仮想空間

趣味の変体仮名

人倫訓蒙図彙 四巻(商人部)

読んだ本 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2592442?tocOpened=1

 

 

3

   商人部(あきんどのぶ) 次第不同

「呉服(ごふく)や」応神天皇の御

時 唐土(もろこし)より呉服(くれは)空織(あやは)と

いふ兄弟の女わたりて絹

を織れり 此名によそへ

て上品(じやうぼん)の着物(きるもの)を呉服とは

いふ也 呉服や中立売(なかたちうり)西洞(にしのとう)

院(いん)後藤縫助(ぬいのすけ) 江戸壱石(いちこく)

橋(はし)南の角 小川通出水上ル

丁 茶や四郎次郎 江戸檜(ひ)物

町 上(かみ)長者町大宮 江戸す

 

(挿絵内)「呉服や」

 

 

4

きや橋 祐徳(ゆふとく)といふ三嶋や

吉兵衛 六角通油小路 江戸

日本橋南一丁め 永住といふ

亀や庄右衛門 四条坊門西洞(にしのとう)院

新四郎 江戸日本橋南へ一丁

長者町通 上柳(うへやなぎ)彦十郎 本

谷町二丁め 甫斎(ほさい)といふ 其外

室町を始 所々にあり 江戸は

本町 石(こく)町 大坂は本町 伏見町

「御錦(にしき)屋」大和錦とて由緒

あるとかや 金(かね)一尺代(だい)弐匁五分

 

東洞院(ひがしのとういん)二条下ル町 一井

五郎左衛門  「糸や」唐船着

岸の時 長崎にてかいとり

て絹や組や抔にうりわ

たすなり 所々にあり

「椀家具(わんかぐ)や」品々の椀 折敷(おしき)

并(ならびに)弁当 盆 重箱 提重(さげじう)

張付(はちるけ) 障子縁(しやうしふち) 書院(しよえん) 床(とこ)の

縁抔(とう) 万(よろづ)塗物これをあき

なふ 新町二条の北にあり

「唐物(からもの)や」器(うつは)物 香具(かうく) 革

 

(挿絵内)「糸や」「椀家具や」

 

 

5

紙 薬 墨 筆 抔(とう)万(よろつ)長崎

着岸の物をかいとりて

kろえをあきなふ 所々に

あり  「質や」萬(よろづ)目利

に応じて金銀をかす 偽(ぎ:いつはり)

真(しん:まこと)の評判に及(およは)す 請人(うけにん)

を取てこれを証拠とし

て札を出(いだ)す也 大坂の質

や数(かず)合(あはせて)三百四十五軒有

「古手屋(ふるてや)」絹布 木綿抔

足袋 帯にいたるまで

 

古着 質の流(ながれ)直をかいあつ

めてこれをあきなふ 烏

丸通二条下ル丁 五条通

町の西 所々にあり

「切屋(きれや)」絹巻物 萬(よろつの)裁切(たちきれ)

を呉服所(しよ)よりかい集(あつめ) 又は

長永(ちやうえい)をきりても望(のぞみ)に

したかひて これをあき

なふ 触売(ふれうり)にもありき

所々に住す  「道具屋」

一切の古道具かいとりて

 

(挿絵内)「唐物や」「質や」

 

 

6

それを商(あきなふ) 大見世(おほみせ)を道具や

と称じて 小見世を古金(ふるかね)

棚(たな)と称ず 一条の西堀川

四条の下押小路(しもおしこうぢ) 薮下(やぶのした)

抔(どう)にあり  「持遊訥物(もちあそひこまもの)や」

童子のもてあそび物 一

切此所にあり 諸方の細

工人 おもひ/\のあみたてを

つくりて此家に持来(もちきた)

る 但(たゞし)紙薄板抔をもつて

造る雑品の物なり 五条

橋の西 此棚あり

「酒屋」或書に云(いはく)酒は天竺

の摩訶娑利夫人(まかしやりぶにん)はじめ

てこれをつくる 其年

癸酉(みつのへとり:癸=みずのと)なるがゆへに三水(さんすい)に

酉を書(かく)也 又云(いはく)堯(ぎやう)の代(よ)に

継子をにくむ母の飯(いひ)に毒

をいれてあたへけるを 其

子これをしりて 杉の三

本有(ある)所へすてけるを 雨露

のしたゝりにて わきて

 

(挿絵内)「古手や」「切や」

 

 

7

よき味となる これ酒也

夏禹王(かのうわう)の臣下これを

つくる 禹王(うわう)きこしめし

て痛哉(いたましいかな)末代此味にふけ

つて 人をして迷乱(めいらん)すべ

しとなげき給へり 聖

人の一言 神(しん)のごとしとか

や 京・大坂・奈良・伊丹・鴻の

池等 名酒品々にあり 酒

造る男を杜氏(とうじ) 漉弱(ろくしやく)と

いふなり  「醤油」堺を

 

名物とす 大坂と両所に

造(つくり)て諸国にいだすなり

「酢」和泉の酢 名高し

ある書に 酢は聖人も こ

のみ給しとなり 勧善書

にも 酢食して眼(まなこ)を

開かしむっとsり されば

老子(らうし)は西にゆびさして

酢を求(もとむ) 釈迦佛(しやかふつ)は二君(じくん)

子(し)の酢をあいし給ふを

よんて 酢吸(すすい)と号し

 

(挿絵内)「道具や」

 

 

8

給ふ 酢坪(すつぼ)に右の三像

を絵かいて三吸(さんすい)とも酢

吸ともいふ  「糀師(こうじし)」味噌

や饅頭や等 其外万民こ

れをもちゆ 麹舟(こうじふね)薄板(うすいた)

あり これにもり合(あはせ)て

室(むろ)に入て これを萌(もや)す也

其合(がう)弐升のさため成ゆへ

はからずしても これをかふ

なり 実(まこと)に律儀のいたり

なり  「味噌屋」看板に

 

節掻(せつかい)を出(いだ)す 調味 和する

能(のふ)あつて 人身の保養す

る處一日も離(はなす)べからざる

もの也  「紙屋」諸国よ

り出(いた)す名物品々あり

仏在世にはいまだ紙なく

して多羅葉(たらよう)に書(かき)給ひ

しと也 唐土にては竹

を割て字をほりつけ

しとなり 記私(きし)といふ

者 はしめてつくりける

 

(挿絵内)「酒や」「酢や」

 

 

9

とかや 日本にても木に

書けるゆへ 書札(しよさつ)を呼(よん)て

木札(きさつ)といひしとかや

「小間物や」一切の具 此所

にあり 都鄙において

重宝の商人(あきんと)なり 京は

京極通 大坂 堺筋

「本屋」上古には銅(あかゝね)をも

つて板をつくる 唐土

本銅板(どうばん)也とかや 中頃

木をもつて植字(うへじ)をなす

 

それもいつしかすたりて

今は板にこれを彫(ほる)也

紙は美濃より出るなり

其外 杉原(すぎはら) 唐紙(とうし) 半紙(はんし)

摺(ずり) 本によつてかはれり

一切経の板(はん)黄檗(わうばく)にあり

鉄眼(てつげん)法師の寄進なり

其外 論釈(ろんしやく)の中(うち)に蔵内(ぞうない)

蔵外(ぞうがい)とてあり 蔵内と

いふは 経蔵にこもる書

なり 此分 数通(すつう)あり 今に

 

(挿絵内)「麹屋」「味噌や」「紙や」「小間物や」

 

 

10

至(いたつ)て年々(とし/\)これを彫(ほり)彼(かの)

蔵に納るなり 唐本(とうほん)

や 外(ほか)にあり

「薬種屋(やくしゆや)」一切草木鳥獣

にいたるまて薬種数

をつくして唐土より渡

し 其外和国の薬多

く貯(たくはへ)て これを商(あきのふ)也 薬の

数 本草(ほんさう)綱目(かうもく)一千八百九

十二程あり 神農本経(しんのうほんきやう)には

三百六十五程あり

 

「鮫屋(さめや)」されば さめを武

士の調法し給ふは 一戦

に向(むかう)て拳を剣のうち

に定む さめの つふ あら

ければ 一刀(とう)より千刀に

及(およふ)といふとも う手 しり

そかす むかしは柄に糸

を巻(まく)といふことなし 中

頃よりまくなり 異国より

わたす柄鮫 鞘鮫(さやさめ)品々あ

り 其名はサントメ チヤンハ

 

(挿絵内)「本屋:」「和歌???抄小本 板行」「さかいや 薬種 与惣兵衛」「鮫屋」

 

 

11

なんと目利有(ある)事也 京は

二条通 江戸は通(とをり)町 大坂は

高麗橋(かうらいはし)壱丁目にあり

鍔屋(つばや)」鍔の寸法は三寸

一分なり 今は定(さたむ)る事なし

めん/\のすきにまかす つば

の徳は軍書に見へたり

寺町二条通 大坂は堺筋 高

麗橋一丁めにあり 大小の

古鍔(ふるつば)をもとめてあきなふ

又は鍔磨(つばすり)に誂(あつらい)てつくらしむ

 

各々家をたてゝ くさらか

しを秘密する事也 鉄

のくさらかし 一たんはん一両 一い

わう一両 一はくろかね一分(ふん) 一ね

すみのふん一両 水にてとき合(あはせ)

赤つち白つちを合てぬりて

火にてやき付る也 其後 す

りおとして油をぬれは 黒(くろ)

色(いろ)になる也 あかゞめは 一たん

はん一両 一いわう一両 一鼠の

ふん一両 梅のすにて合(あはせ)ぬる也

 

(挿絵内)「鍔や」「刀屋」「両替や」「銅屋」

 

 

12

鍔磨大仏 近辺所々に住す

「刀屋」奈良をはしめ 美濃

其外諸国より打いだす

刀(かたな)腰指(わきざし)拵てこれを売る

所は寺町 三条の南 油小路(あぶらのこうぢ)

二条南 其外所々にあり

「両替や」金(きん)と銭の相場

によつて利徳を考(かんがへ)両替(りよかい)の

分(ふ)によつて渡世す 意(こゝろ)正直

にして無欲なる商人(あきんど)は世に

まれ成べければ 分(わけ)て此

 

商(あきない)は因果をわきまふべき事也

「銅屋(あかゞねや)」銅(あかゝね)諸国より出(いだ)す 真鍮

も同所に商(あきなふ) 一切の金物師

れをつかふなり 錫 鉛 ともに売(うる)

所もあり  「鉄や」鉄は諸国

より出す 備中の鉄を名物と

す 又は 播州よりいだす 歌に

真鉄(まかね)といふは鉄の事なり

「瀬戸物や」一切の焼器物(やきうつはもの)諸

国より出す 然共(しかれとも)肥前唐津

やきを面(おも)にあきなふゆへ 瀬戸

 

(挿絵内)「瀬戸物や」「荒物や」「帷や」「綿屋」

 

 

13

物やといふ也 所々にあり

「荒物(あらもの)や」旅荷物包(つゝみ)の一宿

薦(こも) 渋紙 縄 細引(ほそびき) 乗掛(のりかけ)の

跡付(あとつけ)抔(とう)これをうり 商人荷物

は問屋(といや)に来りて是をつゝむ 其

外(ほか)さし木履(ほくり) 塗木履(ぬりほくり)

「帷屋(かたびらや)」万(よろつ)の模様を染させて

これをあきなふ 嶋(しま)は近江の高

宮より出す  「綿屋(わたや)」絹布(けんふ)

やに是を商(あきなふ) 又は 摘綿(つみわた)を商

所 大方(おほかた)三条通にあり 越前を

 

先として寒国(かんこく)より是を

出す  「米屋」米は諸国

より 大津 大坂につくを

分散して京につける 加賀

をもつて上(じやう)とす 大豆(まめ)小豆(あつき)一

切の五穀 大宮通にあり

「魚屋(うをや)」諸国より出る 椹木(さはらぎ)

町(ちやう)の西 武者小路 錦小路抔

其外所々にあり 鳥鮨(とりすし)抔

同じく是を商(あきなふ) 同所にあり

「八百屋」一切(いっさいの)精進(しやうじん)の調菜(ちやうさい)

 

(挿絵内)「米や」「魚や」「八百や」

 

 

14

乾物(ひもの) 海草(うみくさ) 木実(このみ) 草の根 あ

らゆるもの也 錦小路を初(はしめ) 所々

にあり  「小鳥や」諸(もろ/\)の飼鳥(かいとり)

を商 其外 鶯 鶉 抔の鳴(なく)

鳥を持(もて)ば 諸方の鳥に音付(ねつけ)

をする也  「漆屋(うるしや)」諸(もろ/\)のこし

漆あり 并 砥粉(とのこ)をも商

所々にあり  「砥屋(とや)」諸国

より出る 山城の高雄(たかを)鳴瀧(なるたき)

砥(と)は 剃刀砥(かみそりど)の名物也 眼仲(がんちう)

礼劔(れいけん)を作り心のほつする

 

所にしたがわすとて すつる

其子 尾毛石(びもいし)にてすら

しめしより とぐとなり

油小路 押小路を始 所々にあり

大坂は横堀にあり  「材木や」

堀川通 竹屋町ゟ上(かみ) 其外所々

あり 白木や 木曽を初 諸国

より出る檜(ひのき)これをあきなふ

檜物師(ひものし) 仏師(ふつし)を初 檜をつ

かふもの これをもとむ

「竹屋」竹や町通の西 其外

 

(挿絵内)「小鳥や」「漆 屋」「砥や」「材木や」

 

 

15

所々にあり 腰竹 扇の骨

團(うちは) 籠(かご) 一切の竹細工人 是

を求(もとむ) 弓竹(ゆみたけ)は醍醐(たいご)を上(じやう)とす

茶湯(ちやのゆ)道具 竹輪を初 其外

尺八 一節切(ひとよきり)抔 所々にあり

「竹皮屋(たけのかはや)」草履 笠 雪駄

の表 其外菓子を包(つゝむ)也 又

くゝし屋に是をつかふ

「庭石や」海山の石 蒔石(まきいし) 石

船 井筒 石樋(いしび) 手水鉢(ちやうづはち)抔也

万寿寺(まんじゆじ)通烏丸の西 大坂は横

堀にあり  「下草(したくさ)や」立花(りつくは)

の一宿これを商(あきなふ) 所 御池通(おいけとをり)

新町東へ入ル町 二人あり 花の

本の弟子へ十五日つゝうる也

「樒(しきみ)や」花やと号す 近江

丹波抔 都の近国より出す

抹香(まつかう)同し所にうるなり

「挽茶(ひきちや)や」宇治茶を挽(ひき)て

商 所々にあり  「薪(たきゞ)や」

四国をはしめ所々より上(のほ)る

諸(もろ/\)の薪 炭を商 四条中

 

(挿絵内)「竹や」「庭石や」「下草や」「挽茶や」

 

 

16

嶋上ル(あがる)丁より二条なてに有

其外 五条 七条 所々にあり

賃取(ちんとり)あつてこれを売手(うりて)の所

につける京にては小上(こあげ)といひ 大坂

にては中師(なかし)といひ 諸国にては

日用(ひよう)といふ  「菪莨屋(たばこや)」丹波

吉野 高崎 新田(しんてん) 其外国々

のたばこをかい これをあきなふ

割師(きさみし)此所にてかふ きさみは大

津 柴屋町よりはしめしと

かや 駒台(こまだい)や あり 庖丁は堺

 

よりいつる 黒うち三文字石(さんもんじいし)

わりよし 代弐匁なり

「草履(さうり)や」中抜金剛(なかぬきこんがう)悲田寺(ひでんじ)

抔 此所にうるを 鼻緒をたて

品をつくらひて 是を商 所々

にあり

「油屋」大坂長ほり 天満に

てしぼり 所々へ出す 京む

き 江戸むきとてあり

むかしは山崎を名物と

す 今はなし

 

(挿絵内)「薪屋」「菪莨や」「草履や」「油や」

 

 

17「麺類売(めんるいうり)」饂飩(うどん) 蕎麦切(そばきり)を

一膳切(いちぜんぎり)にさため 夜(よ)に入て に

なひありく 其外麺類は

慳貪(けんどん)と号して 一膳の代

五分切に是をあきなふ 大

仏門前をはしめ 所々にあり

又 祇園町四條畷(しでうなはて)抔に飯(めし)慳

貪やあり 代八分

「焼豆腐師(やきたうふし)」市(いち)の町 法会(ほうえ)の

場 祭礼の所 万日(まんにち)千日の

回向(えかう) 所詮人のあつまる所に

 

みせをかまへすといふ事なし

酒肴(さけさかな)は付合(つけあはせ)なり 并(ならびに)蕨(わらび)

餅師(もちし) 麩(ふ)の焼師 飴うり 石(と)

花草(ころてん)うり抔 一連(ひとつれ)なり

「口上商人(こうしやうあきんと)」万の合薬(あはせくすり)并に鬢(びん)

付(つけ)のたぐひ 諸方の市 法会の場

抔に出(いで)弁舌をもて これをうり

又は神を誓(ちかい) 蛇(くちなは)をみせ 操(あやつり)人形

を出し 物まねをして 人をあつめて

是をあきなふ 顔(つら)の皮一種(しゆ)入商(あきなふ)

なり  「絵双紙売(えさうしうり)」世上に

 

(挿絵内)「麺類売」「焼豆腐師」「絵双紙売」

 

 

18

あらゆる かはつたる沙汰 人の身の上

の悪事 万人のさし合(あい)をかへりみすに

歌につくり 浄瑠璃に節付(ふしつけ)て つ

れぶしにて よみうる也 愚(ぐ)なる男女老若(なんによらうにやく)

の分(わかち)なく 辰巳(たつみ)あかりの そゝり者 是を

かい取て楽(たのしみ)となす 誠に遊民のしわざな

きに事かゝぬ商人(あきんと)也  「粉(こ)や」うとんの粉(こ)

蕎麦の粉是をうる 麺類師饅頭に

是を用(もち)ゆ 又 大豆(まめ)の粉 芥子(からし) 山椒の粉

米の粉抔 別にあり 又 附子(ふし)の粉 女の

針うり 是をあきなふなり

 

「石灰屋(いしばいや)」近江美作(みまさか)より出(いだ)す

石灰は石を焼(やく)   「臥座(ござ)」

琉球表(りうきうおもて) 豊島筵(てしまむしろ) 円座(えんざ)な抔

万(よろつ)の荒物是をあきなふ也

「木綿や」并(ならびに)布 河内より出る

嶋(しま)は紀国(きのくに)其外諸国より出す

布は近江 丹波より出す

「蚊帳(かや)や」品々の蚊帳 釣緒(つりを)抔 一

宿(しゆく)是をあきなふ 三条通

あり   「植木や」諸国に

もとめて屈曲の風流をなし

 

(挿絵内)「粉や」「石灰屋」「木綿屋」

 

 

19

石臺木(せきだいもく)抔に植(うへ) 諸(もろ/\)の草花

ともに商(あきなふ) 北野にあり

大坂は道頓堀 天満天神

の前 江戸は下谷(したや) 本郷 麻(あざ)

布(ぶ)にあり   「蘭麝粉(らんじやこ)」

つやあらひ粉也 もろこしの季(き)

夫人(ふじん)つねにこれを用ひ給ふ

ゆへに顔のつやうつくしく 三

千のてうあひ一身にありと

いゝしも このつやあらひこ

のとくとかや 当世都に

もつはらはやり 男女とも

 

に いろつやよくおほへ侍る也

「叩納豆(たゝきなつたう)」薄ひらたく四角

にこしらへ 細(こま/\)菜たうふを

添うる也 ねやすく早業(はやわざ)

の物 九月末(すへ)二月中うりに

出る 富小路通四條上ル

町   「法論味噌(ほろみそ)」黒豆に

て製するよし 町へ売

にいづる男 柿染(かきそめ)のかた

びらを上張(うわはり)にきる事

是法論味噌うりの看

板也 曲物(まげもの)に奇麗なる

 

(挿絵内)「蚊帳屋」「植木屋」「蘭麝粉」

 

 

20

こもをおほひ さし荷ない

何方(いづかた)にても下にすくに

おく事なし 一方を高き

所へもたせおき 人にふみこ

えさせぬよし 子なき女

此ぼうをこゆれは かならす

くわいにんすといへり

 

(挿絵内)「叩納豆」「法論味噌」