仮想空間

趣味の変体仮名

火水風災雑輯(一)36コマ

 

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2592140?tocOpened=1

 

 

36

頃は安政二卯10月二日の夜四ツ時俄に大地震ゆり出し江戸廿里四方人家損亡おびたゞしく

北の宮御府内千住宿大にゆりつふれ小塚原は家並残らす崩れて中程より出火して一軒も

残りなく焼失新吉原は一時に五丁まち残らず崩れ其上江戸丁一丁目より出火諸々にもへうつり又ゝ

角丁より出火して大門口迄焼五十間西側半分残る也その先幸手辺まで花川戸山の宿聖天丁

此へん焼る芝居丁三丁共残りなり焼るかる道大半崩れ焼る也浅草観音はつゝがなくかみなり門

崩れ地内残らず崩れ並木通り残らずすわ町より出火して夫より駒形迄焼る又田原丁三軒丁

辺は少々なり御蔵前通りかや丁二丁目大にゆり浅草見附は石垣飛出る又馬喰丁辺横山町

大門通大伝馬丁塩丁小伝馬丁へん裏表通り大半崩れ両国むかふ本所は石原より出火

して立川通り相生丁林丁緑丁辺迄焼る又小梅通り引船へん迄出火深川は八幡の鳥居の

所より相川丁蛤町まで一えんに焼る又下谷辺は坂本ゟ車坂辺諸々崩三枚橋広小路伊東松坂

の所焼る夫ゟ池の端仲丁裏通り崩表通りあらまし残る御成道石川様焼る根津二丁茅屋丁通り

壱丁目ゟ二丁目迄焼るむえん様上は松平備後守様御屋敷焼る千駄木団子坂此辺三軒つぶれ谷中

善光寺坂上少々残るなり根津二丁共惣崩れ中程にてニ三間残るなり又丸山白山けいせいがくほ辺大ぶ

崩れ本郷より出火して湯嶋切通しまで焼此所加州様御火消にて消口をとる湯島天神の社

少々いたみ門前は三組丁まで残らず崩れ両側土蔵残りなくふるふ又裏通りはだるま横丁新丁家大川

ばたけ横根坂此辺かるしむろわれて大地一尺程さける妻恋坂は稲荷本社の土蔵少々崩れ御宮は

つゝがなし丁内は一軒も崩れず夫ゟ坂下建部横内藤様御屋敷表長屋崩れ東えい山地中大半崩れ

本堂つゝがなし昌平橋通り神田同御臺所丁旅籠丁金沢丁残らずくずれ筋違御見附少々いたみ

内神田外神田共残らずふるふ也大通りは神田須田丁新石町鍋丁かぢ丁今川橋迄裏丁

表丁百三十六ヶ丁ほど残らずくずれ先は十軒店より日本橋裏通り西川岸ゟ呉服丁迄辺

中通り四日市魚がしゟくれ正丁へん迄所々大くづれ又大通りは南かぢ町ゟ出火して南伝馬丁

ニ丁目南大工丁畳丁五郎兵衛丁東は具足丁常磐因幡丁しら魚屋西こんや丁迄焼る京橋

向ふは新橋辺まで崩れる夫より芝口は柴井丁宇田川丁残らず焼る也又神明前より三嶋丁

へん残らず崩れ又金杉より芝橋までしよ/\崩れる高なわ十八丁のこらず大地壱尺

ほどわれたり品川までそんじ芝表通りは御濱御殿少々いたむ佃島も右同断夫より芝

赤羽根通りゟ麻布広尾へんまでしよ/\崩れ出火ありまた山の手は四ツ谷かうじ丁

武家地寺院本社のくづるゝことおびたゞしく御城内は宮の御門よりかすみが関は大小名

あまたそんずといへども安芸様黒田様は格別のことなし八代洲河岸はうへ村様

松平相模守様火消やしきのこらず焼るなり又和田倉内は松平下ふさの守様松平

肥後守様此へん大にふるふ夫ゟ神田橋御門内は酒井左衛門様森川出羽守様大に崩れ小川

丁は本郷丹後守様松平紀伊守様柳原弐部大輔様板くら様戸田様此へん残らず

焼る又牛込より小石川伝通院門前のこらず崩ればん町ゟ坂田町お茶の水辺大に

ふるふ築地門跡本堂はつゝがなく地中過半崩る小田原丁ゟあさりがし向は御はた本様方御家人衆御屋敷残り

なくふるふおよそ町の間出火三拾七ヶ所家数寺院堂社の損亡いち/\かぞへあぐるにいとま

あらず又東海道川崎宿少々神奈川宿は大にふるひ大半崩れ程ケ谷は少々戸塚

宿はしよ/\ふるふ又藤沢平塚大磯小田原辺迄格別の事なしといへども諸々ふるひいたむ仲仙道

は板橋ゟわらび宿浦和あげ尾大宮迄は大にふるひ其先は熊が谷宿迄所々ふるふ日光街道草加宿

越ヶ谷格別の事なしといへどもしよ/\いたみさみづ大もりへん御府内四里四方五千七百余

諸々ふるふ又水戸街道は市川松戸うしく宿辺下総口は行徳船橋辺はわけておびたゞしくふるふ奥州街

道は宇都の宮辺までふるふ又青梅街道は半能?ざきちゝぶ大宮辺迄ゆりふるふかゝる凶変は

古今未曾有にて明暦火災の度にいやまして脂肪おひたゞしくその数いくばくといふこと量しるべからす死人は車

馬につみ舩にのせて寺院へ送る誠にめもあてられぬ形勢也かゝる大変も翌日になりては火も消地震も折々ふるふど

いへども格別の事なし一丁数五千三百七十余崩一御屋敷弐千五百六十余軒損そ一寺院

堂社三万九千六百三十ヶ所一土蔵の数五億八万九千七百八十六ヶ所かく家やきを失

ひたる軽き者へはそれ/\御手当救米被下置四民安堵に帰し鼓腹して御仁徳あふぎ

奉るは実に目出度事どもなり

 

(中程)

あざぶ ひろを 赤羽ね 品川 佃島 しんち 深川八まん 相川丁 蛤丁 すさき

「大名やしき 七分焼る」 南伝馬丁ニ 南大工丁 畳丁 五郎兵衛丁 具足丁 ときは丁 いなば丁 西こんや丁 しら魚やしき 荒井丁 宇田川丁 永代ばし ときは丁 六間ぼり おふねくらまへ

 

神田へん 日本はし 此辺少々かるし 田原丁 三軒丁 大はし すは丁 両国はし 石原 立川 緑丁 ばんば

 

(下)

「昨日迄書上ヶ分料ゟ他我人

十九万三千八百五十人

寺にゟ死人二十五万四百八十八人」

大音寺 吉原 観音 こまかた 並木 花川戸 あづまばし 小梅 月ふね

はしば 今戸 さんや 芝居町 田町 馬道 山の宿 小塚原