仮想空間

趣味の変体仮名

宝永千歳記 巻之五(コマ27~下段のみ)

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2554613?tocOpened=1

 

 

27(下段を続けて読みます)

宝永千歳記巻之第五

   風流都めぐり

去程に伝(つて)之助。天満宮霊夢に任(まかせ)。

国々を一見し。我が古郷(ふるさと)に帰りしが。猶洛外

をめくらんと。東を見れば関路(せきじ)より。

上(のぼ)りし人に粟田口(あわたぐち)。とうまの慰(じやう)がや

さしくも。作し菊か南禅寺。こい紫

の衣めす。人はいつれも入院(じゆえん)せし。爰は

さすがに京五山(ごさん)。至誠深心(しじやうしんじん)。心廻向(しんえこう)。この

三心(さんじん)の法門を。常に論議をする?の

うしろに有と聞からに参りて下向

す?人の名残おしさに幾度(たび)も跡を

 

 

28

見かへり。仏にぞ。ふかく祈誓(きせい)をいたし

つゝ。拝(おがみ)て頓て道心を。發(おこす)すすがたは

墨染の。ころもの色は黒谷と。成て

後生はよし田山。神をいさめるかぐら岡。

こして東をみわたせば。日はほの/\

と入あひの。鐘はいづくとしら川の。浄土

寺(じ)にてや有にけん。北を遥に詠れば。

跡はふりゆく旅の空。いつか帰洛を

勝軍の。地蔵堂なる坊主こそ。はや斎(とき)

くうてはちぶせの。山の麓にあり難く。

とき置(をく)法(のり)か一乗寺。をこたらずしも

修学寺の。空ふく風にあくがれて。あた

 

まはいつもひえの山。登くだりの辛労

に。すがたはやせの里とかや。かる湯に

入て養性(ようじやう)し。無病に成て楽(らく)をする。

人はふとりて大はらの、奥よりにほひ

くる物を何ぞと問ばたき物と。こた

へぬるこそおのつから。いとやさしく

も聞えけれ。谷の小川のひゞきまで。

みな聲明(せうめう)の呂律(りよりつ)をも。わかつ調子と

おぼしくて。心すみたる折からに。嶺の

あらしのさすらひ行(ゆき)紅葉ふみ分(わけ)なく

鹿の。法事(ぼうじ)の声にまがひにき。所の人

に坊/\の。名をしとへども有やうに。教(をしへ)

 

 

29

もやらず偽るを。いぶかしくてや尋ぬれば。

我が友だちをよび出し。一人ならず良(りやう)

忍(にん)や。せうこの弥陀をせいもんに。立(たて)て

うそをぞ月の夜も。雲のは。へがて

くらま寺。木々の梢に咲(さく)華の。つゆは

あまたにおちあひて。のぼりし坂の

道しるく。足もとはたゞ毘沙門の。堂

のうしろのさかしさを。みれば心も

うし若の。君には誰かかふじやうが。谷

とは。こゝやいひつらん。浦のみなとに

あらねども。いつか向ひに来(き)ぶね山

ふしおがみつゝ帰るさの、道路(みちぢ)に立る

 

いちはら野。たどり/\と行末は。みな

もののふの慰に。手放しあそぶ鷹

の山。われをば誰かまつが崎。みぞろ

池より水鳥の。立てゆく衛はかも

山や。麓にみや井しづかなる。大明神

のおまへには。皆はん/\にかちまけ

の。あらうひしたる競馬あり。わきには

鑓をつきたてゝ。見物おほきとの

達の。かへさにいざやいひ合(あわ)せ。しち

くにしてぞさかむかひ。せんと云儘

いそぎ行(ゆき)。爰にしばらく立ながら。

休らひ花を今宮と。をしへられつゝ

 

 

30(挿絵)

 

 

31

詠(ながむ)れば。皆面々にかり衣(ぎぬ)や。小袖の数

のさま/\に何れをとらぬ中にしも、

わきて色よき紫の。寺に参れば。も

てなしに。すゝめすゝむる三の膳。喰(くう)/\

ながら寂々の。心は更にしらね共。

まづ非時(ひじ)くうて大徳寺。ちかも徒然(とぜん)

の折節に。よきしあわせは船岡の。かた

へにのぼる夕煙(ゆふけふり)。きえ行人は観音の。

御手(みて)にわたるか蓮臺寺(れんだいじ)。立(たつ)る卒塔

婆の其数を。千本ばしと思ふなよ。

むかひをみれは極楽を。まなぶお寺か

金客(きんかく)の。悪魔をはらふ石不動。拝みて

 

かへり。行(ゆく)空に。初音ふり行郭公(ほとゝぎす)。聞

に北野の宮仕(みやじ)たち。わが旦那への振

舞に。連歌(れんが)一折(をり)興行し。朝食(あさめし)過て

てんじんの。用意とこそは聞えけれ。

さてよき酒をかんせうじやう。梅の

花のみなどをして。餘(あまり)に酔(えひ)のけつ

きにや。身はかひ川となりにけり。

ぶらり/\とゆく程に。ねぶさは眠

し一ねむり。寝ばやと思ふ心をば。

かうじになすか御室山(おむろやま)。越(こえ)てうき

世の嵯峨野にも。やがて近(ちかく)ぞなる

瀧の。川瀬の浪は高雄畑(たかをばた)。げに有難

 

 

32

き文学(もんがく)の。いましめやぶり候(そうら)はゞ。其

とがの尾に春日どのはやく罰(ばち)をぞ

あたご山。参るごくうや。みあかしの。

かねをかけぬるれいてんぐ。物すさ

まじき姿をぞ。にせて出(いで)たつ山伏は。

皆国々へ勧進に。常にいふなの三郎

を。わがおやかたに頼(たのみ)つゝ。いつも斎(とき)

をぞくしやうじん。帳(ちやう)に付置(をき)とる酒

を。算用なしに呑ぬれば。借(しやく)栴檀(せんだん)と

聞(きく)釈迦の。在世の時の説法に。うかひあ

がるか天龍寺。夢窓(むそう)国師の座禅まめ。

くらいたかきも賎しきも。悟(さとり)はおなじ

 

明星の。出るをみれば虚空蔵(こくうぞう)。法輪寺

より見渡せば。下す碇(いかだ)ぞおほひ川。

岸根によする波風の。吹行うらは

あらし山。陰も茂りて常磐なる。松

の尾にこそ着(つき)にけれ。又行末の道は

だし。十万億と聞しかど。まいれば近

き西方寺。庭面(にわのも)みればおもしろき。

楊梅桃李(やうばいとうり)かず/\の。色香は今も古(いにしへ)

に。かはらで爰に在明(ありあけ)の。影もふりたる

池水の。みぎはにたゝむ岩がねに。

くねりてかゝる松か枝(え)の。みどりの色は

青柳の。なびく霞のうちにしも。くれ

 

 

33

行春は小(を)しほ山。神さびわたる大

はら野。花見に来(きた)る児(ちご)わか衆(しゆ)。みめも

心もよし峯や。雨が下にはあるまじと。

おもひながらも別行(わかれゆき)。やがておあはふと

思へども。へだちこそすれ年(とし)月の。光

そふるか光明寺。皆爰許(こゝもと)の名所をも。

いざ見物をせうりう寺(じ)。岡の邊(べ)過て

越(こえ)行ば。山崎にこそ着にけれ。実(げに)くら

き夜の重宝(てうほう)は。いづれも多き物なれ

ど。油ぞ命たから寺(でら)。是よりおがみ下

向する。道路(みちじ)ばかすな狐河。ながれ

久しき源の。氏神にてぞおはします。

 

たかきみかげを三かの空。弓張月の

曇なく。澄(すむ)やかつらの男山(おとこやま)。登りて

むすう岩清水。にごらぬ御代の道

直(すぐ)に。ゆけば程なく淀川に。水の水(み)

無瀬(なせ)も続(つゞき)つゝ。あまたの水は横落(おち)て

舟ひきのぼる芦原に。むれいる

鳥の立さはぎ。鳥羽田の稲の穂に

出て。色にこそなれ秋の山。よゝに

竹田やふしみ迄。いそぐ心の道す

がら。若(もし)悪党やありなんと。おもへば

頓てこはた山。すそ野をゆけば

廣芝(よこしば)の。尾花が末も霜がれて。さえ

 

 

34

ぬる月を三室(みむろ)山。あらしのこそになき

よはる。虫の音(ね)聞ばあはれにて。いと

ど心もうぢ山の。喜撰群衆(きせんくんじゆ)を押

なへて。平等院のたうとさに。参る

よりしも別義(べちぎ)なく。むじやうおこして

茶売(ちやうり)たち。菩提の種をまきのしま。

柴舟こぎてゆく末の。みちびき頼(たのむ)

六地蔵。もりをとめつゝ侘てすむ。庭は

茂りて深草の。山の桜に散ぬれば。

松に花咲(さく)藤の森。陰(かげ)ふかくしもかこ

ひすむ。里の家井もかはりつゝ。追たて

らるゝ古屋敷。唯いなりにとわび事を。

 

(挿絵)

 

 

35

すれどかなはで恥をかく。住家(すみか)もがな

と行(ゆく)道の。一二の橋のあたりなる。茶

屋の亭主は誰にしも、おちやまい

かと東福寺。三もんほどはれう足(そく)

を。常に置(をき)てぞとをりゆく。人は律

儀にせんゆじの。寺に参りて憚と。

おもへど舎利を所望して。おがむかへ

さに今熊野(いまぐまの)。在所を過て行すえ

の。長棟みれば観音の。ひろき誓(ちかひ)に

なぞらへて。三十三間(げん)有がたく。思ふ

からにぞ籠りつゝ。八日九日通夜をs

て。夜はほの/\濁点と明ぬれば。あみだ

 

か峯に出(いづ)る日の。影さへおほふ。大仏の、

堂をしづかに拝みつゝ。東をみれば方々

の。むなしき人を鳥べ野に。たつる

卒塔婆は。くちはてゝ。その名を何

とゆふけふり。霞棚引(たなびく)はつ春の。子(ねの)

日(び)にひくや若松が。池にとらふる蛙(かはず)鳴(なく)。

うたの中山せいがんじ。ひばら松ばら

すぎゆけば。嶺はあらしの音羽山。お

ちくる瀧は清水の。地主(ぢしゆ)権現の花

盛(さかり)。ちれども又ぞさくら木の。本(もと)に

やすらふ女房の。神に祈をかけ

帯の。とく/\われが懐妊の。子やすの

 

 

36

塔とふしおがむ。皆人々の毎日に。をく

散銭は八くわんの。経書堂(きやうかくどう)は是かとよ。

げにもえならぬ霊山(れうぜん)は。うへみぬ鷲

の山とかや。祇園精舎の鐘のこえ。いか成

人の諸行にも。無常を發(をこ)す知恩院

遁世すれば悪逆の。濁にしまぬ

青蓮院(せうれんいん)。色もふかき九重の。花の

都の廻(めぐ)りをぞ。見物したるおぼしとて。

書(かき)?めたる水茎(みづぐき)の。すえのはてこそ

久しけれ

   洛陽嶋原の戯言(けげん)

去程に伝之助。廻国の願成就して。都に

 

帰り休息せしが。言粋にいざなはれ。

旅の労(つかれ)を慰めんと。四条河原や嶋ばらを。

見物したる其時に。一紙の文(ぶん)にかく斗(ばかり)。

天下平均に而(して)四海風無(かぜなし)。世間豊饒(ほうねう)に

而六合(りくごう)銀に有(あり)。洛の西南に傾城町あり。

号して嶋原と曰(いふ)。其名何に因て尓(しか)云(いふ)。

寛永十五年嶋原陣の頃。今の朱雀(しゆしやく)野

に移す。依て以て町の目(な)とすなり。彼(かの)町

狭少(きやうしやう)なりといへども。一つも闕(かく)ることなし・

若(もし)歌人を求(もとめ)ば定家あり(遊女 の名)家隆(かりう)あり。

(遊女 の名)歌書には古今(こきん)。?(な:ま)参得には丹霞(たんか)(名)

あり。或は身を塩竈(名)に寄(よせ)。意(こゝろ)を山歌(さんか)(名)

 

 

37

に嘯(うそむ)く。朝には駕(か)に乗じて上屋(あげや)より

戻り。暮には袖を連(つら)ねて家門に立(たち)。契り

堅牢なること石竹に比す。寿の延()ながきこと

亀の介(名)に関(なぞら)ふ。昼は独(ひとり)閑房(かんぼう)の邊(ほとり)に居(きよ)

して千話(せんわ:ちわ)を書(かき)。暮(よる)には真夫(まぶ)。夜衆(やしう)。隔(かう)

子(し)の?(うち:妻?)に集(あつまり)て。三線(さみせん)を挽(ひき)て買(かふ)人を待(まつ)。昨(きのふ)

は比翼連理の契を誓(ちかひ)、今(けふ)は天地雲

泥の交(まぢはり)に変ず。葛城(かづらき)の(遊女の 名也)夜契(よるのちぎり)薄き

ことを悲(かなし)み。出雲の(名)神に祈(いのり)て利生を

願(ねがひ)得んことを。立て采女(うねめ)の(名也)土器(かわらけ)を採(か)

て玉水(ぎよくすい)(名也)に酔(えひ)。宴(さかもり)すること終宵(よもすがら)。浄瑠

璃を語て。東天の白(あけ)なんとすることを

 

知う浮世は五十年。一寸の前は闇。人更に少(わかき)

時なし。光陰箭(や)之介のごとし。銀を集て

何人(いつれのひと)か。財を蓄(たくはへ)て桃顔(とうがん)の笑(えみ)を買(かわ)ざる。若(もし)

強(しひ)て止(やむ)こと無(なく)んば。捅(よう)を蒙らんこと必せり

    伏乞(フシテコフ)  笑覧(シヤウラン)

寂寥雨中望上屋(ジヤクレウタルウチウノゾムシャウオクニ) 夭々眉爺酒三盃(ヨウ/\タルビフサケサンハイ)

閣思君一夜揚銭(カクシキミイチヤノアケセン) 銀是人間万事媒(ギンハコレニンゲンバンジノナカダチ)

  四条河原の戯言

夫人者(それひとは)。一樹の陰。一河(いちが)の流(ながれ)。宿者(やどるもの)汲者(くむもの)。

皆是他生の縁ならずや。況や日々に

歩(あゆみ)を運び媒を求め。幔幕の内。屏風(びやうぶの)

透(すきま)。玉簾(ぎよくれん)の間に相見(あいまみ)へんことを願い。相(あひ)

 

 

38

云(いふ)ことを笑。股(?ふもく)を突(つき)。肩を引者(ひくもの)乎(をや)。人(ひと)岩(いわ)

木ならず。何ぞ情を懸(かけ)ざらん也(や)。宝永

乙酉(きのととりの)頃。洛陽四条河原(らくやうしでうかわらに)衡(かぶき)若衆あり。諱(なづけ)

而(て)山本掃部(かもん)と云。其容貌縦令(たとへば)。絵を

写(うつす)といふとも争(いかてか)筆を尽(つくさ)ん也(や)。加之(しかのみならず)一曲を

唱(との)ふるときは則(すなはり)。梁塵(むなぎのちり)をして起(おこ)らしめ。

行(ゆく)雲をして遏(さえぎ)らしむ。虞公(ぐこう)秦青(しんせい)と雖(いへども)

其右に出(いづ)ることなし。拍子を踏(ふむ)ときんば

則臺上(たいしやう)に雷(いかづち)を轟かし。白玉盤(はくぎよくばん)を奔(わしる)

がごとし。扇を挙(あぐる)ときは則天人が天降(あまくだり)

菩薩来迎(ぼさつのらいかふ)かと疑(うたがふ)也。前代未聞渕(いわん)や

当世耶(をや)。於茲(こゝにおいて)見者(みるもの)人に語り。聞者(きくものは)見(みん)

 

ことを憶(おもふ)て、貴(き)と無(なく)。四条河原に

群集(くんじゆ)すること。雲の如霞のごとく。踵(くびす)を

続(つぎ)肩を差(たが)へ。札場に到(いたつ)て鼠戸の高下

を問(とふ)。茶屋に頼(たのん)て。桟敷(さんじき)の有(ある)か無(なき)かを尋(たづぬ)

芝居の中(うち)。衆囲(しうい)に遶(めぐつ)て。前者(まへなるもの)。立とき

んば。後(うしろ)なる者礫(つぶて)を飛し。砂を投て。雑(ざう)

言(げん)区々(くゝ:まち/\)焉(えん)たり。哨々(しよう/\:くちたゞしからず)焉たり。囂々(がう/\:かまびすし)焉

たり。或は死すと叫(さけび)。人殺(ころす)と叫(よばふ)。或は

親をなし耶(や)と云こと有(あり)也。輦美(鄻?:れんび)。止間(やむま)

なし。浮岩声(あこがるゝこえ)。洋々として耳に盈(みて)り。

千万人の心。一人(いちにん)に属す。空情(くうじやう)時移り。

日暮而(ひくれて)。魯陽(ろやう)が戈々(くわ/\)。虞公の劔(けん)なき

 

 

39

ことを恨む。可謂(いふべし)理(り:ことはり)至極(しごく)矣(すと)。余(よ)謂(いへ)らく

浅間敷哉(あさましきかな)今生(こんじやう)七十。露のごとく雷(いなびかり)の

ごとく。風前(かぜのまへ)の燈(ともしび)。朝(あした)の霜。浮世(ふせい)一分(いちぶ)。

五輪(ごりん)一寸前(さきは)闇。君故に命を捨(すつる)こと。豈(あに)

惜(をし)むべからんや。如此(かくのごとく)語(つげ)んことを。中(うち)に

思といへども、横心(わうしん)を引。待(まて)暫し此意(こゝろ

古人の諺あり、命を全(まつたう)して亀は蓬莱

に逢(あふ9也。人の果報は知(しり)がたし。自然(じねん)天然

神也(かみか)仏也(ほとけか)。御恵(おんめぐみ)あつて何日(いづれのひ)何時。市町(いちまちの)

辻而(つじにして)。金を千にし。銀を千にし。銭を千

にして。拾得(ひろいうる)ときんば。彼与此(かれとこれ)と良(よき)媒(なかだち)と

為(なつ)て。山防河帯(さんほうかたい)の盟(ちかひ)を結者(むすぶもの)尓(か)。股

 

如斯(かくのごとく)思量(しりやう)する則(ときん)ば。慙心(ざんしん)に慰方(なぐさむかた)あり。

嗟嗚(あゝ)。戯謔(げぎやく)。扈(ぎやく)を為(なさ)ず。一張。一馳(せ)。聖賢(せいけん)の

道也。老者(おひたるもの)尓。若者(わかきもの)尓(の)。謹(つゝしみ)哉(かな)。野拙(のせつ)

     辞曰(ジノイワク)

  暫難貴忘(シバラクタットミガタシバウ) 釈迦弥陀(シヤカミダ)

去救此苦(コノクルシミヲスクハザルナンゾ) 縦雖非道(タトヒミチニアラズトイヘドモ)

孔子孟軻(コウシモウカモ) 亦換其心(マタソノコゝロヲカエン)

不量四條(ハカラスシデウ) 紅塵之中(コウヂンノウチ)

覩彼少年(カノショウネンヲミレバ) 霽月之質(ハレタルツキノカタチ)

諸方称美(シヨホウヒヲシヤウズ) 一座増輝(イチザヒカリヲマス)

其掃部郡草牡丹(ソレガシカモングンサウノボタン)。衆干し太白(シウセイノタイハク)。二八西施(ジハチノセイシ)

 

 

40

再生斯土(フタゝビコノドニシヤウジ)。遠島莫回船(エントウフネヲカヘスコトナカレ)。千年ノ北州猶(ホクシウナヲ)

祝御齢(ギヨレイヲシクス)。兼窮?(草冠に異)双枕(カネテキワメテマクラヲナラベンコトヲコヒチカフ)。

  掉腰則(トウヨウハスナハチ)。 絲櫻(シアウ)。絲柳(シリウ)。

  挙臂則(ヒチアグルトキンバ)玉梨(ギヨクリ)。玉椿(ギヨクチン)

衣裳上ノ中。繻子有(シユスアリ)。緞子有(ドンスアリ)。河内(カタイ)織有(ヲリアリ)

金鐔(キンツバ)ノ大小。正宗耶(マサムネカ)。貞宗耶(サダムネカ)。奈良物耶(ナラモノカ)。

  見雪膚者叫消(ユキノハダヘヲミルモノハキエントサケビ)

  近紅顔者被照(カウガンニチカヅクモノハテラサレ)

  徒停於舞台下(イタヅラニブタイノモトイトゞムル)

 

宝永千歳記巻之第五終

 

    書林   京二条通  三崎庄兵衛

宝永二乙酉歳  江戸黒門前 中野孫三郎

  仲夏吉祥日  大坂平野町 三崎半兵衛

 

 

(新日本古典籍総合データベース巻之六コマ91へつづく)