 白梅 賀 ふたば 法華経 有明
第五 ねさめ 薄紅 はつせ 上馬 紅葉賀 手枕 八橋 般若
第六 東大寺 隣家 月 八重垣 花宴 早梅 蘭奢待 七夕
第七 あかし 花かたみ 須磨 花雪 卓 薄雲 逍遥 たつた
第八 園城寺 臘梅 青梅 富士煙 標澪 とび梅 中川 紅塵

右の目付は裏にしるす丸八箇所ともに各左の方を一番と
定むるなり即ち見吉野・花橘・法隆寺法華経・八嶋・
蘭奢待・逍遥・中川等なりそれより各二三四五六七八と
図のごとくきはめをくなり

  しかれば二番は枯木(こぼく)・丹靍(たんか)・楊貴妃有明・般若
  ・七夕・龍田・紅塵(こうぢん)なりあまりは此例に同じ
 扨目付のしりやうは表の図を人にみせて何れの丸の内に
 目を付るぞと問うに其人たとへば十五夜に目を付るなれば
 第四の丸の内に目をつくるといふなりしかれば其第付の四を
 覚えいて扨又裏の図にては何れの丸の内にあるぞととふに


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 第一の丸の内にあるといふしかれば其丸の内にてかの覚え
 いる四を四番目に当つれば十五夜と見ゆるゆへ十五夜なる
 べしといふなり余りは皆是に同じ

〔十八〕俵数を端なく杉形(なり)につむ事
たとへば米卦百八十八俵を下のはへおほからぬやうに余りなく
杉形につみ度きとき上下の俵(へう)数を問う

  答云上のとまり二十八俵 下のはへ卅六俵

 法曰く俵数卦百八十八俵を置きて二を以て累(ひたと)除(わり)て(是をわること奇 数を得るまで也)
 奇数(乃:すなはち奇遇算の所に 出る故こゝにのせず)九を得るを左にをき是にて俵数を
 除(わり)得数是を倍して六十四となるを右にをきさて左右の

 数を見ておほき方を上下の俵数の和ときはめ少なき方は
 一を引て上下の俵数の差(たがひ)とす是を右にをきたる六十
 四に加減して三つにわれば上下の俵数しるゝなり又初めに
 俵数を見るに奇数なるものは別に術なり即ち自約(じやく)の術に
 あらざればをこなひがたきゆへこゝにのせず

〔十九〕割賦算の事
古にしへ大坂に割賦(わつふ)をする人ありて買ひ懸りは四分手形銀は
六分の積りを以てあつかふに極りある算士に其術を尋ねしかば
即ち買いかゝりの高(たか)に四分をかけて得る数をひだりにをき又手形銀の
高に六分をかけて得る数を右にをき左右合せて法として


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有銀をわれば因法となるを左にをきたるに懸くれば買いかゝりの
取まへしるゝなり又右にをきたるに因法をかくれば手形銀の
取まへしるゝなりといひければ各其さしづのごとく請け取りしに又
其頃一算士の術には買いかゝりの高は引けの六分をかけて
得る数を左にをき又手形銀の高に其引けの四分をかけて
得る数を右にをき左右合せて法として惣負い高の内有銀を
引く残りをわれば因法となるを左にをきたるにかけて是を
買い懸りの高の内にて引けば残りに其取りまへしるゝ也又右に
をきたるに因法をかけて是を手形銀の高の内にて引けば
残りに其取りまへしるゝなり初めの術は相違ありとて

其あやまりをあらはせしかば皆人尤もなりとて此術にぞ
したがひけるときゝつたへはべりしが予是を按ずるに扱ひ
銀の高に峠あり是に過不及(くわふぎふ)有る時は何れも無術也即ち
初めの術は至りて扱銀多ければ手形銀の方反(かへり)て借し
高よりもおほくとるつもり又後の術は至りて扱ひ銀
すくなければ買懸りの方反て借し方より銀を出だす積りに
なるなり其あはざる事をくるしんで改算智恵車と云
書には四分六分又は三分七分より一分九分までいろ/\に
しかへまぎらはして昧者(まいしや)をたぶらかせり
たとへば買懸り六十五貫目は四分手形銀卅五貫目は六分の


25
つもりにして扱ひ銀四拾七貫目ある時は

  答云 四分の方廿六貫目也 六分の方廿壱貫目也

 右の負い高にては峠の有る銀なるゆへに何れの術を用い
 てもあふなり是よりおほきもすくなきも無術としる
 べし

又たとへば右の負高にて扱銀九十四貫目あるとき初めの
術にては

  答云 四分の方五拾卦貫目也 六分の方四拾卦貫目也

 右のごとく六分の方借し高よりも七貫目おほし
又たとへば右の負高にて扱銀九貫九百目ある時後の術にては

  答云 四分の方壱貫三百目不足也 六分の方拾壱貫卦百目也

 右のごとく四分の方壱貫三百目つり出でて六分の方扱銀
 よりも壱貫三百目おほしかくのごとくあはざることを類(るい)
 にてしるべし

[二十]節分の豆の数をしる事
たとへば当年八十四になる人去年の節分まで年々(とし/\゛)くひし
豆の数を問う


26
やつくはらひましよ

これはらふて もらを

ことしは 四十三 くはねばならぬ やくじや

もはやはがいたうて まめがくへぬ

わかいことしやんな

旦那様へ お茶あげま さしやれ


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  答云 三千六百五十二粒

 法曰く八十四を左右に置て左は一をくはへ右は二をくはへ相乗
 して得る数二つに割内三を引けば残り豆数としるなり又
 八十四を左右に置て左は一を引右は四をくはへ相乗して
 得る数二つに割るも同じ断り(按ずるに凡そ人生れたる年の節分にはじ めて豆三粒をくふ逐(おふ)て一増しにくふゆへに杉
 算にたとへて上のとまり三俵下は 其年に一増の俵数を算する術也)

〔廿一〕同豆の数にて年数をしる事
たとへば去年節分までくひし豆の数四千単二粒也今年
幾歳になると問う

  答云 八十八歳

 術曰く云ふ数に八をかけて定法二十五をくはへて平方に開き
 得る数の内三を減じて余り二つに割れば年数としるゝなり
 (但し曲尺平方を用いる時は寸を とる事極めて不尽:ふざん なくさすなり)

〔廿二〕弧背真術(こはいしんじゅつ)の事 二ヶ條
 (漢文読めない)

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  参考 http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1677-09.pdf

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参考 http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1677-09.pdf


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参考 http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1677-09.pdf

 

勘者御伽双紙下巻終

勘者御伽双紙跋
洛の處士中根先生は髫鬌(てうだ)の時しもより
父白山君の業を紹(つい)で此道に精を研きおもひを
覃(ふか)くすること蛍雪年ありひとひ芸窓灯(うんそうとう)
下(か)のつれ/\平素見聞(けんもん)の算話算戯百余
件を集め毎一これに法術を附けて至確(しくわく)に帰し
繕(おさめ)て三巻とし勘者御伽草紙と?(なづ)けこれを
笥底(してい)に投じて敢て人に示さず余久しく

30
先生の荊識(けいしき)を得て常々往来するより先生に
此書有ることを覗ひせちに求めて迺(すなはち)覧(み)ることを
獲(え)たり退いて披(ひらき)読むに其意(こゝろ)国字(かな)をもて解し
間(まゝ)図に状(かた)どりて観覧に便りす先生の志しは
ひとへに童蒙を期(ご)すにあれと其法の妙意は
深造の士も捻髭(でふし)せんものか余一唱三嘆して
手舞ひ足踏む顧(おもふ)に此書の蠧腹(とふく)に葬むられん
ことを慮り遂に先生に謁して梓に鏤め世に

弘めん事を乞ふ先生固辞して曰く其片壁(へんへき)残(ざん)
璣(き)固(まこと)に煥瑟(くわんしつ)の観(みもの)にひす然るを大方(たいほう)の家に
献せす祇(まさ)に二剛(じげつ)の患(うれへ)あらんのみと余再三
強いて遂に剞劂(きけつ)することを得ぬ俄に初学の
士是によりて其霊臺の璞(ばく)を彫琢(しうたく)せず何(なん)ぞ
万鎰(まんいつ)の宝ともならざらんや此(これ)先生撰述の
初志なり

  平安 書林 葛西県謹題


31(略)